農業事業の安定性を高める手段として「農業の法人化」に注目が集まっています。

法人化には、社会的信用の向上や雇用のしやすさ、事業承継の円滑化など多くのメリットがあります。一方で、法人の形態によって手続きや必要書類が異なるため、特徴を正しく理解し、十分な準備をしておくことが重要です。

本記事では、農業法人の種類と設立手続きの流れを分かりやすく解説します。

目次

  1. 農業法人とは
  2. 農業法人を設立するための流れとは
  3. 会社として農業法人を設立する手続き
  4. 農事組合法人として農業法人を設立する手続き
  5. 農業法人設立にかかる費用
  6. 法人化を進める前に
  7. 農業事業のご相談はイノチオアグリへ

農業法人とは

農業法人とは、農業を営むために法人格を取得した組織のことです。法人化することで、個人事業主とは異なる法的な地位となり、社会的信用を得やすくなります。農業法人には、主に「会社法人」と「農業組合法人」の2つの形態があります。

関連記事:農業法人とは?農家が法人化するメリット・デメリットと設立方法について解説

会社法人とは

会社法人は、一般企業と同じく会社の形で農業を行う方式です。「株式会社」として経営するのが一般的です。
農地を借りて経営することも可能ですが、農地を所有する場合は「農地所有適格法人」としての要件を満たした上で、農業委員会の許可を得る必要があります。

農地所有適格法人については、以下の記事で詳しく解説しています。

農業組合法人とは

農業組合法人は、農業者が共同で出資してつくる法人で、生産や販売を協力して行うことで効率化や競争力向上を図る仕組みです。

会社法人との大きな違いは、実施可能な事業が農業に限られること、出資者・構成員ともに農業者に限られることです。
農業組合法人の設立手続きは、会社法人の手続きと比較すると一部が簡略化されており、農家のための簡易な法人化の方法ともいえます。

農業法人の数は増えている?

農林水産省が公表している「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)」によると、団体経営体※のうち、法人として事業を行う法人経営体の数は約33,000経営体に及び、5年前に比べておよそ2,000経営体(約7.9%)増加しています。

※個人(世帯)で事業を行う経営体以外を指す。

こうした動きから、農業分野でも法人化への関心が着実に高まっていることがうかがえます。

参考:農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)」

農業法人を設立するための流れとは

農業法人を設立するためには、どのような手続きが必要となるのでしょうか。

会社として農業法人を設立する場合と、農事組合法人を設立する場合とに分けて、必要な手続きや書類を確認しましょう。

会社として農業法人を設立する手続き

会社法人を設立するためには、主に次の6つのステップを踏む必要があります。

  1. 事前準備をする
  2. 定款を作成し認証を受ける
  3. 資本金の払い込みをする
  4. 役員を選任する
  5. 設立登記申請を行う
  6. 諸官庁への届け出をする

それぞれご紹介していきます。

事前準備をする

農業法人を設立する前に、まずは法人の基本情報を決めたり会社印の作成をしたりといった事前準備を行いましょう。下記の情報は法人設立に必須の「定款」にも記載が必要なものであるため、最初に決めておくことが重要です。

  • 会社形態
  • 商号(会社名)
  • 事業目的
  • 本店所在地
  • 資本金
  • 会社設立日
  • 会計年度
  • 役員や株主の構成
  • 資産の引き継ぎ

同じ所在地での商号の重複は会社法にて禁止されているため、同一所在地で同一の商号をしている会社があるかどうか、法務局で調査しましょう。

定款を作成し認証を受ける

定款(ていかん)とは、法人を設立する際に発起人全員の合意にもとづいて作成する、会社運営の基本方針をまとめた重要な書類です。法人設立には、この定款を必ず作成する必要があります。

定款には「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つの区分があり、企業の名称や所在地などの基本情報を含む絶対的記載事項は必ず記載しなければなりません。

また、株式会社として農業法人を設立する場合は、作成した定款を公証人役場で認証してもらう「定款認証」が必要です。
一方、合同会社などの持分会社では、定款認証の手続きは不要です。

資本金の払い込みをする

定款の作成と認証が完了したら、事前に決めた資本金を代表者名義の口座へ払い込みます。払い込み後は、入金額と口座情報が確認できる通帳のコピーを準備し、あわせて払込証明書を作成します。

これらの書類は、設立登記を申請する際の添付書類として提出が求められます。払い込みが完了したタイミングで、早めに整えておくとスムーズに手続きが進みます。

役員を選任する

資本金の払い込みが完了したら、発起人はできるだけ早く設立時役員の選任を行う必要があります。役員選任の決議には、発起人の議決権の過半数以上の賛成が求められます。

選任された設立時取締役は、定款に違反がないかなど、会社設立に関する事項を確認・調査します。

また、取締役会を設置する場合(取締役が3名以上のケース)は、代表取締役の選任も必要です。代表取締役の決議には、設立時取締役の議決権の過半数以上の賛成が必要となります。

設立登記申請を行う

農業法人の設立登記は、設立時取締役の調査終了日または発起人が定めた日の遅い日から2週間以内に行いましょう。

登記申請は管轄の法務局にて行い、以下の書類・費用が必要です。

設立登記申請に必要な書類

  • 登記申請書
  • 登録免許税納付用台紙
  • 定款
  • 発起人の決定書
  • 設立時取締役の就任承諾書
  • 設立時代表取締役の就任承諾書
  • 設立時取締役の印鑑証明書
  • 資本金の払込みがあったことを証する書面
  • 印鑑届出書
  • 「登記すべき事項」を記載した書面又は保存したCD-R

登記申請が完了したら、およそ1週間程度で設立完了となります。

なお、法人設立日は登記申請を行った日です。

各所轄庁への届出を行う

法人設立が完了したら、登記簿謄本や代表取締役等の印鑑証明書などを取得し、各所轄庁への届出を行いましょう。

会社法人の設立において、届出の必要がある所轄庁や必要書類は以下の通りです。

届出先届出書類
税務署法人設立届出書
青色申告の承認申請書
給与支払い事務所等の解説届出書
源泉徴収税の納期の特例の承認に関する申請書
都道府県税事務所法人設立届出書
市町村役場法人設立届出書
年金事務所健康保険
厚生年金保険新規適用届
健康保険
厚生年金保険 被保険者資格取得届
健康保険被扶養者(異動)届
労働基準監督署
※従業員を雇った場合
労働保険保険関係成立届
労働保険概算保険料申告書
就業規則(変更)届
適用事業報告書
ハローワーク
※従業員を雇った場合
雇用保険適用事業所設置届
雇用保険被保険者資格届

農事組合法人として農業法人を設立する手続き

農事組合法人は、農業に従事している人が3人以上発起人となる必要があります。
そのため、新たに農業に参入するような場合には利用できない形態となるため注意が必要です。

農事組合法人を設立する際は、主に次の5つのステップを踏む必要があります。

  1. 事前準備をする
  2. 創立総会を開催する
  3. 出資金の払い込みを行う
  4. 設立登記申請を行う
  5. 諸官庁への届け出をする

事前準備をする

会社法人を設立する場合と同様に、定款へ記載する事業目的や業務内容などをあらかじめ決めておく必要があります。

あわせて、創立総会の開催に向けた準備や、当日に決定すべき事項の確認も進めておきます。

創立総会を開催する

農事組合法人を設立するにあたり、まず創立総会を開きます。
この総会には農事組合法人の発起人が参加するため、「発起人会」と呼ばれることもあります。

総会では、定款の承認、理事の選任、理事に支払う役員報酬の上限といった重要事項を決議します。
あわせて、選任された理事が設立に関わる事務を引き継ぐため、その引渡しもここで行われます。

出資金の払い込みを行う

農事組合法人の組合員になるには、出資金を法人へ払い込む必要があります。
法人が設立された後は、組合員が順次出資金の払い込みを行います。

設立登記申請を行う

組合員からの出資金が払い込まれたら、農事組合法人の設立登記申請書を作成し、2週間以内に法務局へ提出します。

この際、定款や出資払い込みの証明書、役員選任決議書、就任承諾書などを添付します。創立総会で作成した書類に加え、金融機関の証明書が必要となる場合もあります。

各所轄庁への届出を行う

会社法人設立時と異なる点として、農事組合法人では「農事組合法人設立届」を作成し、所在地の都道府県または農林水産省へ届出を行う必要があります。

この際、登記簿謄本、定款、事業計画書、設立経過報告書、設立総会の議事録謄本、組合員名簿などを添付します。すでに作成済みの書類はそのまま使用できますが、届出のために新たに準備が必要な書類もあるため、登記手続きが終わったら続けて準備を進めておくことが大切です。
なお、設立登記の完了日から 2週間以内 に設立届を提出しなければなりません。

その他、必要な書類は次の表の通りです。

届出先届出書類
都道府県庁農事組合法人設立届出書
(都道府県の区域内を地区とする場合)
農林水産省農事組合法人設立届出書
(地区とした区域が都道府県の区域を超える場合)
税務署法人設立届出書
青色申告の承認申請書
給与支払い事務所等の解説届出書
源泉徴収税の納期の特例の承認に関する申請書
都道府県税事務所法人設立届出書
市町村役場法人設立届出書
年金事務所健康保険
厚生年金保険新規適用届
健康保険
厚生年金保険 被保険者資格取得届
健康保険被扶養者(異動)届
労働基準監督署
※従業員を雇った場合
労働保険保険関係成立届
労働保険概算保険料申告書
就業規則(変更)届
適用事業報告書
ハローワーク
※従業員を雇った場合
雇用保険適用事業所設置届
雇用保険被保険者資格届

設立手続きの代行を依頼した場合

株式会社を設立する際には、定款の作成など専門的な手続きが多く、自力で進めるのが難しい場面もあります。そのため、実務の多くを司法書士などの専門家に依頼するケースが一般的です。
専門家へ依頼すると報酬がかかりますが、その金額は法定費用のように一律ではなく、事務所ごとに設定されています。

相場としては、株式会社の設立代行を依頼した場合、おおむね10万~20万円程度になることが多いでしょう。

農業法人設立にかかる費用

農業法人を設立する際に必要となる費用は、一般的な会社設立と大きく変わりません。主に、公証役場での定款認証と法務局での登記申請という2つの手続きがあり、それぞれに費用が発生します。

定款認証にかかる費用

法人設立には定款を作成し、それを公証役場に提出して認証してもらう必要があります。ここで必要となる費用は次の通りです。

認証手数料

定款に記載された資本金(または出資財産額)に応じて金額が決まります。

  • 資本金 100万円未満:3万円
  • 資本金 100~300万円未満:4万円
  • 資本金 300万円以上:5万円

※定款に「設立に際して出資される財産の最低額」だけ記載している場合は 必ず5万円。

謄本手数料

登記申請用の謄本を発行する際、1枚(1ページ)あたり250円の手数料が発生します。

謄本の手数料は1通あたりではなく、「1ページ=1枚」として計算され、公証人が付ける認証書の1ページも含まれます。そのため、手数料は「250円 ×(定款のページ数+認証書1ページ)」で算出されます。

ページ数によって金額は変わりますが、一般的には 2,000円前後 になるケースが多いです。

収入印紙代

紙の定款は印紙税法の規定により課税文書となるため、収入印紙が必要です。
定款認証の場合は、印刷・製本された定価原本に4万円の収入印紙を貼付して印紙税を納めます。

電子定款の場合は印紙代が不要ですが、電子認証手続きを行うには専用機材やソフトが必要となり、個人での実施は難しいのが現状です。電子定款を代行業者に依頼する際は、別途手数料がかかります。

登記申請にかかる費用

次に法務局で登記申請を行います。
株式会社または合同会社の場合、登録免許税として「資本金×1,000分の7」が必要です。資本金が15万円に満たない場合は、最低金額の15万円を納付する必要があります。

定款認証・登記申請にかかる費用をまとめると、農業法人の設立には少なくとも24万2,000円の費用が必要となります。

定款認証認証手数料50,000
謄本手数料2,000
収入印紙代40,000
登記申請登録免許税150,000
合計額242,000

設立手続きの代行を依頼した場合

株式会社を設立する際には、定款の作成など専門的な手続きが多く、自力で進めるのが難しい場面もあります。そのため、実務の多くを司法書士などの専門家に依頼するケースが一般的です。

専門家へ依頼すると報酬がかかりますが、その金額は法定費用のように一律ではなく、事務所ごとに設定されています。

相場としては、株式会社の設立代行を依頼した場合、おおむね10万~20万円程度になることが多いでしょう。

法人化を進める前に

農業法人の設立には、手続きや必要書類などの準備が多くありますが、法人化することで経営基盤の強化や事業拡大に向けた選択肢が広がります。

会社法人と農事組合法人では特徴や要件が異なるため、自身の経営方針や将来の展望に合った形態を選ぶことが大切です。

制度を正しく理解し、必要なステップを確実に踏むことで、組織としての信頼性向上や持続的な農業経営につなげることができます。

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