スマート農業は、テレビや新聞などのメディアにも取り上げられ、これまでの農業を変えていくという技術として注目が集まっています。現在、日本の農業は高齢化や人手不足といった課題に直面をしており、その解決の最大の要因なるとも言われています。

今回のコラムでは、スマート農業の基本的な説明をはじめ、日本にスマート農業が必要な理由、導入へのメリット・デメリット、事例紹介と幅広く解説していきます。

そもそも、スマート農業とは?

農林水産省では、スマート農業を「ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業のこと」と定義されています。

さらにわかりやすく説明をすると、「農業」×「先端技術」=「スマート農業」ということになります。

ビニールハウスを使用した施設園芸では、環境制御システムやモニタリングシステム、自動灌水システムなどの作物の栽培を管理するシステム、カメラやセンサなどを活用した病害虫診断アプリなどでスマート農業の技術が導入されています。
水稲や露地栽培では、農薬散布などの重労働を担う自動飛行ドローンなども導入されています。

近年のスマート農業の推進背景には、生産者の高齢化、担い手の減少、労働力確保、省力化、負担や危険性の軽減、女性の活躍など、現在の日本農業が抱えているさまざまな問題があります。「これらの問題を解決できる!」と期待されるのが「スマート農業」です。

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なぜスマート農業が注目されるのか?

 

2022年7月公表の「世界人口推計2022年改訂版」によれば、世界の人口は2030年に85億人、2050年に97億人に増加する見通しです。

人口が増加すれば、これまで以上に食料の確保が必要となるため、農業の生産性向上が不可欠と言われています。また、環境面でもこれまで以上に自然に配慮した持続可能(サステナブル)な農業が求められています。

そのような観点から、世界中で先端技術を活用したスマート農業に注目が集まっています。

では、日本ではどのような観点からスマート農業が注目されているのか?
2つで視点でご説明します。

農業就業人口の減少

ご存知の通り、農業は担い手の不足や高齢化などの問題に直面しています。

担い手がいないことで受け継いできた技術を伝承できない、高齢化によってこれまでと同じ作業ができないといった課題があります。その他にも、エネルギーコストの上昇、農業資材の高騰、異常気象などさまざまな問題が農業界にはぶら下がっています。

日本の食料自給率(カロリーベース)の低下

農林水産省の発表によると令和2年度の日本の食料自給率は37%(カロリーベースによる計算法)とされています。残り63%、食料の半分以上を海外に頼っているのが日本の現状です。
食料の供給が安定しているときであれば問題はありませんが、異常気象や自然災害、輸出国の政情不安などが起きてしまうと、常に安定して食料を輸入することが困難になります。

また、世界の人口が増加することで、輸入に頼っている食料が不足してしまうという不安もあります。これらのリスクを回避するためにも、国内の食料自給率を高め、必要な時に必要な分だけ自国で食料を確保できるようにすることが求められています。

このような問題を解決するきっかけとして、スマート農業が注目されています。

スマート農業の仕組みと主な取り組み

スマート農業で用いられる技術としては、ロボット技術やビッグデータ、AIなどがあげられます。さまざまな情報をデータ化して活用することで、作業の自動化や効率化を実現する仕組みです。

具体的に、それぞれの技術がどのように活かされているのか簡単にご紹介します。

ロボット技術

農業用ロボットが、作業を自動で行えるようになりつつあります。稲刈り、レタスやキャベツなどの自動収穫などを行うトラクターなどがあります。その他にも、収穫した作物の選果や箱詰めをするロボットや、重い荷物を運搬するロボットなどが活躍しています。自動で農薬や肥料を散布することもできる農業用ドローンもその一つです。

ロボットを活用する最大のメリットは24時間365日、稼働できる点にあります。天候や体調などに左右されず、予定通り確実に作業してくれることで、生産性の向上や規模拡大にも期待できます。また、高齢化や労働者不足が進む農業界において、ロボット技術の活用と導入が進められています。

ビッグデータ

ビッグデータを解析し、効率的に栽培管理する方法を提示する農業も進められています。

たとえば、ハウス内外の温度や日射量をコンピュータで管理することで収穫や出荷時期を予測が可能となり、ニーズがあるときに適切な量の野菜などを市場に卸すことができ、食品ロスの低減にもつながります。

さらに、気象データを活用して、栽培に関する現状把握やリスク予測も可能になる。過去のデータから生育の傾向を導き出し、確実に成熟した作物の収穫に結びつけることができる。

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AI

AIの活用は、これまで熟練の生産者による長年の経験や勘で判断していた作物の状態を見て判断していた分野で役立っています。作物の形や色味から生育状況を判断して、収穫時期を予測するといった技術も誕生しています。

また、作業の効率化の面では、栽培する上で欠かすことのできない養液灌水による肥料濃度のムラをAIが学習することで、都度確認をする手間を削減しています。

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IoT

IoTの技術によって市場の動向や消費者のニーズを把握して、ニーズに合った生産が可能になってきています。需要予測ができることで、必要とする人や場所に確実に生産物を届けることができます。

栽培だけでなく、作業記録をデータ化して作業内容の振り返りと見直しを行うこともできます。農業の分野でもIoTの技術を活かして、働き方改革も行われてきています。

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スマート農業のメリット

スマート農業には期待される、農業が抱えている課題を解決するメリット多様にあります。今回は、その中から5つのメリットをご紹介します。

1:農作業の省力化・労働力削減

栽培において、ビニールハウス内の環境を作物に最適となるようコントロールすることが重要です。
しかし、環境管理は換気、遮光、温度、湿度、潅水など多岐にわたります。そのうえ所有するビニールハウスが点在していると、環境管理をすることで手一杯になってしまうことも危惧されます。

そのような課題を解決するため、環境制御システムや自動潅水システムを導入することで、作業の自動化や遠隔監視・遠隔コントロールを行うことができ、省力化や労働力削減を実現できます。

2:栽培課題・経営課題の見える化

これまで、栽培の知識・技術・ノウハウは、農業者の経験や勘に基づく匠の技となっていました。作物の生育不良や予期せぬ事象など、経験の浅い新規就農者や、大型農業法人の栽培担当者(グロワー)などは、どこに課題があるのかを見つけ出すことが困難でした。
そこで、スマート農業の特徴であるデータの「見える化」の活用が課題の解決に役立つと言われています。

各種センサでビニールハウス内外の環境をリアルタイムで判断し、あらかじめ設定した条件でビニールハウス内の装置を自動制御させることで、勘や経験ではなくデータに基づく理想的な栽培環境を生み出すことが可能です。

また、作業上で発生する労務コストも「いつ・どこで・誰が・どのような作業をしたか」ということをデータとして見える化することで、必要以上のコストが掛かっている問題点を見つけ、改善につなげることができます。

3:品質と生産性の向上

品質の向上には、栽培している生産物にとって最適な環境や条件を把握し、その環境と条件をビニールハウス内に再現する必要があります。上記でも述べているように、こうした作業は長い年月をかけて培ってきた経験と知識に頼っていました。

しかし、スマート農業の発展によって、ビニールハウス内外や培地内のデータ、気象データなどを組み合わせることで、ロスなく高品質かつ生産性の高い栽培ができるようになりました。
生産性が向上することで、食料自給率の課題解決にも期待ができます。

4:農業技術の継承

農業は担い手の不足や高齢化から起きている農業人口の減少が問題となっています。それによって代々受け継いできた農業技術が次の世代へ共有・継承しにくい状況にあります。
家族経営をしている生産者では、担い手の子どもが農業に従事しない、従事する場合でも親が高齢になってからなど、受け継いできた技術が途絶えてしまう恐れがあります。

そのようなリスクを避け、農業を次の世代へ継承していくためにも、データとして記録に残せるスマート農業が期待されています。

5:持続可能な環境づくり

現在、注目されているSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)と、自然との調和が求められる農業は密接に関係しています。
スマート農業の技術を活用することによってムダな水や農薬、化学肥料の低減が期待できます。

栽培する過程で農薬や化学肥料を大量に使えば、周りの土壌や河川が汚染されてしまい、自然破壊が進んでしまいます。
一時的な収量確保だけでなく、永続的な食糧生産をするために、地球環境に配慮した持続可能な農業を行っていく責任があります。

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スマート農業のデメリット

スマート農業には多様なメリットがある一方で、AIなどの先進技術を扱うため、その技術やシステムなどによってはデメリットと考えられる点もあります。

1:導入コストの高さ

これまでの設備に加えて、システムを必要とするスマート農業には、導入コストがかかってきます。

数千円から利用できる経営や労務の管理ソフトもありますが、海外製の環境制御システムの場合では500万円以上の導入コストがかかる製品もあります。あれば便利ですが、初期費用や運用費用などを確認して、予算や目的を検討した上で導入をしましょう。

しかし、中長期使用することで成果につながる製品もあるため、栽培技術や知見のある企業へ相談してみることをおすすめします。

2:システムの互換性

スマート農業は新しい技術のため、メーカー間での互換性が十分に整っているとは言えません。

例えば、イノチオアグリが開発した環境制御システム「AERO BEAT」と自動潅水システム「AQUA BEAT Ex」であれば問題なく連動できますが、他社製品の自動潅水システムとでは、異なる規格が原因で連動できない可能性もあります。

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3:通信環境の地域差がある

一部の地域では通信環境が整っていないため、データ通信やGPS位置制御が不安定になったりすることがあります。通信が必要なスマート農業システムを導入する場合には、通信環境の確認を行いましょう。

現在、通信各社が基地局の整備などを日々行っているので、今後は徐々に改善されていく見込みです。

4:IT人材の不足

スマート農業は先進技術を使うため、栽培技術に加え、コンピュータなどを使用するIT技術も必要になります。

最近では、直感的に使用できる製品も増えているので以前に比べると扱いが容易になっています。それでも、使用することに不安がある場合は、幅広いサポート体制が整っているメーカーの製品を選ぶことで不安を解消することができます。

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メリット・デメリットまとめ

スマート農業の最先端技術を取り入れることで未熟な栽培技術を補うことができ、新規就農や異業種からの農業参入のハードルを低くし、生産と経営の安定化を実現してくれます。

一方、一般的にスマート農業に活用される設備やサービスは高価格です。そのため、小規模な農家では導入しても費用対効果に見合わないことが多いのが実情です。
そのうえ、最新技術を駆使した設備を扱うためには、就業者のITリテラシーや、技術活用のサポート体制が必須となります。

メリット・デメリットやご自身の抱える課題を考慮して、必要な技術やシステムなどを相談しながら、スマート農業を導入していきましょう。

スマート農業技術を活用したお客さまの事例

山口 仁司さん・真彦さん(佐賀県)
「システムの共通性で機能以上の効果を生む⁉」

キュウリ栽培の名人、山口仁司さん(佐賀県武雄市)。現在は経営を息子の真彦さんへ継承し、トレーニングファームJA佐賀で特任講師として、就農を目指す若者たちへキュウリ栽培の手解きをしています。イノチオのビニールハウスと環境制御システムを活用した栽培方法についてお話しいただきました。

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うれしのアグリ株式会社(三重県)
「環境制御システムと再生可能エネルギーを活用したスマート農業」

三重県松阪市でミニトマトの生産・販売を行っている株式会社うれし野アグリ。
オランダ型のハイテクハウスと高性能環境制御システムを活用し  、木質バイオマスボイラを活かしたエネルギーの有効活用に取り組んでいます。

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キングファーム(愛知県)
「現場責任者を支える!農業経営のブレないモノサシ」

キングファームは、「ものづくり」をしている製造会社である大野精工株式会社(愛知県西尾市)がイチゴの生産販売・観光農園、ミニトマトの生産販売、カフェ運営を行っている農園です。
イノチオアグリのグループ企業である株式会社はれるとが開発した農業専用の労務管理ソフト「agri-board」を活用して取り組む農業経営について伺いました。

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イノチオのスマート農業製品紹介

環境制御システム AERO BEAT(エアロビート)
「使いやすく高性能!日本農業に最適な環境制御システム」

施設園芸に携わり50年以上のイノチオアグリがこれまで培ってきた施設園芸の経験と生産者の声をもとに、ハウスを複数等管理している日本のビニールハウス栽培向けに開発した環境制御システムです。
エアロビート本体とコンピュータ1台で最大10区画または、ハウスを最大10棟まで管理することができるので、管理時間と導入コストの両方を削減できます。

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自動灌水制御盤  AQUA BEAT Ex(アクアビート)
「多彩な灌水設定で作物に最適な栄養供給を実現」

多系統の灌水を時間と流用で制御でき、1株あたりの灌水量と肥料倍率などの細かな設定も行えます。オプションによる機能追加で日射制御と排液管理も可能です。
エアロビートと連動することで遠隔での管理も行えます。

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労務管理システム agri-board(アグリボード) 
「農業の記録をデジタルへ、労務と目標管理をカンタンに」

イノチオアグリのグループ企業の株式会社はれると が開発した労務管理システムagri-boardを活用することで作業時間の最適化や経費・労務費の削減を行い、施設園芸の労務管理・目標管理から「ムリ」「ムラ」「ムダ」をなくすことをサポートします。
さらに作業進捗や実績の見える化など、コスト削減だけではなく生産性改善に向けた新しいアプローチを提案します。

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農業用ドローン DJI AGRAS SERIES(アグラスシリーズ)
「ドローンを利用した次世代農業へ」

農作業に革新をもたらすDJI AGRASシリーズは、液体・粒剤の農薬、肥料および除草剤のさまざまな散布を高精度におこなえる折り畳み式のドローン(マルチローター)です。
精密な作業を可能にする最先端技術を装備。噴霧システムと流量センサにより、精緻な噴霧を実現。農業分野における効率性が飛躍的に向上いたします。

DJI AGRAS SERIESの製品情報を見る

スマート農業の相談はイノチオアグリへ!

ビニールハウスにたずさわり50年以上の歴史を持つイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として数多くお客さまをご支援してきました。

イノチオアグリでは、ビニールハウス建設やスマート農業に関連した製品だけでなく、収支シミュレーションに基づく作物や栽培方法のご提案や各種資材の提供まで、お客さま一人ひとりの状況に合わせて総合的にサポートさせていただきます。

農業やスマートに関するご相談は、ぜひイノチオアグリへお問い合わせください。