ビニールハウスは構築物?器具備品?判断基準と減価償却のポイント
減価償却費の計算方法は、ご使用のビニールハウスが「構築物」「器具及び備品」のどちらに分類されるのかによって変わります。 このコラムでは、ビニールハウスの分類を判断する方法や、それに応じた減価償却費の計算方法について詳しく解説します。
ビニールハウスをこれから建てる予定の方や、減価償却費について知りたい方に、ぜひ参考にしていただきたい内容となっています。
目次
そもそも減価償却はなぜ必要?
減価償却費とは、固定資産の価値の減少に伴って分割して計上する費用です。
車両や建物、機械装置といった固定資産は、時間が経過するにつれ、徐々にその価値が減少するものと考えられています。 そのため、取得にかかった費用は取得時に一括で計上するのではなく、減価償却費という勘定科目を使って少しずつ計上する必要があります。
関連記事:農業所得における減価償却費の計算方法とは?耐用年数も紹介
減価償却で重要な耐用年数とは
減価償却の対象となる固定資産を、減価償却資産といいます。耐用年数とは、 減価償却資産を使用できる期間のことで、財務省令によって年数が定められています。
減価償却費は、定められた耐用年数のうちに計上を済ませる必要があります。
ビニールハウスの耐用年数は「骨組みの素材」で決まる!
ビニールハウスの耐用年数は、骨組みに使用している「素材」によって耐用年数が異なります。素材のほかに、そのビニールハウスが「構築物」に分類されるのか、または「器具備品」の分類されるのかによって耐用年数が異なります。
ここでは、構築物の定義と素材別の耐用年数について解説します。
構築物に該当するビニールハウスとは
一般的に、構築物は「土地に定着する建物以外の建造物または工作物」と定義されます。 基礎を用いて建設されており持ち運びができない、組立・解体が簡単にできないなど、ビニールハウスの状態を総合的に鑑みて、構築物かそうでないかを判断します。
自己判断が難しい場合は、税理士など知識を持った人に相談しましょう。
構築物・その他の耐用年数は何年?
所有しているビニールハウスが「構築物」に該当する場合、ご紹介した通り、耐用年数はビニールハウスの骨組みの素材によって異なります。
骨組みが金属製であれば、14年の耐用年数となります。一般に「鉄骨ハウス」として販売されているビニールハウスが該当します。
また、木造のものは5年、その他の素材のものは8年となります。
構築物に該当しない場合の耐用年数は?
構築物でないビニールハウスは「器具及び備品」に該当します。この場合の耐用年数も、骨組みの素材で判断します。骨組みが金属製であれば10年、その他の素材であれば5年の耐用年数を適用することになります。
ボイラーなどの栽培器具の場合は?
ボイラーなどを含む農業用の設備・器具の耐用年数は、一律で7年となっています。
構築物ではないビニールハウスでも、ボイラーなどの器具と一緒に導入し、これと合わせて減価償却も行う場合は、ビニールハウスも含めて「機械及び装置」に分類され、耐用年数は7年となります。
ビニールハウスの減価償却の計算方法
農業の減価償却は定額法で算出するのが一般的です。
定額法は、減価償却資産の金額に一定の割合を掛けて減価償却費を求める方法です。 この割合を「償却率」といい、耐用年数ごとに定められています。
毎回同じ割合を掛けて減価償却するため、償却が終わる年を除いて、計上する額は毎年同じになります。
「定額法」の計算方法とは
定額法の減価償却費は、次の計算式によって求めることができます。
減価償却費=取得価額×定額法の償却率
定額法の償却率は、耐用年数ごとに決められています。 農業の場合、償却率は以下の通りです。
設備の種類 | 分類 | 耐用年数 | 償却率 | |
ビニールハウス | 構築物 | 金属造 | 14 | 0.072 |
木造 | 5 | 0.200 | ||
その他 | 8 | 0.125 | ||
器具及び備品 | 金属造 | 10 | 0.100 | |
その他 | 5 | 0.200 | ||
農業用設備 | - | 7 | 0.143 |
定額法の計算例
たとえば、100万円のトラクターを購入した場合です。農業用設備の耐用年数は7年で償却率は0.143となるため、次のように減価償却費を計上します。
- 1年目:100万円×0.143=14万3,000円(未償却残高:85万7,000円)
- 2年目:100万円×0.143=14万3,000円(未償却残高:71万4,000円)
~
- 6年目:100万円×0.143=14万3,000円(未償却残高:14万2,000円)
- 7年目:14万1,999円
7年目の償却では、利用中の資産であることを示すために、全額償却せず1円を残します。
関連記事:農業所得における減価償却費の計算方法とは?耐用年数も紹介
ビニールハウスの減価償却のポイントとは
ビニールハウスの減価償却では、これまでにご紹介した「耐用年数」「減価償却の計算方法」のほかに、ビニールハウスの「取得金額」が重要となります。
ビニールハウスの取得金額には、引取運賃や荷役費、運送保険料、購入手数料を含めた金額が取得価格となります。取得価格が10万円以上になる場合は固定資産に該当しますが、固定資産への計上には次のような特例があるため注意が必要です。
少額減価償却資産として計上する
個人事業主が青色申告により所得税の申告を行っている場合は、「少額減価償却資産の特例」を利用することができます。
関連記事:農業の確定申告に必要な青色申告とは?方法と注意点について解説
「少額減価償却資産の特例」を利用すると、取得価額30万円未満の資産を取得した際に、一括で取得価額の全額を経費にすることができます。つまり、29万9,999円までの金額のビニールハウスを購入した場合、全て消耗品費としてその年の経費になります。
まとめて経費計上できる分、取得した年の利益を圧縮して節税に繋げることができます。 ただし、年間取得価額の合計300万円が上限となっています。
一括償却資産として計上する
取得価額が10万円以上、20万円未満のビニールハウスを購入した場合、「一括償却資産」として計上することができます。一括償却資産に計上した資産は、その合計額を3年間で均等償却します。
たとえば、鉄骨ハウスの耐用年数は14年ですが、取得価額が20万円未満であれば「一括償却資産」に計上できます。3年で減価償却が終了するため、取得価格を早期に経費とすることができます。
その他のメリットとして、取得価格を3等分するだけでいいため個別の資産管理が不要になることや、のちほどご紹介する「償却資産税」が課税されないことが挙げられます。
ビニールハウスは固定資産税(償却資産税)の対象になる
固定資産税とは、地方自治体が納税者の所有する資産に対して課す税金です。固定資産税は、地方自治体が計算した固定資産税評価額に1.4%(都市計画税を含まず)を乗じて計算されます。
ビニールハウスは建物ではないため、固定資産税の対象外だと思ってしまいがちですが、ビニールハウスは固定資産税の中の「償却資産税」の課税対象です。
償却資産税とは
「償却資産税」は、固定資産税の一部であり、企業や個人事業者が使用する事業用資産に課せられる税金です。この税金の対象となる資産には、構築物、機械、車両、器具備品などが含まれます。ビニールハウスは「構築物」または「器具備品」として該当します。
土地や建物の固定資産税評価額は地方自治体が計算を行いますが、償却資産税の場合は、申告者が計算の基礎を提出する必要があります。
毎年12月頃に地方自治体から償却資産税の申告書が送られてくるので、その年に購入した資産の名称、取得価額、耐用年数を記入し、1月末の申告期限までに提出しましょう。
償却資産税の計算方法
償却資産税の税額は納税者が計算する必要はなく、該当年度に取得した償却資産の情報を記入するだけです。償却資産税申告書を提出すると、地方自治体の固定資産税課が税額を計算し、毎年5月頃に固定資産税通知書が納税者に送付されます。
地方自治体による償却資産税の計算式は以下の通りです。
償却資産税評価額=取得価額×減価残存率
減価償却を見据えた農業経営を
今回取り上げた「減価償却費」のほか、「燃料費」「人件費」は、農業経営において必然的に発生するコストです。これらのコストを見込んで経営計画を策定する必要があります。
農業経営の3大コストを抑えるためには、
- 減価償却資産への支出(初期投資)を経営規模に適した範囲に抑えること
- 環境制御を行い、不要なエネルギーコストを発生させないこと
- 作業を工夫して行い、労働生産性を向上させること
こういったポイントを踏まえて農業経営を行うことが重要です。
イノチオアグリは農業経営をサポートします
イノチオアグリでは、農業経営開始に向けた収支計画の立案をサポートしております。
今回ご紹介した減価償却費を含め、お客さまの理想の農業を実現するにあたりどのくらいの費用が必要になるのか、さらにその資金をどのように用意するのかといった、農業経営の総合的なプランニングをお手伝いさせていただきます。
農業経営における費用や資金に関する疑問や不安は、ぜひイノチオアグリへご相談ください。