食生活の根幹である農業は近年の農地法改正に伴い様々な企業が新規事業として農業参入・新規参入しています。一方で農業に参入し、利益を生むことは容易ではありません。

このコラムでは、農業総合支援企業を掲げるイノチオグループが企業の農業参入におけるメリットや事業を成功に導く秘訣についてご紹介します。

農地法改正で企業の農業参入が増加

企業における農業参入の推移

リース法人の農業参入の動向(農林水産省 令和2年12月末)

統計データによると、2009年の農業法改正によって農地活用に関する規制が緩和されて以降、企業の農業参入が増加傾向にあります。農地法改正前の2008年(311法人)と農地法改正後の直近2020年(3,867法人)を比較すると約12.4倍に増えています。法人の構成比としては、株式会社が最も多く、全体の約64%を占めています。

業種別にみると農業・畜産業が全体の約26%、食品関連産業が約19%、教育・医療・福祉が14%になります。日本政策金融公庫が発表した過去の資料によると、参入企業の76.7%が赤字であるという調査結果がでています。経営に課題を抱える企業が多いのが実情です。

一方で、同じく日本政策金融公庫が出している食品関連企業への調査資料によると、4割近くの37.9%が5年以内に黒字化したと回答しています。正しいプロセスで経営をしていくことで黒字化は十分可能です。

注2:平成23年度企業の農業参入に関する調査結果(日本政策金融公庫 平成23年1月)
注3:食品産業動向調査・農業参入(日本政策金融公庫 平成30年10月)

農地法の改正による変化

2009年に農地法が改正され、企業による農地の貸借に関わる規制緩和が行われました。それにより、農地を借りて農業を行うリース方式の営農であれば、農業参入を制約されてきた株式会社やNPO法人なども農業に参入可能となりました。

加えて、農地を最大限活用するために、農地の権利取得に関する規制も見直されたことで、企業の農業参入が増加。改正前と比較し、農地を有効活用する点でも大きな効果があったと言えます。農地法の改正は重要な変化となり、貸借のリース方式であれば、企業は農業参入を全国で可能になりました。

企業が農業参入するメリットとは?

【企業の農業参入 メリット01】
既存事業や経営リソースと農業事業で生まれるシナジー

企業が本業として取り組んでいる事業や技術(領域)と農業を掛け合わせることで、これまでにない技術革新や価値を生み出す相乗効果が期待できます。飲食業界であれば、自社で農業生産を行うことで、既存商品の付加価値創出や年間通して安定した品質と農産物の確保が可能になります。

食品加工業界であれば、自社の食品加工工場に隣接する形で農業生産を行うことで流通コストの改善も期待できます。他にも再生エネルギーの活用や従業員の再雇用を目的とした新規事業の実施など、各業種や状況に応じてメリットがあります。

【企業の農業参入 メリット02】地域貢献

地域密着型のビジネス形態を持つ農業では雇用創出のきっかけとなり、耕作放棄地の有効活用など、地域の問題解決にもつながります。2017年に農林水産省が発表した資料注4によると、耕作放棄地の面積は1975年の13万1,000haから2015年には42万3,000haに増加しています。これは日本の農地の約1割にあたります。

また、その地域の雇用創出を生み出し、農業振興と社会貢献につながります。イノチオグループが担当させていただいた、親会社が製油事業を本業とする「うれし野アグリ株式会社」の事例では、農業参入をすることで100名以上の雇用を創出しています。農業が地場産業でもあるため、地域の方々との関わりが生まれ、認知度向上にも繋がりました。

また、企業だけでなく市区町村も、企業の農業参入を支援する体制や制度を設けています。千葉県は農業参入に意欲のある企業に対して総合窓口を設け、参入を関係機関と協力し、横断的に推進しています。(参考:千葉県「企業の農業参入について」)。

また埼玉県も企業の農業参入を支援する「企業等農業参入相談窓口」を開設し、繋ぎ役となって市区町村などと連携しながら支援しています。実際に参入を希望される企業側と受入希望地域をマッチングするといった支援も実施しています。(参考:埼玉県「企業の農業参入を支援します」)。

他にも、岐阜県では農業参入を成功させるために農業参入ガイドブックを公開しています。(参考:岐阜県「岐阜県就農就業ポータルサイト」)。参入にあたり、各市区町村が設けている体制や制度を事前に確認しておきましょう。

注4:荒廃農地の現状と対策について(農林水産省 令和2年4月)

【企業の農業参入 メリット03】企業PR・ブランディング強化

農業に取り組むことが、SDGsなどの社会的責任の観点から会社にとってのCSR (Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)やIR(Investor Relations:企業が投資家に対し投資判断に必要な情報を提供すること)、採用活動などの企業のPR又はブランディング強化に繋がります。

企業の農業参入を成功させるポイント

【企業の農業参入 ポイント1】
ビニールハウス建設予定地の確保

企業の農業参入を検討するにあたり、土地の選択が重要になります。農業生産する目的や意図、栽培作物、栽培方法、目指す生産量に応じて確保すべき土地の条件が変わります。

加えて、候補となる農地を見つけても水質や周囲の環境によって、農業に適さない場合もあります。そのため、耕作放棄地が増加しているとはいえ、希望の条件を満たした土地を確保することは容易ではありません。

農地の確保にあたり、企業側が掲げる目的や意図などにハウスメーカーに明確に伝え、建設用地の理想像のアドバイスをもらいましょう。理想的農地の条件が明確になったら、具体性をもって各市区町村や農業委員会に相談するのが通例です。

しかしながら、農地の売買や賃借は一筋縄ではいきません。そのため、農業生産を開始する1~2年前から、地域や関係者と良好な人間関係を作り、担当者に協力を仰ぐなど事前の準備が大切です。

関連事業:ビニールハウス事業

【企業の農業参入 ポイント2】
作物選択と事業計画 収支シミュレーション

栽培作物の選択は、事業を持続的に運営していく上で重要な判断になります。例えば、トマトを栽培する際は、一般的に需要のある品種を選ぶのか? 珍しく付加価値の高い品種を選ぶのか? 高収量を目指すのか? 高糖度で質の高いトマトを目指すのか? など選択肢はさまざまあり、イチゴを栽培する際も、イチゴ高設栽培で行うのか?イチゴ土耕栽培で行うのか?、品種はどのようなものを栽培するのか?と多くの選択肢があります。実際の栽培現場を視察し、イメージを持つのも重要です。

企業の農業参入を考えるにあたり、まずはマーケティング視点での市場調査とターゲットの分析を行い、届けたいお客様の要望やニーズをもとに栽培作物や品集を決定することが先決です。

栽培作物が決まれば、次は農産物の売上や収量、栽培に関わるイニシャルとランニングコストの算出です。目指す農産物を作るために必要なビニールハウスの仕様や設備にかかる設備費、栽培する上で必要な資材費、作業者の人件費、これらを踏まえて売上目標と栽培に関わる費用を算出して事業のシュミレーションをもとに検討しましょう。

イノチオグループでは、弊社保有の自社圃場の視察、過去の実績をもとにした作物別の事業計画収支シミュレーションを行っています。また、ビニールハウスの仕様に関しても栽培時の作業効率や労働生産性の視点も鑑み、ご提案させていただきます。

まだ、具体的に内容が決まっていない際も、お気軽なご相談から受け付けていますので、お問い合わせください。


※ 弊社データで算出困難な作物の場合は、事業計画収支シミュレーションの作成をお断りする場合がございます。

関連事業:営農サポート事業

 

【企業の農業参入 ポイント3】栽培技術の習得

企業の農業参入する上で栽培技術の習得は欠かせません。実際に「新規就農者の就農実態に関する調査結果」のアンケート結果では57.7%の方が就農時に「栽培技術・営農技術」で苦労されたと回答しています。

企業の場合は栽培経験のある人材雇用も選択肢の1つですが、参入予定の規模感や作物などの条件を満たす経験を持つ人材雇用は決して簡単ではありません。そのため、栽培技術を習得する研修受講などの準備が必要です。

研修先としては、一般農家や農業生産法人、市町村、JAで研修を受講するのが一般的です。農業の特性上、気温や湿度が毎年変わることから携わった年数に比例して栽培技術も身についてきます。

そのため最低でも1年、場合によっては2年~3年に渡り研修を受講する必要があります。一方で企業であれば準備の段階に2~3年もかけることはできません。その際は事業開始後に栽培を伴走するサービスを積極的に活用しましょう。

栽培技術の習得では各市区町村の研修機関や農業関連企業のアドバイス又はサービス活用し、栽培技術や知識を習得することが農業参入を成功に導く上で不可欠なポイントです。

 

【企業の農業参入 ポイント4】リスク対策と適切な圃場運営

農業には想定外のリスクが付き物です。例えば、栽培や収穫に予定以上の時間がかかり人件費が増加する、作業遅れやミスにより計画通りに出荷ができない、作業内容の理解と育成が追い付かない、害虫の発生によって計画や収量が狂うなど、日々目まぐるしく変わる状況に応じて、対応していかなくてはいけません。

圃場の規模が大きくなればなるほど、圃場運営が非常に重要です。また、台風や地震、大雨などの自然災害によって修繕やメンテンナスが必要となったり、場合によっては迅速な復旧活動が必要になる場合もあり、復旧活動ができずに収穫量や売上が減ってしまうなど、連鎖的な被害が発生する可能性もあります。

加えて近年の情勢では、燃油の高騰で暖房費がかさむなど、栽培以外の外的要因を踏まえたリスクヘッジも農業経営には求められます。

【栽培リスクや異常気象の対策】
栽培関連の相談ができるのか?実際の圃場運営を理解し、状況に応じたアドバイスが可能かどうか?異常気象による修繕やメンテンナスが可能かどうか?の3つをフォローできる企業や支援先を事前に確保しましょう。

参入する際はイニシャルコストを重点に検討される場合が多いですが、栽培開始後が何より重要です。参入前から参入後までトータルでご支援できる企業と進めることが事業を成功に導く上でポイントになります。

イノチオグループは3.6haの自社圃場を始め、複数の圃場を保有し、農業生産を行っております。最もお客様目線に近い農業生産を行う中で培った圃場運営や栽培管理、営農支援の人的リソースを始め、企業の農業参入・新規参入をトータルでご支援しております。気軽にご相談ください。

【栽培や異常気象以外の対策】
保険への加入や各省庁が発表する補助金・補填金などの情報収集といった、万が一のリスクに備えた対策が重要になってきます。栽培面での内的リスク、栽培以外の外的リスクの両面で、発生が考えられる農業特有のリスクを事前に洗い出し、事業計画の段階から想定しておきましょう。

農業参入するまでの流れ

企業が農業参入する上で、事前準備が非常に重要です。新規就農・農業参入における流れや準備物を個人及び担当者で調査し、明確化することは非常に難しいです。そのためビニールハウスや施設園芸に携わり50年以上の知見を活かし、農業参入するまでの流れをご説明致します。

【企業の農業参入するまでの流れ1】事業構想の作成

企業が農業参入をする事業の目的、参入意図、栽培作物、販路の4つから準備します。企業の場合、目的や参入意図として、独立した事業での農業生産のみならず、既存事業との相乗効果発揮や人材の再雇用先創出、SDGsやCSRなどの観点による企業PR強化、新規事業での参入などが多くみられます。

まずは企業として、どのような目的や意図を掲げて参入を行うのか?どのような栽培作物を栽培するのか?生産した農産物をどこに販売するのか?を検討することから始めましょう。

各目的に応じて、必要な検討材料が異なります。例えば、新規事業の場合は農業参入を行うことでのイニシャルコスト、ランニングコストを基に検討を重ねる必要がある為、検討段階の初期からハウスメーカーに相談することが重要です。

【企業の農業参入するまでの流れ2】
作物選択と事業計画 収支シミュレーション

事業構想の作成が明確になり次第、ハウスメーカーに相談を行い、事業計画を作成していきます。イニシャルコストではビニールハウスの仕様やビニールハウス本体以外の内部設備、栽培1年目の準備物を検討していきます。

ビニールハウスは各製品によって、適用作物、耐積雪及び耐風速、間口や奥行などの仕様が異なるため、土地を探す前に理解することがポイントです。事業構想に最適なビニールハウスや導入設備を提案いただきましょう。

ランニングコストでは年間の売上原価や販売費、一般管理費の試算のもとに必要な人員やコストを把握します。大規模な農業経営では作業時間から算出した人員の確保が非常に重要であり、人員確保できない場合は事業を軌道に乗せることが困難です。そのため事業開始時の人員を明確に把握し、準備しておきましょう。

一例としてコスト面としてはビニールハウスの修繕や頻度を事前に把握することがポイントです。ビニールハウスの被覆材は耐用年数のもと修繕費用や頻度が異なるため、把握した上で信頼できるハウスメーカーとハウスの仕様を決めていきましょう。

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【企業の農業参入するまでの流れ3】農地の確保と調査・測量

農地の確保にあたり、農地の条件が明確になり次第、各市区町村や農業委員会に相談し、候補地を探していくのが一般的です。既に農地の候補が複数決まっている場合は思い描く目的や意図をもとに最適な土地なのか?建設可能なのか?、栽培に適しているのか?を確認しましょう。

必要に応じて、水質などの調査も行い、栽培開始に向けたリスクを事前に把握した上で対処しましょう。加えて、大規模ビニールハウスを建設する場合は外部環境にも目を払うべきです。周辺地域への深刻な環境負荷が起きないかなどの検討も必要になります。

農場から排出されるリスクを最低限にするなど、農地確保段階で周辺調査は専門的な知見に尋ねていきましょう。

関連記事:ビニールハウスを建設する際に農地の見るべきポイントとは?

【企業の農業参入するまでの流れ4】ハウス仕様の決定

計画段階では、栽培エリアのみならず、機器設置エリア、選果エリア、集出荷スペース、そして事務所や制御室、休憩室などを併設することがあります。管理方法、作業動線などを緻密に計画、配置などのプランニングを行う必要があります。

それらの建屋は栽培エリアではないため、建築や設置の考え方が大きく異なることがあります。事業計画段階で行政確認のうえで、信頼できる業者と連携して進めることが望ましいです。

農地の確保と調査、測量、行政確認が確認でき次第、土地に沿った仕様でビニールハウスと内部設備を最終確定していきましょう。特に大規模圃場の際はイニシャルコストだけでの判断でなく、適切な圃場運営を実現する労働効率や作業導線、異常気象や故障のフォロー体制、栽培支援などのリスク対策も含めて総合的に判断しましょう。

一方で補助事業の場合、施設仕様の妥当性を重点に捉える必要があります。闇雲に「軒を高くする」「重装備な設備を入れる」などは、収支採算上のこと以外に、選定理由や規模の決定根拠で「過剰設備」と判断されることもあります。導入実績例や必要性を明確にして仕様決定していきましょう。

関連事業:ビニールハウス事業

イノチオアグリは新規就農・農業参入をご支援します。

イノチオアグリは「農業総合支援企業」をコンセプトとし、お客様を多岐に渡り支援することを掲げております。施設園芸(農業ハウスやビニールハウス)に携わり、50年以上に渡り、培ったノウハウや知見を活かし、新規就農・農業参入を計画段階からご支援しております。

お客さまのご要望や条件に基づいて農場を設計し、栽培方法や作業計画を一緒に考え、事業収支の試算までの事業計画の策定をお手伝いします。

更に、圃場研修や専門指導員によるサポートで、事業開始の準備期間から栽培開始後の運営管理や労務管理に至るまで、農業ビジネスの最前線で培ったノウハウを活かしてお客さまの農場運営をトータルサポートします。