現在、さまざま領域のビジネスで注目を集めるマーケティング。同じように、農業の生産分野でもその視点や考え方が求められてきています。今回のコラムでは、マーケティングの基礎的な考え方をはじめ、農業で取り組むべきマーケティングのポイントについて紹介します。そのひと工夫で付加価値を生み、収益に関わる分野でもありますので、一つの参考として一読ください。

そもそもマーケティングとは?

マーケティングと聞くと、難しい理論や分析手法を思い浮かべる方もいると思いますが、簡単に言えば「売れるための仕組みづくり」です。

これは我々メーカーとしても陥りがちですが、どんなに良い商品やサービスを世に出しても、お客さまに認知され購入されなければ意味がなく、売り上げも立たず、会社経営を継続することは困難になってしまいます。

そのために、「売れるための仕組みづくり」としてマーケティングは、事業を継続するために必要な知識と言えるでしょう。売れる仕組みを作ることは、自分から売り込みをしなくても、顧客の購買意欲が自然に高まるような状態を作ることに直結しています。

押さえておきたい「4P分析」の考え方

今回のコラムで細かなマーケティングに関する知識や手法については説明しませんが、一つだけ大事な分析手法として「4P分析」をご紹介します。

4P分析とは、Product・Price・Place・Promotion、この4つの視点から商品やサービスを分析して、強みやアピールポイントをマーケティング施策に活かすフレームワークです。

項目意味内容
Product自社の製品・サービスどのような価値を提供するのか
Price価格いくらで提供するのか
Place販売場所・提供方法どのような形で提供するのか
Promotion販促活動どのような販促を行うのか


マーケティング施策を打つ場合、まずは市場や消費者の環境を分析し、それを踏まえてマーケティング戦略を練り、その上で具体的な施策立案を行います。4P分析は、具体的な施策の立案を行う際に自社製品やサービスの分析という役割を担います。

それでは各項目で具体的に何をするのか説明していきます。

4P分析の進め方①Product

「Product」は、文字通り自社のプロダクト=製品またはサービスのことです。農業に置き換えれば、丹精込めて育てた生産物と言えるでしょう。

Productの過程では、製品・サービスにどのような強みや魅力があるのかを分析します。分析方法の注意点として、このProductは単純に製品やサービスだけを指すのではなく、パッケージデザインやアフターサービス等も含め提供できる価値についてです。

また、自身の製品・サービスだけでなく競合との比較も必要です。競合と比べてどこが優れているのか、劣っているのか、その他ユーザー視点の分析もするべきでしょう。

例えば、トマトについて分析した際に、「採れたて!新鮮!」ということを強みにしてしまうと多くの競合とぶつかるでしょう。そうなれば価格勝負になり、思っている利益を得れない可能性があります。

4P分析の進め方②Price

「Price」は、消費者にとって購入を決める大きな要素となる「価格」です。価格を気にせず買い物をする人などいないでしょうし、その価格が特別な理由なく競合商品とあまりにかけ離れていると購入対象に選ばれないでしょう。

その製品・サービスに購入することによって得られる価値と、価格とのバランスが合っているかどうかなどの観点からの分析も必要です。

野菜の場合、季節や収穫量によって大きく変動します。生活に必要な食料品のため、世の中も敏感に反応するでしょう。生産者は、そのような声も大事ですが、栽培する上で発生する資材コストやエネルギーコストも加味して適切な値決めをする能力が求められます。

4P分析の進め方③Place

「Place」は、販売場所・提供方法のことを指し、その製品・サービスを「どこで、どのように売るか」ということを意味しています。「地の利を得る」という言葉があるように、場所選びは目先の利益獲得だけでなく、今後の規模拡大にも大きく影響してきます。

後に説明しますが、農作物の場合、JA出荷をしないとなれば直売所やスーパーへの出荷が真っ先に浮かぶ売り先になってくるのではないでしょうか。周辺に大きな都市がある場合は、お住いの地域の人口だけでなく、関係人口にも影響して、新鮮な野菜を求める多くの消費者ニーズがあると考えて良いでしょう。しかし、そのような地域でない場合は、ブランド力のある特産品やイチゴのような体験型の経営体を担える農作物でなければ、思っているような利益を生めないかもしれません。

農地選びの際には、ご自身の都合だけでなく、このような視点で選ぶことも必要となってきます。

4P分析の進め方④Promotion

最後はPromotion、つまりPRや広報など販促活動全般に対する分析です。どんなに優れてニーズを捉えた製品・サービスであっても、認知されなければ、意味がありません。日常的に需要のなる農作物であっても、作って出荷すれば売れるとは限らないのです。

近年では、SNSやYouTubeを活用して、日々の農作業の様子を投稿することで安心・安全といった信頼を獲得して購買へとつなげている方もいます。
農業の場合、世に言う「バズる」のような盛り上がりは難しいかもですが、地道に続けていくことで、少しずつファンの獲得にも期待できます。

もちろん、SNSやYouTubeだけが、農業のPromotionではありません。その他の手法については、下の「農業で取り組むべきマーケティング成功のポイント②ブランド化」で解説します。

農業で取り組むべきマーケティング
成功のポイント①販路開拓

ここまで、マーケティングの基本的な考え方について解説してきました。ここからは、「販路開拓」と「ブランド化」に焦点を当て、農業で取り組むべきマーケティングの成功ポイントについて紹介します。

農作物をJAを通じて卸売市場に出荷する際、各段階で中間手数料が発生します。卸売市場では需給バランスにより取引価格が決まるため、価格変動が農家の収益を左右します。収穫量の少ない時期に出荷すれば高い価格が期待できますが、収穫最盛期には供給過剰で価格が下落するリスクがあります。

そのようなリスクを回避したい場合には、農家が直接消費者に販売するルートを開拓しなければなりません。ここからは代表的な販路開拓先について紹介します。

直売所へ出荷

近隣に直売所や道の駅がある場合、直接農産物を持ち込むこともできます。直売所や道の駅は、地域のお客さまだけでなく、遠方からの観光客も立ち寄るため販路先としてよく選ばれています。また、委託販売となるため、農家にとっては利益率が高いことも魅力です。

ビニールハウス横の自販機で販売

ビニールハウスと同じ敷地に自販機を置き販売する方法もあります。近所に住宅街や会社がある場合、購入した方がリピーターとなり、継続的に購入してくれるケースもよく見受けられます。

インターネット・アプリで販売

オンライン上での農作物の販売も一般的になってきました。少し手間ではありますが、インターネット上に自身の農園のホームページを解説して、生産者の紹介やどのような想いを持って農業に取り組んでいるかを伝えることで、信頼の獲得になります。

また、近年では食べチョクやメルカリといったアプリを活用した農作物の販売も増えてきており、以前に比べて手間なくネット上で農作物を販売できる環境が整っています。

飲食店・スーパーへ納品

地域の食材や新鮮な食材を求める飲食店では、農家から直接野菜や果物を仕入れる店も増えています。はじめは知名度がないため売り込みが必要となりますが、契約が取れれば、次の契約への大きな信頼となるでしょう。

また、スーパーなどの小売店に売り込むことも視野に入れましょう。地域の農作物を扱うスーパーだけでなく、富裕層向けのスーパーでも価格以上に新鮮で安全な野菜へのニーズに応えるために仕入れを強化しているケースもあります。

農業で取り組むべきマーケティング
成功のポイント②ブランド化

販路開拓と同じくらい重要になってくるのが「ブランド化」です。他の人と同じようにの農作物を育てていても、競争に勝つことは難しいでしょう。そこで必要となってくるポイントがブランド化となります。別の言い方をすれば他社との差別化です。

作物のブランド化

同じ作物でも、ブランド化することで付加価値を付けることができます。例えば、ネーミングや生産までのストーリーを作ることで、差別化することもできます。どのような環境下で育てているのか、誰が育てているのか、どんな想いを持ち育てたのか、これらを付加価値としてネーミングや生産までのストーリーに組み込むことでブランド化することができます。

パッケージでブランド化

販路開拓の箇所で紹介した通り、近年では農作物のネット販売も一般的になり、贈答品として農作物を選ぶケースもあります。農作物だからと言って透明なパックや段ボールで届けるだけだと送り主としては、味気なさを感じるでしょう。そのようなときに、可愛らしいデザインのパッケージや贈答品としての品を出すパッケージが施されていると選択肢として選ばれやすくなります。インターネット上で検索をすると、さまざまな思考を凝らしたパッケージが出てきますので、参考にしてみてください。もちろん、新鮮で安全な作物を育てることが大前提になりますので、ご注意ください。

6次産業化でブランド化

6次産業化とは、農家が農産物の加工と流通・販売も行うことです。

例えば、生産したイチゴをスムージやジェラートにして販売することも6次産業化と言えるでしょう。生鮮食品の場合、鮮度が命のため収穫してから消費まで期間がありませんが、加工を加えることで販売期間が増えます。また、生産ロス削減の観点からも6次産業化はおすすめと言えます。

農業×マーケティングの成功事例

イノチオのお客さまもさまざまなマーケティング活動に取り組まれています。今回は、企業のお客さま・個人のお客さま2つの事例を紹介します。

「房どりトマト」うれし野アグリ株式会社

3.2haという広大な規模でミニトマトの生産を行っているうれし野アグリ株式会社は、「房どりミニトマト」という名称のミニトマトを販売しています。文字通り、ぶどうのように房どりで出荷することで、かわいらしい見た目や長い鮮度が特長の魅力あふれるミニトマトとなっています。

このように育てるためには、高い栽培技術が求められますが、その技術を付加価値として差別化を図っています。

関連事例:企業の農業参入4社コラボでの大規模施設園芸 うれし野アグリ株式会社

「街の行きつけ農園」ネイバーズファーム 梅村桂さん

新鮮でおいしい野菜の一番魅力的な瞬間をリアルタイムで届けたい、そのような想いから東京日野市の住宅街の一画にネイバーズファームは誕生しました。キャッチコピーにもなっている「街の行きつけ農園」、都会の住宅街の真ん中にあるビニールハウスと畑はまさに自然の一つと言えます。

ビニールハウスのそばに置かれた自販機で販売される新鮮なミニトマトは、近隣住民の方々をはじめ、多くのファンを獲得しています。ネット販売にも力を入れており、東京日野市から全国のお客さまへ新鮮なミニトマトを届けています。

関連事例:数字の記録がおいしいトマトにつながる 梅村桂さん

農業のお悩みはイノチオアグリへご相談ください!

イノチオアグリでは、これまで既存の生産者、新規就農者・農業参入企業をはじめ多くのお客さまの農業をサポートしてきました。初期投資のビニールハウスや栽培設備などのハード面だけでなく、農薬・肥料・カーテンなどの資材をはじめ営農支援などの営農開始後のソフト面まで幅広く対応しています。

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