農業で進む障がい者雇用とは?利用できる支援事業について解説
農業と福祉の課題を解決に導く「農福連携」の動きが今、全国に広がっています。
農林水産省はこの取り組みを推進するため、農福連携に関するビジョンや支援事業を講じています。
今回のコラムでは、農業での障がい者雇用といった農福連携を実施するにあたって利用できる支援事業について解説します。
目次
「福祉×農業」の現状とは
農業と福祉の課題を解決する「農福連携」の拡がり
農福連携とは、「農業」と「福祉」が連携することを意味し、障害を持つ人々が農業分野で働くことで社会参画を実現することを主な目的としています。この取り組みは、農業の担い手不足や高齢化といった課題を解決するだけでなく、障がい者の就労機会を増やすことにも貢献しています。
農林水産省は農福連携を推し進めるために「農福連携等推進会議」を設置し、そこで公表した「農福連携等推進ビジョン」では、2030年までに新たに12,000の農福連携に取り組む団体を創出するという目標が掲げられています。
障がい者雇用が農業法人にもたらすメリット
農業法人における障がい者雇用は、社会貢献に留まらず、経営面でも多くのメリットがあります。
まず、農福連携により、農業分野では人材の確保が可能になります。 担い手不足や高齢化が課題となっている農業現場に障がい者を受け入れることで、必要な人材の確保につながり、農家にとっては大きなメリットになります。障がい者にとっても働き先を確保できるため、お互いにとってのメリットと言えます。
また、障がい者の雇用によって人手が増えれば、経営規模や栽培規模の拡大が期待できます。限られた人数では賄えなかった作業をすることも可能になり、経営者は作業以外の仕事にも時間を割けるようになります。
さらに、長期的に見れば、人手が無いために農地を放置してしまうといった事態を避け、農地をきちんと管理・維持していくことにも繋がります。
農福連携に活用できる支援制度・補助金
農福連携の推進に向けて活用できる支援制度の「農山漁村発イノベーション推進・整備事業(農福連携型)」についてご紹介します。
この事業は、障がい者が農林水産業に参画するための技術習得や、より作業がしやすい設備や施設の整備、人材育成などの支援を目的としています。
「推進事業」は技術習得や作業のマニュアル化といったソフト面を、「整備事業」は施設・設備の設置や整備といったハード面を支援する内容です。
農山漁村発イノベーション推進事業(農福連携型)
1.農福連携支援事業
障害者等の農林水産業に関する技術習得、作業工程のマニュアル化、ユニバーサル農園の開設、移動式トイレの導入等を支援します。
事業期間 | 上限2年間 | |
交付率 | 定額 | |
上限金額 | 条件 | 金額 |
簡易設備、高度経営、 介護・機能維持の場合 |
上限150万円 | |
経営支援の場合 | 上限300万円 | |
作業マニュアルの作成等に 取り組む場合 |
初年度の上限額に それぞれ40万円加算 |
2.普及啓発・専門人材育成推進対策事業
農福連携の全国的な横展開に向けた取組、農福連携の定着に向けた専門人材の育成等を支援します。
事業期間 | 1年間 |
交付率 | 定額(上限500万円等) |
農山漁村発イノベーション整備事業(農福連携型)
障害者等が作業に携わる生産施設、ユニバーサル農園施設、安全・衛生面にかかる附帯施設等の整備を支援します。
事業期間 | 上限2年間 | |
交付率 | 1/2 | |
上限金額 | 条件 | 金額 |
簡易設備の場合 | 上限200万円 | |
高度経営の場合 | 上限1,000万円 | |
経営支援の場合 | 上限2,500万円 | |
介護・機能維持の場合 | 上限400万円 |
障がい者雇用をする際のステップ
ここからは、障がい者を雇用するまでのステップについて解説します。
雇用方法には主に、障がい者を直接募集して雇用する場合と、障害福祉サービス事業所への作業委託を通じて雇用する場合の2つのパターンがあります。
出典:農林水産省・厚生労働省「はじめよう!農福連携 スタートアップマニュアル」
直接雇用する場合
1.障がい者との体験交流
農業者の中には、障がい者や地域住民との交流を深める目的で収穫などの農作業体験会を開催したことをきっかけに障がい者との交流が深まり、その後の雇用につながったケースがあります。
このように、近隣の障害福祉サービス事業所やボランティア団体などから「農」や「食」に関心がある方と接点を持つことが農福連携のファーストステップとなります。
2.障がい者へアプローチ(ハローワークや職業紹介、特別支援学校等)
農業分野に興味がある方を募る際は、ハローワークや職業紹介、特別支援学校などを通じてアプローチを行います。
ハローワークで募集する際、障がい者雇用の具体的なプランが固まっていなくても相談が可能です。求人申し込みなどの具体的な方法についてサポートしていただけます。
3.トライアル雇用
働いてくれる障がい者にとってどのようなサポートが必要かを把握するためにも、トライアル雇用期間を設けることが大切です。
精神障がい者または発達障がい者で週20時間以上の就業時間での勤務が難しい場合は、トライアル雇用期間中に週20時間以上の就労を目指すことを条件として、週10時間以上20時間未満の短時間の試用雇用から開始することができます。
4.サポート制度の活用
雇用にあたり課題がある際には、サポート制度を利用することができます。
例えば障がい者の職場適応が難しい場合に「職場適応援助者(ジョブコーチ)」から専門的助言を受けたり、障がい者の雇用管理に関して「障害者就業・生活支援センター」から一体的な助言を受けたりすることができます。
5.正式雇用
上記のステップを踏むことで正式雇用に繋げることができます。
一定の条件を満たす労働者として雇い入れた際は「特定求職者雇用開発助成金」などの助成金の支給を受けられる場合があります。詳しくは、下記サイトを参考にしてください。
障害福祉サービス事業所に農作業を委託する場合
1.事業所へアプローチ
農作業を請け負ってもらう障害福祉サービス事業所を見つける方法としては、下記の方法があります。
- 企業が発注したい物品や役務内容を受注可能な障害福祉サービス事業所にあっせん・仲介する「共同受注窓口」を利用する
- 自治体の保健福祉部局に相談する
- WEBサイトを通して近隣の障害福祉サービス事業所に問い合わせる
2.自治体等の福祉部局と相談
正式に契約を結ぶ前に、まずは試行的に農作業を請け負ってもらえると安心です。主には次の2パターンがあります。どちらのパターンが良いかは、共同受注窓口や保健福祉部局を交えて相談しましょう。
- 正式契約と同時に、農業者と障害福祉サービス事業所間で農作業員関する請負契約書を締結し、報酬を支払う
- 農業者と障害福祉サービス事業所間で請負契約を締結せず、短期間・無報酬で「営農ボランティア」をする
01.の場合、ほ場で障がい者に具体的な指示を行うのは障害福祉サービス事業所の職業指導員となります。農業者が直接指示することができないため、職業指導員と上手に連携することが重要です。
3.正式契約
正式契約の締結にあたっては福祉的な知識も必要となるため、共同受注窓口や保健福祉部局の担当者に、契約締結の仲介を依頼しましょう。
契約後は、障がい者が農作業を円滑に実施できるよう、栽培管理やほ場の管理に十分な配慮が必要となります。
農福連携でトマト栽培に取り組むお客さまの事例
ウェルファームMINORI(大分県)
大分県別府市に位置するウェルファームMINORIは、農協共済別府リハビリテーションセンターの障害福祉サービス事業所です。
ここでは、農作業を通じて就労継続支援B型の利用者が機能訓練を行い、障がいの特性に応じた作業を提供しています。
栽培作物にミニトマトを選んだ理由は、片手での収穫が可能で、車椅子利用者でも作業ができる点にあります。利用者は自立した生活を目指し、農作業を通じて基礎体力を養うことができます。
ウェルファームMINORIの取り組みについては、こちらの記事でさらに詳しくご紹介しています。
関連事例:農作業を通じて障がい者の方々の支援を-ウェルファームMINORI
農福連携の情報収集におすすめ「ノウフク」とは
ノウフクは、農林水産省が実施している農福連携を推進する取り組みです。
農福連携の各地域の相談窓口や実現に向けたさまざまな手引き、実践事例などが豊富に掲載されています。 ノウフクが発行している各種パンフレットでは、実際に農福連携で障がい者の方と一緒に働く農家さんの声も掲載されています。
「農福連携に取り組みたいがどのように進めたらいいか分からない」「他の人がどのように実施しているか知りたい」といった方は、まずはノウフクで情報を集めるところからはじめてみましょう。
農福連携での農業参入はイノチオアグリへご相談ください
イノチオアグリは、50年以上にわたり培ってきた農業のノウハウを活かして、本コラム内でご紹介させていただいた事例以外にも、数多くの農福連携での農業参入をご支援してきました。
お客さまのご要望や条件に基づいた事業計画の作成や収支シミュレーションのご提案をはじめ、ビニールハウスや内部設備の設計まで、農業のスタートを丸ごとご支援します。
さらに、専門指導員によるサポートにより、栽培開始後の運営管理や従業員の労務管理、気象災害時の設備・機器のアフターフォロー・メンテナンスまで、お客さまの農業を総合的にサポートします。
農業に関するお悩みは、ぜひイノチオアグリまでご相談ください。