不耕起栽培とは?耕さない農業のメリット・デメリットと成功のポイントについて解説
肥料代や燃料費、人件費の高騰が続く中、土を耕さず、ある程度自然の力に農業を任せる「不耕起栽培」という方法が注目を集めています。
今回のコラムでは、そもそも不耕起栽培とは何かというところから、メリットやデメリット、不耕起栽培を成功させるためのコツについて解説します。
※本コラムでご紹介しているのは、あくまで不耕起栽培の方法の一例です。実施する圃場の状態や周りの環境によっては適した方法が異なる場合がありますので、実際に不耕起栽培を検討される際は、その圃場の土壌状態に合った方法をご確認ください。
不耕起栽培とは

不耕起栽培とは、土を耕さずに作物を育てる農業の手法です。この方法は、土壌の自然な構造や生態系を保ちながら、農業を行うことを目的としています。
耕作を行わないことで、土壌の微生物や有機物が活性化され、自然の力を最大限に活用することが可能になります。近年、肥料や燃料の高騰が続く中で、持続可能な農業の選択肢として注目を集めています。
不耕起栽培と自然農法は何が違う?
「耕さない農業」という点で、自然農法と不耕起栽培は似ていますが、いくつかの違いがあります。
自然農法は福岡正信氏が提唱したもので、環境汚染を伴う現代文明への批判を中心に据え、化学肥料や農薬の使用、畝を作り土壌控える方法です。
一方、不耕起栽培は自然農法から派生した実践的な方法で、土壌劣化の主因である耕起を制限することを目指しますが、資源投入の制限や畝作りの禁止は自然農法ほど厳しくありません。
必要に応じて化学肥料や農薬を活用し、作業の省力化や収量・品質の向上を図ります。
不耕起栽培の三原則
不耕起栽培を成功させるには、単に耕さないだけでは不十分です。
土壌生態系を豊かにするための重要な原則として、土をかき乱さないこと、土を覆うこと(マルチング)、そして混植することが挙げられます。
土をかき乱さないことで土壌へのダメージを最小限に抑え、保水力や保養力を維持します。さらに刈り取った草や落ち葉など、有機物を畑に積んでマルチングすることにより、土がむき出しになって日射や風雨で土壌構造がダメージを受けることを防ぎます。マルチングに使った有機物は土壌生物のエサとなります。
また、複数の作物や雑草を一緒に育てる「混植」を行うことで、生物多様性を高め、病害虫への抵抗力を強化し、経済的な安定にも寄与します。
これらの原則を守ることで、豊かな土壌が育まれます。
不耕起栽培のメリット
ここからは、不耕起栽培のメリット・デメリットについて解説します。
労力や人件費・燃料費などを削減できる
不耕起栽培の大きなメリットとして、労力や人件費、燃料費を大幅に削減できることが挙げられます。
従来の耕作方法では多くの時間と労力が必要でしたが、不耕起栽培ではそのプロセスを省略できます。これにより、農業従事者は他の作業に集中でき、効率的な農業経営が可能になります。
また、燃料費の削減により経済的な負担が軽減され、機械の使用頻度が減ることでメンテナンスや修理のコストも抑えられます。これらの要素が相まって、不耕起栽培は持続可能な農業の選択肢として注目されています。
劣化した土壌を再生できる
従来の耕作方法では、頻繁に耕すことで土壌の構造が破壊され、微生物や土壌生物の生態系が損なわれる可能性がありました。しかし、不耕起栽培では土を耕さず、自然の力を活用するため、土壌の健康を保つことが可能です。
植物の残渣や有機物を土の表面に残すことで、土壌の栄養分を補充し、微生物の活動を促進します。結果として、土壌の団粒構造が改善され、通気性や水はけが向上します。
浸水性・保水性が向上する
耕作を行わないことで、土壌の構造が自然に保たれ、微生物や土壌生物が活発に活動する環境が整います。これにより、土壌の中に空気や水がしっかりと保持され、作物が必要とする水分を効率的に吸収できます。
さらに、保水性が向上することで、乾燥した時期でも作物が水分を得やすくなり、成長を促進します。浸水性が改善されることで、雨水が地面に浸透しやすくなり、土壌の流出や侵食を抑える効果も期待できます。
環境保全につながる
ここまでご紹介したように、不耕起栽培では耕作を行わないことで土壌の健康状態を保ちます。これにより化学肥料や農薬の使用を減らすことができ、周囲の生態系への影響を軽減することに繋がります。
さらに、土壌への水の浸透性や保水性を向上させるので、降雨時の土壌流出を防ぎ、河川や湖沼の水質保全にも寄与します。
このように、不耕起栽培は単なる農業手法にとどまらず、環境保全の観点からも重要な役割を果たすことが期待されています。
不耕起栽培のデメリット・対策
土壌の健康を保つことができる不耕起栽培ですが、人間の手によるコントロールが制限されるために、いくつかのデメリットも懸念されます。
ここでは、考えられるデメリット、それに向けた対策を合わせてご紹介します。
作物が収穫できるまで時間がかかる
もし土壌が劣化している場合、不耕起栽培に転換した際に収穫量が大幅に減少する可能性があります。これは、劣化した土壌には有機物が少なく、その上養分を生成する土壌生物がほとんど存在しないためです。
そのため、土壌の劣化が著しい場合は、大量の植物残渣を米ぬかなどと一緒に一度すきこむといった対策が必要になります。
雑草対策が必要になる
不耕起栽培では、アメリカ式の大規模農場を除いて基本的に除草剤を使用しないため、雑草の管理は手作業で行う必要があります。
例えば、地下茎で繁殖する雑草が広がることがありますが、その場合も手作業で取り除いたり、刈り取ったりする必要があります。また、作物の苗が小さい時には、雑草に負けないように頻繁に除草する手間がかかります。
湿害が発生する可能性がある
不耕起栽培には、発芽不良などの湿害リスクがあります。畑を掘り起こさないため、水はけが悪くなり、滞水しやすくなるためです。播種後に雨が降ると、播種溝に雨水がたまりやすくなるため注意が必要です。
対策としては、明きょや暗きょ、心土破砕(農地に切り込みを入れて水はけを良くする方法)などを用いて排水性のある土壌を作るか、畑に深い切り込みを入れることができる不耕起播種機を導入する方法があります。
これまでの農業経営から転換する必要がある
不耕起栽培の基本として、単一の作物ではなく複数の作物を一緒に育てること、または時期をずらして常に畑に複数の「土壌を保護するための植物(カバークロップ)」を育てることが推奨されています。
これを実現するには、従来の単作栽培の経営方法とは異なる考え方が必要であり、不耕起栽培への移行の障壁となる可能性があります。
不耕起栽培を成功させるポイントとは

続いて、不耕起栽培を成功させるために抑えておくべき2つのポイントについて解説します。
麦わらを活用した雑草対策
農薬を使わない除草対策として、不耕起栽培で水稲や小麦を栽培し収穫した場合、細かく裁断したワラを畑の表面に撒くことで、次の作物の播種まで雑草の発生を抑えることができます。
前作の残渣がない単作の場合は、冬の間に大麦やライ麦、ヘアリーベッチなどのカバークロップや、リビングマルチ(土壌保護のための生きた植物)を行うことで、春先の雑草を抑制することができます。
排水対策と土づくり
耕起栽培の湿害を防ぐためには、粘土質の土壌を避け、排水性や通気性の良い火山灰土壌や砂質土壌を選ぶことが重要です。また、排水対策として本暗きょや補助暗きょ、明きょなどを施工し、定期的に溝を掃除して排水が詰まらないようにする必要があります。
また、不耕起栽培を実施するための土作りも欠かせません。地力が低い畑には堆肥や緑肥作物を浅く耕してすき込むなど、地力を高める対策が必要です。
また、肥料が作物に与える効果(肥効)が低下している場合は、その分適切に肥料を増やすなどの工夫も重要です。
農業経営のご相談はイノチオアグリへ

今回のコラムでは、不耕起栽培のメリットとして肥料代や人件費の節約につながることをご紹介しました。これらをはじめとした各種経費が高騰している昨今では、農業経営の見直しが重要となっています。
イノチオアグリでは、お客さまの農業を総合的に支える各種サービスをご用意しております。例えば、土壌診断サービスでは、土壌の栄養状態を詳細に分析し、必要な肥料を最適化することで肥料コストの削減が期待できます。また、ビニールハウスの定期メンテナンスにより、故障によるトラブルを未然に防いで作物や経営へのダメージを抑えることに繋がります。
農業経営に関するお悩みは、ぜひイノチオアグリへご相談ください。