2月16日から3月15日までの間に提出する必要のある、確定申告。

新規就農や脱サラして農業をはじめた場合などは、慣れない手続きに戸惑って、書類作成にストレスを感じてしまうことがあるかもしれません。

今回のコラムでは「農業の確定申告」にフォーカスし、確定申告とはどういうものか?をはじめ、必要書類や手続きの方法についてわかりやすく解説します。

そもそも確定申告とは?

確定申告とは、1年間の所得をベースに所得税額を算出し、確定する手続きのことをいいます。

1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得額に対する所得税を算出し、2月16日から3月15日までの間で確定申告を行います。

所得税の納税方法は申告納税方式※1で、納税者自身が税務署に1年間の所得税額を申告し、納付する仕組みとなっています。

※1:税金を納めるときに、自分で納めるべき金額を計算して納税する方法のこと。

農家の収入とはどういうもの?

農家にとっての「収入」とは、農業を営むことで得た収入のことです。 具体的には、以下に該当するようなものです。

販売金額

米や野菜、果樹、肉用牛などを出荷・販売した金額のことです。

家事消費・事業消費

自分で生産した農作物を自宅などで消費した場合や、事業のために保有する米などの農作物の金額のことです。

雑収入

農業を営む関係で生じた収入のことです。おおまかには、販売金額、家事消費・事業消費のどちらにもあたらない営業収入がこれに該当します。

農業における収入金額とは、販売高だけではありません。
上記の3つ「販売金額」「家事消費・事業消費」「雑収入」に年末の農産物の在庫高を加え、その年初の在庫高を差し引くことで、収入を計算します。

兼業農家も対象?確定申告が必要な場合とは

確定申告の必要があるのは「給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人」です。

給与所得に対する所得税の計算は、年末調整というかたちで会社側が手続きを行うため、給与所得は確定申告の対象外です。

たとえば、給与以外の収入が農業のみで、なおかつ農業の規模が小さく、年間所得が20万円に満たない場合は、確定申告の必要はありません。

ただし、金額に関わらず、農業所得を得ている場合は住民税の計算方法が変わります。
そのため市区町村の住民課には、農業所得を得ていることを申告する必要があります。

確定申告をしないとどうなる?

3月15日までに前年の分の確定申告をする義務がありますが、期日を過ぎても申告を行わない場合、税務調査が行われます。

調査の結果、申告すべき所得が見つかった場合、「無申告加算税」が本来納付する税額に上乗せして請求されます。

納付すべき税額が50万円までの場合15%、50万円を超える場合は50万円×15%に加え、超えた部分に20%を乗じた額が加算されます。
たとえば、支払うべき税額が60万円とすると、9.5万円もの加算税が課せられ、69.5万円の所得税を支払わなくてはなりません。

本来は収入として扱うべき金額を知らずに申告しなかった場合など、悪意はなくとも申告漏れが発生するケースも考えられます。
そのような場合でも過少申告加算税が課せられるため、期日を守り、しっかりと申告を行うことが重要です。

農業の確定申告で経費になる費用・勘定科目とは

農業において認められる経費とは、農業で収入を得るために支出したお金を指します。

具体的には、以下のような出費を経費として計上できます。

勘定科目名 内容
雇人費 農作業や出荷のお手伝いをしてくれる人に対する給与
小作料・賃借料 農地や農機具などの賃借料
減価償却費※3 資産として計上した農機具や搾乳牛などの額のうち、当期に償却する分
利子割引料 農機具の購入資金など、農業用に借り入れた額の利子
租税公課 固定資産税や不動産取得税、自動車税など
種苗費 種子や苗の購入費用
肥料費 肥料の購入費用
農具費 固定資産に計上されない農具の購入費用
農薬衛生費 農薬代、家畜薬代、共同防除費など
諸材料費 ビニールや縄、針金などの材料にかかる費用
動力光熱費 ハウスの温度管理や農機具の燃料として使用した水道光熱費や灯油代など
作業用衣料費 作業着や長靴などの購入費用
農業共済掛金 害虫や害鳥の防除代など、農作物にかかる共済掛金
荷造運賃手数料 出荷時の包装費用や運賃など
土地改良費 土地改良事業の費用、客土費用など


※3:減価償却費については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。

関連記事:農業所得における減価償却費の計算方法とは?耐用年数も紹介


上記の表は経費の勘定科目の一部です。
その他の勘定科目や経費の振り分けについては、税務署へお問い合わせください。

参考資料:税務署「帳簿の記帳のしかたー農業所得者用ー」

青色申告は節税できる?特徴や申告方法を解説!

青色申告特別控除とは、青色申告を選択している人に適用されるものです。

農業を営んでいる人も青色申告制度を選択して手続きを行うことで、青色申告特別控除を受けることができます。

次では「青色申告」、これと対比される「白色申告」の特徴、青色申告を選択した場合はどうなるのかなど、申告方法についてご紹介します。

「白色申告」と「青色申告」の違い・必要書類とは?

確定申告には、「青色申告」と「白色申告」があり、それぞれ必要な書類や受けられる控除などが異なります。

  青色申告 白色申告
対象者 事業所得や不動産所得、又は山林所得がある方
記帳する内容 ・売上、仕入、経費などの金額
・取引日、販売先や仕入先の名称
税制上の特典 特別控除
最大65万控除(条件あり) なし
専従者給与
配偶者やその他親族は、適正金額を必要経費にできる 配偶者は最大86万円、その他親族は最大50万円(事業専従者控除として)
純損失の繰越し
翌年以後3年間にわたって順次所得金額から差引可能 変動所得や被災事業用資産の損失のみ繰越可能
減価償却
通常に加えて
特例(少額減価償却資産の一括償却)が可能
通常通り
貸倒引当金
債権残高のうち一定の割合を引当金として必要経費 会社更生や再生手続きの申し立てなどの再建に限り、一定割合が可能
節税効果
白色申告よりも有利 特別控除はなし
収入保険制度 可能(条件あり) 不可
作成書類 ・損益計算書
・貸借対照表
(55万控除、65万控除に必要)
・収支内訳書
必要な帳簿 正規の簿記(複式帳簿)による
記帳が必要。

・現金出納帳
・経費帳
・売掛帳
・買掛帳
・固定資産台帳
など
簡易帳簿による記帳
申請に必要な
手続き
・所得税の青色申告承認申込書
・青色事業専従者給与に対する届出書(家族に給与を支払う場合)
など
特になし


簡単に言えば、白色申告は「申告方法は簡単だが特別控除が受けられない」、青色申告は「申告方法は複雑だが特別控除が受けられるほか、さまざまなメリットがある」ことが大きな特徴です。

青色申告を行うメリットとは

表でご紹介した青色申告のメリットについて、さらに詳しくご紹介します。

青色申告特別控除による節税ができる

青色申告特別控除とは、青色申告を選択した人が受けられる控除です。

合計所得(所得のうち不動産所得、事業所得、山林所得)から一定の控除額を差し引くことができ、この金額をもとに所得税額を算出します。
青色申告特別控除の分だけ課税所得が減るため、節税につながります。

青色申告特別控除では、複式簿記で記帳する場合は55万円、電子申告(「e-Tax」による申告)または電子帳簿保存を行っているときは65万円が控除されます。

また、現金の出入りで帳簿をつける現金主義※2の場合や、簡易簿記(単式簿記)などの場合は10万円まで控除を受けることができます。
所得額が青色申告特別控除額に満たないときは、所得額が控除額の上限となります。

※2:現金主義による帳簿付けは、前々年の事業所得と不動産所得の合計が300万円以下の場合のみ認められます。

事業専従者の給与を必要経費に算入できる

同一生計の配偶者や親族が働いていても、通常はその給与分を必要経費とすることはできません。白色申告でも、対象者が事業専従者に該当するときは一定の手続きを行えば必要経費にできますが、その額は限られています。

一方、青色申告は通常の範囲内であれば、事業専従者への給与を必要経費として計上することができます。家族で協力して農業事業を営んでいる場合は、青色事業専従者給与は重要なポイントになります。

ただし、青色専従者となれるのは一部例外を除いて「専ら農業に専従している家族」のみです。たとえば、平日はサラリーマンとして勤務している家族が休日だけ農作業に従事していても「農業に専従している」とは言えないため、青色専従者とすることはできません。

損失の繰越が可能になる

赤字が出た場合、青色申告であれば、純損失の額を翌年以後最大3年間にわたって所得金額から控除することができます。

収入が不安定になることもある農家にとっては、大きな節税ポイントとなります。

収入保険に加入できる

収入保険とは、農業者の販売収入全体に対して、基準収入の9割を下回った場合、下回った額の9割を上限に補填してもらえるものです。青色申告の実績が1年以上あれば、この保険に加入することができます。

農業は天候などにも左右される事業のため、収入保険へ加入できることは安心材料になります。

青色申告を行う方法は?

青色申告を利用した申告方法を解説します。

青色申告承認申請書

青色申告で確定申告を行う場合は、「青色申告承認申請書」を作成し、管轄の税務署に提出する必要があります。

現金主義と簡易簿記によって青色申告の適用を受けたい場合は、複数の届出が同時にできる「所得税の青色申告承認申請書、現金主義の所得計算による旨の届出書」により、青色申告の申請を行います。

提出期限

青色申告承認申請書の提出は通年で受け付けてもらえますが、翌年からの確定申告を青色申告にしたい場合などは、提出時期に注意が必要です。

当期分の確定申告を青色申告にしたい場合の提出期限は通常、申告しようとする年の3月15日までです。たとえば、2024年分の確定申告を青色申告にしたい場合は、2024年の3月15日までに青色申告承認申請書を提出しなければなりません。

もし提出期限を過ぎた場合は、2025年分の確定申告から青色申告が適用されます。

なお、1月16日以後に新たに事業を開始する場合は、事業開始から2ヶ月以内に青色申告承認申請書を提出すれば、青色申告を適用することができます。

提出時期によっては、青色申告を受けたいときに受けられないことがありますので、早めに適用を受けたい場合は注意しましょう。

青色申告は難しい?会計ソフトの利用がおすすめ!

すでにご紹介した通り、確定申告を青色申告で行うとさまざまなメリットがあります。

税負担を可能な限り軽くする方法として、インターネットで「e-Tax」による申告(電子申告)を行うか、電子帳簿保存を行うという2つの手段があります。
これらの方法で申告することにより、青色申告特別控除の最高額である65万円の控除を受けることができます。

電子申告あるいは電子帳簿保存を効率的に行うために、会計ソフトの利用をおすすめします。手書きやExcelの対応では、どうしても管理や計算のミスが発生してしまう可能性があるためです。

専用の会計ソフトを導入すれば、正確に計算される上に項目立てや仕訳作業も楽になるため、日常的な記帳が効率化し、確定申告の負担を大幅に軽減することが期待できます。

会計ソフトは、有料のものからフリーソフトまで、色々なものが揃っています。 ソフトによっては、そもそも農業の確定申告には適していないものもありますので、事前に機能の違いを調べ、比較した上で導入を検討するとよいでしょう。

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日々の帳簿や確定申告は、農業収入を見つめ直すきっかけになります。
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