雇用就農とは、農業法人に勤めるかたちで農業に取り組むことを指します。

今回のコラムでは、雇用就農について就農する側、雇用する側の双方のメリットと注意点について分かりやすく解説します。

雇用就農とは

雇用就農は、農業法人などに就職して働く方法です。サラリーマンと同じように給与を受け取りながら、安定した収入を得つつ農業の知識や技術を学ぶことができます。自分の思い通りにすべてを進めることは難しい面もありますが、実務を通じて経験を積める点は大きなメリットです。
また、雇用就農を選ぶ方の中には、将来的に独立を目指して、まずは農業法人で経験を積むというステップを踏むケースもあります。

独立就農との違い

独立就農は、個人事業主として自分で農業を始める方法です。作る作物や働き方などをすべて自分で決め、市場の動向やトレンドを読みながら、独自の農業スタイルを築くことで高収益を目指すことも可能です。
ただし、独立するには農地の確保や資金の準備が必要であり、栽培を開始するまでに、知識や技術も身につけておかなければいけません。

独立就農に比べると、雇用就農は資金や経験を蓄える期間を持つことができます。将来的に雇用就農として農業法人に勤めるメリットについて、次で詳しく解説します。

農業法人で雇用就農するメリット

雇用就農で農業をはじめる場合、大きく分けて2つのメリットがあります。

安定した収入源を確保できる

第一に、収入を安定的に得られるという点です。
独立就農をする場合、収入が入ってくるのは就農開始から収穫、出荷を終えたあとです。そのため収入が得られるまでに時間がかかります。
これに対し、農業法人に勤めている場合は毎月給料を受け取ることができます。これにより気持ちに余裕を持って農業に取り組める点は大きなメリットです。

勤めながら農業経験を積める

農業法人で働くことで、農業に必要な知識や技術を実践的に学ぶことができます。未経験の方はもちろん、将来独立を目指す方にも役立つ経験が得られます。
身につくスキルには、栽培技術や圃場管理、機械操作、農薬・肥料の扱い方、取引先とのやり取りなどがあります。
これらは独立後や農業学校で学ぶことが多い内容ですが、仕事を通じて効率よく習得できるのが農業法人の魅力です。

農業法人で雇用就農する注意点

続いては、雇用就農で注意するべきポイントを2つご紹介します。

収入に上限がある

農業法人で働く場合のデメリットのひとつは、収入の上限があることです。多くの法人では固定給で、昇給も年に1〜2回あるかどうかというケースが一般的です。
農林水産政策研究所の2021年の調査によると、正規雇用の男性で年収500万円以上の人は全体の7%にとどまっています。

参考:農林水産政策研究所「農業雇用労働力の実態とその動向」

一方、独立して営農が軌道に乗れば、利益がそのまま自分の収入になるため、収入面では大きな可能性があります。ただし、経営リスクが伴うため、安定性には欠ける面もあります。

働き方に縛りがある

農業法人で働く場合、決まった時間に勤務する必要があり、状況によっては残業や休日出勤が求められることもあります。そのため、自由な働き方を希望する人にとってはギャップを感じる可能性があります。勤務時間や働き方が自分の希望に合っているか、事前に確認しておくことが大切です。
また、出荷ノルマや作業量が決まっているため、天候に関係なく作業を行う場面も多くあります。農業に柔軟な働き方を求めている方にとっては、農業法人での就農がミスマッチになってしまう可能性もあります。

雇用する農業法人のメリット

続いては、雇用する側のメリットを2つご紹介します。

時間に余裕が生まれる

農業法人として人を雇用することで、経営者自身の時間に余裕が生まれるというメリットがあります。日々の作業をスタッフに任せることで、現場の負担が軽減され、経営や企画、販路開拓など、より戦略的な業務に集中しやすくなります。また、作業の標準化や分業が進むことで、業務効率も向上します。人材を育てることで、将来的には法人全体の成長にもつながる可能性があり、持続的な経営体制を築くうえでも雇用は大きな意味を持ちます。

雇用就農資金を活用できる

農業で人を雇用する場合、「雇用就農資金」という補助金を活用することができます。

雇用就農資金とは

未来の農業を担う人材育成のために新たに従業員を雇用し、育成する際に国(農林水産省)が助成金を交付する事業です。
この資金には、次の3つのタイプがあります。

  • 雇用就農者育成・独立支援タイプ
  • 新法人設立支援タイプ
  • 次世代経営者育成タイプ

取り組み内容と助成金額については下記表の通りです。

事業の内容助成金額助成期間
雇用就農者育成・
独立支援タイプ
農業法人等が就農希望者を新たに雇用し、農業就業または独立就農に必要な研修を実施する場合に資金を交付します。年間最大
60万円
最長4年
新法人設立支援タイプ農業法人等が、新たな農業法人を設立して独立就農することを目指す就農希望者を一定期間雇用し、独立就農に必要な研修を実施する場合に資金を交付します。年間最大
120万円
最長4年
次世代経営者育成支援タイプ農業法人等が職員等を次世代経営者として育成するために異業種の法人・先進的な農業法人へ派遣して実施する研修にかかる経費を助成します。月最大
10万円
最短3ヶ月~
最長2年間

引用:農林水産省「雇用就農資金」

補助金を利用するための主な要件

雇用就農資金を活用するためには、次の要件を満たす必要があります。
要件は、「雇用就農者育成・独立支援タイプ」「新法人設立支援タイプ」と「次世代経営者育成支援タイプ」で分かれています。
いずれも、雇用する側(農業法人等)と就農側(雇用就農者または派遣研修生)それぞれに要件が設定されています。

雇用就農者育成・独立支援タイプ/新法人設立支援タイプの要件

「雇用就農者育成・独立支援タイプ」「新法人設立支援タイプ」における助成の要件は下記の通りです。

農業法人等の主な要件

  • 新規雇用就農者との間で正社員として機関の定めのない雇用契約を締結すること(独立前提の場合は期間の定めのある雇用契約で良い)
  • 労働環境の改善※に取り組んでいる、または新たに取り組むこと
  • 過去5年間に本事業等の対象となった新規雇用就農者が2名以上の場合、農業への定着率が2分の1以上であること

※休憩・休日・有給休暇の確保等に加えて、下記のいずれか2つ以上を実施することを指します。

  1. 年間総労働時間の就業規則等への規定
  2. 産休、育休等の就業規則等への規定
  3. 人材育成及び評価の仕組みの整備
  4. 男女別トイレ等働き方改革に資する施設の設備
  5. くるみん・えるぼしの認定

参考:厚生労働省「くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて」

厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」

新規雇用就農者の主な要件

  • 支援終了後も就農を継続または独立する強い意志を有する49歳以下の者であること
  • 支援開始時点で、正社員として採用されてから4ヶ月以上12ヶ月未満であること
  • 過去の農業就業期間が5年以内であること

次世代経営者育成支援タイプの要件

次世代経営者育成支援タイプにおける助成の要件は下記の通りです。

派遣元農業法人等の主な要件
派遣研修生を研修終了後1年以内に役員などへ登用すること

派遣研修生の主な要件
原則55歳未満の者であること

雇用する側の注意点

続いては、農業法人や個人農家において雇用をする側の注意点について2つご紹介します。

人材育成が重要

栽培の安定のためにも、従業員に栽培を任せる場合は、相応のスキルを持った人材を雇うか、技術を身に着けるために従業員に研修を受講してもらう必要があります。しかし、この技術をどこで身に着けたらいいのかというのは、農業事業にはじめて取り組む法人によくある課題です。
栽培や経営のスキルを身に着けることができる研修プログラムは、国や自治体、民間企業などで数多く実施されています。

イノチオファーム豊橋で農業の人材育成が可能!

イノチオグループが運営しているイノチオファーム豊橋では、3.6haの圃場でミニトマトの周年栽培を行っています。こちらでは、圃場の見学はもちろん、栽培や労務管理を学べる各種研修を実施しています。栽培がはじめての方から、新しく圃場の管理者になる方まで、幅広い方にご参加いただけます。

労務管理をしっかり行う必要がある

他業種では、1日8時間、一週40時間を超えて労働させた場合は労働基準監督署へ届け出なければならないなど、労働時間の規制があります。しかし、農業においては天候に左右されるなどの理由から、これらの規制は適用除外となっています。

だからといってルールが無いわけではなく、安全配慮の面からも、休みを与えない、長時間労働をさせるなどは避けなくてはいけません。2019年に施行された「働き方改革関連法」は農業にも影響を与えており、年5日の有給取得の義務化や労働時間の把握、同一労働同一賃金など、作業者が心身ともに安全に働けるように配慮した労務管理を行う必要があります。

従業員を正しく評価するための方法

労務管理とは労働時間の管理だけを指すものではありません。例えば、給与の支払いや従業員の評価なども労務管理といえます。
農業では、この「評価」に課題を抱える管理者が少なくありません。単純に労働時間だけで給与計算をしている場合、例えばベテランで作業の早いAさんと新人のBさんが同じ時間働いて、Aさんの挙げた成果の方が大きいにも関わらず同じ額の給与を支払っていると、Aさんは不満を感じるでしょう。各人の作業スピードを的確に把握できれば、適切な評価ができます。

そこで、労務管理アプリ「アグリボード」なら、作業者がそれぞれなんの作業にどのくらいの時間をかけたのかが、手軽に記録・みえる化できます。作業者が、作業のはじめとおわりにかんたんな入力をするだけで、日々の作業記録が完了。この記録は自動でグラフ化され、管理者はグラフを見て評価に活かすことができます。

労務管理アプリ「アグリボード」は、こちらでさらに詳しくご紹介しています。

アグリボードについて

新規就農・農業参入はイノチオアグリにおまかせください

イノチオアグリでは、農業法人などでの研修を終えて自分で農業をはじめたい方、企業として農業事業をはじめたい方の就農支援を行っています。
本コラムでご紹介した労務管理や人材育成のための研修のほか、栽培をアドバイスする営農サポート事業もおこなっています。
個人・法人に関わらず、理想の農業の実現をお手伝いします。就農・農業事業参入に関するお困りごとは、ぜひイノチオアグリにご相談ください。