農業は他事業に比べて、多額の初期費用が必要となります。
しかし、それらを自己資金で用意することは現実的ではありません。

日本の農家が減少している状況を鑑み、新しく農業をはじめる人(新規就農者)に対して、国や自治体はさまざまな経済的支援策を講じています。

今回は、新規就農時におすすめの融資・補助金について解説します。

農業経営の重要ポイント!資金計画はなぜ大切?

農業などの事業を運営するためには、資金が重要です。

事業をスタートする前に、「資金をどこから調達し、どう使うか」の軸となる「資金計画」をしっかりと練る必要があります。

設備資金と運転資金

事業に必要な資金は、その使い道により、大きく分けて「運転資金」と「設備資金」の2つがあります。 それぞれについて解説します。

運転資金

運転資金とは、日々の事業活動に必要な資金のことです。具体的には、種苗費や肥料費、農地の賃借料、人件費などの経費に使われる資金を指します。

これらの支払いには農産物の販売代金を充てられることが理想的ですが、販売代金が入金されるよりも前に経費の支払期日を迎えてしまうケースがあります。
そうなる前に、運転資金を調達する必要があります。

調達方法としては、金融機関から借り入れをすることが一つの方法として挙げられます。

設備資金

設備資金とは、長期的に使う設備を購入するための資金を指します。
具体的には、トラクターや運搬用の軽トラック、農業用ビニールハウスなどを購入するための資金です。

設備資金の調達方法として、金融機関から借り入れをする他、外部からの出資受け入れや補助金を活用するなどの方法があります。

資金計画とは

売上目標や利益目標を織り込んだ計画(利益計画)を作成していたとしても、それとは別に、資金計画を立てる必要があります。利益が出ていても資金があるとは限らないためです。

「黒字倒産」という言葉があるように、会計上は黒字であっても手元資金がないことで支払いができず、倒産に至ることもあります。特に農業は、作物や栽培方法によっては収穫・収入がない月が続くこともあるため、資金の流れを見通しておくことが大変重要です。

資金の流れを確認するには、月次で資金繰り表を作成することが効果的です。「いつ・いくら資金が必要なのか」を事前に明らかにすることで、余裕をもった資金調達ができ、資金不足を避けることができます。

農業は、天候や市場の状況変化など、自分ではどうにもならないことがあります。
しかし、予め計画を立てて必要な資金を準備することで、安定的な事業の継続が可能になります。

資金無しは危険!?新規就農に必要な資金の平均額とは

全国新規就農相談センターの経営シミュレーションによると、新規就農のための平均的な準備資金額、また土地以外の機械や施設を取得するのに必要な金額の平均は下記の表の通りです。

必要な資金は、栽培形態により異なります。
この調査は、水田で稲を育てる水稲栽培、ビニールハウスなどの施設で栽培する施設栽培、リンゴやモモといった果物を育てる果樹栽培の3つに分けて行われました。

栽培形態 平均準備資金額 土地を除く機械・施設準備費
水稲 6,258,000 4,327,000
施設野菜 5,285,000 7,953,000
果樹 5,093,000 3,675,000


機械や施設の準備に最もお金がかかっているのが施設野菜で、準備資金の528.5万円を260万円以上も超過しています。

施設野菜はビニールハウス建設や冷暖房などの設備が必要になるため、水稲や果樹と比べると初期費用が高くなる傾向にあります。

また、水田で稲を育てる水稲栽培では、田植え機やトラクター、コンバイン、果樹ではトラクターや運搬車、作目を問わずに草刈機や軽トラックなどが必要になります。全作目で機械や施設を取得する際にかかった平均額は561.8万円です。

機械や施設は、高い性能を望めばそれだけ費用がかかりますが、就農したばかりの頃は栽培作物の現金化まで時間がかかってしまい、経営がうまく回らない可能性もあります。
このため、自己資金がない状態で就農することは大きなリスクが伴います。

国や自治体による経済的支援制度を活用しながら、就農に向けて準備をすすめることが大切です。自分の理想の農業を実現するためにはどのくらいの費用がかかるのか、ハウスメーカーなどに依頼して一度試算してみると、資金計画や今後の見通しが立てやすくなります。

新規就農におすすめの融資・補助金と条件を解説!

ここからは、新規就農におすすめの融資や補助金についてご紹介します。

就農前研修を後押し!就農準備資金

就農準備資金の概要

就農準備資金は、次世代を担う農業者となることを目指す者に対し、就農前の研修を後押しする資金です。

都道府県などが認める道府県の農業大学校や先進農家などの研修機関で研修を受ける就農希望者に、就農前の研修を後押しする資金を月12.5万円(年間最大150万円(最長2年間))交付します。

事業の申請などの窓口は、都道府県等が担当しています。

就農準備資金の条件

対象となる人や受給の条件については、以下の通りです。
交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 研修期間中の研修生
支援額 12.5万円/月(150万円/年)×最長2年間
支援率 国による支援:100%
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立後、5年以内に認定新規就農者または認定農業者を取得すること
  3. 自営就農または雇用就農を目指す都道府県等が認めた研修機関等でおおむね1年以上(1年につきおおむね1,200時間以上)研修すること
  4. 常勤の雇用契約を締結していないこと
  5. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  6. 前年の世帯所得が600万円以下であること
  7. 研修中の怪我等に備えて傷害保険に加入すること


また特例として、国内での2年の研修に加え、将来の営農ビジョンとの関連性が認められて海外研修を行う場合は、交付期間が1年延長されるケースがあります。

申請時に青年等就農計画(農業経営開始から5年後までの経営目標や、その達成のための資金・事業計画)が必要というわけではありませんが、交付を認められるためには、就農後をしっかりと見通した計画とその根拠などの事前準備が必要です。

就農準備資金の注意点

下記にあてはまる場合は資金返還の対象となってしまうためご注意ください。

返還の対象

  1. 適切な研修を行っていない場合
  2. 交付主体が、研修計画に則して必要な技能を習得していないと判断した場合
  3. 研修終了後1年以内に就農しなかった場合
  4. 交付期間の1.5倍(最低2年間)の期間、就農を継続しない場合

初期の農業経営を支える!経営開始資金

経営開始資金の概要

認定新規就農者を対象に、就農直後の経営確立を支援するための資金を月12.5万円(年間最大150万円(最長3年間))交付する制度です。

事業の申請等の窓口は市町村が担当しています。

経営開始資金の条件

受給するための主な要件は下記の通りです。
交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 認定新規就農者(前年の世帯所得が原則600万円未満)
支援額 12.5万円/月(150万円/年)×最長3年間
支援率 国による支援:100%
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立して営農を行っていること
  3. 親元就農の場合は、農業に従事してから5年以内に経営権を継承し、新規参入者と同等の経営リスクを負うものと市町村に認められること
  4. 「人・農地プラン」に中心経営体として位置づけられているか、農地中間管理機構(農地バンク)から農地を借り受けていること
  5. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  6. 前年の世帯所得が600万円以下であること
  7. 研修中の怪我等に備えて傷害保険に加入すること


認定新規就農者の取得については、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:認定新規就農者制度とは?メリット・デメリットまで解説!

特例として、夫婦ともに就農する場合(家族経営協定、経営資源の共有などにより共同経営者であることが明確である場合)は夫婦合わせて1.5人分の交付を受けることが可能です。また、複数の新規就農者が法人を新設し、共同経営を行う場合は、新規就農者それぞれに最大150万円が交付されます。

以下の記事では、経営開始資金の要件や申請方法について、さらに詳しく解説しています。

関連記事:新規就農者育成総合対策「経営開始資金」とは?

経営開始資金の注意点

下記にあてはまる場合は、交付停止・または返還の対象となります。

交付停止の対象

  1. 交付期間中の前年の世帯全体(親子及び配偶者の範囲)の所得が原則600万円(本事業資金含む)を超えた場合
  2. 青年等就農計画等を実行するために必要な作業を怠るなど、適切な就農を行っていない場合

返還の対象

  1. 交付期間終了後、交付期間と同期間以上、営農を継続をしなかった場合

経営発展を支援!経営発展支援事業

経営発展支援事業の概要

経営発展支援事業では、就農後の経営発展のための機械・施設、家畜導入、果樹・茶の新植・改植等の導入を支援します。

すでにご紹介した就農準備資金・経営開始資金は、用途を限定しない「給付金」であるのに対し、経営発展支援事業は、特定の取り組みを国・自治体がサポートする「補助金」という位置付けです。

そのため、要件のほか、使用用途が限定されることや、交付対象者を選定するためのポイント設定があることなどが特徴です。

事業の申請等の窓口は市町村が担当しています。

経営発展支援事業の条件

受給するための主な要件は下記の通りです。
交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 認定新規就農者(就農から3年以内)
支援額 補助対象事業費として上限1,000万円(機械・施設、家畜導入、果樹・茶改植、リース料等が対象)
※経営開始資金の交付対象者は上限500万円まで
支援率 県支援分の2倍を国が支援( 国:1/2、県:1/4、本人:1/4)
償還スケジュールは10年均等
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立して営農を行っていること
  3. 「人・農地プラン」に中心経営体として位置づけられているか、農地中間管理機構(農地バンク)から農地を借り受けていること
  4. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  5. 本人負担分の経費については、融資機関から融資を受けること
使用用途
  1. 事業の対象となる機械等は、新品の法定耐用年数がおおむね5年以上20年以下のものであること。中古の機械・施設にあたっては、中古耐用年数が2年以上のものであること
  2. 原則として、トラックやパソコン等、農業経営以外の用途にも使用されるような汎用性の高いものでないこと
  3. 事業の対象となる機械等は、あらかじめ立てた計画の成果目標に直結するものであること
  4. 事業の対象となる機械等については保険加入等、気象災害等による被災に備えた措置がされるものであること
  5. 個々の事業内容が単年度で完了すること


特例として、夫婦ともに就農する場合は、補助上限額の1.5倍が上限額となります。

以下の記事では、経営発展新事業についてさらに詳しく解説しています。

関連記事:新規就農者1,000万円の補助?経営発展支援事業を徹底解説

経営発展支援事業の注意点

経営発展支援事業では、返還義務は発生しません。
しかし、本事業は国の方針に合致した取り組みを行う人に限り支援するもので、要件を満たせば誰でも受給できるわけではありません。

予算の範囲内でより良い取り組みを行う人を選定するために、ポイントで評価する制度が設けられています。経営発展支援事業への申請時に、以下の項目の取り組み状況を提出します。これを都道府県がポイントで評価し、そのポイントが高い順に国が交付対象者を選定する仕組みです。

項目 ポイント
研修 ① 農業生産に関して、自らが取り組もうとする作物を含む研修をおおむね1年以上(おおむね1,200時間以上)受けている 1
② 農業生産に関して、自らが取り組もうとする作物について研修をおおむね1年以上(おおむね1,200時間以上)受けている 2
③ ①②に加え、販売・流通・マーケティングの知識、帳簿や財務諸表の作成、労務管理などの農業経営に関する研修を受けている 3
サポート体制 ① 地域サポート計画が策定されている 1
② ①に加え、普及指導センターの普及指導活動の対象者として選定されている 2
③ ①の地域サポート計画の支援分野の全てについて、担当機関・部署が明確になっている 3
経営管理の
合理化
① 圃場等に農作業の記録(施肥量、農薬散布量、作業時間等)を毎日つける 1
② ①に加え、青色申告を実施する 2
③ ②に加え、GAP認証等を取得する 3
所得 ① 所得目標が250万円または継承する経営の直近所得から1割増の額のうち、いずれか高い額(A)となっている 1
② 所得目標が(A)の額から2割以上増の額となっている 2
③ 所得目標が(A)の額から4割以上増の額となっている 3
家族経営協定を書面で締結している 1
農業版事業継続計画(BCP)を策定している 1
データを活用した農業を実践する 1
農業経営を法人化する 1
合計(最大) 16

引用:「経営発展支援事業」農林水産省

また、交付を受けた後は、提出した計画通りに農業経営ができているか等について定期的に報告する必要があります。

さらに、その実施状況によっては、適正な管理や運営のために、事業実施主体により指導やサポートが入る場合があります。

無利子で最大3,700万円の融資!青年等就農資金

青年等就農資金の概要

青年等就農資金は、新規就農者を対象として国が無利子で資金を融資する制度です。
実際には国の出資金をもとに、株式会社日本政策金融公庫が融資に関する審査及び諸手続きを行います。

これまでご紹介した給付金・補助金と異なり、融資を受けたあとは、農業経営を行いながら定められた期間内に返済していく必要があります。

しかし、無利子で最大3,700万円を借り入れることができ、返済期間も長いという点で、初期の農業経営の大きな支えとなる制度と言えます。

青年等就農資金の条件

融資を受けるための条件は以下の通りです。
利用の検討にあたっては、日本政策金融公庫の窓口機関や、市区町村の農政課へご相談ください。

対象者 認定新規就農者
※市町村から青年等就農計画の認定を受けた個人・法人
使用用途 青年等就農計画の達成に必要な次の資金
ただし、経営改善資金計画を作成し、市町村を事務局とする特別融資制度推進会議の認定を受けた事業に限る。
施設・機械 農業生産用の施設・機械のほか、農産物の処理加工施設や販売施設など
果樹・家畜等 家畜の購入費、果樹や茶などの新植・改植費のほか、それぞれの育成費など
借地料などの
一括支払い
農地の借地料や施設・機械のリース料などの一括支払いなど ※農地等の取得費用は対象外
その他の経営費 経営開始に伴って必要となる資材費など
融資の条件 返済期間 17年以内(うち据置期間5年以内)
融資限度額 3,700万円(特認1億円)
利率(年) 無利子(お借入の全期間にわたり無利子です)
担保・保証人 担保:原則として、融資対象物件のみ
保証人:原則として個人の場合は不要、法人の場合で必要な場合は代表者のみ

引用:「青年等就農資金」日本政策金融公庫

青年等就農資金の申請手順など、詳細は以下の記事で解説しています。

関連記事:「青年等就農資金」とは??メリット・デメリットまで解説

青年等就農資金の注意点

青年等就農資金のひとつめの注意点として、申請した順に融資決定が行われる点が挙げられます。

また、各年度で予算が決まっており、予算を使い切ってしまった際には融資が行われないため、早めの申請を心掛けましょう。

ふたつめに、青年等就農資金では農地を取得できない点です。農地を取得したい場合は、自己資金を活用するか、他の制度(経営体育成強化資金)等を活用する必要があります。

青年等就農資金をはじめとした新規就農者向けの支援策には、「認定新規就農者」を取得していることが条件となるケースが多くあります。次では、さまざまな補助金・融資獲得の幅を広げる認定新規就農者の制度についてご紹介します。

資金調達の幅が広がる「認定新規就農者」とは

認定新規就農者制度とは、これからの農業を支える新規就農者を増やし、安定した地域農業の担い手を目指し育成することを目的とした制度です。

新規就農者が作成する青年等就農計画(事業計画書)を各市区町村が認定し、認定を受けた方に対して、早期の経営安定に向けた措置を集中的に実施します。

認定を受けられるのは、原則18歳以上45歳未満の方、または農業に関する知識や技能がある65歳未満の方、これらの条件を満たす役員が過半数を占める法人です。

さらに、就農してから5年以内の場合に限られており、すでに認定農業者の認定を受けている方は対象外となります。

その他の詳しい要件・申請方法については、以下の記事で解説しています。

関連記事:認定新規就農者制度とは?メリット・デメリットまで解説

認定新規就農者のメリット

認定新規就農者を取得することで、青年等就農資金をはじめ、都道府県や市町村の関係機関によるさまざまな支援を受けることができます。

さらに、就農時の経済的負担を軽減する補助金や融資にも申請できるようになります。

認定新規就農者のデメリット

認定新規就農者取得によるデメリットはありませんが、その取得に向けては、新規就農者にとって高いハードルがあります。

青年等就農計画の作成から提出までを新規就農者が行うことは、簡単ではないためです。

青年就農計画を作成するにあたり、農地の確保はもちろんのこと、農地に合わせたビニールハウスの見積や図面、農業経営におけるイニシャルコスト・ランニングコストの算出が必要です。

しかし、研修を受けながらこれらを独自で進めることは、非常に難しいのが実情です。
特に、農業業界の特性上、各コストは理想とする農業経営や栽培作物、栽培方式、農地などに応じて変化するため、独自で青年等就農計画を作成することが進めることは大変な労力が必要になります。

そのため、事業計画からビニールハウスの設計、提案まで可能なハウスメーカーに相談し、支援を受けることをおすすめします。

農業の資金調達はイノチオアグリへご相談ください

イノチオアグリは、ビニールハウス建設をはじめとした施設栽培に携わって50年以上の歴史があります。

長らく培ってきた農業のノウハウを活かし、「農業総合支援企業」として、お客さまの新規就農・農業参入を計画段階からご支援しております。 お客さまの理想の農業の実現に向けて、農場の設計や栽培方法・作業計画の作成をお手伝いします。

資金調達においても、数ある補助金・融資の中からお客さまにぴったりのものをご提案し、獲得・活用までサポートします。