現在、日本の農業は、高齢化や人手・後継者不足、輸入品との価格競争などの課題に直面しています。これらを解決できると期待されているのが農業DXです。

今回のコラムでは、農業DXの基礎をはじめ、現状と課題、導入することによるメリットなどをご紹介します。

農業DXとは?

農業DXとは、ITやロボットを活用した農業のスマート化だけを指すものではありません。

食や健康の領域まで視野に入れた概念です。農業生産に加えて、流通や販売、マーケティング、ブランディング、廃棄物処理、CO2排出対策なども含めた農業に関わるすべてを、最先端技術やデータ活用を通じて変革しようとするものです。

農業の生産性向上や農業従事者の働く環境の向上、収益の向上につながり、さらには農業従事者の人材確保に貢献に期待ができます。

生産物に付加価値をつけたりできる可能性を秘めた農業DXは、農業を超えて、食の安全・安心、安定供給に変革を起こすとされています。

農林水産省が目指す農業DX構想

農業者の高齢化や労働力不足が進む中、デジタル技術を活用して効率の高い営農を実行しつつ、消費者ニーズをデータで捉え、消費者が価値を実感できる形で農産物・食品を提供していく農業(FaaS: Farming as a Service)への変革の実現 。

農林水産省は、2011年3月に以上のことを目的に「農業DX構想」を発表しました。

農業DX構想は、2030年を目途に農業や食関連産業に携わる方々がそれぞれの立場で思い描く「消費者ニーズを起点にしながら、デジタル技術で様々な矛盾を克服して価値を届けられる農業」の実現を目指しています。

農業DX構想の目的にあるFaaS(Farming as a Service)は、直訳すると「サービスとしての農業」となります。スウェーデンのスタートアップ企業SweGreenが提唱した概念で、農業に必要な部分のみを簡単かつ低コストで利用できるサービスを意味しています。

引用元:農業DX構想~「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~(概要)

農業DXとスマート農業の違い

農業DXとは、スマート農業を含む概念です。そのため、農業DXを推進するためにスマート農業の導入が進められています。

農業DXはロボットやAI、IoTなどのデジタル技術を導入して、消費者が価値を感じながらも安定した食料供給をできる農業を実現させることです。農業の生産現場に限らず、流通、小売り、消費者、農業行政を含めたデジタル化を指します。

一方、スマート農業は、ロボットやICTを活用して農作業の省力化や品質の安定化をめざす新たな農業で、主に農業の生産現場でデジタル技術を活用することを指します。

農業DXの取り組みの一環として、スマート農業が存在すると理解しましょう。

農業DXのメリット

デジタルテクノロジーの技術を活用して省力化・自動化を図ることで、生産者の高齢化や人手不足、後継者不足による労働力不足を補うことができるようになります。これにより農作業の効率化を図ることができ、コスト削減にもつながります。

また、気象データや過去の農作業データ、生産量データなどを活用することで、収穫量を向上したり予測したりすることができます。

高品質な農産物の生産や、生産量の安定、消費者の需要予測に合わせた生産などが可能になります。
そうなれば、輸入品との価格競争に巻き込まれて低価格で農産物を卸す必要性も下がるでしょう。

さらに、SDGsに対応した農業の実現にも期待できます。将来的に地球規模での食料難が危惧されており、農業DXの実現は日本のためだけでなく世界の食料危機を回避するために重要といえます。

農業DXに活用できる補助金

農業機械の購入など農業DXに活用できる補助金の代表格は、「ものづくり補助金」です。

ものづくり補助金とは、中小企業や小規模事業者等が取り組む革新的なサービス開発や試作品開発、生産プロセスの改善を行うための設備投資などを支援する補助金のことです。

ものづくり補助金は、正式名称を「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」といいます。
「ものづくり補助金」と略されることが多く、この略称から製造業や建設業など「ものづくり」をする事業者しか活用できないとの誤解も少なくありません。

しかし、ものづくり補助金は製造業などのほか、農業などであっても活用することが可能です。ものづくり補助金は非常に大型の補助金の一つであり、この補助金を活用することでまとまった資金を得られる可能性があるでしょう。

ただし、大型の補助金であるがゆえに競争率も高く、申請の難易度も低くありません。そのため、申請をする際には専門家のサポートを受けるとことをおすすめします。

参照:ものづくり補助金総合サイト

農業DXの現状と課題

DXの推進状況は、業界により大きく異なります。

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の発行する「DX白書2023」では、各種調査結果をもとに、国内産業におけるDX取り組み状況についてまとめています。結果によると、農業・林業の分野で実施ていると回答した企業は45.4%と全平均を20%以上を上回る結果でした。

それでは、取り組み内容についてご紹介します。

生産現場

生産現場のDXを実現するための方法は非常に多種多様で、農林水産省が発表している農業DX構想のなかでもプロジェクト数の多い項目です。そのなかでも特に力を入れている取り組みが、ロボット・AI・IoTなどの先端技術を活用したスマート農業の分野です。

日本の農業の生産現場が長年抱えているのが高齢化・担い手減少に伴う労働力不足です。

例えば、農林水産省が作成した「スマート農業の展開について」によると自営業で農業を行っている基幹的農業従事者は、1960年は1175万人だったのに対し、2023年は116万人と1000万人以上減少しています。さらに平均年齢は2022年で68.4歳と約半数を60代以上が占めるなど、深刻な状況であることが明らかになっています。

現在、全国179地区でドローン、遠隔操作や自動走行の農業機械などの実証実験が実施されています。さらに、センサーを活用したデータ収集のほか、画像解析や土壌評価といったさまざまな指標を利用した生産も試みられています。

このように従来の経験に基づいた属人的な生産体制の脱却を図り、省力化と高品質化を両立させるためにさまざまな方法が試されています。

しかし、いずれも試験的な導入が多く、本格的に社会実装されているケースは多くはありません。

農村地域

産業としての農業のDXを促進するためには、農村地域の規模でバリューチェーン全体を改善するための「基盤整備」や「モデル化」が必要となってきます。

実際、2021年1月に農林水産省が作成した「農業DXをめぐる現状と課題」では、インターネットを介して複数の集落が、農地保全のために連携する取り組みや鳥獣害対策などが紹介されています。

また、圃場の地図の作成、大規模な自然災害の復旧にデータを利用するなど「農業基盤整備」にもデジタル技術が利用されています。

民間でも農業DXの推進に取り組んでいます。株式会社日本総研研究所が2019年に「農村デジタルトランスフォーメーション協議会(農村DX協議会)」を設立し、自治体を中心とした参画者同士で連携を図るなど、農村地域のDXの関係人口の拡大に取り組んでいます。

これらの取り組みはまだ限定的であり、デジタル技術を活用する仕組みの構築から実現する必要があります。

流通・消費

農業のバリューチェーンにおける流通分野のDXは「農産物流通DX」と称されることもあります。日本の農産物の流通は全国各地の卸売市場を介する「市場流通」と、生産者・消費者が直接やりとりするといった「市場外流通」に大きく別けられます。

国産青果物の約86%とされる市場流通において、食品加工業者を含めた関係者の情報共有が不十分であることが課題とされています。そのためトレーサビリティの確保など、ブロックチェーン技術を活かして多段階を経て消費者へ届く農産物の管理を一元化する取り組みが実施されています。

インターネットの普及により、生産者と消費者がつながれる機会が増えました。購買情報を的確に把握して需要に応える生産・販売が求められるなど、市場を取り巻く環境の変化への対応が必要です。そのため、JANコードの利用や個別輸送の円滑化などの取り組みも実施されています。

農業DXに向けての課題

官民で農業DXが積極的に推進している一方、普及拡大における課題も浮き彫りになっています。

例えば、前述した「スマート農業」の場合、従来の作業体系からの脱却がなかなか進まない地域が少なくありません。

特に管理の分野においては、生産・出荷や経営に関わる情報は紙で処理する農業者も多く見受けられます。そのため、データ収集や効率的な農業経営の実現が困難な状況といえるでしょう。

また、コスト面での課題もあり、農業者にとって利益を確保できるスマート農業機械やサービスを選択して運用するには、まだ難易度が高い状況といえます。

農業DXに取り組む企業

最後に、農業経営に欠かすことができない労務管理と栽培管理で農業DXに取り組み企業をご紹介します。

労務管理×農業DX 株式会社はれると

株式会社はれるとは、労務管理ソフト「agri-board」を販売するスタートアップ企業です。

agri-boardは、作業情報(いつ・どこで・だれが・なにを・どのくらい)を現場で記録してデジタル化をします。データはクラウド管理なのでスマホ、タブレット、PCで作業情報と労務情報をいつでも・どこでも確認することができます。

作業情報を記録することで、どの時期にどれくらい忙しくなるのか予測ができるようになります。データは、グラフにして簡単に共有ができるので経営者・農場責任者としての意見に納得感が生まれ、シフトなどの相談がスムーズに行えます。

作業に余裕がある時に休みをとってもらい、ムリのない予定立てで作業遅れを解消できます。

栽培管理×農業DX イノチオアグリ株式会社

イノチオアグリ株式会社は、イノチオグループでビニールハウスを中心に各種栽培システムや農薬肥料を取り扱っています。

ビニールハウスの栽培環境を作物を良好に生育できるようにコントロールする環境制御システム、作物に最適に栄養供給ができる自動灌水システムをはじめ農業DXに関わる製品を自社開発しています。

また、農業先進国オランダの企業と提携することで、世界基準の栽培技術の導入も行っています。農業DX、スマート農業の製品を導入して使いこなしていただくためのサポートも行っています。

農業DXのご相談はイノチオアグリへ

イノチオアグリでは、農業ビジネスの最前線で培ったノウハウを活かして、お客さまの農業経営や栽培に関わる農業DXやスマート農業の導入をトータルサポートします。

農業経営や栽培を改善したい方、新規就農・農業参入を検討されている方、事業計画書にお悩みの方など、お気軽にお問い合わせください。