近年、施設園芸におけるトマト栽培では、高温による生育障害が大きな課題となっています。夏季のビニールハウス(園芸用ハウス)内温度の上昇に悩む生産者が年々増えています。しかし問題は夏だけではありません。春先や秋でも天候によっては外気温がそこまで高くなくても、ビニールハウス(園芸用ハウス)内のみ異常に温度が上昇するケースが増えており、年間を通じて高温障害を意識する必要が出てきました。

本コラムでは、トマトが高温によって受ける主な症状を整理し、すぐに実践できる対応策、そして今後発生を予防するための長期的対策まで、現場に役立つ内容を詳しく解説します。すでに栽培されている方はもちろん、これからトマト生産を始めたい方にも有益な内容をまとめています。

目次

  1. トマト栽培における高温障害とは?
  2. 高温障害の主な症状
  3. 高温障害への具体的な対応策
  4. 高温障害を防ぐ長期的な予防策
  5. まとめ:高温対策は環境改善×症状理解が鍵

トマト栽培における高温障害とは?

トマトが高温に弱い根本的な理由

トマトは比較的暑さに強い作物と誤解されがちですが、実際は35℃を超える環境が続くと、生育に大きなダメージを受けやすい植物です。その理由は主に次の3つです。

  • 花粉が高温に弱い(35℃以上で機能が低下)
  • 光合成が28〜30℃でほぼ頭打ちになる
  • 根の吸水能力が高温で不安定になる

つまり、樹が光合成できず、水も吸えず、花粉も働かず、果実が育ちにくいという、トマトにとっての「三重苦」状態が高温で起こります。

近年は春・秋でもリスクが増加

ハウス構造や被覆資材によっては、外が25℃でも内部だけ35℃を超える環境が訪れやすくなっています。特に以下の場合、春・秋でも高温障害が起こりやすいです。

  • ハウスの軒高が低い
  • 換気窓が小さい
  • 補強梁が多く空気が抜けにくい
  • フィルムが古くなり熱線透過率が上昇している

こうした要因が重なると、季節を問わず高温障害が発生しやすい環境が整ってしまいます。

高温障害の主な症状

以下では、トマト現場で頻繁に発生する高温障害をより詳しく解説します。

着果不良・花落ち

高温下で発生しやすい最大の課題は着果不良です。花粉の形成、発芽および花粉管の伸長は気温の影響を大きく受け、日中の高温に加えて夜温の影響も重要です。
特に35℃以上の高温に遭遇する条件や、夜温が高い状態が続くと、花粉の稔性(発芽・受精能力)が低下し、着果不良が発生しやすくなります。典型的な症状として以下が挙げられます。

  • 花粉が少ない
  • 受粉しても果実に膨らみが出ない
  • 1段目と2段目だけ花落ちが目立つ

特に一段目の着果不良が収量全体へ強く影響するため、初期の高温対策は非常に重要です。

尻腐れ症

尻腐れ症は、果実の先端(果頂部)がまず油が染みたように水浸状(油浸状)になることから始まり、その後、黒褐色の円形斑へと変化し、陥没して硬化する典型的な生理障害です。尻腐れが発生した果実は、正常果よりも早く着色しやすいという特徴もあります。

主な原因はカルシウム(Ca)欠乏とされていますが、単に肥料成分の不足ではなく、以下のような環境・生理条件が複合的に影響して発生します。

  • 夏季の高温乾燥でカルシウム吸収が抑制される
  • 蒸散が激しく、成長点までカルシウムを含んだ水分が行き渡らない
  • 土壌中のカリウム・マグネシウム過多による吸収阻害

つまり尻腐れ症は、「カルシウムが根から吸えない」または「果実まで運べない」環境条件が重なることで発生しやすくなる障害です。

日焼け果・着色ムラ

日射と高温が重なることで発生する果皮障害です。特に葉など遮るものがなく直射日光が果実に当たった時に起こりやすいです。以下が、症状の特徴です。

  • 表面が白っぽく硬くなる(ホワイトニング)
  • ひどい場合は褐変し皮が破れる
  • ミニトマトは赤熟前の果実で発生しやすい

ミニトマトは着果数が多い分、樹勢バランスが乱れると日焼け果が一気に増えるため注意が必要です。

過繁茂・徒長

高温下でチッ素が効き過ぎたり、潅水が多いと、トマトは「葉を増やして体を守ろう」と徒長しやすくなります。過繁茂は高温障害をより悪化させる原因にもなり、負のスパイラルに陥ります。

  • 葉が重なり合い風通しが悪くなる
  • 茶色い葉焼け・生理落葉が増える
  • 病害の発生リスクが高まる

裂果

裂果は、果実の皮が割れる生理障害で、特に夏期の高温時に多発します。気温の高い日が増えるこで、裂果が発生する期間も今後さらに長くなると考えられています。

夏期に多いのは、果頂部から放射状に割れる放射状裂果です。高温によって果皮が硬くなり、内部の肥大に皮が追いつけなくなることで発生しやすくなります。また、高温乾燥の後に急激に潅水すると、果実内部の圧力が急上昇し、裂果を助長します。

裂果は選果時の廃棄増加につながるため、減収の程度は着果不良(落花)と同程度とされ、収量面でも無視できない問題です。

光合成低下による樹勢の乱れ

光合成は高温下では効率が大幅に落ちます。トマトの光合成最適温度は25〜30℃ですが、35℃を超えると光合成効率は急落し、収量・品質に直結する問題になります。

「葉色が薄くなる」「葉先からチリチリと傷む」「わき芽だけが妙に元気」といった症状がみられたら、温度上昇とともに呼吸が増え、光合成と呼吸のバランスが崩れている可能性があります。

高温障害への具体的な対応策

症状がすでに出ている場合は、まず環境負荷を少しでも下げることが重要です。短期的に取り組める対応策を紹介します。

遮光による温度上昇の抑制

遮光剤・遮熱剤、外部遮光としての遮熱ネットなどを活用することで果実温度を下げ、日焼け果を確実に軽減できます。

【遮光の目安】
・夏季:40〜60%
・春・秋:20〜40%程度

ただし、遮光しすぎると着色不良や糖度低下につながるため、「日射が強い時間帯を中心に使う」など時間帯の工夫もポイントです。

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換気強化でハウス全体の熱を逃がす

換気量が不足しているハウスは「高温障害の常連」です。天窓・側窓の開放だけでなく、循環扇やサイドファン、外気導入によって空気を動かすことが重要です。換気改善を行うことで以下のような効果に期待ができます。

  • ハウス内の温度ムラが減る
  • 葉面温度が1〜3℃下がる
  • 花粉機能の回復につながる

古いハウスで換気が弱い場合、まず実践すべき対策は「とにかく空気を動かすこと」です。循環扇を既に設置している場合でも、風向きや台数の見直しで体感温度が大きく変わることがあります。

潅水管理の見直し

高温期は蒸散量が増えるため、少量多回数の潅水が効果的です。
ただし、過剰潅水は根の酸素不足や味の低下を招くため、バランスが重要です。

  • 一度に大量に与えず、回数を増やす
  • 夕方遅い時間の潅水は控える(夜間過湿を避ける)
  • 尻腐れが多い場合は、急激な水分変動を避ける

ミスト散布による気化熱

葉面・空気中に細かい霧を噴霧することで気温が下がり、果実温度の上昇を防げます。ミストは特に「午後の高温ピーク時」に高い効果を発揮します。しかし、使い方によっては思っていた効果を期待できないだけでなく、作物への被害も出兼ねませんので注意が必要です。

  • 粒が大きいと葉が濡れすぎて病害リスクが上がる
  • 風向きによってはハウス内全体に行き渡らない

微細霧(フォグ)や高圧ミストを活用すると、湿度上昇を抑えながら温度を下げることも可能です。

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樹勢コントロール(摘葉)

過繁茂を解消するためには摘葉が有効ですが、やりすぎると日焼け果が増えるため、
1段につき1〜2枚ずつ段階的に行うことが基本です。
また、極端な徒長がみられる場合は、摘心やわき芽管理で「実に力を回す」よう誘導することも重要です。

施肥管理の見直し

チッ素過多は高温障害を悪化させるため、肥効が強い場合は以下のように調整を行いましょう。

  • ECを少し下げる
  • 潅水で肥料を薄める
  • 液肥濃度を低く設定する

特に、若木の段階でのチッ素過多は、その後の作期全体に影響するため、初期生育から注意して管理することが望まれます。

高温障害を防ぐ長期的な予防策

短期的な応急処置だけでは、毎年のように同じ問題が繰り返されてしまいます。ここからは、根本的な解決につながる長期的な予防策について解説します。

ハウス構造の改修・新設ポイント

高温障害を根本的に防ぐには、以下の構造改善が効果的です。

  • 軒高を上げる(熱気が上部に溜まりやすい)
  • 新設の際に大きな天窓を確保する
  • 遮熱フィルムの導入

特に軒高の調整は温度改善効果が大きく、近年増えている対策のひとつです。新設のハウスだけでなく、既設のハウスでも約1mほどかさを上げることも可能です。

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高温に強い品種の選定

夏秋採りでは耐暑性のある品種を選ぶことで、高温期の収量低下を防ぎやすくなります。大玉・中玉・ミニトマトいずれにも耐暑性品種が増えているため、

  • 高温期でも着果性が安定する品種
  • 日焼け・裂果に強い品種
  • 草勢が暴れにくい品種

といった視点で選ぶことがポイントです。既存の品種にこだわり過ぎず、「夏用」「秋用」など作期ごとに品種を切り替える考え方も有効です。

養液管理の高度化

EC・pHを安定的に維持することで根のストレスを軽減できます。高温期は、根がダメージを受けやすいため、ECをやや低めに設定し、根の負担を最小限に抑えることが重要です。

  • 高温時:ECをやや低めに(例:通常より0.2〜0.5程度下げるイメージ)
  • pH:5.5〜6.5を目安に安定させる

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環境制御の導入

近年は、温度・湿度のモニタリングだけでなく、自動で環境を制御するシステムの導入が広がっています。
環境制御システムでは、設定した条件に基づいて、次のような設備を自動制御できます。

  • 換気窓の開閉(温度・風向・風速に応じて調整)
  • カーテンの開閉(遮光・保温の自動切り替え)
  • 潅水・液肥の自動供給(時間帯や日射量に応じた制御)
  • ミスト・フォグの散布(高温時のみ稼働させる)
  • 暖房機・循環扇の制御

これにより、人の感覚だけに頼らず、設定した数値を基に理想のハウス環境をつくることができます。特に近年は、日射連動潅水や日平均温度制御など、「トマトの生理に合わせた制御」が可能なシステムも増えており、高温障害の未然防止に大きく貢献します。

また、環境制御装置にはデータ記録機能を備えたものも多く、どの時間帯に何度まで上がっていたのか、どの条件で窓やカーテンが動いたのか、といった履歴を確認できます。これにより、翌年以降の作付け計画や設備投資の判断材料としても活用できるようになります。

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まとめ:高温対策は環境改善×症状理解が鍵

トマトの高温障害は、一度発生すると生育や品質に大きな影響を与えます。そのため、症状を早期に把握し、遮光・換気・潅水管理・樹勢コントロールなどを組み合わせて、高温の影響を最小限に抑えることが重要です。

また、近年は春や秋でもハウス内が高温化しやすくなっているため、季節を問わない年間を通した環境管理が求められます。

短期的な「場当たり的な対策」だけでなく、ハウス構造の見直しや高温期に強い品種選び、そして環境制御システムの導入など、中長期的な投資も含めて総合的に取り組むことが、安定したトマト栽培への近道です。高温対策や栽培環境の見直し、環境制御システム等の導入でお困りの際は、ぜひイノチオアグリへご相談ください。 現場の状況やご予算に合わせて、最適な改善策をご提案いたします。