農業には多額の資金が必要です。農業は収穫までに時間がかかり、収入が得られるまでの期間が長いため、十分な資金を用意する必要がありますが、自己資金だけでは難しい場合もあります。そこで補助金の活用が重要です。今回のコラムでは、農業の用途別に使える補助金や助成金についてご紹介します。

※情報は2025年3月時点のものです。最新情報は各団体のホームページでご確認ください。

就農時は資金確保に苦労する!?

全国就農支援センターが実施した「新規就農者の就農実態に関する調査結果」によると、新規就農する際は「農地の確保」「資金確保」「営農技術」の順で苦労している人が多いことがわかっています。資金の確保は、多くの就農希望者が直面する壁だと言えます。

半数以上の人が助成金や奨励金を活用して就農

全国新規就農相談センター(令和3年度実施)の調査によると、公的機関による支援措置の利用状況について、特に「助成金・奨励金(費目・使用目的の限定なし)の交付」は56.9%の人が利用しており、過半数が活用していることがわかります。
農地の紹介や研修支援といった他の支援措置も含め、多くの新規参入者が様々な支援を組み合わせて利用しています。

参考:一般社団法人全国農業会議所 全国新規就農相談センター「新規就農者の就農実態に関する調査結果 -令和3年度-」

補助金を受け取るメリットとは

補助金などの公的機関による支援を利用することで、初期費用を抑えたり、経営の安定化を図ったり、天候不順や市場価格の変動などのリスクに備えることができます。これにより、資金繰りの負担軽減や、予期せぬ事態に対する対応力を強化することが可能です。理想の農業を実現するために、補助金を上手に活用することが大切です。

新規就農におすすめの補助金

就農準備資金

就農準備資金は、農家を目指す方々が就農前に研修を受けるための支援金です。
対象者や支援額については次の通りです。交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 研修期間中の研修生
支援額 12.5万円/月(150万円/年)×最長2年間
支援率 国による支援:100%
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立後、5年以内に認定新規就農者または認定農業者を取得すること
  3. 自営就農または雇用就農を目指す都道府県等が認めた研修機関等でおおむね1年以上(1年につきおおむね1,200時間以上)研修すること
  4. 常勤の雇用契約を締結していないこと
  5. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  6. 前年の世帯所得が600万円以下であること
  7. 研修中の怪我等に備えて傷害保険に加入すること

適切な研修を行わなかった場合や、研修後に就農しなかった場合は、資金返還が求められることがあります。

経営開始資金

経営開始資金は、認定新規就農者を対象に、就農直後の経営確立を支援するための資金です。
対象者や支援額については次の通りです。交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 認定新規就農者(前年の世帯所得が原則600万円未満)
支援額 12.5万円/月(150万円/年)×最長3年間
支援率 国による支援:100%
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立して営農を行っていること
  3. 親元就農の場合は、農業に従事してから5年以内に経営権を継承し、新規参入者と同等の経営リスクを負うものと市町村に認められること
  4. 「人・農地プラン」に中心経営体として位置づけられているか、農地中間管理機構(農地バンク)から農地を借り受けていること
  5. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  6. 前年の世帯所得が600万円以下であること
  7. 研修中の怪我等に備えて傷害保険に加入すること

申請窓口は市町村が担当しています。 特例として、夫婦で就農する場合は、夫婦合わせて1.5人分の交付を受けることが可能です。さらに、複数の新規就農者が法人を新設し共同経営を行う場合、それぞれに最大150万円が交付されることもあります。
関連記事:新規就農者育成総合対策「経営開始資金」とは?

対象者の要件である認定新規就農者については、こちらの記事で詳しく解説しています。

関連記事:認定新規就農者制度とは?メリット・デメリットまで解説

移住支援金

移住支援金とは、東京23区に在住または通勤する方が、東京圏外(東京圏内の条件不利地域を含む※)へ移住し、起業や就業等を行う方に、都道府県・市町村が共同で交付金を支給する事業です。

※条件不利地域とは、地形や気候、交通、水利などの自然的、社会経済的条件が不利な地域を指します。こうした地域は若年者の流出や少子高齢化、産業の衰退といった課題を抱えている場合が少なくありません。

支給金額については次の表の通りです。
このうち都道府県が設定した金額が支給されます。

世帯

100万円以内 ※18歳未満の世帯員が帯同する場合は、18歳未満の者ひとりにつき最大100万円を加算

単身 60万円以内

参考:内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生「移住支援金」

起業支援金

起業支援金とは、地域の課題を解決するために、新しい社会的事業を起業する人を支援します。最大200万円の助成金と伴走支援を提供し、地域の活性化を目指します。
対象となる要件は以下の通りです。

対象者 1・2のいずれかの条件をすべて満たす必要があります。
1)新たに企業する場合
・東京都以外の道府県または東京圏内の条件不利地域において社会的事業の起業を行うこと。
・国の交付決定日以降、補助事業期間完了日までに、個人開業届または法人の設立を行うこと
・起業地の都道府県内に居住していること、または居住する予定であること

対象者1・2のいずれかの条件をすべて満たす必要があります。

1)新たに企業する場合
・東京都以外の道府県または東京圏内の条件不利地域において社会的事業の起業を行うこと。
・国の交付決定日以降、補助事業期間完了日までに、個人開業届または法人の設立を行うこと
・起業地の都道府県内に居住していること、または居住する予定であること

2)事業継承または第二創業する場合
・東京圏以外の道府県または東京圏の条件不利地域において、Society5.0関連業種等の付加価値の高い分野で
 社会的事業を事業承継、または第二創業により実施すること。
・国の交付決定日以降、補助事業期間完了日までに、事業承継又は第二創業を行うもの。
・本事業を行う都道府県内に居住していること、又は居住する予定であること。

農業従事者の雇用や育成に活用できる補助金

雇用就農資金

雇用就農者の確保・育成を推進するため、就農希望者を新たに雇用する農業法人等に対して資金を交付します。
農業法人などが就農希望者を雇用し、農業に従事するためや独立して農業を始めるために必要な実践的な研修を行う場合に資金を提供する「雇用就農者育成・独立支援タイプ」と、農業法人などが新たな農業法人を設立し、独立して農業を始めることを目指す人を雇用して実践的な研修を行う場合に資金を提供する「新法人設立支援タイプ」のふたつがあります。

支援タイプ雇用就農者育成
独立支援タイプ
新法人設立支援タイプ
助成期間最長4年間
助成額年間最大60万円(月額5万円)年間最大120万円(最大10万円)
(3~4年目は最大60万円)
(月額5万円)

※雇用就農者育成・独立支援タイプは1経営体当たりの新規採択人数は年間5人まで、かつ3人目以降の助成額は、年間最大20万円となります。(多様な人材の場合は年間最大15万円の加算あり)

参考:農業をはじめる.JP「雇用就農資金」

スマート農業の導入に活用できる補助金

IT導入補助金

T導入補助金は、中小企業が業務効率や売上向上を目的にITツールを導入する際に利用できる補助金制度です。特にスマート農業に取り組む農業者にとっては、コストを抑えながらITツールを導入する良い機会となるでしょう。

この補助金は、通常枠、デジタル化基盤導入枠、セキュリティ対策推進枠の3つに分かれていますが、農業分野では通常枠が一般的に利用されています。

補助率 1/2以内または2/3以内
※3か⽉以上地域別最低賃⾦+50円以内で雇⽤している従業員が全従業員の30%以上であることを示した場合は、2/3以内
補助額 1プロセス以上:5万円以上150万円未満
4プロセス以上:150万円以上450万円以下

通常枠の要件として、「決済」「在庫」「経営」などの業務プロセスを1種類以上保有するソフトウェアを申請する必要があります。 要件とプロセスの内容については、IT導入補助金のホームページにてご確認ください。

参考:IT導入補助金2025 通常枠

ただし、同じ購入品に複数の補助金を用いることはできないため、他の補助金と重複して申請することのないようご注意ください。

農地耕作条件改善事業

地耕作条件改善事業は、農業を持続的に行うための環境整備を目的とした支援制度です。この事業では、農地の基盤整備や作物の品質向上を図るためのさまざまな支援が行われています。具体的には、区画整理や暗渠(あんきょ)排水、用排水路の整備などが対象となります。

この制度は、地域内農地集積型、高収益作物転換型、スマート農業導入推進型、など複数のタイプに分かれています。それぞれ交付要件や補助金額が異なるため、申請を検討する際には、事前に自治体やJAに確認することが重要です。

例えば、スマート農業導入型では、GNSS基地局の設置や自動操舵システムの導入など、先進的な省力化技術を農業に取り入れ、生産性と効率を向上させる取り組みを支援します。

スマート農業導入型の支援内容

支援メニューの例 GNSS基地局の設置、自動操舵システムの導入など
補助額・補助率 平地:定率助成50%
中山間地域:定率助成55% 等

他のタイプでは支援内容や要件が異なるため、事前に十分調べておく必要があります。

参考:農林水産省「農地の整備」

60歳以上で活用できる補助金とは

農林水産省の調査によると、個人経営体で農業に従事する人のうち、約80%が65歳以上となっています。農業界において、60歳以上の方の労働力は欠かせないものとなっています。
では、60歳以上の方が活用できる補助金にはどんなものがあるのでしょうか。

基本的に、要件に年齢制限の定めがないものは申請することができます。ただし「後継者がいるか」「持続可能な事業計画か」「10年後も農業経営を継続する意向があるか」といった点を評価、判断される可能性があることを念頭に置いておきましょう。

ここでは「農地利用効率化等支援交付金」「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」についてご紹介します。

農地利用効率化等支援交付金

農地利用効率化等支援交付金は、農地集約の実現に向けて経営改善をする場合に必要となる農業用機械・施設等の導入を支援するものです。この事業は「融資主体支援タイプ」と「条件不利地域支援タイプ」のふたつがあり、例えば融資主体支援タイプの活用例としては、トラクターの導入やビニールハウスの整備などが挙げられます。

以下の表では、令和6年度の「融資主体支援タイプ」の内容をピックアップしています。本事業は地域ごとに実施されるもので、令和7年度の実施については、2025年度3月時点では調整中だという地域もあります。こちらの表は参考としてご覧いただき、利用を検討する際は、まずご自身が農業を行っている地域で実施しているかをご確認ください。

融資主体支援タイプ

実施地区「地域計画」が策定されている地域
(地域計画の策定が確実であると市町村が認める地域を含む。)
助成対象者地域計画のうち目標地図に位置付けられた者(認定農業者、認定就農者、集落営農組織、市町村基本構想に示す目標所得水準を達成している農業者及び市町村が認める者をいい、目標地図に位置付けられるこ
とが確実であると市町村が認める者を含む。)
支援対象となる
事業内容
① 農産物の生産、加工、流通その他農業経営の開始若しくは改善に必要な機械等の取得、改良又は補強
② 農地等の造成、改良又は復旧
助成額次の計算方法①~③のうち、もっとも金額が低いもの。
①事業費×3/10
②融資額
③事業費ー融資額ー地方公共団体等による助成額
※上限額は法人・個人問わず300万円

参考:農林水産省「農地利用効率化支援交付金(令和6年度)」

強い農業・担い手づくり総合支援交付金

強い農業づくり総合支援交付金は、食料システム構築に向け生産から流通に致るまでの課題解決に向けた取り組みを支援します。
支援内容が異なる、次の3つのタイプがあります。

支援タイプ支援内容
食料システム構築支援タイプ⾷料・農業・農村基本法の改正に基づき、拠点事業者が農業者や産地と協力して、⽣産から流通までの課題を解決するためのソフト面やハード面の取り組みを一体的に支援します。
地域の創意⼯夫による産地競争⼒の強化
(産地基幹施設等⽀援タイプ)
産地収益力の強化と合理化の促進、およびみどりの食料システム戦略や戦略的な人材育成などの重点政策の推進に必要な基幹施設の整備や再編を、農業法人や農業者団体が行う集出荷貯蔵施設や冷凍野菜の加工・貯蔵施設などを支援します。
⾷品流通の合理化(卸売市場等⽀援タイプ)物流の効率化、品質・衛⽣管理の⾼度化、産地・消費地での共同配送等に必要な ストックポイント等の整備を⽀援します。

令和7年度の募集はすでに終了していますが、傾向として、この交付金は毎年募集が行われていますので、今後の募集に向けた参考としてご覧ください。
※支援内容は変更になる場合があります。

参考:農林水産省「2025年度強い農業づくりの支援に係る関係通知について」

補助金・融資の選択肢が増える「認定農業者」制度とは

認定農業者制度とは、市区町村の農業経営目標に向けて、自らの創意工夫に基づき、経営の改善を進めようとする計画を市区町村が認定した農業者に対して、支援措置を講じる制度です。
認定農業者は農業に必須の資格等ではありませんが、取得することで、さまざまな支援制度や補助金の対象となることが大きなメリットです。
例えば、融資なら「スーパーL資金」「農業近代化資金※」を申請できるようになり、補助金であれば「強い農業・担い手づくり総合支援金」の条件を満たしやすくなります。

※認定農業者でなくても申請できますが、認定農業者を取得していれば借入の据え置き期間が3年から7年になったり、融資率の上限が80%以内から100%以内になったりとより良い条件で利用することができます。

認定農業者制度の詳細は、下記リンクでさらに詳しく解説しています。
関連記事:認定農業者制度とは?企業の農業参入・新規就農時に活用する方法を徹底解説

補助金・助成金をしっかり調査・有効活用しよう

補助金を効果的に活用するためには、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、事前準備が非常に大切です。補助金の申請には詳細な計画書や見積もりが必要となるため、しっかりとした事業計画を立てることが成功の鍵となります。
次に、過去の採択事例を参考にすることも有効です。同じ補助金を活用した他の農業者の成功事例を調べ、そのノウハウを活かすことで、効果的な事業展開が可能になります。例えば、どのような設備投資が効果的だったのか、どのようなITツールが実際に導入されているのかなど、具体的な事例から学べることは多くあります。

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