近年、気候変動が深刻化しています。
その原因の一つとして、温室効果ガスの排出が指摘されています。特に、二酸化炭素の排出が大きな問題となっており、その排出源は産業やエネルギー生産にあります。

農業においても、燃料の燃焼による二酸化炭素、畜産や土壌管理などによるメタンガスや一酸化二窒素と言った温室効果ガスが排出されています。
こうした背景から、農業においてもカーボンニュートラルが求められるようになってきました。

今回のコラムでは、新規事業で農業を検討されている企業向けにカーボンニュートラルによる農業参入についてご紹介します。

なぜ農業にカーボンニュートラル?

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを意味します。

実質ゼロとは、プラスマイナスゼロの状態のことで、人間が生活や経済活動の中で排出した二酸化炭素などを含む温室効果ガス排出量と、植物が吸収した温室効果ガス量がプラスマイナスゼロになる状態を目指すことを指します。

カーボンニュートラルの取り組みは、温室効果ガスの排出量を削減することも重要ですが、削減しきれなかった温室効果ガスを森林などに吸収してもらうために、森林保全や植林活動を行うことも大事な取り組みとなってきます。

近年、温室効果ガスが原因とされる自然災害が国内外で発生しています。こうした気候変動は、自然への生態系だけでなく、我々の経済活動にも影響を及ぼします。
特に、衣食住と密接に関わっている農林水産業は、生産地の変化などの影響を受けることが危惧されています。

カーボンニュートラルの実現に向けて、個人や企業、地球上に関わるすべての人が意識して取り組む必要があります。

脱炭素社会との違い

カーボンニュートラルと似たような言葉として「脱炭素社会」があります。

脱炭素社会とは、二酸化炭素等の温室効果ガス排出量ゼロを実現した社会のことを指します。しかし、温室効果ガス排出量を完全にゼロにすることは現実的に厳しいという意見もあります。
そこで出てきた考え方が、カーボンニュートラルです。

脱炭素社会では、温室効果ガスの排出を許容していないので、カーボンニュートラルよりもより厳しい目標と言えます。また「炭素」の文字から、より二酸化炭素に焦点を当てた目標と捉えることもできます。

カーボンニュートラルの目標

気候変動に向き合うべく日本をはじめ、世界の主要な国々が脱炭素化に向けてさまざまな方針を発表しています。

日本の目標

日本の温室効果ガスの排出量は世界5位であり、世界全体の3.2%を占めています。これは電力発電の多くを化石燃料に依存していることが要因です。

このような経緯もあり2020年10月、日本は2050年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言しました。具体的には、2050年までに国内で排出される温室効果ガスの量を、その削減量を合わせてゼロにすることを目指しています。

この目標を達成するためには、再生可能エネルギーの導入や、省エネルギー技術の開発、カーボンリサイクル技術の普及など、さまざまな施策が必要です。そのために、個人や企業、自治体などが積極的に取り組むことが求められています。

世界の目標

2021年、約120カ国の代表団、科学者、環境保護活動家など2万5000人以上が参加したCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議 Conference of Praties)がイギリスのグラスゴーで開催されました。

COP26では、気候変動に向き合うために世界的な二酸化炭素の削減目標や、その手段、2015年に策定されたパリ協定の具体的な実施ルールについて議論されました。
その結果、石炭火力発電の利用を段階的に廃止することが明記されたほか、「気温上昇を1.5度に抑える努力を追求すると決意する」とパリ協定の努力目標の1.5度を追求する姿勢が鮮明になっています。

これらの実現に向けて、世界が取組を進めており、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げているところです。

カーボンニュートラルによる農業参入

ここまでは、カーボンニュートラルの概念と日本をはじめ、世界での取り組みついて解説してきました。

では、具体的にカーボンニュートラルの考え方に基づいた農業参入について一例をご紹介します。

1:代替エネルギーを活用した農業参入

代替エネルギーを活用した農業は、持続可能性や環境保護に配慮した農業の一つとして注目されています。以下に、代替エネルギーでの農業参入についての例をいくつか挙げてみます。

太陽光発電
太陽光発電を利用した農業では、農地の一部に太陽光パネル(ソーラーパネル)を設置し、農業と同時に電力の発電を行います。この方法では、隣接する土地など、利用価値の低い土地でも太陽光発電が可能となります。
また、発電した電力をビニールハウス内の冷暖房などに利用することで、電気代の削減が期待できます。

バイオマスエネルギー
バイオマスエネルギーを利用した農業では、農業で発生する廃棄物や剪定枝、地域で発生した間伐材などを燃やし、それをエネルギー源として発電や熱の供給などに利用します。
バイオマスエネルギーには、廃棄物系バイオマス(畜産資源、食品資源など)、未利用バイオマス(農産資源、林産資源など)、資源バイオマス(糖質資源、油脂資源など)などの種類があります。

一般的には、モノを燃やすと二酸化炭素を排出します。
しかし、バイオマスエネルギーの中でも、木質バイオマスは燃やしても二酸化炭素の増減に影響を与えないと言われています。
植物は、成長過程では光合成により大期中の二酸化炭素を吸収するため、燃やした際の二酸化炭素の排出と比較をしてプラスマイナスゼロになると言われており、結果として二酸化炭素の総量は変化しないという考え方です。

風力発電
風力発電を利用した農業では、農地の一部に風力タービンを設置し、農業と同時に電力の発電を行います。風の吹く場所であれば、風力発電によって農業用に発電した電力を利用することができます。

地熱・温泉熱
地熱や温泉熱を利用した農業では、農業参入する地域の特性を活かし、自然に発生している熱エネルギーを利用し、冬場の暖房に使用します。この方法は、地域の特性に大きく左右されるため、利用できる箇所が限られてきます。

これらの代替エネルギーを利用した農業は、農業の持続可能性やエネルギー削減につながるため、今後ますます注目されることが予想されます。

2:有機農業による農業参入

化学農薬や化学肥料は、製造過程で二酸化炭素が発生します。天然由来の農薬・肥料や微生物などを優先的に使用する有機栽培を導入することで、結果として、二酸化炭素の排出量を減らすことになります。
また、有機栽培を行うことで、土壌の健康や生物多様性の維持にもつながります。

2021年、農林水産省が持続可能な食料生産と消費を目標に策定した「みどりの食料システム戦略」にも、有機栽培の普及を目指し、有機栽培を行う農家や生産者の支援を行っていくという内容が明記されています。

農林水産省 みどりの食料システム戦略トップページ

3:無農薬栽培による農業参入

製造過程で二酸化炭素を発生させる農薬や肥料を一切使用せずに作物を育てる無農薬栽培を導入することで、二酸化炭素の排出を減らすことができます。
さらに、作物に含まれる残留農薬のリスクも軽減します。

有機栽培との違いは、上記で記載した通り、農薬や肥料を一切使用しない点にあります。無農薬栽培では、天然の肥料や有機物のみを使って土壌を育成し、病害虫対策には生態系のバランスを重視し、天敵を利用するなどの方法を取ります。しかし、無農薬栽培は、農作物を病害虫から守るために大変な労力が必要で、収量が低下する可能性があるという課題があります。

4:地産地消による農業参入

栽培した作物を近隣の市場やレストランなどに供給することで、物流による運搬や保管にかかる二酸化炭素の排出を減らすことができます。地域の需要に合わせた生産を行うことで、余計な農産物の廃棄を削減することにもつながります。
また、企業による農業参入であれば、食料供給による地域貢献という役割を担うことも期待できます。

以上が、カーボンニュートラルによる農業参入方法の一例となります。

その他にも、企業の既存事業やパートナーシップによる強みを活かした方法など、農業参入には多種多様な形がありますので、お悩みの際はお気軽にご相談ください。

カーボンニュートラルで農業参入をするポイント

カーボンニュートラルによる農業参入の方法について説明に続き、注意するポイントについてご紹介します。

1:専門知識の取得

カーボンニュートラルでの農業参入には、太陽光発電や風力発電など、各代替エネルギーの専門知識が必要となります。また、有機栽培や無農薬栽培においては、農薬や化学肥料の代替方法など、農業の専門知識が必要となります。
既存事業を活かした農業参入であれば、既に社内での人材育成が整っているかと思いますが、栽培の分野に関しては研修と合わせて、相談できるパートナー企業と連携することが重要となってきます。

2:地域特性の把握

カーボンニュートラルによる農業参入には、地域の気候や土壌など、地域特性を活かした取り組みが求められます。
地熱・温泉熱等であればわかりやすいですが、太陽光発電や風力発電などの代替エネルギーを活用する際は、地域の気候とマッチした方法なのかを把握した上で活用するのかを決める必要があります。

3:マーケティング戦略の構築

カーボンニュートラルによる農業参入では、環境に配慮した持続可能な農業を行うことによって、栽培した作物のブランディング効果に期待が持てます。そのため、栽培戦略と合わせてマーケティング戦略も考えることがポイントです。
市場や消費者に対して安全・安心というメッセージを発信することで、より付加価値のある農業参入が実現できます。

以上が、カーボンニュートラルで農業参入する際のポイントについてです。

持続可能な農業を実現するためには、地域の特性や市場ニーズに応じた取り組みが必要となります。また、企業が農業参入する際のメリットやポイントについては、別のコラムでも紹介していますので、そちらも合わせてご確認してみてください。

カーボンニュートラルに取り組むお客さま事例

うれしのアグリ株式会社
バイオマスボイラーを活用した農業参入

三重県松阪市でミニトマトの生産・販売を行っているうれし野アグリ。
植物油を製造している親会社の辻製油株式会社は、製造時のエネルギーにバイオマスボイラーを導入しています。
三重県は、県土の約65%(令和元年度の統計)が森林のため、大量に出る間伐材などを利用して蒸気を作り、蒸気をエネルギーに植物油を製造するようになりました。その際に製油工場から発生する大量の温水を、ハウスまでパイプラインを引き、冬の暖房エネルギーとして工場から排出される温水と180度の蒸気を温水に熱交換することでハウス内暖房に使用しています。

うれしのアグリ株式会社の事例記事を見る

株式会社オーガニックnico
誰でも取り組める有機栽培技術を実現

京都市街を離れた山裾で有機栽培に取り組むオーガニックnico。
オーガニックnicoは、野菜の出荷量拡大と生産技術の構築という2つのミッションを掲げています。生産技術を構築するための実証農場という役割も担っている生産現場では、確立した技術を他の栽培環境や地域でも実現できるように標準化を目指し、誰でも取り組める有機栽培に取り組んでいます。

株式会社オーガニックnicoの事例記事を見る

イノチオアグリは農業参入を支援します

イノチオアグリについて

イノチオアグリは施設園芸(農業ハウスやビニールハウス)に携わり、50年以上の知見がございます。50年以上に渡り、培ったノウハウを活かし、農業参入・新規就農を計画段階からご支援しております。お客さまのご要望や条件に基づいて農場を設計し、栽培方法や作業計画を一緒に考え、事業収支の試算までの事業計画の策定をお手伝いします。

更に、圃場研修や専門指導員によるサポートで、事業開始の準備期間から栽培開始後の運営管理や労務管理に至るまで、農業ビジネスの最前線で培ったノウハウを活かしてお客さまの農場運営をトータルサポートします。