人生の折り返し地点である50代。第二の人生を充実させようと一念発起し、50代で脱サラして農業にチャレンジするという方がいらっしゃいます。50代から農業をはじめる場合、前職で培った知識を活かして経営をすることで、他の作物との差別化をはかることができます。

今回は、50代で農業をはじめる際に押さえておきたい知識についてご紹介します。

50代未経験から農家になれる?

結論から言うと、50代から農業をはじめることは可能です。全国的な農業者の平均年齢は68歳と言われているため、例えば50歳で農業をはじめたとしても、農業の世界では若手と言えます。

50代は農業を継ぐ人が多い

令和6年の農林水産統計によると、新規就農者数の推移は次の表の通りです。



出典:農林水産統計「令和5年新規就農者調査結果」

  • 新規自営農業就農者:家族から農地や農業経営権を引き継ぐ、親元就農こと。
  • 新規雇用就農者:農業生産法人などに就職する、雇用就農のこと。
  • 新規参入者:個人として新たに農業をはじめる、独立就農のこと。

雇用就農では全体の23%、独立就農では29%、親元就農では75%以上が50代の方となっています。50代で農業をはじめる人のほとんどは、親から農業を引き継いでいることがわかります。

農家になる方法とは

それでは、農業をはじめるにはどのような手段があるのでしょうか?3つの方法をピックアップしてご紹介します。

副業としてはじめる

副業としての就農は、本業で最低限の収入を確保した上で農業にチャレンジできるため、比較的リスクの少ない方法です。このような農業を行う人を「兼業農家」といいます。
副業としてはじめる場合は、家庭菜園や畑のレンタル・シェアなどの利用で作物を栽培することができます。

脱サラして一から農業をはじめるとなると、栽培をスタートしたばかりの数年間は、会社員時代と比べて収入が大きく下がってしまうことが懸念されます。自己資金が十分にある場合は問題ありませんが、収入を安定させたい場合、まずは副業として農業をはじめるのもおすすめです。

未経験から新規就農する

個人事業主として独立して新規就農すれば、「どの作物を作るか」「どのような働き方をするか」など、すべて自分で決めることができます。「独立就農」とも呼ばれる就農方法です。

現在の情勢や今後のトレンドなどを読み解き、独自性のある農業を行うことで高収益を得られる可能性もありますが、やり方次第では赤字に陥る場合もある、ハイリスク・ハイリターンな就農方法と言えます。


農業法人に就職する

大規模農場などを運営する農業法人に就職する場合は、サラリーマンと同じように、給料を受け取って働きます。脱サラというより、他業界へ転職する方法です。「雇用就農」とも言います。

ほかの就農方法とは異なり、すべてを自分の思う通りにはできないというデメリットはありますが、安定した収入を得ながら、農業の知識や技術を習得できる点が大きなメリットです。まず農業法人に就職し、知識や技術を習得してから独立するという人も数多くいらっしゃいます。

農家になるために必要な資格・経歴とは?

農業をはじめる際に必須となる資格や免許はありません。 しかし、農家になるには、農家の定義や市町村の農業委員会の判断を受け、農家として登録される必要があります。 これがなければ、農地を買ったり借りたりすることができません。

農林水産省によると、農家は「経営耕地面積が10アール以上の農業を営む世帯または農産物販売金額が年間15万円以上ある世帯」と定義されています。販売農家の場合は、「経営耕地面積30アール以上または農産物販売金額が年間50万円以上」である必要があります。

そして農地法(農地の保護や権利関係に関する法律)によると、第3条に「農地を買ったり借りたりする場合には市町村農業委員会の許可が必要」と記載があります。 許可を得るには、市町村の農業委員会に「認定申請書」や「営農計画書」などを提出し、「農地基本台帳」に登録される必要があります。 この登録を受けることで、農地の取得が可能になります。

持っておくと便利な資格

他にも、将来的な栽培形態によっては、取得しておくと便利な資格や免許があります。以下ではその一例を紹介します。

栽培形態により必須となる資格・免許

  • 普通自動車運転免許
  • 大型特殊自動車運転免許(農耕車限定)
  • けん引免許(農耕車限定)
  • 危険物取扱者(乙種第4類)等

移動や作物の運搬に必要となる車の運転に普通自動車免許が必須であるほか、栽培方法・規模によっては大型トラクターやけん引タイプの農機具を使用する場合があります。また、ビニールハウス栽培を行う場合には、ボイラー設備を使用する場合があります。 ボイラー設備では重油を扱うことになるので、総務省が認定する国家資格「危険物取扱者(乙種第4類)」が必要です。


持っていると便利な資格

  • 日本農業技術検定
  • 農業機械士 等

一般社団法人全国農業会議所が行う日本農業技術検定は、農業に関する知識や技術を問う資格試験であり、農業を学び始めた学生や農業を仕事にしたいと考える人に役立つ資格です。農業機械士は、農業機械の整備や運転などの知識・技術の習得を目指す資格です。


これらの資格取得を通して、農業を多方面から学ぶことができます。

農業を始めるために準備すること

ここからは、農業をはじめるために準備するべき3つのことについて解説します。

農業技術の習得

農業を始めるにあたり、何よりも重要なのは農業技術の取得です。 農業は単なる作物の栽培だけでなく、土壌管理や病害虫の対策、収穫後の処理など、多岐にわたる技術が求められます。これらの技術を身に付けることで、より効率的に作物を育てることができ、安定した収入を得ることが可能になります。

農業技術を学ぶ方法はいくつかあります。
まずは、専門学校や大学で農業に関するコースを受講することが考えられます。これにより、基礎的な知識を体系的に学ぶことができます。また、地域の農業研修やセミナーに参加することで、実践的な技術を習得することも重要です。さらに、先輩農家からの指導を受けることも非常に有効です。実際の現場での経験は、教科書では学べない貴重な知識となります。

このように、農業技術の取得は農業を成功させるための不可欠です。しっかりとした技術を身に付けることで、自信を深め、持続可能な農業経営を実現することができるでしょう。

関連事業:イノチオの営農サポート事業

農地の確保

農地の準備は難易度が高く、就農希望者の多くがつまづくポイントです。ただ場所が確保できればよいのではなく、作物の栽培に適している土地なのか、農業をすることで周辺の環境に悪影響がないか、資材などを運搬できる場所なのかなど、数々の条件をすべてクリアする必要があります。

そのため、下調べなしに農地探しを行うと、結果的に大幅な時間・手間のロスになってしまう可能性があります。農地として利用できる土地にはどんな条件があるのか、事前に把握しておきましょう。 以下の記事では、農地の選び方や具体的な準備方法などを詳しく解説しています。

関連記事:ビニールハウスを建設する際に農地の見るべきポイントとは?

資金の調達

農業をはじめるにあたり、ある程度の自己資金を用意しておきましょう。

全国新規就農相談センターの経営シミュレーションでは、新規就農のための平均的な準備資金額、また土地以外の機械や施設を取得するのに必要となる金額の平均が算出されています。

必要な資金は、栽培形態によって異なります。この調査は、水田で稲を育てる水稲栽培、ビニールハウスなどの施設で栽培する施設栽培、リンゴやモモといった果物を育てる果樹栽培の3つに分けて行われました。

栽培形態 平均準備資金額 土地を除く機械・施設準備費
水稲 6,258,000 4,327,000
施設野菜 5,285,000 7,953,000
果樹 5,093,000 3,675,000



栽培を開始してから作物が出荷できるようになるまでは時間がかかります。初期投資の金額が大きい一方ですぐには収入が得られないことも予め知っておきましょう。 また、のちほど詳しくご紹介しますが、50代から農業をはじめる場合、各制度の年齢制限によって取得できる補助金・融資が限られてしまう場合がある、という点にも注意が必要です。

50代で就農する際の注意点

ここからは、50代で就農する際の注意点についてご紹介します。

受け取れる融資・補助金が限定される

先述の通り、農業をはじめるにはまとまった資金が必要となります。国は、研修期間を含めた農業経営を支援するための補助金制度を設けていますが、これらの多くには「就農予定時の年齢が49歳以下であること」という要件が設定されています。

中には、「青年等就農資金」といって制度自体に年齢制限が設けられていないものもありますが、その対象者は「認定新規就農者」として認定を受けた人のみです。

認定新規就農者として認定されるための要件は次の通りです。

認定新規就農者として認定されるための要件 対象要件① 青年(原則18歳以上45歳未満)
対象要件② 効率的かつ安定的な農業経営を営むために活用できる知識・技術を有する65歳未満
対象要件③ 対象要件①又は②の者であり、法人が営む農業に従事すると認められるものが役員の過半数を占める法人
補足 農業経営を開始してから一定の期間(5年)以内の者を含み、認定農業者は含みません。
認可機関 各市区町村


関連記事:認定新規就農者制度とは?メリット・デメリットまで解説

50歳以上65歳未満の方は、対象要件②「効率的かつ安定的な農業経営を営むために活用できる知識・技能を有する65歳未満」であることを満たす必要があります。要件を満たしているかの判断基準は地域によって異なるため、詳細は都道府県の各窓口へご確認ください。

年齢については認定を受けるための最低限の要件であり、「要件を満たせば必ず認定される」というわけではないことを留意しておく必要があります。

体力的な負担が大きい

農業の仕事は体力勝負です。農家さんの平均年齢に比べると50代は若い方ですが、一般的に50代は体力が衰えてくる世代でもあります。農業未経験で、長年デスクワークなどの座り仕事をしていた方や運動する習慣があまりない方は注意が必要です。 体力に不安がある人は、まずは短期間の農業体験に参加してみることをおすすめします。

農業体験に参加して情報収集を

農業に興味を持ったら、まずは農業体験に参加してみましょう。

農業=田舎でゆったりスローライフ、というイメージを持つ方もいらっしゃいますが、自然を相手にするため、コントロールできない部分も多い仕事です。実際にやってみたらとても過酷だった、と感じる可能性もあります。 農業をはじめたあとで後悔しないためにも、自分に適性があるかという部分も含め、事前のリサーチを入念に行いましょう。

農林水産省が支援している農業インターンシップ、農業大学校や農業専門学校で学べる短期研修プログラムをはじめ、自治体やJA、民間企業もさまざまな農業体験の機会を設けています。 開催する団体によっては、収穫などの生産作業の体験だけでなく、加工や販売などの工程が体験できたり、実際の農家を訪問するプログラムを展開していたりと、農業を多方面から体験することができます。

また、農業は季節によって業務量が異なる仕事です。 より農業のリアルを知るためには、違う季節で複数回参加することもおすすめです。

50代はこれまでの経験を活かして就農できる!

50代から農業をはじめることは大きなチャレンジだと感じる方がいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、前職の経験が活かせることはとても大きなアドバンテージです。

近年、農業で収益を得るためには、ただ作物を栽培するだけではなく、いかに作物に付加価値をつけるかがとても重要となっています。農業以外の分野の知識を活かすことで、他の商品との差別化をはかり、さらなる収益アップを目指すことも可能になるでしょう。

就農に関するお悩みはイノチオアグリへ

ビニールハウスにたずさわり50年以上の歴史を持つイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として数多くの方の新規就農をご支援してきました。

農業を開始するにあたり必須となる農地や資金の準備、栽培技術をサポートするだけではなく、ビニールハウスの設計と建設、収支シミュレーションに基づく作物や栽培方法のご提案などを行っています。 脱サラ後の新規就農についてのお悩みもお任せください。

お客さまひとりひとりの状況に合わせ、就農前の準備だけでなく就農後の経営安定に至るまで、総合的にサポートさせていただきます。 就農に関するお悩みや農業を営む上でのお困りごとは、ぜひイノチオアグリにご相談ください。