【農業の害獣対策】鳥獣被害がなくならない背景と、今すぐ始めたい対策・交付金制度
農業の現場では、シカ・イノシシ・サル・カラスなどによる鳥獣被害が、収量や品質を落とすだけでなく、栽培計画そのものを崩す深刻な課題になっています。
「電気柵を張ったのに突破された」「捕獲しても翌年また来る」
こうした声が多いのは、害獣対策が「点」の対応になりやすく、被害の背景が複合的であるためです。
本記事では、鳥獣被害の実態と、被害がなくならない要因を整理したうえで、今日から始められる農業の害獣対策、さらに対策費用の負担を軽くする交付金制度の考え方を解説します。
目次
- 農業における鳥獣被害の実態
- 農業現場で実践されている主な害獣対策
- 今すぐ始めたい、効果を高める害獣対策のポイント
- 地域ぐるみで取り組むメリット
- 農業の害獣対策に活用できる交付金
- 害獣対策は「資材選び」と「継続」が成功のカギ
- 被害を防いで農業を続けるために、イノチオへご相談ください
農業における鳥獣被害の実態

作物被害・営農意欲への影響とは
鳥獣被害は「食べられる」だけではありません。例えばイノシシは、作物を倒して踏み荒らし、畑を掘り返して土壌を乱します。シカは若芽や樹皮を食害し、果樹では樹勢低下につながることもあります。サルは群れで短時間に収穫前の作物を持ち去り、カラス類は苗や果実を狙います。
さらに見落としがちなのが、再播種・補植、見回り、修繕といった「見えないコスト」です。被害が続くと営農意欲が下がり、作付けを諦める・耕作放棄につながるケースもあります。
結果として人の気配が薄れ、鳥獣がさらに入りやすくなる悪循環が生まれます。
近年の鳥獣被害は増えている?減っている?
農林水産省が公開している「野生鳥獣による農作物被害状況の推移」によると、近年の鳥獣被害は長期的には被害面積が減少しているものの、直近では再び増加傾向が見られます。特に獣類被害は、2021年度を底に被害面積・被害量ともに増え、2024年度には被害金額も大きく上昇しています。

被害がなくならない背景・要因
鳥獣被害が減りにくい主な要因は、次の4つです。
- 餌場・隠れ場所の増加:耕作放棄地や藪化した畦畔は、獣にとって快適な環境です。
- 人手不足・高齢化:見回りや柵の維持管理が追いつかず、弱点が生まれやすいです。
- 対策が単発になりやすい:柵だけ・追い払いだけ・駆除だけ、という“単品対策”は学習されやすい傾向にあります。
- 地域での足並みの難しさ:特定の区画だけ守っても、周辺が無防備では侵入する可能性があります。
結論として、駆除(捕獲)だけでは解決しにくいのが現実です。被害を抑えるには、「侵入させない・寄せつけない・学習させない」ための対策を、現場条件に合わせて組み合わせる必要があります。
農業現場で実践されている主な害獣対策

防護対策(電気柵・ネット・フェンスなど)
最も基本で効果が出やすいのが侵入防止です。
電気柵はイノシシ・シカ対策の定番で、設置後すぐ効果を体感できることも多い一方、下草で漏電したり、支柱間隔が広すぎたりすると突破されます。
防獣ネット・金網フェンスは物理的に強いですが、地際の隙間や出入口の管理がポイントです。
「どれが最適か」は獣種・地形・圃場形状で変わるため、「弱点が出やすい場所(沢沿い、獣道、段差、出入口)」から優先して設計するのがコツです。
忌避・追い払い対策(音・光・におい)
忌避材、反射材、音響装置、ライトなどは補助の対策として有効です。
ただし、獣は学習するため、同じ刺激を与え続けると慣れてしまいます。
追い払いは、「タイミング(初期侵入の段階)」と、「刺激の変更(ランダム性)」が重要です。サルやカラスは特に賢く、単独の忌避では限界が出やすいので、防護とセットで考える必要があります。
捕獲・駆除対策の基本的な考え方
「駆除」は必要な手段ですが、法令・手続き・安全管理が伴います(わな免許、設置ルール、自治体の許可など)。また、捕獲しても周辺から流入があれば、被害はなくなりません。
だからこそ、捕獲は「侵入防止(柵)」・「環境整備(藪刈り等)」と組み合わせ、地域で計画的に行うことが現実的です。
被害を抑えるために重要な「組み合わせ対策」
効果が出やすい型は、次の3つです。
- 電気柵+地際の補強(ネット/ワイヤー)+下草管理
- 侵入ポイントの重点防護+追い払いの運用
- 地域での環境整備+計画捕獲
このように、弱点を潰しながら、鳥獣の「慣れ」を防ぐことが重要です。
今すぐ始めたい、効果を高める害獣対策のポイント
被害状況に合った対策を選ぶことの重要性
まずは「誰が、どこから、いつ入っているか」を把握します。足跡・糞・食痕、獣道、侵入口を確認し、可能であればトレイルカメラで時間帯を見ます。
ここを飛ばして資材を買うと、過剰投資や、的外れ対策になってしまう可能性があります。
設置・管理で失敗しやすいポイント
電気柵で失敗してしまう場合、以下の状態になってしまっている場合があります。
- 電圧が十分に出ていない(漏電・アース不良※)
- 地際が甘い
- 草刈り不足
- 出入口の管理不足
※アース不良:アース棒が地面と密着していない、地面が乾きすぎている等の理由で電気が地面にうまく流れない状態のことを指します。
また、ネット・フェンスを設置したにも関わらず侵入されてしまう場合は、以下のようなケースが考えられます。
- 下端が浮いている
- 支柱の強度が足りない
- 段差に隙間がある
設置したら終わりではなく、週1回程度の見回り(倒木、獣の掘り返し、漏電チェック)が効果的です。
地域ぐるみで取り組むメリット
鳥獣は圃場単位ではなく面で動きます。周辺の藪化、放任果樹、耕作放棄地があると、そこが温床になります。
個人でできる範囲を超える部分は、自治会・土地改良区・集落営農・JAと連携し、共同での環境整備・共同防護を検討すると、費用と労力を抑えやすくなります。
農業の害獣対策に活用できる交付金

農業の害獣対策は、電気柵や防獣ネットの設置、捕獲活動、人材育成など、どうしても費用がかかる取り組みです。
そのため国では、市町村が策定する「被害防止計画」に基づき、鳥獣被害対策を幅広く支援する「鳥獣被害防止総合対策交付金」を中心とした経済的支援制度を設けています。
これらの支援は、単なる「駆除費用の補助」ではなく、被害を減らすための総合的な取り組みを後押しする点が特徴です。
参考:農林水産省「鳥獣被害防止総合対策交付金の支援内容について」
経済的支援は「3つの対策」が軸になる
鳥獣被害対策の基本として、次の3つの柱が示されています。
- 個体群管理:捕獲活動(わな・銃猟等)
- 侵入防止対策:電気柵・ネット・フェンスなどの設置
- 生息環境管理:放任果樹の伐採、藪刈り、緩衝帯整備
これらを地域ぐるみで組み合わせて実施する取り組みに対して、国の交付金や財政措置が講じられます。
「柵だけ」「捕獲だけ」といった単独対策ではなく、複合的な害獣対策を進めやすくするための支援である点が重要です。
侵入防止対策(電気柵・防獣ネット等)への支援
農業者の関心が特に高いのが、侵入防止柵の整備に対する支援です。
資料によると、以下のような取り組みが対象になります。
- 電気柵、ネット柵、金網柵、ワイヤーメッシュ柵などの新規整備
- 既存柵を活かしつつ、被害エリア拡大に対応する再編整備
- 柵の弱点になりやすい地際部分の補強資材の導入
施工方法(直営施工・請負施工)に応じて、定額支援または事業費の1/2以内が支援対象となり、資材費の負担軽減につながります。
また、柵の設置だけでなく、適切な維持管理や生息環境管理と一体で行うことが要件とされています。
捕獲・駆除活動や人材確保への支援も対象
害獣対策では、捕獲を担う人材や体制づくりも大きな課題です。次のような経済的支援が示されています。
- 捕獲活動にかかる日当・頭数払いへの支援
- 箱わな・くくりわな等の捕獲機材導入費用の支援
- 狩猟免許取得やOJT研修など、人材育成・技術向上への支援
- 捕獲サポート隊など、地域住民が参加する体制構築への支援
これにより、「人がいないから対策できない」という状況を改善し、持続的な害獣対策を行うための基盤づくりが後押しされています。
環境整備・ICT活用・ジビエ利活用まで支援対象
経済的支援は、防除や捕獲だけにとどまりません。
- 放任果樹の伐採、緩衝帯整備などの生息環境管理
- センサーカメラやICT機器を活用した効率的な被害対策
- 捕獲した個体の焼却・埋設・ジビエ利活用に関する施設整備や処理費用
このように、被害対策の「前後」まで含めた幅広い取り組みが支援対象とされています。
これにより、捕獲後の処分負担がネックになり、対策が進まないといった課題にも対応できます。
経済的支援を活用するために重要なポイント
強調されているのが、「まずは市町村に相談すること」という点です。
これらの交付金・補助金は、市町村が策定する「被害防止計画」に基づいて活用される仕組みとなっています。そのため、個人で直接申請できるケースや、地域協議会や集落単位で進めるケースなど、進め方は地域によって異なります。
「害獣対策にはお金がかかるから難しい」と諦める前に、使える支援制度がないか確認することが、現実的な第一歩になります。
このように、農業の害獣対策には、国の交付金や補助制度など経済的な支援策が複数用意されています。
制度を理解したうえで、自分の圃場や地域に合った対策資材を選ぶことが、無理のない害獣対策につながります。
害獣対策は「資材選び」と「継続」が成功のカギ
対策の効果は、資材の性能だけでなく、圃場条件への適合と運用で決まります。たとえば同じ電気柵でも、獣種によって推奨の段数や高さが変わり、斜面・沢沿いでは補強が必要です。
また、被害が出る前の初期侵入で止めることができれば、費用も労力も小さく済みます。被害が増えてから慌てて強い柵を入れるより、早めに弱点を潰すほうが合理的です。
被害を防いで農業を続けるために、イノチオへご相談ください

鳥獣被害がなくならない背景には、環境変化と人手不足、そして単発対策の限界があります。
効果を出すには、侵入ポイントを特定し、防護を軸に、追い払い・環境整備・捕獲を組み合わせ、維持管理を継続することが重要です。
また、交付金制度を活用すれば、資材費の負担を抑えながら対策を進められる可能性があります。制度は地域差が大きいため、まずは自治体窓口で要件を確認し、対象資材に合う形で計画しましょう。
イノチオでは一部の鳥獣対策資材を取り扱っていますので、お気軽にご相談ください。
