近年、食の安全性や環境への意識が高まる中、「有機栽培」や「特別栽培」といった農法に注目が集まっています。一方で、日本の農業の主流を担っているのが「慣行栽培」です。

このコラムでは、慣行栽培とは何かをわかりやすく解説し、有機栽培との違い、そしてそれぞれのメリット・デメリットについて整理します。

慣行栽培とは

実は「慣行栽培」という言葉には、明確な定義や基準は存在しません。「慣行」とは、昔からの習慣や日常的に行われている方法を意味します。

つまり、国や自治体、JA(農協)などの指導に従い、法律に基づいて農薬や肥料を適切に使用し、多くの農家が一般的に行っている農業の方法が「慣行栽培」と呼ばれているのです。

一方で、「有機栽培(有機農業)」や「特別栽培」など、栽培方法が定義されていたり、ルールが設けられていたりするものもあります。
「慣行栽培」という言葉は、これらの特別な農法と区別するために、便宜的に使われるようになったものです。

有機栽培や特別栽培との違いは?

それでは、有機栽培や特別栽培との具体的な違いはどこにあるのでしょうか。

有機栽培とは

有機栽培とは、生物や自然環境に配慮し農薬や化学肥料に頼ることなく、おいしく安全な農作物を作る農業のことをいいます。有機農業とも呼ばれます。
平成18年度に策定された「有機農業推進法」では、次のように定義されました。

1.化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない
2.遺伝子組換え技術を利用しない
3.農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する

参考:農林水産省「【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~」

また、これとは別に、有機農産物の日本農林規格(有機JAS)があります。
「有機農産物」などと表示するには、有機JAS規格に基づいて生産され、第三者機関の認証を受ける必要があります。認証された事業者のみが「有機JASマーク」を使用できます。

有機JASでは、有機栽培の実践に加え、以下をはじめとした厳しい条件が求められます。

  • 播種または植付け前2年以上(多年生作物の場合は収穫前3年以上)の間、化学肥料や化学合成農薬を使用しないこと
  • 組換えDNA技術の利用や放射線照射を行わないこと
  • 周辺から使用禁止資材が飛来・流入しないように必要な措置を講じていること

参考:農林水産省「有機食品の検査認証制度」

この制度は国際的な基準にも準拠しており、環境負荷の低減や高付加価値の農産物生産につながります。

一方で、周囲の農家の協力や理解が必要であり、作業効率が低く、大量生産が難しいことや、病害虫や天候の影響を受けやすく、安定した収穫が難しいという課題もあります。

特別栽培とは

特別栽培とは、「化学合成農薬(節減対象農薬)の使用回数」および「化学肥料に含まれる窒素成分」の使用量が、その農産物が生産される地域で一般的に行われている使用状況(慣行レベル)と比べて、両方とも50%未満で栽培される方法を指します。どちらか一方のみが削減されている場合は、対象外となります。

この方法で育てられた特別栽培農産物には、農薬や化学肥料の削減状況をパッケージなどに表示するか、QRコードを通じてインターネット上で情報を確認できるようにする必要があります。商品パッケージにQRコードが記載されている場合は、スマートフォンで読み取ることで、削減状況を確認することができます。

慣行レベルとは

「慣行レベル」(地域慣行栽培基準)は、農林水産省のガイドラインに基づき、各都道府県が地域の気候や特性を考慮して定めるものです。特別栽培などを行う場合、どの程度農薬を減らしたのか、削減割合を算定する際の比較基準となります。

例えば愛知県では、主要な農作物については県域で、その他の作物は地域別に慣行レベルを策定しています。品目別に、栽培方法や収穫期間、栽培環境に応じて、化学合成農薬(節減対象農薬)の使用回数や窒素成分の数値が決められています。

参考:農林水産省「特別栽培農産物表示ガイドライン」
参考:愛知県「特別栽培農産物の基準となる慣行レベルについて」

慣行栽培のメリットとは

ここからは、慣行栽培のメリットとデメリットについて解説します。

1.品質・価格の安定につながる

慣行栽培では、土壌の状態を確認しながら、作物ごとに定められた農薬や肥料を使用します。農薬・肥料の働きにより、収穫量や品質に極端な差が出にくく、安定して農産物を生産することが可能です。

品質が安定することで、市場に出荷する際の価格も安定しやすくなります。これにより、農家の収益が安定するだけでなく、消費者にとっても品質や価格の急激な変化が少ないという大きな利点があります。

2.作業の手間を削減できる

農家さんにとって負担の大きい作業を軽減できる点も大きなメリットです。
農薬や肥料を使用することで、除草や害虫対策の手間を大幅に削減することができます。

特に近年の日本では、農業従事者の減少や高齢化が深刻な課題となっています。慣行栽培は比較的手間がかからず、少人数でも実施可能な農業手法として、現在も多くの農家さんに選ばれています。

慣行栽培のデメリットとは

1.自然環境への影響

慣行栽培で使用される農薬や肥料には、多くの化学物質が含まれており、すでに自然環境にさまざまな悪影響を及ぼしています。

たとえば、

  • 自然の生態系維持に重要なミツバチの数が減少していること
  • 土壌汚染によって微生物や昆虫が死滅してしまうこと
  • 化学物質が水に流れ込み、水辺の生態系が破壊されること

などの問題が挙げられます。

このような生態系の損失は、自然の循環を乱すことにつながります。
農業、ひいては未来の暮らしを守るためにも、慣行栽培における農薬や肥料の使用については、よりよい方法を考え続けなくてはなりません。

2.健康面の懸念

慣行栽培で使用される農薬や肥料の影響は、環境だけにとどまりません。近年では、強力な農薬によって健康被害を受けた農業従事者が訴訟を起こし、農薬メーカーに対して勝訴する事例が世界各地で報告されています。

また、慣行栽培で生産された農作物に残留農薬が含まれている可能性があることから、自身や子どもへの健康への影響を懸念し、有機栽培で育てられた作物を選ぶ消費者も増えています。

このように、慣行栽培に用いられる農薬や肥料には、健康面における不安が残るのが現状です。とはいえ、慣行栽培は収穫量や品質の安定、作業の効率化といった利点があり、現在も多くの農家にとって現実的な選択肢となっています。

作業効率や品質の安定を保ちつつ、健康や環境への配慮をどう実現するかは、引き続き重要な課題です。

自分に合った方法は?慣行栽培と有機栽培の選び方

慣行栽培と有機栽培、品質に違いは出る?

慣行栽培か有機農業かという栽培方法の違いは、果たしてどの程度、作物の品質に影響するのでしょうか。実はこの疑問に対して、実際に調査を行った研究があります。

その研究では、レタス・小松菜・ほうれん草を対象に、栄養成分の分析と、外観・食感・味・総合評価を項目とした官能評価試験が実施されました。結果として、「有機栽培の方が甘味が強く、味の評価が高かった」といった傾向が一部見られたものの、栄養成分やその他の品質に関しては、栽培方法による明確な差はほとんど認められませんでした。

むしろ、作物の品種や、農業者の経験に基づく栽培技術の違いが、品質評価に大きく影響していると結論づけられています。

参考:日笠志津「栽培条件(有機栽培と慣行栽培)の違いによる葉物野菜の栄養成分と官能特性」

もし慣行栽培か有機栽培かで迷った際は、自身の栽培スキルや栽培環境などを考慮して決めるのがよいでしょう。

品質も環境も守る、持続可能な農業への道

慣行栽培は収益性や効率性に優れている一方で、化学肥料や農薬への過度に依存してしまうと、環境負荷や地力低下といった問題を引き起こすおそれがあります。こうした課題を解決するために、有機栽培など自然環境に配慮した栽培方法が研究されてきました。

持続可能な農業と安定した生産の両立は、農家だけでなく農業全体の共通課題です。各栽培法の利点を活かしながら、バランスの取れた農業のあり方を模索することが求められています。

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