ビニールハウスを建設する際に農地の見るべきポイントとは?
新規就農・企業の農業参入を検討するにあたり、農地の選択は重要です。農業生産する目的や意図、栽培作物、栽培方法、目指す生産量に応じて確保すべき農地の条件が変わってきます。
候補となる農地を見つけても水質や周囲の環境によって、適さない場合もあります。今回はビニールハウス建設に携わり50年以上の知見を活かし、ビニールハウスの建設する際の農地を選ぶポイントをご紹介します。
新規就農・企業の農業参入における課題事項とは?
新規就農・企業の農業参入時に苦労したこと
参考文献:新規就農者の実態に関する調査結果(2022年3月)
新規就農・企業の農業参入には時間と事前準備が不可欠です。「新規就農者の就農実態に関する調査結果」では新規就農・企業の農業参入時に「農地の確保」(72.8%)、「資金の確保」(68.6%) 、「営農技術の習得」(57.7%)の順に苦労したと回答した方の割合が多い状況です。就農準備段階における農地・資金・技術の3つが主な課題となります。
なかでも「農地の確保」に苦労したと回答した方が最も多く、候補地のピックアップから地権者との交渉など農地の確保は非常にハードルが高いです。実際に利便性の良い地域ほど農地の確保が難しく、認定新規就農者の申請や企業の農業参入直前まで契約が難航するケースも少なくありません。
また、確保した農地がビニールハウスの建設に適さない場合もあるため、農地の確保を行う前にビニールハウスの建設予定地を選ぶポイントを事前に把握しておきましょう。
農地の確保が何故難しいのか?
農地を確保するにあたり、大きな課題として貸し主と借り主のマッチングが思うように進まないことがあります。例えば、貸す側からすると、面識のない人に農地を貸し出すことに抵抗を感じる場合があります。また、代々受け継いできた農地を手離すことに抵抗を感じることも少なくありません。
加えて、農業を行う目的や意図、栽培作物、栽培方法、目指す生産量、ビニールハウスの規模、販売先に応じて確保すべき農地の条件が変化します。そのため、候補となる農地を見つけても水質や周囲の環境によって、農業に適さない場合もあります。
耕作放棄地が増加しているとはいえ、候補地を見つけ、希望の条件を満たした農地を確保することは容易ではありません。
農地を選ぶ際に確認すべきポイント
新規就農や企業の農業参入内容に応じて、確保する農地の条件が変化しますが、下記のポイントは農地を探すまたは確認する際の共通した重要ポイントです。
重要ポイント1つ1つを簡単にご説明します。
- 利便性 : 自宅から近く、大きな道路に面した農地
- 土地特性 : 水源が近くに存在し、水はけの良い農地
- 土地形状 : 正方形又は長方形に近い形状をした農地
- 周囲の環境: 周囲が住宅街でなく、日光を遮る建設物が無い農地
- 土地の環境: 風速や積雪の環境が厳しくない農地
- 規模拡大 : 中長期的な規模拡大を視野に近隣で空いている農地が隣接する農地
01.利便性
自宅や事務所から近く、大きな道路に面した農地を探すことがポイントです。「近さ」という点では農業の特性上、遠隔からの全自動の生産は現時点では困難であり、台風などの異常気象や機械の停止など、緊急の対応を必要する場合があるため、自宅や事務所から近い農地を確保することが重要です。
一方でスマート農業やIoT農業の技術も進んでおり、環境制御システムなどのスマート農業製品を導入することで離れた場所からも緊急の対応を軽減できます。実際に活用されているスマート農業製品の例として、雨などの環境変化を察知して、本来空気の入れ替えで活用する天窓や谷換気を自動で開け閉めすることが可能です。
これにより、雨水の侵入を自動で抑制し、病気発生のリスクを防止します。また、夜間や日中の気温変化に応じて、ビニールハウス内部の加温設備や保温設備、灌水を自動化できます。
農地の利便性はスマート農業やIoT農業の技術を活用することで多少の改善が可能ですが、農地を確保する際には自宅や事務所から近隣となる農地を最優先で探しましょう。「大きな道路に面する」の観点では、ビニールハウス建設時および栽培開始後の資材搬入する際に大きな道路に面している必要があります。
ビニールハウスの建設時にはハウス本体の骨材を4t~15tのトラックで運搬搬入するケースが多く、道路幅が小さい場合は建設できない又は建設コストが上がります。栽培開始後の肥料搬入においても同様であり、大きな道路に面した農地かどうか確認しましょう。
02.土地特性
農業は何を栽培するのかに応じて、土地特性が変わります。例えば、稲作の場合は水量確保と水が抜けにくい農地が必要ですが、イチゴの場合、水が抜けにくい農地では病害虫が発生し、計画や収量が狂ってしまうリスクがあります。
また微生物を活用した有機農業といった視点であれば、地力といった視点をもとに農地を選ぶと良いかもしれません。
ビニールハウス内部での栽培を検討する方は「水はけ」が良い農地を探し、近くに農業用水など水源があるかどうか、有機栽培を視野に検討する際は農地を検討する段階で、土壌分析(土壌診断)などを取り入れると、早期に理想的な栽培につなげられることが期待できます。
03.土地形状
ビニールハウスの栽培では、農地面積=栽培面積とはなりません。一般的に各ビニールハウスは間口と奥行の仕様が決まっていることが多く、農地の面積とハウスの仕様を照らし合わせ、ビニールハウスの設計を行います。
ビニールハウスを建設し、栽培面積を最大限確保したい場合は土地形状が正方形または長方形に近い形状が望ましく、歪な土地形状の場合は栽培面積や売上が減少する可能性が高いです。新規就農後の売上獲得の点で事前に確認しましょう。
ビニールハウスは農業経営の基盤でもあるため、最適な土地形状の農地を探すことに加えて、ハウスメーカーに依頼することで目に見える周囲の土地との高低差だけでなく、地下からの湧き水や、豪雨の際の浸水リスクなど、目に見えないことも想定しながら検討することが望ましいです。
04.周囲の環境
作物を栽培するにあたり、日光は非常に重要です。そのため周囲に日光の遮る建設物が無いかどうか確認しましょう。
また、ビニールハウスに吹き付ける風の音やビニールハウス内部の循環扇、暖房機で騒音が発生することもあります。ビニールハウスを建設し、騒音トラブルに繋がったケースもあるため、周囲が住宅街ではない場所を選びましょう。
05.土地の環境
農業経営の持続化では農地の土地環境に沿った設計強度を持つビニールハウスを建設することがポイントです。ただし、土地の環境(風速や積雪)が厳しい中での新規就農はビニールハウスの価格をはじめイニシャルコスト、ランニングコスト双方ともに高騰します。
特に積雪が多い土地では雪の重みに耐える強度を必要とするため、ビニールハウスの骨材が太くなり、積雪を溶かす設備の追加導入や暖房機の常時稼働により、利益を圧迫する可能性があります。持続的な農業経営を目指す上で、風速や積雪の環境が厳しくない農地での就農を考えましょう。
06.規模拡大
農業経営を発展させる、売上利益を伸ばしていく上で、栽培規模を拡大させていくことは必要不可欠です。特に新規就農者の場合は自己資金に加えて各機関からの融資を元手に就農するケースがほとんどであり、資金面に限界があります。
規模拡大を視野に入れ、近隣で空き農地が隣接する土地を見つけることが重要になります。規模拡大の支援策として、経営の改善を進めようとする既存の生産者や農業法人などを対象に重点的に支援を講じる認定農業者制度があります。
認定農業者を取得することで、規模拡大の際に下記の「スーパーL資金」の対象となります。また、国や地方公共団体が設けている補助金や交付金なども、規模拡大には有効活用されるケースも少なくありません。
スーパーL資金
・個人の場合: 3億円(特認は6億円)
・法人の場合:10億円(特認は20億円又は30億円)
新規就農時から大規模での栽培開始は資金面で難しい一方で、数年後に農業経営をどのような規模に発展させるのかを踏まえて、近隣で空いている農地が隣接するかどうか確認しましょう。
関連記事:スーパーL資金(農業経営基盤強化資金)とは?審査ポイントを徹底解説!
農地を探す際のまとめ
農地の確保は新規就農する上で最もハードルが高く、就農時に苦労したと回答する方が多いです。ここまでビニールハウスの建設をはじめ、施設園芸に携わり50年以上の知見をもとに農地を確認するポイントをご説明しました。
新規就農にあたり、農地の選択はその後の農業経営基盤を構築する上で最も重要です。農地を選ぶ際の確認事項をもとに最適な農地を選択しましょう。
弊社イノチオアグリでは新規就農や農業参入を農地決めから支援しています。全国の複数拠点を活用し、新規就農や農業参入に最適な農地をお客様がもつ候補地の中から選んでいきます。
本コラムで記載した農地を選ぶ際に確認するポイントをはじめ、必要に応じて土壌診断や水質診断を活用し、最適な農地選びから伴走します。ご希望の方は下記の「用地選定のポイントを相談」からお問い合わせください。
イノチオアグリは新規就農・農業参入をご支援します。
イノチオアグリは「農業総合支援企業」をコンセプトとし、お客様を多岐に渡り支援することを掲げております。施設園芸(農業ハウスやビニールハウス)に携わり、50年以上に渡り、培ったノウハウや知見を活かし、新規就農・農業参入を計画段階からご支援しております。
お客さまのご要望や条件に基づいて農場を設計し、栽培方法や作業計画を一緒に考え、事業収支の試算までの事業計画の策定をお手伝いします。
さらに、圃場研修や専門指導員によるサポートで、事業開始の準備期間から栽培開始後の運営管理や労務管理に至るまで、農業ビジネスの最前線で培ったノウハウを活かしてお客さまの農場運営をトータルサポートします。