ビニールハウスのフィルムの張り替え方法とは?手順や費用について解説
ビニールハウスの被覆材は恒久的に使用できるものではありません。安定的な農業経営を行うためには、定期的なフィルムの張り替え工事が必要になります。
ビニールハウスに展張するフィルムは、10年以上の長期間展張を目的とする硬質プラスチックフィルムや、数年程度または毎年張り替えが必要な軟質系フィルムがあります。
そしてフィルムの張り替えは、被覆材を購入して生産者自身が行ったり、被覆材購入とともに張り替え工事も業者に依頼することもあります。いずれも被覆材の種別や工法、業者依頼の有無により費用は大きく変わります。
今回のコラムでは、軟質系フィルムの被覆材の焦点を当てて、張り替えにおける選択肢やポイントなどを解説いたします。
目次
ビニールハウスの張り替えが必要な理由とは?
ビニールハウスの本来目的である計画に即した作物生産を行うためには、必要に応じた被覆材張り替えの「時期」「被覆材種類」「施工方法」などを選定し実施しなければなりません。
張り替え判断の必要要素は、大きく「破れまたは損傷」「耐久性の低下」「性能の低下」の3種類があります。
理由1:破れまたは損傷
安定的な栽培環境づくりに大きく影響するのが破れや損傷です。
例えば屋根面の被覆材に大きな破れがあると、ビニールハウス内に雨や雪が降り込んできます。また、穴あきや大きな隙間により保温性が下がることで、ビニールハウス内の温度保持が難しくなったり、暖房のためのエネルギーの浪費に繋がります。
さらに、破れや損傷があると、強風時にビニールハウス内へ風が入り込むことで、更なる破れやカーテンフィルムのバタつきなどといった内部設備への影響、吹き込みの風による作物被害などが起きます。
もっとも危険なケースは、破れた箇所から強風が吹き込み、ビニールハウスそのものを持ち上げてしまうなどのケースもあります。その場合、ビニールハウスそのものの倒壊の危険性もあるので注意が必要です。
理由2: 耐久性の低下
展張された状態で破れや損傷などが見受けられない状態でも、経年で素材劣化での耐久性低下があります。果たすべき強度がないことにより、栽培期間中でも突発的な強風で被覆材の破れ、剥がれ、パラパラと分離して飛んでいってしまう事象なども起きえます。
理由3: 性能の低下
埃や土、または花粉などが表面に付着し、その汚れによる光線量の低下があります。そして耐久性低下と同様、素材変化による白濁での光線透過性能の低下や、薬剤影響による素材そのものの性能低下が挙げられます。また、被覆材内面の流滴性能が低下することにで、結露水の落下による過湿や病気への懸念もあります。
ビニールハウスの張り替え箇所は?
ビニールハウスのフィルム張り替え箇所は、主に以下の3種類です。
①天井フィルム
ビニールハウスの屋根面に相当する箇所のことです。ここのフィルム耐久性と機能特性で張り替えフィルムを選定していきます。
②妻面フィルム
ビニールハウスの間口方向(妻面側、出入口側)に相当する箇所のことです。紫外線が直行で当たらないこともあるので、天井部よりも張り替えのサイクルは長いのが一般的です。
③サイドフィルム
ビニールハウスの奥行方向の側面に位置する箇所のことです。日常的な巻き上げ換気をするためにフィルムに負荷がかかり、擦れによる破れが多く発生する箇所です。
屋根フィルムとサイドフィルムを1枚物で兼ねているタイプの張り方や、屋根フィルムと分けて別張りとして張っているものもあるので、張り替えの頻度は用途と破れなどの状況に応じて判断することが一般的です。
ビニールハウスの被覆材の種類は?
ビニールハウス用の軟質フィルムは、大きく分けて農業用塩化ビニルフィルム(農ビ)とポリオレフィン系フィルム(農PO)の2種類に分類されます。
そして多年展張型の被覆材や、毎年張り替えを前提とした被覆材など、展張期間にも種類があります。展張期間以外にも、光線透過の種類や波長、保温性能などの選択肢もあります。それらを組み合わせることで、作物の理想的な栽培に適した経営が行えます。
農業用塩化ビニルフィルム(農ビ)とは?
農ビの素材は、塩化ビニル樹脂またはポリ塩化ビニル(PVC)を主成分としたものです。
厚さは0.05㎜、0.075㎜、0.1㎜、0.13㎜、0.15㎜などありますが、外張り用途では0.1㎜以上のものが選ばれます。そして多年張りの場合は0.13㎜以上を選ぶことが多いです。
製品特徴では、紫外線カット品、保温性向上品、梨地品、防塵品、防霧品などさまざまな製品があります。 農ビの特徴は、保温性、透明性、伸張性、耐摩擦性、耐薬品(硫黄)性に優れていることです。
ポリオレフィン系フィルム(農PO)とは?
ポリオレフィン系フィルム(農PO)とは、ポリオレフィン系樹脂を原料に各種添加剤を配合して作られたフィルムです。
厚さは農ビ同様に0.05㎜、0.075㎜、0.1㎜、0.13㎜、0.15㎜などで、多年張りも0.13㎜以上のものを使用します。 フィルムを多層構造にしたり、フィルム表面に無滴剤を塗布することで、耐久性、保温性、光線選択性、防曇性、および防霧性などの複数の機能を備えることにより、近年では0.15㎜で8年耐久と表示される商品も販売されています。(但し、地域と環境差あり)
農POは上記のような中長期耐久性のあるものや耐硫黄性製品も開発されています。
フィルム選びのポイント
耐用年数やフィルム性能によって金額差があります。耐用年数が長かったり高性能なフィルムは高価な傾向にあります。
また、農ビ展張用のビニールハウスと農PO展張用のビニールハウスでは、フィルムを止める下地にも違いがあります。ビニールハウスの部材構造により農ビ展張か農PO展張かが変わってまいります。
展張年数に応じたフィルム選びは、農ビと農POでは期間が大きく異なるものもあります。5年展張や8年展張などの場合は、農POを選ばれるケースがほとんどです。
そして栽培作物に適したフィルム選びも重要です。例えば紫外線カット品は、害虫の侵入や病気の発生を抑制が期待できますが、ナスや一部の花、ミツバチなど紫外線を必要とする作物には選択いただけません。
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ビニールハウスの被覆材の張り替え時期の目安は?
ビニールハウス被覆材の張り替えは適切な時期を選ぶことが望ましいです。
多年張りや毎年張り替えといったことや、作物特性やフィルム特性、季節性や地域性、そして労働力の確保といった様々な要素から最適な時期の選定をオススメします。
作物特性での張り替え時期
栽培スケジュールで定植時期が決まっており、毎年張り替えするものなどは、作物の定植前後での張り替えをすることが多いです。 作物別の一例として、周年栽培のトマトは8月頃の張り替え、促成栽培のイチゴの場合は9月頃に張り替えることが多いです。
物理特性での張り替え時期
外気温が低温にならない秋口までに実施することが望ましいです。
暖かく無風の晴天時に実施することで、施工はスムーズ且つ安全に実施でき、展張した後の様々な懸念点が減ります。
低温時に張り替えする場合は、フィルムを引っ張りきれないことがあります。展張後はピンと張れた状態が望ましいのですが、引っ張りきれないいと、温暖時期に入っての温度上昇に伴いフィルムが伸びることで、ばたつきやフィルムの擦れや破れ、またフィルム内側の結露の落下や、ハウスとのものの振動や騒音といった事象が発生します。
このようなこと未然に防ぐ意味合いで、張り替え時は一定以上の気温が確保され、風のない日を選び、しっかり引っ張って展張することが望ましいです。
その他の要素
張り替え時はハウス内に直射日光が入るので、作物の葉焼けなどの危険性があります。
また、冬季などの厳寒期では、作物の低温障がいなどの懸念もあるので、作物の有無によって張り替え時期を選ぶ必要があります。
そしてビニールハウスのフィルム張り替えでもっとも難敵は風です。微風程度と感じても、ビニールハウスのフィルムは袋状態の凧のようなものなので、あっという間に風でフィルムを飛ばされてしまいます。
人為的に引っ張っていても、場合によって人間も空中に持ち上げられるケースもあるので大変危険が伴います。ビニールハウスのフィルム張り替えは、安全面に十分注意して実施すべきです。
ビニールハウス張り替え工事に伴う必要箇所の点検と修理
ビニールハウスの張り替えを行う場合、被覆材の張り替えのみを考えてしまいがちです。
ビニールハウスの張り替え工事では、張り替えるための被覆材や、被覆材を固定するための部材交換だけではなく、次の張り替えまでの機能維持のために、必要なメンテナンスである改善・改修・改良が必要になることもあります。
特に中長期耐久性フィルム張る場合は、次回張り替えへのサイクルの長いので、それまでビニールハウスの各部位が保持、維持できている状態でなければなりません。
張り替え時に行っておくべき箇所の点検を実施して、必要に応じて部材交換をしておきましょう。
ビニールハウス張り替え時の点検箇所とは?
点検箇所の一例として、巻き上げパイプや巻き上げ機本体の点検、被覆材を保持するための垂木材の劣化点検、谷樋の錆による穴あき、地際の水切り箇所のトタンやフィルムの老朽化対策など、張り替え工事のタイミングで同時に行うべきリペア工事やリフォーム工事などがありますが、往々にして事前に点検せず見逃してしまうことも少なくありません。
ビニールハウスの機能維持、性能維持のためには専門業者にも良く相談してみることをオススメします。
屋根フィルムの張り替え工事の具体的方法は?
屋根フィルムの張り替え工事では、農ビの張り方と農POの張り方でおのおの特徴があります。その工法についての一例をご紹介します。
農ビの特徴に応じた工法
ビニールハウスの屋根面に農ビを張る場合は、ハウスバンドと呼ばれるポリエチレン素材の平打ち線で屋根フィルムを押さえつけて固定します。
農ビは耐摩擦性に優れているので、ハウスバンドでの工法が一般的です。農ビは伸張性と耐摩擦性に優れています。その長所の通りで比較的力をかけなくともフィルムを引っ張ることができます。また展張後は多少の縮みも発生するので、縦横の引っ張り加減の技術力が求められます。
農ビの場合、ハウスバンドで押さえつけることそのものが強風への対策なので、ハウスバンドの押さえつけの力加減や結び方には一定の技術が必要です。
農POの特徴に応じた工法
農POは収縮性が少なく摩擦耐性も農ビほどないために、屋根面へハウスバンドを用いないバンドレスといった張り方をすることが一般的です。
農POフィルムを力強く延ばして太鼓のようにピンと張り、農POの四辺をビニールハウス専用のスプリング形状の針金で固定します。このスプリングも種類があり、太めのもので被覆されているものを多用されます。
ハウスバンドを用いない代わりに、3mピッチ程度で屋根面をスプリングで留めます。農POは、このスプリングでの固定そのものが強風対策となっています。四辺を引っ張りバタつきのない状態でスプリング固定するのは、レベルの高い技術力が必要です。
また伸びない農POだからこそ、しっかり固定することで性能を維持したまま中長期展張も可能となります。
屋根フィルムの張り方は?
仮設物であるビニールハウスの屋根フィルムの張り替えは、高所での作業であり足場も不安定なために危険が伴います。踏み外しや滑りなどに十分注意をし、万が一のため、工事の事前対策を講じておくことが望ましいです。
張り替えの場合は、既存フィルムの剥がし工事からの実施となります。劣化が進行したフィルムの上に乗ると破れて滑ることもあります。 古いフィルムは、固定しているタルキに貼り付いていることもあるので、細かく綺麗に取っておくことも重要です。
張り替えすべき箇所の古いフィルムを剥がし終えて、骨組みのみになったら、新規のフィルムを展張のとなります。フィルムの伸ばし方は工法により様々です。
天井の幅(間口)部分を広げてから奥行方向に引っ張る方法や、筒状で奥行方向に伸ばしていき、伸ばしきったら幅(間口)方向を広げて屋根にかぶせる工法など、ハウスの大きさや人員、そして風向きやフィルムの重量、そして慣れや工事後の品質、安全性によって取られる工法は様々です。一概にこの方法と特定されるものではありません。
また、伸ばし方や広げ方は、農ビや農POでも方法を変えることもあります。
ビニールハウス屋根面の張り替え
ビニールハウスの張り替え費用は?
被覆材の性能によって資材費は変動します。
展張期間の長かったり性能が高ければ高いほど金額も高くなります。平方メートル単価で150円から700円と金額差も大きいです。種類も相当数あり、農ビと農POの価格差もあるので、取り扱いのある業者などに問い合わせをしてみてください。ご予算に応じたフィルムが見つかるかもしれません。
そして張り替え工事は、生産者自身で行う方法と、業者に委託する方法があります。農業者自身で行う場合、地域や作物の仲間での共同作業として行うケースもありますが、近年では業者に委託することが増えてきました。
その理由は様々ですが、一例として、農業者の高齢化による共同作業の人員不足や、中長期フィルム展張の技術力が挙げられます。業者に依頼することで、必要期間内で確実に張り替えが実施できることや、張り替え作業を委託することで、営農に専念できることなどのメリットがあります。
ビニールハウスの面積別による費用
業者に委託する場合、ビニールハウスの面積によって金額は大きく異なります。
張り替え工事の場合、剥がす施工と張る施工の双方の工事費の合算になります。張り替えするビニールハウスの面積が大きくなるほど平方メートル当たりの張り替えの施工費は安く、小さいほど平方メートル当たりの張り替え施工費は高くなります。
面積別の金額の参考目安は、平方メートルあたり250円~1,500円程度などと大きく幅があります。さらに同一面積であったとしても、屋根部の巻き上げ換気の有無や施工の内容によって金額は大きく変動します。
ビニールハウスの種別による費用
業者に委託する場合、ハウスの種別によって張り替え施工費も異なります。
丸型ハウスの場合と屋根型ハウスの場合では、大きな金額差となります。同面積での比率比較で、屋根型ハウスに比べて丸型ハウスは1.2倍~1.5倍程度の施工費になることもあります。軒樋・桁樋の有無によっても金額が変動します。
さらに軒高が2.5m以上などと高く軒樋(桁樋)の無いビニールハウスになると、高所作業車などの投入必要性もあるので、仮設に伴う経費も増加します。
その他の要素
施工時期によっては、ビニールハウス新築工事に伴う繁忙により、近隣地区施工班での張り替え工事が行えないこともあります。その場合、張り替え施工業者を県外遠隔地へ要請することがあります。
地元業者では無いために、移動交通費や宿泊費などの出張費用が加算されることがあります。特に初秋などはビニールハウス建設の繁忙期であり、台風などの自然災害での修理工事も多いシーズンとなるので、予め施工業者の確保を行っておくことが望ましいです。
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