ビニールハウスや暖房機など、初期費用がかかる農業。確定申告や帳簿作成などでの経費計上の上で必ず押さえておきたいのが、減価償却の考え方です。

実際には出ていかない金額のため難しいと思われやすい農業の減価償却について、わかりやすく解説します。

確定申告に向けて押さえたい!減価償却とは?

減価償却とはどういうもの?

減価償却費とは、固定資産の価値の減少に伴って分割して計上する費用です。

車両や建物、機械装置といった固定資産は、時間が経過するにつれ、徐々にその価値が減少するものと考えられています。 そのため、取得にかかった費用は取得時に一括で計上するのではなく、減価償却費という勘定科目を使って少しずつ計上する必要があります。

例えば、業務で使用する自動車を180万円で購入した場合です。車両の耐用年数は6年なので、毎年30万円ずつ、6年間にわたって減価償却費として計上することになります。

減価償却の対象となる固定資産を、減価償却資産といいます。 減価償却資産を使用できる期間を耐用年数といい、これは財務省令によって定められています。

減価償却費は、定められた耐用年数のうちに計上を済ませる必要があります。

参考:国税庁「確定申告書等作成コーナー よくある質問」

 

なぜ減価償却が必要なのか?

使用する期間の短い安価な消耗品などは、購入時の全額を費用として一度で計上しても問題ありません。しかし、固定資産は購入した会計年度だけではなく、その後の長期間にわたって利用されるものと考えられています。

製造業の企業が、工場で使う機械を2,000万円で購入したとします。
2,000万円を一度で計上すると、その年度だけ利益が大幅に減少することになり、帳簿が実情とかけ離れたものになってしまいます。

また、利益が大幅に減少することで、経営状況には問題がなくても銀行からの融資などに影響が出る可能性があります。 このような状況を防ぐために減価償却を行い、経営状況を正確に把握する必要があります。

農業の減価償却資産とは?耐用年数も解説!

農業における減価償却資産の定義

農業における減価償却資産は、次のふたつの条件にあてはまる農機具・設備が対象です。

  • 使用可能期間が1年以上
  • 取得時の価格が10万円以上

これらの条件にあてはまらないものは資産とせず、取得した年の経費として全額計上します。

農機具・ビニールハウスの耐用年数

前述したように、減価償却資産はそれぞれの耐用年数が、財務省令により下記の通り定められています。

設備の種類 詳細 耐用年数
農業用設備   7
ビニールハウス(構築物) 金属造 14
木造 5
その他 8


農業に使うトラクターや草刈機、運搬車といった主な農機具は、一律で7年となっています。

また、ビニールハウスは「構築物」に分類され、耐用年数は骨格部分の材質によって変わります。 鉄骨ハウスなどと呼ばれる金属造のものは14年、木造のものは5年、その他の材質のものは8年となります。

関連記事:新規就農・農業参入のポイント

 

土地は対象外?減価償却できない資産とは

固定資産の中には、時間が経過しても、使用しても、その価値が減少しないために減価償却できないものがあります。これを非減価償却資産と呼びます。

非減価償却資産のうち、代表的なものが土地です。

土地は時間が経過しても、その上にどんな建物を建てたとしても、土地そのものの価値は「使用」によって変化することはありません。また、土地は耐用年数が無限大であり、償却率を計算することができません。

そのため、土地は減価償却の対象外となります。

減価償却の計算方法とは

減価償却費の計算方法についてご説明します。

計算方法には、「定額法」と「定率法」のふたつがあります。

定額法

定額法は、減価償却資産の金額に一定の割合を掛けて減価償却費を求める方法です。 割合は、耐用年数ごとに定められています。

例えば、耐用年数が2年の場合は償却率は0.500となるため、1年目と2年目に半額ずつ減価償却費を計上します。

定額法では、毎回同じ割合を掛けて減価償却費をするため、計上する額が毎年同じになります。

定率法

定率法は、未償却残高(計上前の減価償却費)に対して、一定の割合を掛けて減価償却費を求める方法です。

未償却残高は年々減少していくため、減価償却費も毎年少なくなっていきます。ただし、一定の額を下回った後は、毎年同じ金額になります。

農業の減価償却においては、定額法が一般的な方法です。
定率法を用いる場合は、あらかじめ税務署に届け出る必要があります。

それでは、定額法と定率法、それぞれの詳しい計算方法についてご説明します。

定額法の計算方法

定額法の減価償却費は、次の計算式によって求めることができます。

減価償却費=取得価額×定額法の償却率

定額法の償却率は、耐用年数ごとに決められています。
農業の場合、償却率は以下の通りです。

設備の種類 詳細 耐用年数 定額法の償却率
農業用設備   7 0.143
ビニールハウス(構築物) 金属造 14 0.072
木造 5 0.200
その他 8 0.125

定額法の計算例

100万円のトラクターを購入した場合です。
農業用設備の耐用年数は7年で償却率は0.143となるため、次のように減価償却費を計上します。

1年目:100万円×0.143=14万3,000円(未償却残高:85万7,000円)
2年目:100万円×0.143=14万3,000円(未償却残高:71万4,000円)

6年目:100万円×0.143=14万3,000円(未償却残高:14万2,000円)
7年目:14万1,999円

7年目の償却では、利用中の資産であることを示すために、全額償却せず1円を残します。

定率法の計算方法

定率法の償却率等は以下の通りです。
定額法よりも複雑な計算方法となります。

設備の種類 詳細 耐用年数 定率法の償却率 改訂償却率 保証率
農業用設備   7 0.286 0.334 0.0868
ビニールハウス(構築物) 金属造 14 0.143 0.167 0.04854
木造 5 0.400 1.000 0.12499
その他 8 0.250 0.334 0.07909


定率法の減価償却費は、次の計算式によって求めることができます。

減価償却費=未償却残高×定率法の償却率

未償却残高とは、減価償却資産を取得した金額から、減価償却した金額を差し引いた残高です。償却が進むごとに計上できる減価償却費が減少していきます。

さらに、上記の計算の結果が「償却保証額(取得金額×保証率)」以下になったときは、計算方法が下記に変わります。

減価償却費=改定取得価額×改定償却率

償却保証額は、償却資産の取得価額に耐用年数ごとに定められた保証率を掛けて求めます。また、改定償却率は、償却率と同じように耐用年数ごとに定められています。

改定取得価額は「未償却残高×定率法の償却率」が初めて償却保証額を下回った年の期首未償却残高のことです。

定率法の計算例

定額法と同じく、100万円のトラクターを購入した場合を考えます。
7年間で減価償却を行います。

  期首未償却残高 減価償却費 期末未償却残高
1年目 1,000,000 286,000 714,000
2年目 714,000 204,204 509,796
3年目 509,796 145,802 363,994
4年目 363,994 104,102 259,892
5年目 259,892 74,329 -


5年目で、減価償却費が償却保証額の86,800円を下回ったため、計算方法が変わります。 5年目の期首未償却残高259,892円に改定保証率0.334を掛けた86,804円が、5年目以降の減価償却費となります。

  期首未償却残高 減価償却費 期末未償却残高
5年目 259,892 86,804 173,088
6年目 173,088 86,804 86,284
7年目 86,284 86,263 1


7年目は償却残高を1円残すため、減価償却費を調整します。

中古品の減価償却はどうする?

続いて、中古品の減価償却の方法について解説します。

中古品を購入した場合の計算方法とは

すでに償却期間の一部が過ぎている農機具を中古で購入した場合、その耐用年数には、法定耐用年数は適用しません。

その資産を事業用に使用し始めた時点から、使用可能な期間として合理的に見積もられる年数を耐用年数とします。

ただ、この年数を見積もることは難易度が高いため、ほとんどの場合は、次でご紹介する「簡便法」によって算出します。

関連記事:中古ビニールハウスはアリ?メリットやデメリット・導入時のポイントについて解説

 

1.法定耐用年数を全部経過している資産の場合

法定耐用年数を全て経過している場合、耐用年数は、法定耐用年数の20%とします。
ただし、算出された耐用年数が2年未満の場合は2年とし、2年以上の1年未満の端数は切り捨てます。

例えば、8年間使用した中古のトラクターを購入した場合です。
トラクターの法定耐用年数 7年の20%は1.4なので、耐用年数は2年となります。

2. 法定年数を途中まで経過している資産の場合

法定年数を途中まで経過している資産の場合は、その資産の法定耐用年数から経過した年数を引き、その数に経過した年数の20%を足した年数とします。
ただし、算出された耐用年数に1年未満の端数がある場合は、端数を切り捨てます。

例えば、4年間使用した中古の田植え機を購入した場合を考えます。
田植え機の法定耐用年数 7年なので、使用した4年を引くと3年となります。経過した年数4年の20%は0.8年なので、これらを合算して3.8年。
端数を切り捨て、田植え機の耐用年数は3年となります。

減価償却費の算出にはエクセルや計算ソフトを活用!

減価償却費の計算方法についてご紹介しましたが、複雑なため手計算では時間がかかってしまいます。 そこで、減価償却費の算出にはExcelや計算ソフトの活用するという方法もあります。

エクセルで算出する場合、自分で計算式を作成する必要がありますが、一度作成してしまえば、無料で使い続けることができます。計算が得意な方におすすめの方法です。

一方の計算ソフトは、償却する金額や対象の減価償却資産など、簡単な項目を入力するだけで自動算出することが可能です。
製品によっては、減価償却費だけでなくその他の科目も計算できるため、帳簿を作る際に重宝します。なるべく手間をかけたくないという方におすすめです。

どちらの方法がより経営的に無駄がなく、自分が快適に作業できるかという点を踏まえて選ぶとよいでしょう。

減価償却費を考慮した農業経営が重要

今回ご紹介した減価償却費のほか、燃料費、人件費は、必ず必要となる農業経営の3大コストです。これらによる支出を見越して経営計画を立てる必要があります。

3大コストを抑えるには、

  • 減価償却償却資産への支出(初期費用)を経営に見合った規模におさめること
  • 環境制御を行うなどして無駄なエネルギーコストを発生させないこと
  • 作業を工夫して労働効率を上げること

    これらのポイントを意識して農業経営を行っていくことが大切です。

農業経営のご相談はイノチオアグリへ!

イノチオアグリでは、農業経営開始に向けた収支計画の立案をサポートしております。

今回ご紹介した減価償却費を含め、お客さまの理想の農業を実現するにあたりどのくらいの費用が必要になるのか、さらにその資金をどのように用意するのかといった、農業経営の総合的なプランニングをお手伝いさせていただきます。

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