「農業関係の仕事」と聞いて、まず農作業を連想する方がほとんどではないでしょうか。

しかし、農業の仕事は作物の栽培だけではありません。農業に欠かせない資材を販売したり、栽培や経営をサポートしたり、農作物を配送・販売したりと、その仕事内容はさまざまです。

今回のコラムでは、多岐にわたる農業関係の仕事を6つのカテゴリーに分けて解説します。それぞれの業種で必要なスキルが異なり、さまざまな知識や技術を持った人が農業の仕事に携わっています。

農畜産物を生産する仕事

まずは、農業の仕事と聞いて誰もが最初にイメージする「農家」の仕事を解説します。

何を生産しているかを基準に、農業は大きく「耕種農業」「畜産農業」のふたつに分けられます。

耕種農業

耕種農業とは、稲作(米)・穀物・野菜・果樹・花などの植物を栽培する業種の総称です。きのこ類の栽培や、なたね・葉タバコ・生茶などの工芸農作物、飼肥料用作物の栽培も耕種農業に含まれます。

ここからは、代表的な業種をピックアップしてご紹介します。

稲作・畑作

日本人の主食であるコメを実らせるイネを栽培することを、稲作と言います。日本では300種前後の品種が栽培されています。

稲作の仕事は、3月の苗作りから始まります。5月の田植え、9月の稲刈りまでの約半年で収穫できるように米を育てます。収穫後の10月から2月までは土づくりをして、来年の稲作に必要な養分を補給していきます。

野菜・果樹

屋外または屋内で野菜や果物を栽培します。
屋外で育てる場合は「露地栽培」、ビニールハウス(温室)などを用いて屋内で育てる場合は「施設栽培」といいます。

露地栽培では、季節の変化や気候といった自然環境の中で作物を栽培します。多額の初期投資が不要である代わりに、災害などの環境の変化を受けやすいことが特徴です。

一方で施設栽培は、ハウス内で栽培するため自然環境の影響を受けにくく、さらに温度や湿度をコントロールできるため年間を通して作物を栽培できる点が特徴です。その代わりに、設備を整えるための多額の初期投資が必要です。

どちらの方法を選ぶかは、投入できる資金がどれくらいあるか、何を栽培するのか、どのように収益を得たいのかなど、さまざまな判断軸があります。

露地栽培と施設栽培の違いやメリット・デメリットについては、以下の記事でさらに詳しく解説しています。

花き

花き(花卉)とは、主に観賞用に栽培する花・芝・植木などを指します。

花によってさまざまな形態(切り花、鉢物、球根、花壇用苗物など)とスケジュールで栽培されます。

例えば、キクは通常3月~4月に苗を植えて、8月~9月に収穫します。バラはある程度成長している大苗を12月~2月に植えると翌年の春に開花するので、切り花の場合は開花時期にあわせて収穫します。 花きも野菜・果樹と同じく、ビニールハウス内で一年を通して栽培することも可能です。

花きは野菜などと異なり生活必需品ではないため、例えばコロナ禍のような世界情勢の変化に売上が大きく影響される場合があります。花き農家で安定した収益を得ている方の中には、花きと合わせて野菜の栽培を行っているケースもあります。

畜産農業

畜産農業とは、牛・豚・鶏・馬・いのしし・羊・鴨など、動物の中でも家畜・家禽を飼育、肥育、ふ卵する業種の総称です。

養蚕や養蜂、毛皮獣や実験用動物等の飼育も畜産農業に含まれます。

畜産

畜産は、食肉用として牛や豚、鶏などの家畜を育て、出荷する仕事です。

肉を生産する場合は、食用の肉だけでなく骨や毛皮なども処理され、出汁や鞄の素材として使用されます。 畜産農家の主な仕事は、エサやりや掃除といった動物たちのケアです。余計なストレスを与えず、ケガや病気に注意しながら、出荷できる大きさに育てていきます。

また地域によっては、松坂牛や神戸牛といったブランド畜産物の生産や、新たなブランド開発に力を入れているところもあります。

酪農

畜産農業のうち、乳用牛を育てて牛乳を生産することを酪農といいます。

牛乳からチーズやアイスを作って販売する六次産業化や、観光客向けに牧場を開放してエサやりなどの体験を提供する観光牧場など、付加価値のある農場運営が盛んにおこなわれています。

農家の経営・栽培を支援する仕事

ここからは、自身で農畜産物を生産するのではなく「農家を支援する」仕事についてご紹介します。

農業コンサルタント

農業はただ作物を育てればよいのではなく、会社と同じように、多くの利益が残るように「経営」していかなくてはなりません。

農業コンサルタントは、農業経営面での課題について農家にアドバイスし、収益最大化に向けた課題の解決方法を提示する仕事です。

農業コンサルタントになるには、コンサルティング会社に就職するのが一般的です。 コンサルティング会社のなかには、都市部に拠点を置いているところもあります。多くの農業コンサルティング会社は、全国の農家からの相談を受け付けています。

農業コンサルタントを行うにあたり必須の資格はありませんが、経営に関する知識は不可欠です。日本金融公庫が認定している「農業経営アドバイザー」という資格を取得すれば、農業の税務・労務、農業生産に関する知識を身に着けることができる上に、農業経営に関して一定の知識を持っているという証にもなります。

参考サイト:日本政策金融公庫「農業経営アドバイザーとは」

農協職員

農協職員は、全国にある農業協同組合で農家をサポートしています。

農作物の栽培方法や農機具の使い方、農家の経営方法など農業に関するアドバイスを行うのがメインの業務です。 ほかにも、保険や貯金、資金貸付などの金融・保険業務など、多岐にわたる業務を行っています。

仕事内容は農業コンサルタントと似ている部分もありますが、農業協同組合は長い間その地域に根付いて農家を支援しているため、地域から信頼されている点が特徴です。特に地方における農業では、地域とのつながりは重要です。

特定の地域の農業に深く関わりながら農家を支援したいという人には、農協職員が向いていると言えます。

農業資材を販売する仕事

続いて、種苗や農薬・肥料など、農業に欠かせない資材を生産・販売する仕事についてご紹介します。各メーカーでは、研究職を除き、農業を専門的に学んだ経験がない方が活躍されていることも多いです。

栽培に欠かせない資材の販売

種苗メーカー

種苗メーカーでは、栽培の出発点となる種や苗を生産しています。
そのほか、野菜や花などの品種改良や新品種の開発といった研究や、国内のホームセンターや海外の種苗企業への営業、種子の検品や出荷といった商品管理などを行っています。

種や苗は栽培作物から自身で採ることも可能ですが、量・品質のばらつきや保管の手間が発生するため、多くの農家は量・品質が約束されている種苗メーカーから購入しています。 農家がより良い農作物を栽培できるよう、種苗メーカーには均一で高品質な種苗をつくることが求められます。

農薬メーカー

農薬メーカーでは、農作物を育てる際に不可欠な農薬を生産しています。

農薬や化学肥料を使用しないオーガニック野菜が人気を集める中、農薬に対して危険なイメージを持つ人もいますが、作物を人に例えると、農薬は風邪やウイルスに対抗するための薬と言えます。病気や害虫のリスクを抑え、食料を安定的に供給するには、農薬は欠かせない存在です。

農薬メーカーでは、新しい農薬を作るために有効成分を見つけたり、安全性を調べたりといった研究を行っています。

新しい農薬の開発には、およそ10年もの年月がかかるとも言われています。農作物への残留や人体への影響だけでなく、農薬を使用した土壌やその周辺の生物への影響といった広範囲に及ぶいくつもの厳しい基準をクリアして、やっと農薬を市場に出すことができます。 農薬を開発する仕事には、辛抱強く慎重に物事を進められる人に適性があると言えます。

研究以外では、農家や小売店への営業や工場での生産管理といった業務を行っています。

肥料メーカー

肥料メーカーでは、農作物を作るうえで欠かせない肥料を生産しています。 土壌を分析したり、農作物の栽培試験を行ったりと日々の研究が重要となります。

肥料には有機肥料と化学肥料の2種類があり、片方だけを販売しているメーカーもあります。 有機肥料は魚粉や鳥のフンなど自然から生まれるものを原料とした肥料を指し、化学肥料は無機物を原料として合成された肥料を指します。

研究のほかには、全国の農協や商社への営業、海外への輸出・輸入にかかる手続きなどを行っています。

国内の肥料メーカーには、原材料を海外から輸入している会社も多くあります。とくに、化学肥料の原料となるリン鉱石などは、そのほとんどを輸入に頼っています。

世界情勢によっては、病気や戦争などの要因で原材料を入手できず、肥料を作れない事態に陥りかねません。肥料を安定的に生産するために、世の中の動向に常にアンテナを立て、時流に応じて迅速に対応することが求められます。

より良い栽培のための機械・設備を販売

農業機械メーカー

農業機械メーカーは、土を耕したり、肥料や種を散布したりするトラクター、稲や麦を一気に収穫して脱穀するコンバインなどを生産します。

主な業務としては農業機械の研究や製品開発、設計、生産などです。製造以外では、販売状況や生産量などを考える生産管理や、顧客からの専門的な質問に答える技術営業といった仕事があります。

近年の農業界の特徴として、農家の高齢化とそれに伴う世代交代、また女性の農業参入などにより、幅広い年齢・属性の方が農業に従事していることが挙げられます。ある農業機械メーカーでは、女性農家のニーズに着目して、女性目線で利便性を追求したトラクターを開発し、ヒットに繋げています。

農業機械は普遍的に必要とされるものですが、「使用する人が何を必要としているか」をつぶさに観察し、製品開発に織り込むことが今後さらに重要になっていくと考えられます。

ビニールハウスメーカー

ビニールハウスメーカーでは、施設栽培に欠かせないビニールハウス(温室)を製造しています。主な業務として、ビニールハウスの設計や施工・建設、必要な部材の発注、建設後のビニールハウスのメンテナンスなどがあります。

近年、農業界の人手不足やより品質の高い作物の栽培を目指す観点から、ビニールハウスを用いた施設栽培に注目が集まっています。

施設栽培の大きな特徴は、天候に左右されず環境のコントロールができるという点であり、それらの自動化も進んでいます。俗に「スマート農業」と呼ばれるものです。

温度・湿度の管理、水やり、農薬散布などの作業を自動化することにより「農家は休みがない」というイメージを覆しつつあります。 多くのビニールハウスメーカーでは、このようなスマート農業製品も取り扱っています。

施設栽培は環境コントロールのために設備投資が必要なので、「どのような農業を行っていきたいか」という計画を綿密に練る必要があります。ビニールハウスメーカーに求められるのは、顧客の理想を深く汲み取り、それが実現できるビニールハウスを提案することです。

ビニールハウスについては以下の記事でさらに詳しく解説しています。

関連記事:初心者もわかる!ビニールハウスのメリット・デメリット

IT技術で農業生産をサポートする仕事

前述の通り、近年では効率よく農畜産物を生産するために、スマート農業の需要が高まっています。 ITを利用して農家の負担を減らし、最小限の労働時間で最大限の収益を目指そうと、国や地方自治体はスマート農業に関する取り組みを推進しています。

しかし、ITには専門知識が必要なため、農家をサポートする人材が必要とされています。

IoTエンジニア

IoTエンジニアは、農業機械の自動化や農畜産物の栽培・育成データを残すためのプログラミングや企画設計、またトラブルがあった際のサポートやセキュリティの強化などを行います。

IoTエンジニアになるには多くの場合、エンジニアとしての実務経験やエンジニア系・理工系の学校を卒業していることが求められます。企業は即戦力を求めている場合が多く、未経験での就職は難しい場合があります。

未経験でIoTエンジニアを目指したい場合は、根気強く企業を探す必要があるでしょう。

スマート農業製品は機能が充実している一方で複雑になっているものが多く、農家にとって使いやすい製品かどうかは、IoTエンジニアによるサポート力が重要となっています。

関連事業:スマート農業事業

農業ECサイトの運営

農業ECサイトの運営者の仕事は、農家が生産した農畜産物をネットショップで販売することです。

従来、農家は農協→卸市場→小売店という決まった販路で農作物を販売していましたが、インターネットの普及によって個人サイトやSNSをECサイトとして運用し、農畜産物を販売する人が増えています。

競合サイトがひしめく中、サイトに訪れた人の興味を惹くには、魅力的な商品写真やページデザインなどが不可欠です。農業ECサイトの運営者に求められるのは、見る人の購買意欲を刺激するようなサイトを作成・運営し、売上を向上させることです。

そのほか、購入者への出荷作業や、農家や新規顧客への営業などの仕事もあります。
農業ECサイトの運営者になるには、サイトを運営している企業に就職するのが一般的です。募集には経験を問わないものもありますので、特別な資格がなくてもはじめることが可能です。

農家と消費者をつなぐ仕事

ここからは、農家の育てた野菜を消費者に届けるフェーズを支援する仕事について紹介します。

農業マーケティング

農業マーケティングは、一般企業で行われている「マーケティング」の考え方を農業に取り入れ、農作物をどのように売っていくかの販売戦略を立てて「儲かる農業」に向けたアドバイスを行う仕事です。

マーケティングとは、市場のニーズ調査や競合分析などを通し、どんな商品を誰に、どのように売るのかを検討・実行することです。前述の通り、これまでは決められた販路に出荷していたため、農業界には「誰がどんなものを必要としていて、どう売っていけばいいのか」といった考え方があまり浸透していませんでした。

しかし、直売などの新たな流通形態が増えてきたことで、その重要性が高まっています。

今後も、農畜産物の販売方法はさらに多様化していくと考えられます。競合との差別化のため、農業マーケティングはこれからますますニーズが高まっていく職種と言えます。

物流

物流企業の仕事内容は、品物を小売店や消費者へ届けることです。

受け取った荷物を無事に届けるため、傷がつかないような安全運転はもちろん、商品の遅延がないよう迅速に対応します。

物流業界には現在、ドライバーの不足や燃油価格の高騰など、さまざまな課題があります。これらは市場に出る農畜産物の値上げにも繋がっており、深刻な問題となっています。

共同配送により物流コストを下げるなど、様々な対策が取られており、今後もコスト発生を抑えるための対応が重要になると考えられます。

小売り

小売りは、野菜や果物、その他食品や雑貨を取り扱うスーパーマーケットや八百屋などを指します。

小売店は、消費者が実際に農畜産物や商品を手に取り、購入を決める現場です。もっとも近い距離で、直接消費者の意見を聞くことができます。

小売店の仕事はものを売るだけではなく、仕入れや品出し、接客、さらに惣菜を販売している店では調理や加工なども行っています。 買い物の手段としてネットスーパーやECサイトが台頭している昨今、小売店は地域の特産品や野菜の新鮮さなどで差別化をはかっています。

商品を手に取ってもらうために売り場のレイアウトや演出を考えたり、セールを企画したりと、日々の工夫が大切な仕事です。

日本の農業を支える仕事

最後に、公務員として国と地域の農業を支える仕事についてご紹介します。

農林水産省

農林水産省では、日本国民のために農業・林業・水産業の保護と推進を行っています。

農作物に発生する病気や害虫への対策、農業用の土地や農業用水などの整備、農家の所得向上に向けた支援の実行など、多岐にわたる業務を行っています。また、農業に関する法令の改正などにも携っています。

日本の食と環境、農業と農家の生活を背負う、とても重要な仕事です。

農林水産省職員になるには、国家公務員試験に合格する必要があります。21歳から30歳までの年齢制限があり、多くの場合は大卒以上の学歴が求められます。

地方自治体の農業職

地方自治体では、農業振興を目的として業務を行います。
都道府県庁や市区町村の役所で農家の支援を行ったり、地域の農業の担い手を獲得・育成するのが主な仕事です。農家の栽培・経営状況の確認や、補助金申請のサポートなども行っています。

地方自治体の農業職のひとつである普及指導員や農業大学校の教員は、現役もしくは未来の農家へ農業知識を伝えるため、自身が農業について深い知識を身に着けておく必要があります。特に普及指導員は国家資格で、現場で農業指導歴が2年になると受験資格が与えられます。

地方自治体の職員になるには、各地方自治体の公務員試験に合格する必要があります。国家公務員と同じく、年齢制限が設けられていて、22歳から30歳までが一般的です。
求められる学歴は高卒以上ですが、採用区分が決められているため、生涯収入が変わります。

農業は幅広い業種から成り立っている!

これまでご紹介したとおり、農業はさまざまな職種が関わることで成り立っています。農業に関わる仕事がしたいときの選択肢は「農家」だけではありません。

農業に携わりたいと思った際は、「なぜ農業に関心を持ったか」について突き詰めて考えることで、自分が本当にやりたい仕事が見つかるかもしれません。自分で農作物を作りたいのか?野菜や果物を売りたいのか?栽培の知識を活かしたいのか?など、興味を持った要因を探ってみましょう。

農家になりたいと思った場合も、未経験なのであればまずは農業体験からはじめるなど、出来る限り将来のビジョンを明確にしてから挑戦するのが望ましいでしょう。

関連記事:農業従事者の仕事、年収・資格やりがいなどを解説

イノチオアグリは農業のスタートを支援します

ビニールハウスにたずさわり50年以上の歴史を持つイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として、数多くの方の農業のスタートをご支援してきました。

当社ではビニールハウスメーカーとしてのみならず、本記事でご紹介した農業コンサルティング、農薬・肥料・機械の販売、栽培のサポート、マーケティングの支援なども行っております。農業についてのお悩みのすべてにお応えできる、一貫した農業サポートを提供しております。

農業を新たにはじめる際のお悩みは、ぜひ当社へご相談ください。 お客さまひとりひとりの状況に合わせ、就農前に必要な準備のサポートをはじめ、農業開始後も経営安定に向けて支援いたします。