農業のはじめ方には、親元で就農、土地を購入または賃借して新規就農、農業法人へ就職、などさまざまな方法があります。今回のコラムで紹介する事業継承による新規就農もその一つです。

跡継ぎがおらず農業をやめようと思っている人、事情によって土地を離れなくてはならず代りの人を探している、このような方から事業継承をすることでスムーズに農業を始めることができます。

実際に農業を継承して農家になるにはどうしたらいいのか、そのポイントを解説します。

農業の事業継承が注目される背景

農林水産省では、日本の農業産業を維持していくために第三者による継承を推進しています。従来の親からの承継や親族からの承継では、担い手が間に合わなくなってきているという課題があります。

その背景や、農業の事業継承とは何かを詳しく見ていきましょう。

農業の後継者不足と高齢化

日本では高齢化社会が問題となっていますが、農業は顕著に高齢化が進んでいます。個人経営での農業労働力の過去5年間の平均年齢は66歳から67歳です。他の産業と比較しても、働き盛りの年代が非常に少ないです。

農業の高齢化が進んでいることが原因ですが、一方で親族などで農業の跡継ぎが見つからないことも理由の一つです。

また、令和3年の新規就農者は、5万2,290人で前年より2.7%減少しています。高齢の農業者がこのまま農業をリタイアして跡継ぎが見つからないと、手入れができる人がおらず農地が荒廃する、耕作放棄地や所有者の決まらない農地が増えるなどの問題が多発します。

個人農家が全体の96%を占めていますが、農地の集約化や法人によるM&A、生産効率の向上のための補助が増えたことにより団体や法人は増加傾向にあります。

企業が農業参入し、農地の担い手不足を解消することが期待できますが、農業を担う若い世代の新規就農者を増やしていくことが、今の日本の農業において重要な課題と言えます。

関連記事:農業人口の実態とは?高齢化による担い手・人手不足の解決策を解説

農業を事業継承する際のポイント

農業を事業継承をする際のポイントには、主に以下の2点があります。

事業継承する際に受け継ぐもの、受け継がないもの

第三者が農業を継ぐ際、引き継がれるものは農地だけではありません。これまでに培ってきたその土地ならではの栽培手法、土壌の品質、農機具など、さまざまなものを付随して受け継ぐことになります。

自分一人で農地を築くのと、それらの承継があるのとでは、スタート地点で大きなメリットがある場合もあります。しかし、借金がある場合はその負債も引き継ぐことになってしまうので注意が必要です。

また、仮にスタートからある程度の規模がある従業員がいるような農業を受け継ぐ際には、既に働いている従業員を引き継げるかどうかもポイントとなります。

従業員がそのまま仕事をしてくれるかどうかは、従業員の意思に完全に左右されてしまいます。その従業員が重要な知識や技術を持っている場合もあります。そのような場合には、事前にコミュニケーションを取りながら「一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるような配慮も必要です。

事業継承と相続の違い

第三者への継承は、相続と異なります。
相続とは違い、相続税による減税制度はありません。しかし、親族ではない人に引き継ぐという形態での引き継ぎになるため、その親族や周囲からの理解が得られないケースも想定できます。

親族間だと長年知った関係でもあり、引継ぎ後も継続した関係性を維持しやすいでしょう。一方、第三者が農業への知識がないまま継承をする場合は、一から今まで培ってきた農業スキルを覚えなければならず、引き継ぎやノウハウの継承に期間が必要となります。

仮に、事業継承であってもノウハウを教えてもらうのではなく、自ら研修施設や農業大学校で学ぶ必要がある場合もあります。その場合は、その期間も想定に入れておかなくてはなりません。

さらに、周囲の農家さんや地域住民との交流が上手くいかない、ノウハウが身に着かないなどの事情が出てくれば、スムーズに承継していくことは困難になってきます。

相続との違いは課題もありますが、上手に引き継げれば前任の方の培ってきたノウハウや関係性を活かすことができるので、農業継承を検討している方は頭に入れておきましょう。

農業を事業継承するメリット・デメリット

農業を自分で始めるのではなく継承する際のメリット・デメリットを把握しておきましょう。

メリット:農業をスムーズに開始できる

農業に関するノウハウや栽培スキル不足していても、事業継承を上手に行えば比較的スムーズに農業を始めることができます。その土地や地域の特性や作物などを熟知した人から引き継ぐことは大きなメリットです。

また、継承した方が培った人脈やブランドを活用も期待できます。
1人で一から作り上げるのは時間がかかりますが、すでに確立しているならそれを活用することで優位に農業を始めれらます。

デメリット:前任者を含めた関係性も引き継いでしまう

農業を継承する場合、一から農業をするのとは異なり、現在の農業を受け継ぐことになるため、思い描く理想の農業というわけにはいかない場合があります。

さらに、継承のメリットを受けるためには人間関係の引き継ぎが必要です。この前任者のいる人間関係が残ることがデメリットと感じる人もいるでしょう。

また、事業継承は負債ごとそのまま引き継ぐ可能性があります。
0から農業を始める場合とは違った苦労をするということがデメリットになってきます。

農業の事業継承を成功させる秘訣

事業継承を成功させるためには、後継者を探している農家と後継者となる新規就農者、両者の協力が欠かせません。お互いに認識の違いがあると、トラブルに発展してしまう可能性があります。

新規就農者が農業継承をする際に押さえておきたいポイントついて解説します。

継承後の計画を具体的にする

新規就農者にとって、継承する農業で収益が出せるかどうかの判断は重要な問題です。失敗しないためにも、事前に中長期的な経営計画を具体的に立てておきましょう。

経営計画を作成する際は、移譲する側の農家から情報とアドバイスをもらうようにしましょう。土地の状態、主に栽培している作物の種類、販路についてなど、可能な限り多くの情報を把握しておくことが重要です。

実績から具体的な数字を予測できるので、将来の予想が立てやすいでしょう。移譲する側の農家から技術や知識などを教えてもらえるのであれば、栽培の仕組みや計画も同時に作っておくと安心でしょう。

継承後の取り決めに第三者機関を入れる

後継者を探している農家にとって、身内ではない相手への経営移譲は、土地や事業を売却するだけという単純なものではありません。

特に土地の所有権が関係してくると、農地に関わらずトラブルに発展する場合があります。

こうした問題を防ぐためには、第三者機関に仲介してもらうことも1つの選択肢です。第三者機関には、移譲者や後継者とは利害関係のない、中立的な立場を取れる組織や法律関係者に依頼しましょう。仲介が入ることで、トラブルがあった際にも安心して対処できます。

事業継承をしたい農家さんとマッチングする方法

事業継承を行う際のマッチング方法には以下の方法があります。

事業継承のマッチングサイトを活用

事業継承をしたい農家さんを専用のM&Aマッチングサイトから見つけることができます。

売り手と買い手の双方が、譲渡する事業の詳細をもとに互いの条件を確認して、合意まで進められます。

合意までにはさまざまなケースがあり、両者のみでやり取りするケース、コンサルタントが仲介に入ってスムーズなやりとりを行ってくれるケースもあります。どのようなケースがあるのか、規模感も踏まえてご自身に適したM&Aマッチングサイトを探しましょう。

M&A専門家へ依頼

M&Aには、資産を継承するための税金や法律などの専門的な知識が必要です。専門家に依頼すると手続きがスムーズで、不要なトラブルを避けられるでしょう。

また、適切なマッチング相手を探してくれるサービスもあるため、自分の労力を減らすことも可能です。

自治体へ相談

自治体によっては、M&Aマッチングを支援しています。農業者を増やすための施策を国や自治体が取り組んでいるため、支援幅が広がりをみせています。

農家で働いてから継承

一度、従業員になってから継承することも一つの手段です。
農業のノウハウや経営を直接学べ、各取引先からの信頼も作りやすいというメリットがあります。

すぐにでも農業を始めたいという方には向きませんが、知識や経験がある方のもとで農業に向き合うことはプラス効果もあり、かつその姿勢は周囲からの理解や協力も得られやすいでしょう。

農業の事業継承に役立つ「経営継承・発展支援事業」とは?

経営継承・発展等支援事業とは、これまで地域農業を担ってきた農業従事者から、農業経営を継承した後継者に対して、国と市町村が一体となり、必要経費を補助する制度のことです。

農業では、後継者へ事業を継承することを事業承継ではなく、経営継承と呼びます。これは、農業が一般企業の引き継ぎ方と異なる方法で行なわれるためです。農地や農業用機械とともに、農業に関する技術を後継者へ引き継ぐことが、事業を続けるうえでの必須条件となっています。

以下の2つの条件を満たして農業を引き継ぐことで経営継承に該当します。
・経営者が入れ替わっても、農業としての生産活動が続いている
・後継者が農業経営の資源を引き継ぎ、農産物の生産を行う

従事者の高齢化や担い手不足、このような状況を改善し、将来の農業を担う後継者や経営体を確保することを目的に、経営発展計画に基づく取り組みを実施した後継者に対して、最大100万円が補助されます。

詳しくは、下記の農林水産省HPのリンク先よりご参照ください。

参考サイト:経営継承・発展等支援事業(経営継承関係)- 農林水産省

事業継承による農業を検討している方は、イノチオアグリへ!

イノチオアグリは「農業総合支援企業」をコンセプトに、ビニールハウスに携わり50年以上、培ってきたノウハウを活かし、これから農業をはじめられる方をご支援します。

事業継承による新規就農や農業参入を検討されている方、農地取得による新規就農や農業参入を検討されている方、まずはお気軽にお問い合わせください。各種専門知識を持った社員が対応させていただきます。