日本の農業が抱える課題解決策を徹底解説
地球温暖化や原油価格の高騰など、国内外の社会情勢や自然環境、食料事情などの目まぐるしい変化に対し、これまで日本の農業は少しずつ適応して多くの問題を乗り越えてきました。
しかし、未だ解決できていない根深い問題も抱えています。今回のコラムでは、その中でも特に重要な課題を3つ取り上げ、現状と解決策についてご紹介します。
日本農業を取り巻く3つの課題
それでは、日本農業を取り巻く課題を「高齢化・担い手不足」「耕作放棄地の増加」「TPPによる価格競争」の3点に着目してご説明いたします。
高齢化などに伴う担い手の減少
農業の担い手不足と高齢化の問題は、これまでさまざまな政策を行ってきましたが未だ解決にいたっていません。自営農業を仕事にしている「基幹的農業従事者」の減少は止まらず、その平均年齢も上昇傾向のままです。
農林水産省が発表している最新の農業センサスと農業構造動態調査をもとに、2015年以降の基幹的農業従事者(個人経営体)の数を見ると、2015年の175万7,000人から毎年減少を続け、2022年速報では122万5,500人になっています。2023年の農業構造動態調査による推定値は116万3,500人とさらに減少しています。
少し前の結果になりますが、基幹的農業従事者の年齢も2015年の67.1歳から、2020年には67.8歳と高齢化傾向が見られることがわかります。
担い手の減少と高齢化の主な原因は、年々離農する農家がある一方で、新規就農者が思うように増えないことが挙げられます。
新規就農者数は2015年には6万5,000人、2021年には5万2,700人と、年度によって多少の増減はあるものの、毎年一定数の新規就農者がいます。
それでも、毎年数万人単位で農業従事者数が減少するというのは、新規就農者を上回る離農者がいることを示しています。
毎年安定して数万の新規就農者がいますが、農業経営が軌道に乗らなかったり地域に馴染めなかったりして、数年でやめてしまうケースが後を絶ちません。
新規就農者が長く続けられるように、地域全体でのサポートと営農がしやすいコミュニティづくりが重要です。
耕作放棄地の増加
耕作放棄地や荒廃農地の増加も、認知されながらも以前から改善できていない日本の農業に根付く深刻な問題です。
耕作放棄地が増加している最大の原因は、高齢化や労働力不足により、作付けできる圃場が減り、一部のほ場の耕作を放棄してしまうケースです。
また、農地のまま土地を所有している非農家です。農家をリタイアしたものの後継者不在で、農地を宅地などへ転用せずそのままにしているケースも見受けられます。そのほか、農作物の価格低迷や収益の悪化を理由に作付けをやめてしまうケースもあります。
耕作放棄地や荒廃農地は、数年後に農地に戻る場合もありますが、そのまま作付けされずに荒廃してしまうケースも少なくありません。一度、荒廃農地になってしまうと、戻すことは困難で食糧生産という役割を果たせなくなります。
また、農地は農業のためだけでなく、地域の環境システムの維持といった多面的な役割を持っています。荒廃することで病害虫の発生源となって周囲の農地に悪影響を及ぼすだけでなく、地域の自然環境や景観の悪化にもなりかねません。
TPPによる競争激化
「TPP(Trans-Pacific Partnership)」とは、太平洋を取り巻く国々からなる「環太平洋パートナーシップ」の略称です。
「TPP協定」とは、日本を含む11ヵ国による経済連携協定を意味しています。協定を結ぶことで、関税や各種規制を削減・撤廃し、モノだけでなく投資や情報、サービスにおいてもほぼ完全な自由化をめざしています。
農林水産分野の全2,594品目のうち、およそ8割に当たる2,135品目の関税が撤廃され、自由化を。そうなれば、外国産の安価な農産物が市場に出回るようになり、国内だけでなく海外との価格競争も激化すると予想されます。
これにより、日本の農家にも効率化やコストダウン、独自の販路の確立が迫られており、また安価な農産物に負けないだけの付加価値を見出す必要もあるなど、経営面での多大な負担増が懸念されています。
日本農業が生き残るための4つの解決策
高齢化に伴う担い手の減少、耕作放棄地の増加、TTPによる競争激化などの問題に直面する日本の農業ですが、悲観的にとらえているだけではいけません。
問題を把握し、目標を掲げ積極的に取り組み、経営規模を拡大していけば、農業全体が活性化し、新規参入が増え、耕作放棄地の解消につながるかもしれません。
スマート農業の活用
IoTやAI、ロボット技術などの先端技術を取り入れた新たな農業技術「スマート農業」の導入は、農作業の効率化や省力化を大幅に進める効果が期待できます。老舗メーカーから新進気鋭のベンチャーまで、多くの企業から優れた商品やサービスが続々と開発されています。
多くの農業現場では、環境制御システムによるビニールハウスの環境管理、自動潅水システムによる給排水の制御などをはじめとしたスマート農業の活用が進んでいます。
これらは担い手の減少への対策だけでなく、作物の高品質化や収量増も期待でききます。
まずは、予算を踏まえてできる範囲での導入を検討をおすすすめします。
関連事業:スマート農業事業
農地や経営の規模拡大
担い手不足、作業効率化やコストダウンへの対策として、農地の集約や経営体の大規模化が進んでいます。
これは企業による農業参入だけでなく、既存の農家でも農地バンクなどを利用することで、まとまった農地を確保して規模を拡大できます。そのうえで大型機械や管理システムを導入すれば、効率的な農作業で大幅な収量増を実現でき、農家の所得向上にもつながります。
規模拡大にあたっては、法人化することで融資を受けやすくなったり、税金対策ができたりするので、併せて検討するとよいでしょう。
もし、近隣に耕作放棄地などがあるならば、それらを集約することで土地の有効活用にもなり一石二鳥です。
農産物のブランド化
スマート農業の導入や規模拡大以外に、小規模でも作物に高付加価値をつけてブランド化し、単価の向上をめざす方法があります。
同じ作物でも、SNS・ホームページ・独自のパッケージ・ロゴなどを活用してPRすることで付加価値を生み、リピーターの確保にもつながります。
他にも、近隣に暮らす方々に向けて、ビニールハウス見学ツアーや収穫体験などを行うこともありでしょう。特に農業が身近ではない都市部であれば、新たな体験となり、ファンづくりにもつながるかもしれません。
農業の6次産業化
自ら栽培した作物を使って加工・製造した商品を販売することを、農業(1次産業)・製造(2次産業)・販売(3次産業)を合わせて「6次産業化」と呼びます。
農産物だけで差別化ができない場合でも、6次産業化することでブランド化し、売り上げを伸ばす方法があります。
例えば、農場の近くにレストランを併設して採りたて新鮮な野菜を使用した料理を提供するなど、農業生産だけでない売り上げ確保にも期待できます。
持続可能な農業の実現へ
「SDGs(持続可能な開発目標)」は、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことです。17の目標と169のターゲットによって構成されています。
なかでも、2番目の目標である「飢餓をゼロに」は、農業に直結する目標と言えます。
飢えをなくし、誰もが十分に食料を手に入れられるよう、地球環境を守り続けながら農業を進めることが求められています。
12番目の目標である「つくる責任、つかう責任」も農業に大きな関わりがあります。
将来にわたって農業をするためには、土壌に負担のかかる連作、周辺環境にまで影響が出る農薬の使用などをやめ、環境にやさしい農業が不可欠です。
また、日本の農業が持続的に成長するためには、農業生産に携わる人が安定した収入を得て、農業を担い手が増えるような労働環境の整備が求められます。
そのためには農産物の適正価格維持など、農家だけではなく自治体や国、消費者も一体となって問題解決に取り組むことが必要です。
解決策を実践するお客さま事例
実際に、日本の農業が抱える課題を解決して、農業経営に取り組まれている事例をご紹介します。
「目指すは、街の行きつけ農園」川名桂さん
川名さんは、東京都で農地の長期契約を結び新規就農されました。東京の住宅街でビニールハウスを建て農業をする施設園芸は少し珍しい光景です。
農園の近くに暮らす方々の行きつけの農園になって欲しい、そのような想いから川名さんの「ネイバーズファーム」は誕生しました。今は、新鮮で採れたての野菜をビニールハウスに隣接する自販機、地元の直売所、オンラインで販売しています。
農場のコンセプトだけでなく、パッケージのロゴなど農業経営にブランディング視点を活かしています。
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「農業と食でお客さまへ幸せを届けたい」
愛知県常滑市でレストランをはじめ、イチゴ観光農園、ブドウ園、ワイナリーなどを経営する株式会社ブルーチップは、社是として「デリバリングハピネス」(お客さまへ幸せを届けたい)を掲げています。
飲食事業だけでなく、農業事業で育てたイチゴやブドウをお客さまに食として提供することでブルーチップでしか体験を提供しています。
イチゴ観光農園を始めるまで、農業の経験はありませんでしたが、スマート農業を活用することで栽培技術を補っています。
現在は、イチゴ観光農園を運営するだけでなく、新規就農をして農業で生計を立てたいと考えている従業員の就農支援も行っています。
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農業の課題解決はイノチオアグリへ
イノチオアグリではビニールハウスやスマート農業の導入から、営農支援まで、農業ビジネスの最前線で培ったノウハウを活かして、お客さまの農業経営をトータルサポートします。
新規就農・農業参入を検討されている方、事業計画書にお悩みの方など、お気軽にお問い合わせください。