農業を営む上で、作物の生産や機械の維持のために経営資金の準備が大変重要です。 さらに、経営改善のために新しいことに挑戦する際には、さらなる資金の投入が必要となります。

国や各市町村では、経営改善を図る意欲的な農業者の助けとなる補助金や融資を数多く展開しています。今回は、そのうちのひとつである「スーパーL資金」について、利用の要件や審査ポイントなどを詳しく解説します。

農業の資金調達は難しい?

資金調達のために融資や補助金を利用する際には、細かな制度の理解が必要です。
また、思い描いている融資計画が中長期的に破綻する可能性がないか、不安になることもあるかもしれません。

こうした制度の理解・融資計画の不安を解消するためには、制度について事前によく調査して理解を深めることや、ときには専門家に相談することも大切です。

利用に向けて上記のようなハードルはありますが、農業分野の融資や補助金は、他と比べて非常に恵まれた条件となっています。

一般に銀行で借り入れができるビジネスローンの利子は、低いものでも2%ほど、高いものだと10%を越えるものもあります。
対して、農業分野の融資制度は、無利子のものや1%未満のものも多くあり、新規就農者や農業者の心強い味方となります。

農業は、他の事業と比べても特に多額の資金が必要となります。よりよい農業経営の実現のためには、各制度を正しく理解した上で、適切に利用していくことが重要です。

低い金利で幅広い使い道!「スーパーL資金」とは?

スーパーL資金とは、経営改善を希望する農業者を資金面で応援するための制度です。

日本政策金融公庫から融資される資金のひとつであり、正式名称を「農業経営基盤強化資金」といいます。

スーパーL資金のメリットとは

スーパーL資金を利用するメリットとしては、以下の3点が挙げられます。

  • 融資額が大きい
  • 返済期間が長い
  • 融資対象となる範囲が広い

そのため、大規模な投資に向いている融資制度と言えます。

スーパーL資金は、各地域が抱える“人と農地の問題解決”を目的としています。
今日の日本では、農業者の高齢化や耕作放棄地の増加といった数々の問題が発生しており、地域農業の展望が描けない地域も出てきました。そのような地域の支えにもなるのがこの制度です。

スーパーL資金を利用するための要件は?

実際にスーパーL資金を利用するにあたり、どのような要件があるのか解説します。

スーパーL資金の対象者は?

本制度の対象者は以下の通りです。

  • 認定農業者(個人または法人)
  • 認定農業者である法人の構成員(または構成員になろうとする)個人

※個人の場合は、簿記記帳を行っていること、または今後簿記記帳を行うことが条件となります。スーパーL資金の利用には、認定農業者の取得が必要です。

認定農業者を取得する方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

スーパーL資金の詳細

スーパーL資金の融資限度額は、個人で3億円、法人で10億円です。
一般様式で申し込んだ場合の利率は0.55%~1.10%と低く、経営改善を希望する農業者にとって心強い制度です。

スーパーL資金の概要

対象者 認定農業者(農業経営改善計画の認定を受けた個人・法人)
※なお、個人の場合、簿記記帳を行っていること、または今後簿記記帳を行うことが条件となります。
資金の
使い道
農業経営改善計画の達成に必要な次の資金
ただし、経営改善資金計画を作成し、市町村を事務局とする特別融資制度推進会議の認定を受けた事業に限ります。
農地等 取得、改良・造成
施設・機械 農産物の処理加工施設、店舗などの流通販売施設
果樹・家畜等 購入費、新植・改植費用のほか、育成費など
その他の経営費 規模拡大や設備投資などに伴って必要となる原材料費、人件費など
経営の安定化 負債の整理(制度資金は除く)など
法人への出資金 個人が法人に参加するために必要な出資金等の支払い
融資条件 返済期間 25年以内(うち据置期間10年以内)
融資限度額 【個人】3億円(特認6億円)
【法人】10億円(特認20億円[一定の場合30億円])

※1
このうち経営の安定化のための資金の融資限度額は個人6,000万円(特認1億2,000万円)、法人2億円(特認6億円)です。
※2
法人の場合、特認の利用に際しては、民間金融機関からの資金調達などの要件があります。詳しくは、日本公庫等の取り扱い機関へお問い合わせください。
利率(年) 一般:0.55%~1.10%
特例:0%(公益財団法人農林水産長期金融協会より、貸付実行日から5年後の応当日の前日まで利子助成を受けた場合)
(令和5年10月19日現在)
担保・保証人 相談の上、決定されます。


また、資金の使い道も幅広く、青年等就農資金では対象外である農地取得に向けた資金としても活用することができます。

上記以外にも資金を利用するための要件があるため、詳細は、お近くの日本政策金融公庫支店(農林水産事業)へ確認することをおすすめします。

参考:日本政策金融公庫「スーパーL資金」

スーパーL資金を実質無利子・無担保で利用する方法とは

スーパーL資金は、一定の条件を満たした場合に、貸付期間の一部が無利子になる、または無担・無保証人で融資を受けられる場合があります。

それぞれの制度について解説します。

実質無利子化のための金利負担軽減措置

TPP等対策特別枠
資金が不安定になりやすい貸付当初5年間の金利負担を、実質無利子※として融資を受けることができる措置です。
※利子助成の上限は2%です。

「TPP等対策特別枠」は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの新たな国際環境・情勢を踏まえて講じられたものです。

新たに規模拡大、農産物輸出等の攻めの経営展開に意欲的に取り組む農業者を支援するため、農林水産長期金融協会が利子助成を行います。

金利負担軽減措置の概要

利子助成の対象者 実質化された人・農地プランの中心経営体として位置付けられた等の認定農業者であって、新たに攻めの経営展開を行う計画(経営展開計画)を策定した者
事業実施期間 日本公庫が融資決定したもの
利子助成の対象事業 農地等の取得・造成、施設・機械の取得、改良・造成等、長期運転資金
利子助成の
対象とならない事業
経営の安定化(負債整理など)のための資金
利子助成を
受けられる期間
貸付当初5年間
6年目以降は、通常の利息を支払う必要があります。
利子助成の
対象限度額(※)
【個人】6億円・【法人】20億円

ただし、利子助成の取り扱い額には限りがあるため、実質無利子とならない場合があります。

無担保・無保証人制度

クイック融資制度 1回あたりの融資額が500万円以下の場合に、一定の基準を満たしていれば無担保・無利子での融資が適用されます。適用の可否については、最短一週間ほどで回答を得ることができます。

対象となる方 企業経営診断手法(スコアリング手法)による判定が一定水準以上 など
対象の事業 農地等、施設・機械、果樹・家畜等、その他の経営費、法人への出資金

※ 経営の安定化(負債の整理など)はクイック融資制度の対象となりません。
利用限度額 1回あたりの融資額が500万円以下

スーパーL資金の申し込み・審査の流れとは

スーパーL資金の申し込みに必要な書類や、審査の流れについて解説します。

手続きに向けて必要なものは?

スーパーL資金の申請に必要な提出書類は以下の通りです。

  • 借入申込書兼経営改善資金計画書、経営状況報告書、借入申込書共通別紙
     (事業費支払予定表)
  • 利子助成金交付手続きに関する委任状
  • 見積書・設計書・カタログ、許認可証の写し等
  • 債務保証委託申込書(機関保証を希望する場合)
  • 最近3カ年の決算書類(貸借対照表、同付属明細書、損益計算書)
    または青色申告書の写し(一般様式での申込の場合)
  • 登記簿謄本および定款(法人の場合)

見積りや設計書を取得する際は、ハウスメーカーへ相談しましょう。

申し込みの流れ

融資を受ける場合、以下の流れで借り入れの手続きを行います。

1. 農協や銀行、公庫等に「借入申込書兼経営改善資金計画書」等の書類を提出
2. 特別融資制度推進会議(市町村に設置)による経営改善資金計画の認定
3. 日本政策金融公庫による貸付決定
4. 農協や銀行を通じて借入申込者に貸付決定を通知
5. 借用証書を作成し、農協や銀行を通じて日本政策金融公庫に提出
6. 預金口座に借入金が入金される

原則として、貸付決定後3ヶ月以内に資金を借り受けてください。また、借り入れ後の手続きとして、事業完了後は領収書を農協等へ提出する必要があります。

経営改善資金計画の確実な実行のため、場合によっては融資機関を中心にサポートを受けられるケースがあります。そのため、計画の期間中は原則として、融資を受けた金融機関に経営状況報告書を毎年提出することが求められます。

融資が下りるまでの期間は?

経営改善資金計画書を提出してから、原則一ヵ月から一か月半後に融資可否の判断が下されます。クイック融資制度を利用する場合は、書類提出から最短一週間で融資可否の回答があります。

融資審査の考え方

融資の審査にあたり、大前提として、「地域農業の担い手として、農業経営を発展させていこうとする方」が融資の対象になります。その上で、以下の3つの視点で審査が行われます。

1.これまでの経営状況はどうなっているのか
  • 経営者の能力(技術レベル、経営マインド、生産物の単収・品質、生産コスト、資産等)はどの程度か
  • 経営力を背景とした収支実績、財務内容、資金繰りはどうか
  • 経営上の課題は何か
2.経営改善のための計画は適切であり、実行可能か
  • 経営者の能力(現在の技術レベル、経営マインド等)からみて達成できるか
  • 計画の内容が過大投資になっていないか
3.計画が実行された場合に収益はどうなるか、融資返済は可能か
  • 収益予測の算出基礎となっている単収、単価等は無理のないものか
  • 償還見通しはあるか
  • 当該作物の需要・価格動向がある程度変動しても償還可能となるよう余裕を
    もったものとなっているか

上記をもとに審査された結果、経営改善資金計画の達成や融資返済の可能性に疑問があると判断された場合は、経営能力等の向上をはかり、1年後に再び融資可否の判断が行われます。

参考:農林水産省「創意工夫で経営を発展させたい方へ」

スーパーL資金と農業近代化資金の違いとは?

スーパーL資金のほかにも、農業で活用できる資金はさまざまなものが展開されています。

その中でも、「農業近代化資金」はスーパーL資金と同じく長期的に利用でき、内容が似ていることから混同しやすい融資です。

ここでは、農業近代化資金の内容と、スーパーL資金との違いについて解説します。

農業近代化資金の概要

農業近代化資金は、すでに農業を営んでいる農業法人や専業農家の方を対象として、JAバンクが実施している融資制度です。

1%(令和5年3月20日現在)という低金利措置が取られているため、こちらも利用しやすい融資制度だと言えます。さらに、認定農業者に対する特例では、借入期間に応じて0.55%から0.85%の金利となります。

農地を購入するという目的では使用できないものの、事業の効率化を図るための農業機械の購入やシステムの導入コストに充てることができます。

対象者は「農業を営む者」とされており、認定を受ける必要はないため、幅広い人が対象となるのも特徴のひとつです。

参考:JAバンク「農業近代化資金」

スーパーL資金と農業近代化資金の違いについて解説!

混同しやすいスーパーL資金と農業近代化資金の違いについて解説します。
金利や借入限度額などの違いは以下の通りです。

  スーパーL資金
(農業経営基盤強化資金)
農業近代化資金
取扱い 日本政策金融公庫、農協等 農協等
対象者 認定農業者 ①農業を営む者
②農協、農協連合会
金利 借入期間に応じて0.55~1.10%
(令和5年10月19日現在)
1.00%
認定農業者:借入期間に応じて0.55~0.85%(令和5年3月20日現在)
借入限度額 個人:3億円
法人:10億円
①農業を営む者 
 個人:1,800万円
 法人・団体:2億円
②農協等:15億円
償還期限 25年以内
(うち据置期間10年以内)
資金使途に応じ7年から20年以内
(据置2から7年以内)

※最新の金利については取扱い機関にお問い合わせください。

資金の使い道の違いは以下の通りです。
スーパーL資金は、対象が認定農業者に限定されるものの幅広い用途に活用できる一方で、農業者であれば利用ができる農業近代化資金は一部制限や条件があります。

資金の使い道 スーパーL資金
(農業経営基盤強化資金)
農業近代化資金
施設・機械の改良・取得
施設・機械・土地の復旧    △ ※1
農地等の取得 ×
土地の改良・造成
農地の賃借料の一括払い
果樹・花きの植栽育成
種苗・肥料・農薬等の購入    △ ※2
家畜の購入・育成
農業に関する研修準備    △ ※3
パソコン等導入    △ ※1
家畜排せつ物処理施設の設置
負債の整理 ×
観光農業施設

※1:認定農業者を取得している人に限ります。
※2:一定の要件を満たす集落営農組織が認可されます。
※3:認定農業者を取得している人に限り、研修のみ可能です。

また、各条件の詳しい内容については、各都道府県で異なる場合があります。

融資の活用に向けては、その資金で何をしたいのかを明らかにし、自身の農業に最も適切な制度を選ぶことが大切です。

どんな資金が活用できるのか、するべきなのかわからないときは、必要書類を準備して日本政策金融公庫や農協や銀行等、取り扱いのある融資機関に相談することで、利用に向けてサポートしてもらえる場合があります。

経営改善には経費を減らすことも大切!

農業経営を改善する際、機械や設備の購入などに向けて、新たな資金を投入することに目が向きがちです。しかし、経営改善においては新たな資金獲得と同時に、すでに発生している経費をどう削っていくかという視点も重要になります。

日々、エネルギーコストや肥料・資材の価格が高騰する中で、唯一コントロールできる費用が人件費です。人件費を削減するにはまず作業の記録から、現場の作業体制が今どうなっていて、どこに改善の余地があるのかを見つける必要があります。

現場でタブレット等から作業情報を記録し、デジタル化できる労務管理アプリ「agri-board(アグリボード)」なら、記録が自動でグラフ化されるので、現場の状況を簡単に把握することが可能です。

作業記録を紙で管理している場合、agri-boardを利用すれば、これまで記録の管理・整理にかかっていた時間が大幅に短縮され、その分、現場作業の改善に注力することができます。

agri-boardユーザーの中には、労務管理者の事務作業を年間で240時間、時給換算で24万円を削減することに成功した方もいらっしゃいます。

agri-boardについては、こちらの記事でさらに詳しくご紹介しています。

よりよい農業経営を目指すには、新たな資金の投入と経費の削減の両輪で改善をはかっていくことが大切です。

資金の申し込みや経営改善のお悩みはイノチオアグリへ

イノチオアグリは、ビニールハウスの建設を主として50年以上、農業にたずさわってきました。そのノウハウを活かし、就農に向けた資金や土地などの準備から、営農開始後の栽培フォローまで、お客さまの農業経営を総合的にご支援します。

すでに農業を開始され、今後の経営にお悩みの方は、ぜひイノチオアグリにご相談ください。お客さまの経営改善に向けて一緒にプランを考え、その実現に向けてサポートいたします。