ビニールハウスを活用した施設園芸は、温度・湿度など内部環境をコントロールでき、一年を通して安定した農作物の生産を可能した農業です。しかし、近年は真夏日(30℃以上)や猛暑日(35℃以上)の日が5月~10月にかけて続く気候となっており、特に7月~9月にかけてのビニールハウス内の温度は優に40℃を超える過酷な状況となっています。栽培する作物だけでなく、ビニールハウス内で作業をされる農家さんにとっても厳しい労働環境となっています。今回のコラムではビニールハウスの温度を下げるための高温対策について解説していきます。

ビニールハウス内が暑くなる理由とは?

ビニールハウスは、別名「温室」とも呼ばれています。ビニールハウス栽培が導入された目的は、高温が必要な農作物を冬でも栽培するためでした。しかし、施設園芸の発展とともにビニールハウスの面積の拡大や大規模施設の普及によって、年間を通して使用されるようになってきています。

ビニールハウスの内部が暑くなる理由は、太陽光による日射がハウス内の土に吸収されることで、閉め切った施設内の温度を上昇させます。ビニールハウス内が暑くなるのは、この熱がうまく外へ排出されずに中にこもってしまうことが原因です。そのため、真夏でもない時期にビニールハウス内が40℃を超すような状況が生まれてしまいます。

高温期のビニールハウス栽培での注意点

夏場の高温期のビニールハウスは作物だけでなく、作業をする農家さんにも注意が必要です。

栽培する作物への影響

過度な暑さは、作物にとって良いものではありません。日差しが強くなりハウス内が30度を超えた場合や、平均気温25度以上の日が続いた場合に、障害が発生しやすいとされています。トマト・キュウリなどは温度の影響を受けやすく、着果不良などの生理障害によって収穫量が減少してしまうリスクがあります。

また、病害虫が発生しやすい環境となりますので注意と対策が必要です。日差しが強いと葉焼け・枯死・斑点病による生育悪化や、裂果・着色不良などの症状が発生し作物に悪影響を及ぼす恐れがあります。

農家さんへの影響

暑さや強い日差しがもたらす影響は、作物だけではありません。ビニールハウス内で働く、農家さんにも注意が必要です。7月や8月の真夏と意識している時期ではないため油断をしており、水分補給が足りず熱中症や脱水症状を起こす場合もあります。

高温期だけではない!ビニールハウス栽培の温度管理の重要性

ビニールハウス栽培において温度管理は、品質よい作物を育てる上でとても重要です。夏場のビニールハウス内は、連日40℃を超えるサウナ状態になることがあります。外部環境の影響を受けにくいというメリットの反面、露地栽培に比べて空気がこもりやすく、強い日差しによりビニールハウス内の温度が上がってしまうことが原因です。温度が上昇することで開花が遅れたり、果実が傷んだり、作物が枯れてしまうなど高温障害が発生しやすくなります。

密閉された空間は、温度とともに湿度も上昇するため、病害虫が繁殖しやすい環境にもなります。さらに、作業者の熱中症や脱水症状を引き起こしてしまう恐れもあります。そうなってしまうリスクを防ぐためにも、換気装置、遮熱・遮光資材・冷却装置・環境制御システムなどを活用して最適な室温を保つことが求められます。

注意するのは、夏場だけではありません。冬場は、夜間に外気の影響を受け室温が低下しまうので、ヒーター・加温器・暖房機などを使い室温を保つことが重要です。また、ビニールハウス内の栽培区域や加温機器の設置場所によって温度ムラが発生しやすくなるため、循環扇を使いビニールハウス内の空気が滞らないように注意する必要があります。低温の状況が続くと、作物が枯死してしまうことがあるので注意しましょう。

また冬場は、明け方の放射冷却の対策もしましょう。農作物が霜害や凍害を受けないように、しっかりと温度管理をするようにしましょう。

夏場や冬場だけに限らず、作物にとって最適な環境を整えるように心がけましょう。

ビニールハウスの温度を下げる方法の紹介

ここからは、ビニールハウス栽培において温度を下げるために施すことのできる対策方法をご紹介します。

窓・扉の開閉による換気

まずは、扉や窓を開閉し自然換気を行う方法です。丸型のビニールハウスの場合、両サイドのフィルムを巻き上げ、側面を開閉し換気を行う方法が、一般的な方法です。

そのほか、ビニールハウスの妻面窓や、屋根型タイプのビニールハウスであれば天窓を開閉する方法などがあります。妻面窓や天窓は、メーカの仕様にもよりますが、後付することも可能です。ビニールハウスの天頂部は熱がこもりやすいため、天窓換気が自然換気ではもっとも有効だとされています。

ミストシステムの噴射

ミストシステムは、微細な霧状の水を高圧で噴射することで、空気中に噴霧された細かいミストが周囲の熱を奪い気化させます。これが気化熱による温度の低下です。そして作物の蒸散作用が活性化され、水分や栄養素をより効率的に吸収する効果もあります。夏場の高温多湿な環境下でも、作物のストレスを軽減し、成長を促進させます。

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遮光カーテン・遮光ネットの設置

遮光カーテンや遮光ネットを設置すること直射日光を遮り、ビニールハウス内の温度の上昇を抑えてくれ、温度を調整することができます。作物によって必要な太陽光の量が異なるため、育てる作物に適した遮光率の商品を選ぶと良いでしょう。薄く軽量なものを選ぶと畳んだ際の収まりもよく、光を遮らないのでおすすめです。

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遮光剤・遮熱剤

遮光剤や遮熱剤といったビニールハウス用の遮光遮熱塗料は、ビニールハウスの表面に吹き付けることでハウス内の温度上昇を抑える効果が期待できます。温度上昇を抑えることで、葉焼け防止など、作物への高温対策のほか、ビニールハウス内で働く人の作業負担が軽減に効果があります。

遮光率も遮光剤を薄める割合で調整が可能です。持続期間や目的に合わせてラインナップされています。また、吹き付けた遮光剤は、専用の除去剤を使用することで簡単に剝離できます。

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循環扇(ファン)

循環扇は、ビニールハウス内の空気を吸い込み攪拌(かくはん)することで、空気の循環を促進します。これにより、空気中の湿度や温度、二酸化炭素の濃度を均一にすることができ、病気や害虫の発生を防ぐことも可能です。

ヒートポンプと併用することで、エアコンの冷房効率を向上させることもできます。冷たい空気が部屋全体に行き渡り、省エネにつながります。

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冷房(ヒートポンプ)

ビニールハウスの冷房としては、ヒートポンプが使用されています。ヒートポンプは、一般的なエアコンと同様に暖房・冷房・除湿機能を備えた機器になります。作物に最適な温度・湿度環境を作り出すことが容易であり 、安定した収穫量と品質向上に大きく貢献します。

機能性が高い被覆材の活用

被覆材(ビニール)には、各メーカーから機能性の優れた商品が発売されています。夏場の日射対策用の遮熱資材、冬場の保温効果を上げるために多層化しているものなど、用途に合わせてさまざまな被覆材があります。

農家さんがするべき高温対策

ビニールハウスの対策だけでなく、ビニールハウス内で日々作業をされる農家さん自身の高温対策も必要です。

服装で対策する

ビニールハウス内は、室内とはいえ日光が降り注ぐ環境になるため、帽子を被ったり、吸汗速乾素材の夏用衣服を着ることで対策しましょう。もっとも手ごろで取り入れやすい方法です。

最近では、服にファンが内蔵された空調服も手ごろな値段で入手できるようになっています。服の中に保冷剤などを仕込める仕様の商品もあります。

水分・塩分補給をこまめに取る

作業前や作業中にこまめに水分や塩分を補給しましょう。作業や時間に追われていると休憩を後回しになりがちですが、喉が乾いていなくても意識的に休憩を取るようにしましょう。

休憩中にアイスコーヒーなどで水分補給をされる方も居られるかと思いますが、発汗することによって塩分が体外へ排出されてしまうため、手軽な塩タブレットなどで塩分も補給するように意識しましょう。塩分を補給することで、体内から出ていく水分量が少なくなり、脱水予防にもつながります。

可能な限り一人で作業をしない

作業人数や経営規模の都合上、一人での作業がやむを得えない場合には、家族にどこで作業をしているのか伝えてから出かけるように心掛けましょう。

特に、熱中症の場合は応急措置が重要です。自分では大丈夫と思っていても気づいたら手遅れの場合も多いので注意しましょう。可能であれば二人以上で作業を行い、お互いに定期的に確認することで安全に農作業をすることができます。

環境制御システムを活用した高温対策

ビニールハウス内の高温対策として、余裕があれば環境制御システムを活用することも一つの方法です。

環境制御システムとは、ハウス内の天窓開閉やCO2などの各種装置をコンピュータで管理する仕組みのことです。これまで人の手で行っていた作業を自動化するだけでなく、あらかじめ設定しておいた気温や湿度の設定値に合わせて最適な環境となるように各種装置が駆動して制御を行ってくれます。ビニールハウス内外の気温や天候の環境をもとに換気窓、カーテン、暖房・冷房、加湿・除湿、CO2濃度などを複合的な要素を自動で制御します。

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ビニールハウスの温度を下げて農業に取り組みたい方はイノチオへ相談!

ビニールハウスにたずさわり50年以上の歴史を持つイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として数多くお客さまをご支援してきました。

今回のコラムでも解説させていただいた通り、近年では冬場の保温対策だけでなく、夏場の温度を下げる目的でのお問い合わせが増加しております。イノチオアグリでは、ビニールハウスの建設だけでなく、お客さまのご要望や栽培する作物に合わせた各種製品を取り揃えています。農業に関するお悩みは、ぜひイノチオアグリにご相談ください。