農業従事者の高齢化が進む中、より世代間のバランスのとれた構造にしていくために、政府や各自治体が新規就農者に向けた支援策を行っています。

今回は新規就農者の支援する仕組みの1つである、新規就農者育成総合対策の経営開始資金(旧 農業次世代人材投資資金)についてご紹介します。

新規就農・農業参入の課題とは?
アンケートを用いて解説!

参考文献:新規就農者の実態に関する調査結果(2022年3月)

新規就農・農業参入には時間と事前準備が必要となります。「新規就農者の就農実態に関する調査結果」のアンケート結果では、新規就農・農業参入時に「農地の確保」(72.8%)、「資金の確保」(68.6%) 、「営農技術の習得」(57.7%)、の順に苦労をしたと回答した方の割合が多くなっています。

一方で、就農初期段階の「相談窓口探し」や「家族の了解」の割合は低く、就農準備段階における農地・資金・技術の3つが主な課題となります。新規就農を検討する方にとって、資金の確保は大きな課題です。特に就農後、経営が安定するまでの期間に所得を確保することが必要です。

現在、政府は農業従事者の高齢化が進展する中で、「新規就農者」を大切な存在として位置づけ、国・各市区町村を中心に新規就農に向けた支援策を行っています。

支援の1つに就農後の所得確保を目的とした、新規就農者育成総合対策「経営開始資金」があります。経営開始資金の概要についてご紹介します。

就農後の所得を確保できる「経営開始資金」とは?

経営開始資金の概要(旧 農業次世代投資資金)

新規就農者育成総合対策「経営開始資金」(旧 農業次世代人材投資資金)は経営を始めて間もない時期の所得を確保したい方におすすめです。

制度内容としては規定の要件を満たす認定新規就農者に対して、経営開始から最長3年間、月12.5万円(年間最大150万円)の給付になります。要件としては、就農時の年齢が原則49歳以下の認定新規就農者であることなど5項目を全て満たす方が対象となります。

夫婦ともに就農する場合(家族経営協定、経営資源の共有などにより共同経営者であることが明確である場合)は夫婦合わせて1.5人分の交付も受けることが可能です。また、複数の新規就農者が法人を新設し、共同経営を行う場合は、新規就農者それぞれに最大150万円を交付します。

経営開始資金の詳細(旧 農業次世代投資資金)

対象となる条件として、認定新規就農者として市区町村から認定を受けた49歳以下であるほか、自ら作成した青年等就農計画に即して主体的に農業を行っている方になります。その他の要件が複雑なため、ポイントを記載いたします。

新規就農時の就農形態は独立自営農であり、青年等就農計画に基づき、5年後には生計が成り立つ農業経営を行う必要があります。

また、独立就農形態では農地、機械・施設、出荷・取引、経営の管理、経営主宰など複数の要件があり、下記の表に記載している要件を全て満たす必要があります。

経営開始資金には交付停止または返還の要件もあるのでご注意ください。

交付停止のケース

  • 下記条件を満たさない場合
  • 原則として前年の世帯所得が600万円(本事業資金含む)を超えた場合
  • 青年等就農計画等を実行するために必要な作業を怠るなど、
  • 適切な就農を行っていないと市町村が判断した場合
  • 農業経営を休止又は停止した場合、6か月ごとの就農状況報告等を行わなかった場合
  • 国が実施する報告の徴収又は立ち入り調査に協力しない場合

返還の対象

  • 交付期間終了後、交付期間と同期間以上、営農を継続しなかった場合
  • 虚偽申請等を行った場合
ご利用頂ける方
資格
認定新規就農者を取得している方
対象
就農時の年齢が49歳以下である方
独立・自営就農の要件
農地
農地の所有権又は利用権を交付対象者が有している
機械・施設
主要な機械・施設を交付対象者が所有又は借りている
出荷・取引
生産物や生産資材等を交付対象者の名義で出荷・取引している
経営の管理
経営収支を交付対象者の名義の通帳及び帳簿で管理する
経営主宰権
交付対象者が農業経営に関する主宰権を有していること
その他の要件
継承時
親等の経営の全部又は一部を継承する場合には、継承する農業経営に従事してから5年以内に継承して農業経営を開始し、かつ新規参入者と同等の経営リスク(新規作目の導入や経営の多角化等)を負うと市町村長に認められること
青年等就農計画
の基準
独立・自営就農5年後には農業(自らの生産に係る農産物を使った関連事業<農家民宿、加工品製造、直接販売、農家レストラン等>も含む)で生計が成り立つ実現可能な計画である。
人・農地プラン
への位置づけ
市町村が作成する人・農地プラン(東日本大震災の津波被災市町村が作成する経営再開マスタープランを含む)に中心となる経営体として位置付けられていること(もしくは位置付けられることが確実であること)または、農地中間管理機構から農地を借り受けていること
生活保護
生活保護等、生活費を支給する国の他の事業と重複受給していないことまた雇用就農資金による助成金の交付又は経営継承・発展支援事業による補助金の交付を現に受けておらず、かつ過去にうけていないこと
所得
申請時及び交付期間中の前年の世帯全体所得600万円以下であること。

「経営開始資金」のメリット・デメリット

新規就農就農後、農薬や肥料、種苗などの生産資材を購入する資金が必要であり、定植後すぐに収穫、マネタイズできるとは限りません。また、就農1年目では病害虫の影響や農産物の品質や収量が計画よりも減少する可能性も想定できます。

よって、国や都道府県、市区町村が行う新規就農者支援制度を活用し、資金の確保と経営安定にリソースを投下する必要があります。

経営開始資金(旧 農業次世代投資資金)のメリットは?

最長3年間に渡り、月12.5万円(年間150万円)の支援は新規就農直後の経営安定化やランニングコストに充てる資金確保の面で非常にメリットと言えます。

世帯収入によって制限があり、最長3年間の支援は機械や施設の更なる投資金額、または維持及びメンテナンスに活用することで経営基盤の強化を図ることも可能です。

経営開始資金(旧 農業次世代投資資金)のデメリットは?

新規就農者育成総合対策の経営開始資金には交付停止又は返還の要件が存在します。要件に当てはまらないように経営開始資金への理解が必要です。(詳細は経営開始資金の詳細箇所をご確認ください。)

経営開始資金(旧 農業次世代投資資金)の総括

経営開始資金(旧 農業次世代投資資金)の交付には複数の要件があるため、手続きや交付の継続は簡単ではありません。ただし、新規就農就農後の所得や資金の確保、経営基盤の強化といった点で新規就農者は積極的に活用すべき制度と考えております。

新規就農を目指す人は、活用をご検討ください。交付を希望する際は、交付主体が各市区町村になる為、新規就農場所の市区町村に問い合わせの上、適切な申請を行いましょう。

資金の受給により、原則として受給した年の所得税及び復興特別税について確定申告を行うことも必要です。受給者の事情により課税関係は異なる為、最寄りの税務署にも忘れずに相談しましょう。

経営開始資金(旧 農業次世代投資資金)の活用方法は?

新規就農には機械・施設の導入費(イニシャルコスト)と農薬、肥料、種苗などの生産資材(ランニングコスト)が発生します。新規就農を目指すにあたり、青年等就農資金を活用し、ビニールハウスやハウス内部設備、関連機械を導入し、経営開始資金の交付金で生産資材や消耗品の購入で利用するケースです。

新規就農者の支援制度を組み合わせて活用することで、経営基盤の確立を実現することが可能です。ぜひ、経営開始資金の活用をご検討ください。

新規就農に活用できるその他の制度とは?

就農前の研修を後押しする「就農準備資金」

就農準備資金は次世代を担う農業者となることを志す方を対象に就農前の研修を後押しする資金を月12.5万円(年間最大150万円)を交付する制度になります。農業大学校や都道府県が指定する先進農家・先進農業法人等で研修を受ける方、就農予定時の年齢が49歳以下であることなど7項目を全て満たす方が対象となります。

本制度は国内での2年間の研修に加え、将来のビジョンとの関連性が認められて海外研修を行う際は交付期間が1年延長になるなど充実した制度となります。申請に向けた相談先としては都道府県・市区町村の農政担当窓口に相談しましょう。

出典:新・農業人ハンドブック

新規就農を支援する「青年等就農資金」

青年等就農資金は新たに農業経営を開始する新規就農者を対象に、国が無利子で資金を融資する制度になります。実際には国の出資金をもとに、株式会社日本政策金融公庫が融資に関する審査及び諸手続きを行います。

資金の取得により就農準備に幅広く活用できる為、新規就農の課題である「資金の確保」を支援する制度になります。青年等就農資金を検討するにあたり、日本政策金融公庫の窓口機関、市区町村の農政課に相談ください。

対象となる条件として、認定新規就農者として市区町村から認定を受けた青年(原則18歳以上45歳未満)、効率かつ安定的な農業経営を営むために活用できる知識・技能を有する65歳未満、これに該当する人が役員の過半数を占める法人、農業経営を開始してから5年以内の方も対象になります。

青年等就農資金の融資限度額は3,700万円(特認1億円)になります。利子は返済終了まで無利子であることも新規就農者にとって、力強い支援制度です。返済期間は12年で、据置期間は最大5年以内と設定されています。

資金の使い道も幅広く活用可能であり、施設・機械の導入費や農地の借地料・機械のリース料に関する一括支払いなどでご活用いただけます。

青年等就農資金のメリット

  • 融資限度額は3,700万円(特認1億円)で返済終了まで無利子
  • 返済期間は12年で、据置期間は最大5年以内
  • 施設・機械の導入費や農地の借地料、機械のリース料に関する一括支払いなどで幅広く活用可能
関連記事:「青年等就農資金」とは??メリット・デメリットまで解説
 

経営発展の機械・施設等の導入費を補助する「経営発展支援事業」

農業への人材の一層の呼び込みと定着を図るため、経営発展のための機械・施設等の導入を地方と連携して親元就農も含めて支援する制度です。

対象としては農業経営を開始してから5年以内の方、提出した青年等就農計画が都道府県の基本方針及び市区町村が定める基本構想に沿っており、計画が達成される見込みが確実であると認可された認定新規就農者(原則49歳以下)になります。

支援額は最大1,000万円(経営開始資金の交付対象は上限500万円)であり、補助率としては国が1/2、県1/4、本人1/4となります。近年の資材高騰に伴い、機械・施設の導入に向けた資金確保として活用できます。

新規就農実現に向けた支援

イノチオアグリは「農業総合支援企業」をコンセプトとし、お客さまを多岐に渡り支援することを掲げております。施設園芸(農業ハウスやビニールハウス)に携わり、50年以上培ったノウハウや知見を活かし、新規就農に向けた、プランのご提案から支援しております。

お客さまのご要望や条件に基づいてビニールハウス、内部設備を設計し、栽培方法や作業計画を一緒に考え、事業計画策定、就農に向けた資金確保をご支援いたします。

更に、圃場研修や専門指導員によるサポートで、事業開始の準備期間から栽培開始後の運営管理や労務管理に至るまで、農業ビジネスの最前線で培ったノウハウを活かしてお客さまの農場運営をトータルサポートします。