農業簿記とは?一般的な簿記との違いと農業経営に役立つポイントについて解説
農業簿記検定は、農業経営に必要な会計知識を身につけ、経営力を高めるための資格です。今後、利益を生む農業を目指すには、単なる生産だけでなく、経営者としての視点を持つことが重要です。農業簿記検定は、そうした視点を養うための有効な手段であり、持続可能な農業経営を支える基盤となるでしょう。
そこで本コラムでは、農業簿記と一般の簿記の違いや農業簿記を取得するメリット、おすすめの勉強方法について解説します。
目次
農業簿記とは

「農業簿記検定」は、一般社団法人 全国農業経営コンサルタント協会の監修のもと、日本ビジネス技能検定協会が実施する資格試験です。農業経営に必要な簿記知識を体系的に学び、実務に活かすことを目的としています。
近年の農業経営は大きく変化しています。集落営農の法人化、個人事業としての農業から法人への転換、さらには異業種からの農業参入など、農業のかたちはますます多様化しています。
こうした流れの中で、農業に関わるすべての人に求められているのが、「農業簿記による計数管理」です。数字を使って経営を見える化し、現代的な農業経営を築く力が必要とされています。
農業簿記検定は、単なる簿記の知識だけでなく、その時代の農業が抱える課題や実情を反映した内容が出題されるのが特徴です。つまり、学んだ知識がそのまま現場で役立つように設計されているのです。
この検定を通じて、農業に関心のある方が簿記の知識を深めるだけでなく、実際の農業経営に活かせるスキルとして身につけることができます。
農業経営に簿記は必要?
今、農業は単なる生産活動ではなく、利益を生み出す「事業」としての視点が求められています。法人化する農家が増え、個人農家も規模に関係なく一事業主として扱われるようになったことで、会計業務や税務処理の正確さが重要になっています。
そのためには、経営を「見える化」し、数字で管理する力が必要です。
確定申告・決算
農業法人であれば決算、個人農家であれば確定申告の際に、1年間の収支をまとめた報告書や申告書を作成する必要があります。そのためには、日々の取引を正確に記録し、1年を通して継続的に会計処理を行うことが不可欠です。
補助金の申請
農業では、補助金や各種支援制度が充実していますが、それらを活用するには、経営状況を詳しく説明できる資料の作成が欠かせません。特に、農家の収入を守る「収入保険」を利用するには、厳密な会計基準に基づいた記録管理が求められます。
つまり、補助や保険を受けるためにも、日々の経営を数字でしっかり管理する力が必要なのです。
財務状況の把握
農業経営を正しく理解するには、損益計算書と貸借対照表の2つの書類が欠かせません。
損益計算書は、一定期間の収益・費用・利益などを示すもので、経営の流れ(フロー)を把握できます。
一方、貸借対照表は、期末時点での資産・負債・資本などの財務状況を示し、経営の蓄積(ストック)を表します。
この2つを組み合わせることで、農業経営の全体像を数字で明確に捉えることができ、より的確な経営判断につながります。
収益・経費の分析
売上が伸びているのに利益が出ていない場合、経費がかかりすぎている可能性があります。農業簿記を学習しておくことで、費用の中で特に金額が大きい項目を確認し、無駄がないかを見直すことができます。
不要な支出を削減したり、販売価格の見直しを行ったりすることは、利益改善につながります。さらに、利益率の高い作物がある場合は、生産の割合を調整することも有効な戦略になります。
事業計画の立案
農業経営を効率化し、将来の事業計画を立てるためには、事業主が常に自分の経営状況を把握しておくことが重要です。そのための土台となるのが、日々の正確な会計処理です。
農業簿記と一般の簿記の違い

農業簿記は、農業を営む個人事業主や農業法人向けの会計手法です。農産物の生産・販売によって売上が発生している場合には、農業簿記を活用することで、経営状況を数字で管理することができます。では、一般的な簿記とは何が違うのでしょうか。
勘定科目
農業簿記では、一般的な簿記では使われない農業特有の勘定科目が登場します。たとえば、生産資材にかかる費用は「種苗費」「素畜費」「農薬衛生費」など、農業に特化した科目で仕訳することができます。
また、農業共済に加入している場合は、「農業共済掛金」という科目を使って掛金の記録を行うことも可能です。
農業簿記特有の勘定科目には、次のものがあります。

棚卸しの方法
年度末になると、手元に残っている資材や農産物などの在庫を確認し、「棚卸し」という作業を通じてその金額を計算し、帳簿に記録する必要があります。
一般的な簿記(商業簿記)では、物品の売買を前提としているため、棚卸しの際には「商品」という勘定科目を使って在庫を一括で管理します。
しかし、農業簿記では在庫の種類が多岐にわたるため、それぞれの性質に応じて勘定科目を使い分ける必要があります。たとえば、生産資材や収穫前後の農産物など、農業特有の在庫が発生するため、以下の4つの勘定科目に分類して棚卸し・仕訳を行うのが一般的です。
- 農産物:収穫済みの農産物のうち、販売前で在庫となっているもの
- 仕掛品:栽培中・育成中の農産物など
- 原材料:生産目的で消費されるもの(種子・肥料・農薬など)
- 貯蔵品:生産・販売以外の目的で貯蔵されるもの(燃料・包装材料など)
このように、農業簿記では在庫の種類に応じた細かな管理が求められます。正確な棚卸しは、経営状況の把握や税務申告、補助金申請などにも大きく関わるため、非常に重要な作業です。
確定申告書の書式
農業簿記では、確定申告の際に提出する決算書や収支内訳書に専用の書式を使用します。また、農業以外にも所得がある場合は、農業所得とそれ以外の所得を分けて売上や経費を整理する必要があります。
確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類がありますが、青色申告には特別控除や損失の繰越控除などの節税メリットがあるため、多くの農業者が選択しています。青色申告で使われる標準的な簡易帳簿は以下の6種類です。
- 現金出納帳:農業に関する現金の出入りを、日付順に記録する帳簿
- 売掛帳:農産物などを販売した際、まだ代金を受け取っていない取引や、後日代金を受け取った取引を記録する。
- 買掛帳:農業にかかる費用のうち、まだ支払っていない取引や、後日支払った取引を記録する。
- 経費帳:水道光熱費や税金など、農業にかかる費用を勘定科目ごとに記録する。
- 固定資産台帳:農業用の機械や設備など、減価償却の対象となる資産や繰延資産を記録する。
- 収穫した農産物の種類、数量、収穫日などを記録する。
生物資源の取り扱い
農業簿記では、果樹や搾乳牛などの生物資源については、「生物」という専用の勘定科目を使って減価償却を行います。
これらの資源が生産活動を始めるまでにかかった育成費用は、固定資産の取得原価として扱われ、年度末にはその費用を「育成仮勘定」という仮の資産科目に振り替えて記録します。
そして、年度中に果樹や家畜が生産活動を開始した場合は、「育成仮勘定」から「生物」へ振り替えを行い、そこから減価償却の対象として正式に管理を始めます。
このような処理を行うことで、農業経営における資産の動きを正確に把握し、税務や経営判断に役立てることができます。
農業簿記取得で得られるメリット

農業簿記検定を取得することで、財務会計や管理会計の知識を体系的に学ぶ機会が得られ、農業経営の状況をより深く理解できるようになります。
また、労務管理とも連携させることで、効率的で持続可能な経営体制の構築にもつながります。こうした知識は、個人の農業経営だけでなく、農業団体などの組織運営にも活かすことができ、地域農業の活性化にも貢献する可能性があります。
農業を「経営」として捉える力を高めたい方にとって、農業簿記検定は非常に有益な資格です。
効率的に農業経営できる
農業で利益を出すためには他の業種と同様に経営力が求められます。そのため、農業簿記の知識を身につけて、帳簿や損益計算書などを正確に作成できるようになると、経営状況を数字で「見える化」しやすくなります。
農業簿記検定を通じて知識を習得したら、個人事業主の農家であれば青色申告、法人農家であれば決算書の作成を目標とし、決算書を作成することで、自分の経営状態を客観的に把握でき、経営改善や計画の見直しが可能になります。
さらに、個人農家が青色申告を行うことで、最大65万円の所得控除が受けられるため、節税にもつながります。
労務管理に活用できる
最近では、家族だけで農業を営むスタイルに加え、従業員を雇って農業を行う農家も増えています。このような場合、雇用主である農家は、一般企業と同じように労務管理を行わなければなりません。
農業簿記検定を受けることで、会計だけでなく、労務管理にも応用できる知識を身につけることができます。今後、事業の規模拡大や法人化を視野に入れている方にとって、農業簿記の学習は経営力を高める大きな一歩となるでしょう。
地域農業に貢献できる
農業簿記検定を取得すると、自分の農業経営に役立てられるだけでなく、地域の農業を支援するコンサルタントとして活躍することができます。たとえば、身近な農家と関わりを持ち、経営面でのアドバイスを行うことで、地域全体の農業の活性化につながります。
将来的には、農業経営の知識を活かしてコンサルタントとして活動する道も開けるでしょう。
農業簿記のスキルは、個人の成長だけでなく、地域社会への貢献にもつながる価値ある知識です。
キャリアアップにつながる
農業簿記検定は、一般的な財務知識に加えて、農業に特化した会計知識が求められる資格です。
農業金融機関や農協など、農業関連の企業・団体に所属している方であれば、検定で得たスキルを活かして、より適切な財務管理が可能になります。このような専門知識は、業務の質を高めるだけでなく、キャリアアップにも有利に働くため、農業法人などへの転職を視野に入れることもできます。
農業簿記を受けるには
農業簿記は、学歴・年齢・国籍に制限はなく、誰でも受験することができます。
受験科目は、下記の3科目(級区分)です。
【実施科目】
1級(財務会計・原価計算・管理会計の分野から出題します)
2級(財務会計・原価計算の分野から出題します)
3級(財務会計の分野から出題します)
【出題範囲】
各級の出題範囲は、各級の「農業簿記検定試験範囲」でご確認ください。
農業簿記の難易度
合格基準は、各級・各科目とも、問題の総得点の70%を基準とします。
最新の受験結果はこちらです。3級の合格率は60%~70%ほどとなっています。

農業簿記おすすめの勉強方法

農業簿記は、農業経営に必要な会計や財務の知識を身につけるための、非常に重要な分野です。最初は難しく感じるかもしれませんが、一歩ずつ丁寧に学んでいけば、資格取得も十分に可能です。
問題集を解く
農業簿記の知識を身につけるには、問題集を活用した学習方法が非常に効果的です。具体的な数字や事例を扱うことで、理論だけでなく、実際の業務に応用できる力も養えます。
問題集は、基礎から応用まで幅広い内容をカバーしているのが一般的です。初心者の方はまず基本的な問題から始め、少しずつ難易度を上げていくことで、知識を段階的に定着させることができます。
また、間違えた問題には繰り返し取り組むことで、理解を深めることができます。多くの問題集には模擬試験も付属しており、実際の試験形式で時間を計って解くことで、試験対策にもなります。
農業簿記検定の合格を目指すなら、問題集を活用した学習は、確実に力をつけるためのおすすめの方法です。
一般社団法人日本ビジネス技能検定協会のホームページ内農業簿記検定のページでは、検定試験の詳細と直近2回分の試験問題が公開されています。
動画で学ぶ
動画を使った学習は、視覚的に情報を取り入れられるため、理解を深めるのに非常に効果的です。特に、複雑な内容や初めて学ぶ概念については、動画で解説を聞きながら学ぶことで、具体的なイメージがつかみやすくなります。
専門家や講師による解説動画を活用すれば、難しい内容もわかりやすく理解でき、さらにコメント機能や質問機能を使って疑問点をその場で解消することも可能です。また、動画は一時停止や巻き戻しができるため、自分のペースで学習を進められます。繰り返し視聴することで、知識の定着にもつながります。
有料の講座などもありますが、YouTubeにも農業簿記について解説している無料動画もありますので、一度ご覧になってみるのも学習のきっかけになるかもしれません。
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