ビニールハウス栽培における、冬場の保温や加温などの温度管理、暖房に使用する重油等のコスト削減は切り離せない課題です。今回のコラムでは、冬場の温度管理のポイントをはじめ、温度管理のおすすめ製品や活用方法について紹介します。近年は、燃油価格の高騰も続いてるので、今回のコラムが皆さまの農業経営に少しでもお役に立てればと思います。

冬のビニールハウスの温度

ビニールハウスは、太陽光が入り、閉め切った空間のため暖かくなりそうなイメージがありますが、それだけでは耐寒性が弱い農作物を越冬させるほどの暖かさをまかなうことは非常に難しいです。

ビニールハウスそのものに断熱効果はほとんどありません。
冬場、日中に太陽光で暖かくなっていても、外気温が下がるとともにハウス内の温度も下がっていき屋外と同程度の温度になってしまいます。

さらに、温室・ビニールハウスは外気と遮断されているため放射冷却の影響で、気象によっては屋外の外気温よりも低くなってしまう恐れがあります。

放射冷却による冷え込み

放射冷却とは、地面から熱が放出されて冷えることです。放射冷却は、冷え込んだ朝以外にも起きていて、それが顕著に表れることで気温の低下につながります。

放射冷却が起きて冷え込むときとそうでないときの差は、空が雲に覆われているかどうかによるものです。雲は地面から放出した熱を吸収し、地面に向かって放出します。そのため、曇りの日は放射冷却が起きても比較的暖かいことが多くなります。

反対に、晴れてる日では邪魔をするものがないため地表の熱がどんどん上空へ逃げていきます。そのため晴れた日は冷え込みやすくなります。

そのほかにも、空気が乾燥していたり、風が弱い日には放射冷却による冷え込みが厳しくなります。このようなことからも、ビニールハウスで作物を育てている場合は、低温による被害を防ぐための温度管理が重要になってきます。

ビニールハウスの寒さ対策を行う理由

ビニールハウスに寒さ対策が必要な理由は、主に農作物の保護や成長の促進、働く従業員の方々の職場環境を整えるためです。冬の厳しい寒さによって枯れてしまう農作物が発生したり、手がかじかんでしまい作業スピードが低下してしまうといった課題があります。それぞれ詳しく紹介していきます。

農作物が育ちずらくなる

農作物には、それぞれ適した栽培環境があります。夏野菜や南国の国の果物の場合は、常に植物に触れている温度が暖かくないといけません。農作物には、それぞれ発育に適した温度があり、その温度を下回ってしまうと農作物の変色や成長が止まったり、最悪の場合は枯れてしまうなどのリスクがあります。

そのままにしておくと提供している農作物の品質そのものが落ちてしまう可能性もあるので、農作物の品質向上と成長を促すためにも現在のビニールハウスに加えて、寒さ対策を施していきましょう。

作業効率が低下する

人間の場合、気温が18℃を下回ってくると作業効率は低下するとされています。農作業は、屋外での仕事なので必ずしも作業員のために18℃以上を推奨しているのではなく、冬の外気温はたいてい18℃を下回っているので1℃暖かくするだけでも、作業員の作業効率は上げる事が出来るということを知識として知っておくことで改善に活かすことができます。

冬場の温度管理のポイント

品質低下や収量の減少などを防ぐためにも、適切な温度管理を行うことが大切です。効率的な温度管理を行うためのポイントをご紹介します。

温度ムラの改善

ビニールハウス内は場所によって温度ムラが起こることがあります。
これは農作物の生育に関わるだけでなく、無駄な加温による燃料コストの増加につながります。

まずは、ご自身のハウス内の複数箇所に温度計を設置して、場所による温度ムラの有無や温度差をチェックしてみましょう。作物の生長点付近でハウス内の温度を測定することに注意して温度ムラの確認を行ってください。

品目別の生育適温

施設園芸で栽培されている主な野菜の育成適温は、以下の農林水産省が発表している表を見てもわかる通り、昼間の生育適温や夜間の最低限界温度にバラつきが生じています。



このように農作物によって適温が異なりますので注意してください。

参考サイト:農林水産省「省エネ型の施設園芸を目指して」
関連記事:ビニールハウス栽培に向いているおすすめ野菜・果物5選!

コストを削減してビニールハウスを加温する方法

ここまで説明してきたように、冬場のビニールハウスは農作物に最適な温度に設定することが栽培のポイントとなります。しかし、近年では燃料費が高騰しているため加温にかかるコストが農業経営を圧迫しています。そのような状況を踏まえて、ビニールハウスを省エネ・低コストで加温する方法を紹介します。

重油不使用の薪ストーブによる加温

冬場のビニールハウスの加温には、一般的には重油を用いた温風暖房機が使用されていますが、稀に薪ストーブを使用している場合があります。暖房に薪ストーブの使用することで燃料費を削減でき、重油を使用する暖房機よりも低コストでハウス内を加温できる可能性があります。人によっては、温風暖房機と併用する農家もみられます。ただ、実際に火を用いるため周囲の安全確保、定期的な安全確認が必要です。

ビニールハウスの保温性能を高めて暖房コストを削減する方法

冬場のビニールハウスの温度管理には、暖房機と合わせて保温性のある資材を併用しましょう。保温だけでなく、燃料費の削減にも役立つでしょう。

保温カーテン(ハウス内張りカーテン)を利用する

ビニールハウス内に保温カーテン(ハウス内張りカーテン)を張ることで、ハウス内の保温効果を高めることができます。。外張り材と内張り材の間にできる空気の層で断熱する仕組みで、内張り材を多層被膜とするほど、より高い保温効果が得られます。また、天井だけでなく側面・妻面もあわせて多層化することでも保温効果をさらに向上できます。

多層化する場合には、資材同士が結露水などで張り付かない程度に数cmの間隔を設けると保温効果の低下を防げます。多層化するほど光の透過性が低下するので、気象条件や農作物の生育特性に応じた資材を選ぶように注意しましょう。

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ビニールハウスの隙間対策を行う

ビニールハウスに隙間があると暖房した熱が外に逃げ、暖房効率が低下して、燃料費が余分に発生してしまいます。保温効果を高め、無駄なコストを削減するためにも、ビニールハウスの隙間対策が重要です。

カーテンの裾部が短すぎると隙間が生まれ、温かい空気が外に逃げて、外の冷たい空気が入り込んでくるため、しっかりと留め具で固定をしましょう。留め具の緩みによって被覆が破損しないよう、こまめに点検するのもポイントです。破損箇所が見つかったら、早めに修理しましょう。

また、ビニールハウスの出入り口付近や妻面にも隙間が発生しやすいので、カーテンを多層化するなどの対策をしましょう。

最適な温度管理でビニールハウスの暖房効率を高める方法

「冬場の温度管理のポイント」でも説明しましたが、ビニールハウス内に温度ムラがあると、無駄な加温による燃料消費量の増加につながります。燃料の消費量を抑えるには、温度ムラをなくすための対策が重要です。適切な温度管理により、ビニールハウスの暖房効率を高めましょう。

温風ダクトで燃料コストを削減

ビニールハウスの加温では、温風暖房機が多く使用されています。しかし、暖房機から吹き出された温風で、広いハウス内全体を温めることは難しく、どうしても温度ムラが生じてしまいます。ハウス内の温度を均一に保つためには、温風をハウス内に行き渡らせる「温風ダクト」の活用が効果的です。

温風ダクトを配置する前にハウス内の温度を測定しましょう。温度が低い場所では、ダクトの本数を増やす、吹き出し穴の大きさ・間隔を増やすなど送風量を確保する工夫が必要です。また、太いダクトを使用することで送風抵抗を抑えられ暖房効率が高まります。

さらに隅々まで温風を届けるには、温風ダクトに加えて循環扇を併用することが効果です。循環扇を設置することで多湿病害を抑制したり、光合成を促進したりする効果も期待できます。循環扇の正面部は風が強くなるため、作物に直接風が当たらないよう、温室の天井部と作物頭頂部との間に循環扇を設置するなどの注意が必要です。

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環境制御システムの活用で栽培環境を整える

冬場の温度管理をはじめ、ビニールハウス内環境は年間を通して農作物にとって最適な栽培環境を整えることが重要です。その際に役立つのが、環境制御システムです。

環境制御システムとは、スマート農業技術を活かしハウス内のさまざまな設備や装置をコンピュータで一括管理するしくみのことです。スマートフォンからハウス内の環境を確認したり装置を遠隔操作したりできるほか、装置そのものが環境を判断して自動で作動することもできます。

農作物にとって最適な栽培環境を作れることで、品質や収量の向上にも期待できます。

関連製品:環境制御システム エアロビート
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冬場の適切な温度管理で理想の栽培環境へ

冬場の温度管理のポイントをはじめ、多方面から対策方法をご紹介してきました。近年は、夏場の異常とも言える気温から暑さ対策に注目が集まっていますが、冬場の寒さ対策も忘れずに行いましょう。段階的な温度変化ではなく、突如とした寒波によって急激に気温が下がることもありますので、前もった早めの対策が鍵となります。

冬場の温度管理やコスト削減でお悩みの方はイノチオアグリへご相談!

施設園芸にたずさわり50年以上の歴史を持つイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として数多くお客さまをご支援してきました。

イノチオアグリでは、一般的な農業資材の取り扱いをはじめ、今回のコラムのテーマにさせていただいた「冬場の温度管理」「寒さ対策」に関連した製品も数多く取り揃えております。また、栽培に関する技術部隊の営農支援にサポートも行っております。冬場の温度管理にお困りの方は、ぜひイノチオアグリへご相談ください。