注目の都市農業とは?メリット・デメリットとお客さま事例を紹介
都市の中で農業を行う「都市農業」が、今あらためて注目を集めています。
地産地消や環境保全、地域コミュニティの活性化など、都市ならではの価値を生み出すこの取り組みは、持続可能な社会づくりにもつながる可能性を秘めています。
本コラムでは、都市農業のメリット・デメリットを整理しながら、実際の事例も交えてその魅力と課題をわかりやすくご紹介します。
都市農業とは

都市農業とは、市街地およびその周辺で行われる農業のことです。住宅地や商業地が広がる都市で作物の栽培や酪農・畜産を行う活動を指し、地産地消や持続可能な社会の構築の観点から、近年注目されています。
都市農業と近郊農業の違い
近郊農業とは、都市の周辺地域で行われる農業のことで、消費地に近いという地理的な利点を活かしています。これにより、収穫した農作物を新鮮な状態で届けることができ、輸送コストも抑えられます。そのため近郊農業では、鮮度の落ちやすい野菜や花などの栽培が盛んに行われています。
都市農業の現状
都市農業で使われている農地の面積は、日本の全農地のおよそ1.3%程度です。農業算出額については、都市住民との距離が近いという立地を生かした農業を行うことで、全国の1.8%(推計)を占めています。
住民や地方自治体の意向としては、都市農地を「保全すべき」と考える人が約6割以上であり、都市の中の農園は住民に求められていることが伺えます。
参考:農林水産省「都市農業について」
都市農業のメリット

ここからは、都市農業のメリット・デメリットについて解説します。
地産地消ができる
都市農業の大きな利点のひとつに、都市部で地産地消が実現できる点があります。農産物を消費地の近くで育てることで、流通にかかるコストや輸送時のエネルギー消費を抑えることが可能になります。
その結果として、地元の農家は出荷に伴う負担を軽減でき、都市に暮らす人々はより鮮度の高い農産物を手にすることができるようになります。さらに、こうした取り組みは環境への負荷を減らすことにもつながります。加えて、地域で生産されたものを地域で消費することは、地元経済の活性化を後押しし、農家の収入向上にも貢献します。
環境保全に貢献
都市農業は、都市の緑化を進めるうえで重要な役割を果たしています。都市内に農地があることで、緑の空間が生まれ、ヒートアイランド現象の緩和や空気の質の改善に寄与します。
また、農地の土壌が雨水を吸収することで、都市部での洪水リスクを抑える効果も期待されます。環境へのこうした働きかけが、都市の住みやすさを底上げすることにつながります。
教育・交流の場として活用できる
都市農業は、教育や地域の交流の場としても重要な役割を担っています。農業体験を通じて、子どもたちは自然にふれながら食の大切さを学ぶ「食育」の機会を得られますし、企業や地域住民が協力して農作業を行うことで、新たな人とのつながりが生まれ、健康づくりにもつながります。
こうした活動は、地域コミュニティの活性化や世代を超えた交流を促し、都市における孤立や人間関係の希薄化といった課題の解消にも寄与します。さらに、農業への理解が深まり、関心を持つ人が増えることで、将来的な担い手の育成にもつながるでしょう。
たとえば、東京都足立区の都市農業公園では、田植えや収穫体験などを通じて、子どもから大人までが自然とふれあいながら食や農業について学べる場が提供されています。こうした取り組みは、都市農業が持つ教育的・社会的な価値を具体的に示す好例といえます。
参考:足立区都市農業公園
食料供給の安定化につながる
都市農業は、都市における食料の安定供給にも貢献しています。特に災害などで物流が止まった場合には、近隣で育てられた農産物が重要な食料源となります。
さらに、地元で生産し地元で消費する仕組みを整えることで、輸入依存のリスクを抑えることができ、食料自給率の向上にもつながります。こうした取り組みによって、都市住民の食生活をより安定させることが可能になります。
防災スペースとして活用可能
都市にある農地は、災害時には防災機能を持つ空間としても活用できます。広いスペースが確保されているため、避難場所や支援物資の集積拠点として利用することが可能です。
平常時からこうした農地を防災計画に組み込んでおくことで、災害が発生した際にも迅速かつ柔軟に対応できる体制を整えることができます。
都市空間に「緑の癒し」をもたらす
都市農業によって生まれる緑の空間は、都市住民にとって「緑の癒し」となる存在です。コンクリートに囲まれた都市の中で、こうした緑地は貴重なリラクゼーションの場として機能し、心に安らぎや潤いをもたらします。
また、都市農地で行われる季節ごとの農作業や収穫の風景は、自然とふれあう機会を提供し、精神的なリフレッシュにもつながります。さらに、都市住民が農作業を体験することで、自然との共生や食のありがたみを再認識するきっかけにもなります。
都市農業のデメリットと課題
土地の確保が難しい
都市農業を進めるうえで、土地の確保とその利用コストの高さは大きな障壁となっています。都市部では土地の需要が非常に高く、農業に使えるスペースは限られているのが現状です。
さらに、都市農地として活用するには、地代や固定資産税などの経済的負担が重くのしかかることがあります。地域によっては、住宅地や商業施設への転用を優先する動きも見られ、長期的に農業を続けるための安定した土地の確保は容易ではありません。その結果、広い農地を使った大規模な生産体制を築くことも難しくなっています。
住民の理解が不可欠
都市農業を進めるには、周辺住民の理解と協力を得ることも重要な課題です。農作業に伴って発生する騒音やにおい、農薬の使用などが原因で、住民から苦情が寄せられることがあります。特に都市部では住環境への意識が高く、こうした問題が近隣トラブルに発展するケースも少なくありません。
住民が農業活動に関心を持っていなかったり、理解が十分でない場合には、地域との連携が難しくなることもあります。そのため、都市農業の意義や価値を丁寧に伝え、信頼関係を築いていくことが、円滑な運営のためには欠かせません。
労働力の不足
都市農業においては、必要な労働力を安定的に確保することが大きな課題となっています。農業は人手を多く必要とする産業であり、特に収穫期には集中的な労働力が求められます。
しかし都市部では、農業に従事する人材が限られており、他の業種と比べて労働環境や収入面での魅力が低く見られがちです。加えて、農業未経験者が多いため、熟練した人材の確保が難しく、人材育成にも時間とコストがかかります。こうした要因が、都市農業の持続可能性を損なう一因となっています。
環境条件の管理が難しい
都市農業には、水や土壌、日照といった環境条件に関する技術的な課題も存在します。たとえば、都市部では農業用水の確保が難しく、水道水を使う場合にはコストが高くなることがあります。また、高層ビルが立ち並ぶ都市環境では、十分な日照が得られず、作物の生育に影響を及ぼすケースもあります。
こうした課題に対応するためには、水資源を効率的に使う方法や、人工照明・太陽光を活用した新しい技術の導入が求められます。ただし、これらの技術には初期投資や運用コストがかかるため、導入にあたっては慎重な検討が必要です。
都市農業の実践事例をご紹介
イノチオで都市農業をスタートした方の事例をご紹介します。
地元東京での就農 | ネイバーズファーム 梅村さん
「新鮮でおいしい野菜の一番魅力的な瞬間をリアルタイムで届けたい!」という想いから、都市農地(生産緑地)の貸借による新規就農者の第1号としてトマトの施設栽培に取り組む、ネイバーズファーム代表の梅村桂さん。

梅村さんは東京で農業をする魅力について、次のように語っています。
「東京で農業をすることは地域の方に向けて新鮮な野菜を届けられると同時に、農業を通しての風景や季節の移り変わりや自然との関わりも一緒に届けられると思っています。
今後は、私が東京で農業をはじめたように、都市の中で農業をする魅力を次の世代に残していけたら嬉しいです。」
消費者目線でトマトの栽培に取り組んでいるという梅村さん。「こんなに美味しいんだ!」と思ってもらえるトマトを目指し、スマート農業製品を活用してビニールハウス内の温度や灌水、肥料などをすべてデータ化し、日々の栽培改善に繋げています。
関連事例:数字の記録がおいしいトマトにつながる
ネイバーズファームは「街の行きつけ農園」として、東京の街中で、新鮮で採れたての野菜を、ビニールハウスそばの自販機や地元の直売所、オンラインなどで販売しています。
参考:ネイバーズファーム ホームページ
都市での農業をお考えなら、イノチオアグリへご相談ください

都市農業が注目される中、施設栽培や小規模農地の活用など、都市ならではの農業スタイルが広がりを見せています。
イノチオアグリでは、ビニールハウスの設計・施工・販売を中心に、個人の新規就農や企業の農業事業参入支援、資材提供など、農業のスタートから運営までを幅広くサポートしています。
都市で行う農業に関心のある方、施設栽培を検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。