農福連携とは、農業分野と福祉分野が連携し、障がいのある方や就労が難しい方の働く場として農作業を提供する取り組みです。

農業側は人手不足の解消や作業の平準化につながり、福祉側は利用者に多様な働く機会が提供できる「双方にとってメリットの大きい仕組み」として、国・自治体が積極的に推進しています。

農福連携は、就労継続支援A型・B型をはじめとする福祉事業所と農家が連携して進められますが、近年では企業の農業参入と組み合わせたビジネスモデルも増えています。

農業は特性上、反復作業や軽作業が多く、工程の切り分けもしやすいため、福祉側にとっても取り組みやすい職種とされています。

本コラムでは、農福連携の基本的な仕組みから農業・福祉のメリット、具体的な事例までわかりやすく解説します。

目次

  1. 農福連携とは?基本の仕組みをわかりやすく解説
  2. 農業現場にとってのメリット
  3. 福祉現場にとってのメリット
  4. 農福連携を始めるには?新規就農者・企業向けのポイント
  5. 農福連携のお客さま事例
  6. 農福連携は農業の未来を支える選択肢に
  7. イノチオアグリにご相談ください

農福連携とは?基本の仕組みをわかりやすく解説

「農福連携」とは、農業分野と福祉分野が協力し、障がいのある方や就労が難しい方に農作業を担ってもらう取り組みのことです。農業における慢性的な人手不足と、福祉の現場における就労機会の不足、双方の課題を補い合うことができるため、全国で取り組みが広がっています。

通常、農福連携は次の3者が連携して進められます。

  • 農業者(農家・企業農場)
  • 福祉事業所(就労継続支援A型・B型、生活介護など)
  • 自治体・支援機関

農家が作業の一部を外部委託する形もあれば、農場内に直接利用者が入り作業する形、さらには企業農場が福祉事業所と契約し安定的に仕事を提供する形など、さまざまなパターンがあります。

農福連携が広がっている背景

農福連携が全国的に広がる背景に、農業側と福祉側双方が抱える明確な課題が挙げられます。

農業側の「働き手不足」、福祉側の「就労機会創出」というニーズの一致に加え、各自治体や国(農林水産省・厚生労働省)が積極的に推進していることも普及を後押ししています。

特に近年は以下の変化が影響しています。

  • 農業従事者の高齢化・減少
  • 農作業の一部が「軽作業化」し、外部委託しやすくなった
  • 企業の農業参入が増え、労働力の確保が課題に
  • 障がい者の社会参加への関心の高まり

参考:農福連携をめぐる情勢(農林水産省)

農業側・福祉側の課題をどう補うのか

農福連携を成功させるには農業と福祉、どちらか一方にメリットがある状態で取り組んでも継続的な事業に成長させることは難しいでしょう。

まずは農業と福祉、双方が抱える課題について整理してみましょう。

農業側の課題

  • 人手が集まらない
  • 作業の繁閑差が大きく、十分に雇用が進まない
  • どの作業を任せられるかわからない

福祉側の課題

  • 利用者に多様な仕事を提供できない
  • 外部企業との関わりが少ない
  • 収益が伸び悩む

この双方の課題が「農福連携」によってつながることで、WIN-WINの関係が成立します。

行政(国・自治体)が推進する理由

国や自治体が農福連携を積極的に推進する理由は、農業・福祉・地域のすべてにメリットがあるからです。農業の担い手不足という深刻な課題を補いながら、障がいのある方の働く場を広げ、地域全体の活性化にもつながる取り組みとして評価されています。

また、福祉の自立支援や社会保障費の適正化、SDGsの観点からも国策として後押しされており、補助金やマッチング制度なども整備が進んでいます。行政にとっても“社会的・経済的価値の高い施策”であり、今後さらに拡大が見込まれています。


参考:農福連携の推進(農林水産省)

農業現場にとってのメリット

農福連携を活用することで、農家・農業法人・企業農場は次のような具体的なメリットを得られます。

慢性的な人手不足の解消

農福連携の大きなメリットは、安定した作業力を確保できることです。

福祉事業所と契約すると、利用者の方が定期的に作業に入ってくれるため、特に繁忙期の作業負担を大幅に軽減できます。

新規就農者や企業農場のように、立ち上げから間もない農場ほど「労働力の確保」が経営の安定に直結します。そのため、最小限の固定人員で効率よく運営したい場合にも、農福連携は非常に相性のよい方法と言えます。

また、企業が農業分野へ参入する際には、最も大きな課題となりやすいのが「初期の人手不足」です。
農福連携では、福祉事業所が一定の作業を継続的に請け負うため、企業側はムリのない体制で事業をスタートできます。

さらに、農福連携は CSR(社会貢献活動)との親和性も高く、企業価値の向上につながる事例も多く見られます。人手確保と社会的評価の向上を同時に実現できる点も、企業に選ばれている理由のひとつです。

作業の平準化・安定化につながる

農作業には、苗のポット上げ、除草、選別、袋詰めなど、反復作業が中心になる工程が多くあります。こうした作業は、集中力を持続しやすい方が多い福祉事業所の利用者に適していることが多く、結果として「品質が安定しやすい」という声もあります。

農家側としても「任せられる作業」を整理することで、限られた人材をより高度な作業に集中させることができます。

補助金・支援制度の活用可能性

補助金制度は自治体により異なるため最新情報の確認が必要ですが、例えば以下のような支援制度があります。

  • 農福連携マッチング支援事業
  • 農福連携推進事業
  • 農作業受託にかかる設備導入補助
  • バリアフリー改修費用の一部補助

こうした制度を活用すれば、農業者側の負担を抑えながら農福連携を導入できます。


参考:農福連携に関する支援制度(農林水産省)

福祉現場にとってのメリット

農福連携は、福祉事業所にとっても利用者にとっても大きな価値があります。

多様な働き方・就労機会の創出

農作業は、一人ひとりの得意・不得意に合わせて作業内容を柔軟に調整しやすい点が大きな特徴です。

袋詰めや除草といった軽作業、仲間と協力して進める集団作業、黙々と取り組める個別作業など、利用者の特性に合わせた役割づくりができます。負担の少ない作業から段階的に挑戦の幅を広げられるため、無理なく参加でき、成功体験を積み重ねやすいことも農業ならではの強みです。

利用者の自信・自己肯定感の向上

農作業を通じて「農家さんに喜ばれた」「自分の作業が地域の役に立っている」と実感できることは、利用者の大きな励みになります。成果が目に見え、誰かの役に立つというポジティブな経験は、自己肯定感の向上に直結します。

特に農作業は、作物の成長や収穫といった達成感を得やすく、単純作業中心の内職では得にくい貴重な体験を提供できる点が大きな魅力です。

農作業を通じてコミュニケーション能力が育つ

農福連携の現場では、農作業を通じて自然にコミュニケーションが生まれます。同じ畑で声を掛け合いながら作業したり、収穫の喜びを仲間と共有したりすることで、会話のきっかけが増え、人との関わりに慣れていくことができます。

地域の農家さんやスタッフとの交流は、社会参加や一般就労に向けた練習の場にもなります。孤立感を和らげ、安心できる人間関係を築きやすい点も、農福連携ならではの大きなメリットです。

収益安定化や事業所の運営面での効果

農業は季節による繁忙期・閑散期の差こそあるものの、年間を通して何らかの作業が発生するため、福祉事業所にとって安定した外部収益源になりやすい特色があります。

種まき・管理・収穫など段階的に作業が続くことで、利用者の就労機会も維持しやすく、事業所全体の運営基盤強化にもつながります。地域農家との協力体制が築かれることで新たな仕事の依頼が生まれるケースも多く、農福連携へ取り組む事業所は年々増加しています。

農福連携を始めるには?新規就農者・企業向けのポイント

新規就農者や農業参入企業が農福連携を導入する際は、まず全体の流れを理解しておくことが重要です。農福連携は特別な制度ではなく、地域の事業所や行政、農家との連携によって段階的に進められます。

初めて取り組む場合でも、基本となる4つのステップを踏むことで、無理なくパートナー探しや作業内容の調整ができ、スムーズに受け入れ体制を整えることが可能です。

① 近隣の福祉事業所に相談する

まず相談先となるのは、地域で障がい者支援を行っている就労継続支援A型・B型、そして生活介護事業所です。これらの事業所は、利用者の特性に合わせて作業内容を調整できるため、農作業との相性も良く、農福連携を始める際の初期パートナーとして最も身近な存在です。

地域によっては自治体の障害福祉課が相談先を紹介してくれるケースもあり、農家が初めて相談する際の入口として非常に心強いサポートになります。

② 作業内容を切り出す

農福連携では、「任せられる作業」を明確に整理することが重要です。


向いている作業の例

  • 収穫後の袋詰め
  • トレー洗浄
  • 除草作業
  • ラベル貼り
  • ハウス内の掃除

避けたい作業の例

  • 刃物・重機を使う作業
  • 高所作業
  • 怪我リスクの高い作業

③ 受け入れ体制を整える

福祉事業所の利用者を受け入れるためには、農家側でも安心して作業に取り組める環境づくりが欠かせません。特に重要なのは、次の3つのポイントです。

  • 作業マニュアル・注意点の明文化
  • 危険エリアの明確化
  • 連絡体制の確立

作業マニュアルは、文章だけでなく写真や図を用いて視覚的に分かりやすく示すことで、ミスや不安を減らす効果があります。また、機械周辺や出入り口など危険の可能性がある場所は、表示やカラーコーンで区別し、誰が見ても判断できるようにしておくことが重要です。

さらに、困ったときにすぐに相談できる連絡先や報告ルールを定めておくことで、福祉側も安心して作業を依頼できます。こうした受け入れ体制の整備が、農福連携を円滑に進める土台となります。

④ 定期的な振り返りと改善を行う

農福連携を継続的に成功させるためには、定期的な振り返りと改善の時間を設けることが欠かせません。農家・福祉事業所・支援員がそれぞれの立場から情報を共有し合うことで、より安全で効率的な運用へとつながります。

作業の出来ばえや進捗状況、危険箇所の変化、利用者の体調や適性の変化など、細かな点も都度話し合うことでトラブルを未然に防ぐことができます。

農福連携のお客さま事例

ここでは、実際に農福連携に取り組んでいるお客さまの事例をご紹介します。これから導入を検討する方にとって、具体的なイメージづくりの参考になるはずです。

カウベルいちご園

農福連携の先進的な取り組みとして注目されるのが、埼玉県鶴ヶ島市で就労支援B型事業所が運営する 「カウベルいちご園」 さまです。

約20年前に設立された NPO法人パン工房カウベルが運営しており、現在は約50名の利用者が働く規模へと成長しています。もともとはパン製造から始まり、タオルを畳む内職などを行ってきた施設が、9年前にイチゴ栽培へ挑戦したのがスタート。現在は約500坪の広さとなり、1万株ものイチゴを育てる大規模農園へと発展しています。

多様な特性を持つ利用者が、それぞれの“できること”で活躍

カウベルいちご園では、知的障がい・身体障がい・精神障がいなど、多様な障がい特性を持つ利用者が、それぞれの得意を発揮できる形で作業に参加しています。

手や足に障がいのある方は、対面でのやり取りが中心となる販売を担当し、お客さまとの交流を楽しみながら活躍。

軽い知的障がいや精神障がいのある方は、イチゴの収穫からパック詰め、販売所への配達まで、一連の作業を責任感を持って取り組まれています。

また、細かい作業が難しい方には農園の掃除を任せることで、毎日の衛生管理を支える重要な役割を担っていただいているそうです。

このように、園内には複数の作業が用意されているため、利用者は自分に合ったペースで働くことができます。無理なく続けられる環境が整っていることで「人に喜ばれる仕事をしている」という実感を持ちやすく、それが働く喜びへとつながっています。

誰もが活躍できる体制づくりは、農福連携が目指す“共生・共働”の姿を体現しており、カウベルいちご園ならではの魅力となっています。


関連記事:福祉と農業、笑顔で育むイチゴのスマート栽培|カウベルいちご園

農福連携は農業の未来を支える選択肢に

農福連携は、農業現場にとっても福祉現場にとってもメリットが大きく、地域社会にとっても価値のある取り組みです。人手不足が続く農業業界において、新規就農者や農業参入企業が早期に安定した体制をつくるための大きな助けにもなります。

「地域と協力しながら農業を続けたい」「持続可能な経営を実現したい」そんな方にとって、農福連携は非常に相性の良い仕組みです。

まずは身近な福祉事業所への相談から始めてみてはいかがでしょうか。

イノチオアグリにご相談ください

イノチオアグリはビニールハウスに携わり、50年以上の知見と全国1万棟以上の建設実績がございます。培ったノウハウを活かし、企業の農業参入における計画から計画生産や労働生産性を考えたビニールハウス設計、建設をトータルでご支援しております。

お客さまのご要望や条件に基づいて、事業計画を立案し、ビニールハウス、内部設備を設計し、栽培方法や作業計画の立案を伴走いたします。

さらに、圃場研修や専門指導員による就農後のサポートで、事業開始の準備期間から栽培開始後の運営管理や労務管理に至るまで、農業ビジネスの最前線で培ったノウハウを活かしてお客さまの農場運営をトータルサポートします。