「スマート農業」という言葉は、メディアでも日常的に扱われるようになり、以前に比べて一般的になりました。しかし、実際の農業現場ではまだまだメディアで扱われるような技術が浸透していなのが現状です。その理由は、導入コストの高さ、スマート農業の技術への理解度などさまざまです。

今回のコラムでは、スマート農業の現状を踏まえて、普及しない原因と普及するためのポイントについて解説していきます。合わせて、スマート農業の活用できる補助金情報も掲載していますので、今後の参考になればと思います。

スマート農業の普及率の現状

農林水産省の2023年の調査結果によれば、スマート農業のようにデータを活用した農業を行っている個人・団体の数は、24万2,300経営体とされています。この数は、全農業経営体数から見る普及率は26.1%にのぼります。前年2022年と比較すると個人で6.9%増、団体では6.5%増と上昇傾向にあります。個人と団体それぞれの普及率は以下の通りです。

・個人経営体:24.5%
・団体経営体:60.7%

数値からもわかるように、個人の農業経営体にはまだスマート農業の普及は一般的ではないと言えるでしょう。

出展:株式会社矢野経済研究所「スマート農業国内市場規模推移と予測」

スマート農業の目的

スマート農業を導入する目的には、さまざまありますが、一般的には以下の3つポイントが注目されています。

●生産効率の向上
●課題・数値の見える化
●農業の技術継承

農業は、長らく人手不足に悩まされてきています。今後も就業人口は引き続き減少していくとされています。そのような中で、作業者数が減ってもこれまで通り、これまで以上の生産を行うにはスマート農業の普及は不可欠です。

また、農業は長年の栽培の中で培われた経験と勘がものを言う世界でもありました。経験の浅い農家にとっては参入が難しい分野とも言えます。さらに、経験と勘の農業を次世代へ引き継いでいく、これも同時に農業が抱える課題となっています。これらの課題にも、スマート農業のデータ活用が解決策の一因となってきています。

スマート農業が普及しない理由と課題

上記の内容からも、現状の農業にスマート農業が必要であるのか理解していだけたかと思います。では、なぜ普及しないのか?

その理由と課題について説明していきます。

導入コストがかかる

スマート農業に必要な機械やサービスを取り入れるには、高額な導入コストがかかるケースが多く見受けられます。そのため、一般的な中小規模の農家にとっては大きな負担となってしまいます。

また、導入後もメンテナンスに定期的な費用がかかるため、コスト問題は大きな課題となっています。

ITへの技術とリテラシーが求められる

コンピュータを用いた高度なスマート農業技術を導入するためには、利用者に最低限のIT技術とリテラシー(理解力)が求められることも課題でしょう。

これまで、コンピュータなどと無縁だった農家にハードルが高く、ましてや高齢化が進むなかではIT技術に抵抗も強く、スマート農業を導入しても使いこなせないのではないかという不安も普及を妨げる要因となっています。

通信環境が整備されていない

通信環境が整備されていない場所では、通信技術を使った機械やシステムの導入が難しい場合があります。住宅地域も近いエリアではあれば比較的問題ありませんが、山岳地帯など一部の地域では情報通信基盤が十分に整っていないことも珍しくありません。

メーカーごとの規格の違い

スマート農業は比較的新しい技術のため、メーカー間での互換性がない場合もあります。これまでの作業を楽にする目的で機器を導入しても、規格が異なり既存の機器との連携ができないなど、システムや機械の管理が難しいケースがあります。

スマート農業の市場規模

スマート農業が普及しない理由と課題について触れてきましたが、株式会社矢野経済研究所の資料によれば市場規模は、2022年度のスマート農業の市場規模は302億6,800円、2029年度に708億8,000万円にまで拡大するとされています。

今後、スマート農業は右肩上がりに成長していく分野だと位置づけられています。次の項目では、スマート農業を普及するためのポイントについて説明していきましょう。

出展:株式会社矢野経済研究所「スマート農業国内市場規模推移と予測」

スマート農業を普及するためのポイント

補助金・助成金制度を利用する

導入コストの解決方法として、国や各地方の自治体が用意している、スマート農業推進のための補助金や助成金の制度を活用しましょう。

スマート農業の導入時に必要な経費の負担軽減や、その後の継続的な補助など、農業経営のサポートになる内容となっています。補助金や助成金制度を利用することで、金銭的な負担を減らしてスマート農業を実施することにつながります。助成金・補助金をご希望する際には各、機関の最新情報を確認してください。

関連コラム:農業の資金調達は難しい?新規就農におすすめの融資・補助金を解説

リースやシェアリングを活用する

スマート農業に必要なコストを抑えるためには、リース・レンタルの活用も有効でしょう。購入によりすべての費用を払うわけではなく、利用している一定期間の料金だけを支払うことで、高額な費用負担を避けることができます。

また、近年ではレンタルではなく、シェアリングする取り組みも行われています。近隣の農家同士でシェアリングできれば機械のコストを抑えることが可能です。農家同士を競合せずに稼働率を向上させ、導入コストを低減させるなどの効果があり、今後の一般での普及が期待されています。

参考サイト:農林水産省「シェアリングによるスマート農業技術の導入コスト低減の取り組み ー 岡山県における広域シェアリング ー」

すべての作業をスマート農業に頼らない

スマート農業を導入するとこれまでの作業をすべてまかなえる・まかなってくれると勘違いする方がいますが、実際はそうではありません。これまで1日に何回もビニールハウスへ足を運んでいたのが削減できる程度に考えておきましょう。もちろんメリットもあり、栽培管理の自動化や遠隔管理によって、休日はこれまでよりも取得しやすくなるでしょう。

初期から高価な投資をしない

スマート農業は高額な投資になると同時に、活用にもそれ相応の知識と技術が求めれます。使いこなせければ、無駄な投資となる恐れがあります。特にはじめてスマート農業製品を導入する場合には、まずは小さく既存で手動で管理している物を自動に変えることから取り組んでいきましょう。

スマート農業に活用できる補助金

スマート農業には、導入を支援してくれる補助金があります。

強い農業づくり総合支援交付金:産地基幹施設等支援タイプ

「強い農業づくり総合支援交付金」の産地基幹施設等支援タイプは、地域の農業基盤を強化するための重要な支援制度です。参考までに活用例を紹介します。

消費者・実需者ニーズに応じた供給体制の構築
国産農畜産物の安定供給を目指し、集出荷施設や加工施設などの基幹施設の整備を支援します。これにより、消費者や実需者のニーズに応じた効率的な供給体制を構築します。

高付加価値化と生産コストの低減
産地の収益力を強化し、合理化を図るための施設整備を支援します。具体的には、高品質な農畜産物の生産を促進し、付加価値を高めるための設備投資を支援します。また、生産コストの低減を図るための技術導入や効率化も推進します。

みどりの食料システム戦略の推進
環境に配慮した農業の推進を目指し、化学農薬や化学肥料の削減、有機農業の拡大、ゼロエミッション化などの取り組みを支援します。これにより、持続可能な農業の実現を目指します。

要件
1.受益農業従事者:農業に常時従事する者(年間150日以上)が5名以上であること
2.成果目標の基準:設定された成果目標を満たしていること
3.面積要件:特定の面積要件を満たしていること
4.地域計画の策定:受益地全体において、実質化された人・農地プランまたは地域計画が策定されていること
5.環境負荷低減:環境負荷低減に関する研修を受講し、関連するチェックシートを提出すること
6.総事業費:総事業費が5千万円以上であること
7.費用対効果分析:投資効率が1.0以上であること

補助率
産地基幹施設等支援タイプは、総事業費が5,000万円以上の事業、かつ費用対効果分析による投資効率が1.0以上である事業が支援対象となっており。補助率は以下の通りです。

都道府県への交付率:定額
事業実施主体への補助率:事業費の1/2以内

具体的な要件や補助率については、地域ごとの特性やニーズに応じて柔軟に対応されます。

強い農業づくり総合支援交付金:産地基幹施設等支援タイプ

「強い農業づくり総合支援交付金」の生産事業モデル支援タイプは、地域の農業基盤を強化し、安定的な生産・供給体制を構築するための支援制度です。参考までに活用例を紹介します。

供給調整機能の強化
地域の拠点事業者が連携し、生産者の作業支援や供給調整機能を発揮することで、安定的な生産・供給を実現します。これにより、地域全体の農業生産力を向上させます。

生産コストの低減と高付加価値化
生産コストの低減を図りつつ、高品質な農畜産物の生産を促進します。これにより、地域の農業収益力を強化し、競争力を高めます。

持続可能な農業の推進
環境に配慮した農業の推進を目指し、化学農薬や化学肥料の削減、有機農業の拡大、ゼロエミッション化などの取り組みを支援します。これにより、持続可能な農業の実現を目指します。

要件
1.協働事業計画の承認:承認された協働事業計画に位置付けられた拠点事業者であること
2.供給調整機能の強化:地域の拠点事業者が連携し、生産者の作業支援や供給調整機能を発揮すること
3.安定的な生産・供給:国産品への需要を満たすため、安定的な生産・供給を実現すること

補助率
生産事業モデル支援タイプは、補助額の国費上限額は推進事業の場合で1協働事業計画あたり5,000万円以内、整備事業の場合は20億円以内です。
補助率は以下の通りです。

都道府県への交付率:定額
事業実施主体への補助率:事業費の1/2以内

具体的な要件や補助率については、地域ごとの特性やニーズに応じて柔軟に対応されます。

強い農業づくり総合支援交付金の詳細について知りたい方は、農林水産省のホームページまたは、各自治体のホームページをご参照ください。

関連サイト:農林水産省 強い農業づくりの支援

IT導入補助金

IT導入補助金は、事業者の効率化や生産性向上を支援するために、ITツールの導入を促進するための補助金となっています。

対象となるITツールは、業務効率化、生産性向上、セキュリティ対策などに役立つソフトウェアやサービスになります。こちらには、会計ソフト、顧客管理システム、在庫管理システム、ECサイト構築ツールなどが含まれます。また、これらのソフトウェアやサービスを使用するためのパソコンやタブレットなどのハードウェアも補助の対象になります。

補助率
補助上限額は最大450万円で、導入するソフトの1/2~4/5補助してもらえます。

関連サイト:IT導入補助金2025

補助金に関する情報収集

補助金に関する情報をタイムリーに得るためには下記のようなWEBサービスを活用しましょう。

補助金ポータル

農業をはじめとする、さまざまな補助金情報を検索できるポータルサイトとなっています。申請を希望する場合には、専門家に相談することも可能です。

関連サイト:補助金ポータル

イノチオアグリのスマート農業事業

イノチオアグリでは、施設園芸に関連するさまざまなスマート農業製品を取り扱っています。

スマート農業の発展以降、農業先進国オランダの環境制御システムの導入からはじまり、自社で環境制御システムAEROBEAT、自動灌水システムAQUA BEAT Exをはじめとするオリジナルのスマート農業製品の開発を進めてきました。今では、本社を置く愛知県を中心に日本全国の施設園芸にたずさわるお客さまの圃場へ導入している実績があります。

スマート農業の普及を促進して持続可能な農業へ!

スマート農業はまだ歴史の浅い分野です。一方で、技術の進歩は早く、新しい技術が日夜誕生しています。生産現場の課題を解決するため、持続可能な農業を目指すため、大企業からスタートアップ企業まで取り組んでいます。

スマート農業製品の導入には、さまざまな障壁がありますが、今回のコラム内容を参考にできるところから取り入れていくことをおすすめします。

スマート農業に関するお悩みはイノチオアグリへご相談ください!

ビニールハウスにたずさわり50年以上の歴史を持つイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として数多くお客さまをご支援してきました。

イノチオアグリでは、ビニールハウス建設やスマート農業に関連した製品だけでなく、収支シミュレーションに基づく作物や栽培方法のご提案や各種資材の提供まで、お客さま一人ひとりの状況に合わせて総合的にサポートさせていただきます。

農業に関するお悩みは、ぜひイノチオアグリにご相談ください。