市場のニーズが高まる時期に合わせて、計画的に出荷量を増やす——そんな戦略的な栽培方法が「促成栽培」です。

本来の収穫時期よりも早く作物を育てることで、高値での販売や出荷時期の分散が可能になるこの手法は、施設園芸を中心に多くの生産者に活用されています。

本コラムでは、促成栽培の基本的な考え方や導入のメリット・デメリット、そして似た言葉としてよく挙げられる「抑制栽培」との違いについてもわかりやすく解説します。

「促成栽培って具体的にどんな方法?」「導入するにはどんな準備が必要?」といった疑問をお持ちの方はぜひご覧ください。

促成栽培とは

促成栽培とは、通常の収穫・出荷時期よりも早く作物を育てて出荷する栽培方法です。温暖な気候を活かして野菜の成長を促進するのが特徴で、高知県や宮崎県などの暖かい地域では、ビニールハウスなどを使って広く行われています。

この促成栽培には、収穫時期の早さに応じて「促成栽培」「半促成栽培」「早熟栽培」の3つのタイプがあります。

栽培方法特徴
促成栽培露地栽培よりも早く出荷する作型。一作を通じてハウスで加温・保温することで成り立つ。
半促成栽培露地栽培よりも少し早く出荷する作型。生育前半をハウスなどで加温・保温し、後半になるとハウスの被覆を剥がすなど自然環境下の栽培条件に近づけていく。
早熟栽培育苗期間のみ温床内で保温・加温して栽培する作型。定植(植え付け)からは、自然環境下で栽培する。

次では、それぞれの栽培方法について解説します。

促成栽培

促成栽培とは、通常の露地栽培よりも植物の成長から収穫・出荷までの期間を短縮する栽培方法です。作物を早く育てるために、温度や湿度などの環境を人工的に調整し、生育を促します。

一般的には、ビニールハウスなどを活用して、夏野菜を春に、春野菜を冬に出荷するなど、季節を先取りした栽培が行われます。

このように出荷時期を早めることで、「本来その季節には手に入らない」という希少性が生まれ、農作物の付加価値を高めることができます。

半促成栽培・早熟栽培

前述した「促成栽培」のほかに、「半促成栽培」と「早熟栽培」があります。
これらは、「従来の栽培方法と比べてどの程度早めに出荷されるか」で区別されていると言えます。
例えば、きゅうりの場合、促成栽培と半促成栽培では栽培のスケジュールに下図のような違いがあります。

半促成栽培

生育を早めるという目的は促成栽培と同じですが、半促成栽培では生育の後半にはハウスで覆うのをやめて、露地で栽培します。生育前半のみ保温・加温を行うことで、生育時期を早めたことによる生育障害(枯死など)のリスクを避けながら、自然環境のもとで栽培します。

早熟栽培

早熟栽培は、育苗期のみ温床内で栽培する方法です。
苗を植えるときには自然環境下で育てることになるため、十分栽培できる気温にならない限りは植えにくいという側面があります。そのため、早熟栽培の収穫・出荷時期は、露地栽培に比べると早く、促成栽培・半促成栽培と比べると遅くなります。

抑制栽培とは何が違う?

抑制栽培とは

抑制栽培とは、通常の適期よりも遅い時期に播種を行ったり、高冷地などの涼しい夏の気候や立地条件を活用することで、出荷時期を遅らせる栽培方法です。
代表的な例としては、愛知県渥美半島で栽培されている電照菊や、八ヶ岳(長野県・山梨県)、浅間山(長野県・群馬県)などの高地を活かしたレタスなどの高原野菜が挙げられます。

促成栽培と抑制栽培の違い

抑制栽培は通常の栽培より播種や出荷時期を遅らせる栽培方法です。簡単に言えば、促成栽培とは逆の栽培方法と捉えることができます。

促成栽培のメリット・デメリット

そもそも、なぜ収穫時期をコントロールするのでしょうか。促成栽培のメリットとデメリットをご紹介します。

メリット

生産や出荷の時期を通常よりも早めることによって、市場に商品が少ない時期に販売することが可能になります。
これにより、商品の価値を高め、収益の向上につなげることができる点が最大のメリットです。

デメリット

一方でデメリットとして、設備や資材にコストがかかることが挙げられます。
たとえば、温風暖房機などを使用して加温する場合には、燃料費がランニングコストとして発生するため、その点も考慮する必要があります。

また抑制栽培についても、同様のメリット・デメリットが挙げられます。栽培時期をずらす方法は、商品価値を挙げられる一方で設備費用がかかるという点に注意が必要です。

促成栽培の事例:イチゴ

イチゴ栽培では、促成栽培が最も一般的な作型です。
促成栽培では、9月頃に花芽分化させた苗を本圃に定植し、11月中旬から下旬頃にかけて収穫が始まり、翌年の6月頃まで続きます。

スーパーマーケットで販売されているイチゴのほか、ケーキに添えられているものやイチゴ狩りで提供されるものなど、ほとんどのイチゴがこの促成栽培によって育てられています。

一般的にイチゴの旬とされる3月〜5月は、供給量が多くなるため、年間を通して最も単価が低くなる傾向があります。
一方で、12月のクリスマスシーズンにはケーキ用としての需要が高まり、単価も上昇します。
関連記事:高設ベンチを活用した促成イチゴ栽培の育て方

また、促成栽培よりもさらに早い時期に収穫を行う「超促成栽培」と呼ばれる方法もあります。
超促成栽培では、イチゴの市場ニーズが高まり、単価も高くなる11月初旬頃に収穫できることが大きなメリットです。

超促成栽培のポイントについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
関連記事:市場ニーズを捉える!イチゴの超促成栽培とは?

促成栽培を成功させるために

促成栽培を行うには、ビニールハウスをはじめさまざまな設備を用いて環境を整えることが大切です。次では、促成栽培にイノチオアグリがおすすめするビニールハウスや各種設備についてご紹介します。

ビニールハウス

丸型ハウスD-1

丸型ハウスD-1は、自社⼯場でスチール⾓パイプを加⼯し、独自のアーチ形状を実現したビニールハウスです。安価でありながら、パイプハウスと比較すると強度と耐久性に優れているので、安心して長期間使用することができます。

また採光性にも優れているため、幅広い作物に対応しており、多くの生産者に導入されています。
促成栽培では内部設備の導入が欠かせないため、それ以外にかかる費用を抑えながら高い強度・耐久性を実現できるという点で、おすすめのビニールハウスです。

屋根型ハウス

丸型ハウスD-1よりもさらに優れた栽培環境をお求めなら、屋根型ハウスがおすすめです。栽培作物に合わせて最適な設計や素材を選ぶことができます。間⼝・柱⾼を自由に選択でき、幅広い設計強度に対応しています。

⾼度な環境制御にも対応しており、高品質・高収量を目指すことが可能です。こちらのビニールハウスは、一般の生産者をはじめ、観光農園などにも幅広く導入されています。
※自社販売実績 2006年~2020年範囲にて算出

ビニールハウス内部の設備

前述した通り、促成栽培では栽培環境を整えるためのビニールハウス内設備が重要な役割を果たします。その中でも今回は、暖房機とCO2発生機をピックアップしてご紹介します。

暖房機

促成栽培では、作物の生育に適した温度を保つことが重要です。そのため、ハウス内の温度を調節するための暖房機・冷房機の導入が不可欠です。

関連製品:ハウスカオンキ

暖房機は、家庭用エアコンなどと同じように、面積や温度条件によって、選ぶべき機種が異なります。たとえば、温度負荷(ハウス内を目標の温度に保つために暖房設備が供給しなければならない熱の量)などに応じて、暖房設備を選ぶことがあります。

暖房機の選び方については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
関連記事:ビニールハウスの暖房機の役割とは?機器の選び方も解説

二酸化炭素発生装置

二酸化炭素発生装置とは、作物の生長に欠かせない二酸化炭素を人工的に作り出す装置です。CO2発生機、炭酸ガス発生機、光合成促進機と呼ばれることもあります。
作物が光合成を行うためには、二酸化炭素が必要です。しかし、ビニールハウスを使った施設栽培では、露地栽培に比べて二酸化炭素が不足しがちです。そこで、二酸化炭素発生装置を用いて不足を補い、光合成を促進することが重要です。

イノチオアグリが取り扱っている光合成促進機「グロウエア」は、燃料に安価な灯油またはプロパンガス(LPG)を使用するため、維持費が安いのがポイントのひとつです。ハウスカオンキの送風機とも連動すれば、二酸化炭素の拡散効率をさらに高めることができます。

関連製品:グロウエア

ハウス内の環境を整えるスマート農業

促成栽培にはビニールハウス内の環境を整えることが不可欠ですが、使用する設備が多いほど、それぞれをきちんと管理することが難しくなっていきます。設備の管理を誤ると、品質・収量の低下、さらには売り上げの減少に繋がってしまうおそれもあります。

そこで、ハウス内設備を自動で制御する「環境制御システム」が役に立ちます。
イノチオアグリの環境制御システム「エアロビート」は、ビニールハウス内外の状況を各種センサが感知し、自動で細やかな制御をおこなってくれます。本体とコンピュータ1台で最大10区画またはハウスを最大10棟まで、遠隔で管理することができます。人の経験や勘ではなく、データに基づいた農業をサポートしてくれます。

また、必要な機能だけを備えた「エアロビートmini」も新たに登場しました。エアロビートよりも安価に導入できるほか、栽培規模に合わせて3つのラインナップ(制御点数:8点/16点/24点)から、ご自分のハウスに合わせた最適な製品を選ぶことができます。

ビニールハウス・設備検討の相談はイノチオへ

ビニールハウスにたずさわり50年以上の歴史を持つイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として数多くのお客さまをご支援してきました。

イノチオアグリでは、農業ビニールハウスやスマート農業製品だけでなく、新規就農や農業参入の支援、収支シミュレーションに基づく作物や栽培方法のご提案や各種資材の提供まで、お客さま一人ひとりの状況に合わせて総合的にサポートさせていただきます。

農業用ビニールハウスをはじめ農業に関するお悩みは、ぜひイノチオアグリアグリへご相談ください。

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