農業の労働力不足を解決する取り組みと事例を紹介
「農業=重労働」などのマイナスなイメージが先行して、農業業界では新たな担い手が見つかりにくい状況が続き、労働力不足に陥っています。労働力不足は、日本の食料自給率が低下するだけでなく、荒廃農地の増加、雑草の繁茂や病害虫が発生など、さまざまな問題につながっています。今回のコラムでは、農業業界における労働力不足の実態や原因を踏まえ、問題解決に向けた取り組み、外国人技能実習生の雇用まで幅広く紹介します。
目次
農業の労働力不足の実態
日本の農業は、近年深刻な労働力不足に直面しています。農業人口は減少傾向にあり、特に若年層の担い手が不足しています。この状況は、食料自給率の低下や農地の荒廃を招く要因となっています。
農業人口の推移
農林水産省の「農業労働力に関する統計」の結果では、2015年(平成27年)時点では175.7万人であった基幹的農業従事者数は、2023年(令和5年)の推概数値で約35%減の116.4万人まで落ち込んでいます。
これは、2015年の全数調査で実施した農林業サンセスを元に出された数値であり、2023年は農業構造動態調査の結果であるため、あくまでも推定となります。
調査方法は異なりますが、就農人口が減少傾向にあることは確かと言えます。また、2015年は6万5,000人居た新規就農者も2021年では5万2,300人と、こちらも減少傾向となっています。
外国人技能実習生受入数の推移
はじめに外国人技能実習制度とは、日本が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術または知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することが目的と位置付けられています。
外国人技能実習機構の令和3年度の調査によれば、職種別の計画認定件数で特に多いのが建設関係であり、全体の20.8%を占めており、次いで食品製造関係の19.5%、機械・金属関係の14.9%となっています。一方で、農業関係はわずか9.6%となっています。農業の人手不足解消のためには、技能実習生にも農業への関心を高めてもらう必要があります。
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農業の労働力不足の原因
農業の労働力不足は、労働条件の厳しさや担い手の高齢化、不安定な仕事量、新規就農のハードルの高さなど、複数の要因が絡み合っています。これらの問題を解決することが、持続可能な農業の実現に向けた重要なステップとなります。
労働条件
農業における労働条件は、労働力不足の大きな要因の一つです。多くの農業従事者が直面するのは、長時間労働や低賃金、過酷な作業環境です。とくに繁忙期には、労働時間が延びることが一般的で、体力的な負担が大きくなります。このような労働条件は、若い世代が農業に就くことをためらわせる要因となり、結果として担い手不足を招いてしまいます。
また、農業は天候や市場の状況に左右されやすく、安定した収入が得られないかもしれないという課題もあります。これにより、農業を職業として選ぶことに対する不安が募り、新規就農を断念する場合もあるでしょう。
労働条件の改善は、農業の魅力を高め、次世代の担い手を育てるために不可欠な要素です。農業界全体で、労働環境の見直しや改善に向けた取り組みが求められています。
担い手不足と高齢化
日本の農業界では、担い手不足が深刻な問題となっています。特に、高齢化が進む中で、農業を営む人々の平均年齢は上昇し続けています。農業従事者の多くが60代以上であり、若い世代の新規参入が少ないため、将来的な農業の持続可能性が危ぶまれています。このような状況では、農業の技術や知識が次世代に引き継がれず、地域の農業が衰退する恐れがあります。
また、農業は体力的にも厳しい仕事であるため、若者が敬遠する傾向が強まっています。これにより、農業に従事する人材がますます減少し、労働力不足が加速しています。このような担い手不足と高齢化の問題は、農業の生産性や地域経済にも大きな影響を及ぼすため、早急な対策が求められています。
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不安定な仕事量
農業における労働力不足の一因として、不安定な仕事量があげられます。農業は季節や天候に大きく左右されるため、作業の繁忙期と閑散期が明確に分かれています。例えば、収穫期には多くの人手が必要ですが、逆に冬季や干ばつの時期には作業が減少し、労働者が必要とされない期間が生じます。このような不規則な仕事量は、農業に従事することへの不安を生み出し、安定した収入を求める若者たちが農業を敬遠する要因となっています。
また、農業の仕事は肉体的な負担が大きく、長時間の労働を強いられることも多いため、労働者が定着しにくい状況を生んでいます。不安定な仕事量は、農業の持続可能性を脅かす要因となり、業界全体の活力を低下させることにつながります。
この問題を解決するためには、農業の仕事量をより安定させる取り組みが求められます。例えば、作物の多様化や、年間を通じての生産計画の見直しなどが考えられます。これにより、労働者が安定した雇用を得られる環境を整えることが、農業の労働力不足解消に向けた重要なステップとなるでしょう。
新規就農のハードルが高い
新規就農を希望する人々にとって、農業の世界には多くのハードルが存在します。まず、初期投資の大きさが挙げられます。農業をはじめるには、土地や機械、種苗などの購入が必要であり、これには相当な資金が掛かります。とくに、若い世代が資金を調達するのは容易ではなく、結果として新規参入者が減少する要因となっています。
さらに、農業に関する知識や技術の習得も大きな課題です。農業は単なる作業ではなく、気象条件や土壌の特性、病害虫の管理など、多岐にわたる専門知識が必要です。これらを独学で学ぶのは難しく、農業学校や研修プログラムへの参加が求められますが、これもまた時間と費用がかかるため、参入の障壁となっています。
また、農業は季節や天候に大きく左右されるため、収入が不安定であることも新規就農者にとってのリスク要因です。安定した収入を得るまでには時間がかかるため、生活基盤を築く上での不安が新規参入を躊躇させる要因となっています。このように、新規就農には多くの課題があり、これらを克服するための支援が求められています。
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労働力不足解消にために必要なこと
では、農業の労働力不足解消のために何をすべきかについて解説していきます。
スマート農業の普及
スマート農業とは、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)を活用して農業の生産性を向上させる取り組みを指します。近年、農業の労働力不足を解消するための有力な手段として注目されています。スマート農業の導入により、作業の効率化や自動化が進み、少ない人手でより多くの作物を生産することが可能になります。
例えば、ドローンを使った農薬散布や、センサーを利用した土壌管理など、先進的な技術が次々と実用化されています。これにより、農業の重労働から解放されるだけでなく、作物の品質向上や収穫量の増加も期待できます。また、データを活用した精密農業は、資源の無駄を減らし、環境への負荷を軽減することにも寄与します。
さらに、スマート農業は新たな担い手を呼び込む要因ともなります。若い世代が興味を持ちやすい先進的な技術を取り入れることで、農業のイメージを刷新し、魅力的な職業としての地位を確立することができるでしょう。このように、スマート農業の普及は、労働力不足の解消に向けた重要なステップとなるのです。
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労働環境の改善
農業の労働環境を改善することは、労働力不足の解消に向けた重要なステップです。具体的には、作業の効率化や安全性の向上を図るための設備投資や、労働者の健康管理を徹底することが求められます。また、労働時間の短縮や休暇制度の充実も、農業に従事する人々の働きやすさを向上させる要因となります。これにより、若い世代や新たな担い手が農業に魅力を感じ、参入しやすくなることが期待されます。労働環境の改善は、持続可能な農業の実現に向けた第一歩と言えるでしょう。
農地集約・大規模化の推進
農業の労働力不足を解消するための一つの有効な手段として、農地の集約と大規模化があげられます。小規模な農家が多く存在する日本の農業では、個々の農家が抱える労働力の問題が顕著です。そこで、複数の農家が協力し、農地を集約することで、効率的な作業が可能になります。これにより、機械化の導入が進み、労働時間の短縮や生産性の向上が期待されます。
また、大規模化によって、農業経営の安定性も向上します。大規模な農業経営は、資本や技術の導入がしやすく、リスクを分散することが可能です。これにより、農業に対する新たな投資が促進され、若い世代の参入を後押しする環境が整います。さらに、集約化された農地では、効率的な資源管理が実現し、持続可能な農業の実現にも寄与します。
このように、農地集約・大規模化は、労働力不足の解消だけでなく、農業全体の競争力を高めるためにも重要な取り組みとなります。今後、地域の農家が連携し、集約化を進めることで、持続可能な農業の未来が開けることが期待されます。
企業の農業参入
近年、農業の労働力不足を解消するための新たなアプローチとして、企業の農業参入が注目されています。企業が農業に参入することで、資金や技術、人材を活用し、効率的な生産体制を構築することが可能になります。とくに、IT技術を駆使したスマート農業の導入は、生産性の向上や労働負担の軽減に寄与しています。
また、企業が農業に参入することで、安定した雇用の創出や地域経済の活性化にもつながります。農業の専門知識を持つ人材を育成するための研修プログラムを設けたり、地域の農家との連携を強化することで、持続可能な農業の実現を目指す企業も増えています。このような取り組みは、農業のイメージを刷新し、若い世代の新たな担い手を引き寄せる要因ともなっています。企業の農業参入は、労働力不足の解消に向けた重要な一歩と言えるでしょう。
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外国人技能実習生の雇用を検討する
農業の労働力不足を解消するための一つの有効な手段として、外国人技能実習生の雇用が挙げられます。日本の農業界では、労働力の確保が急務となっており、特に人手不足が深刻な地域では、外国人実習生の受け入れが進んでいます。彼らは、農業の現場で必要な技術や知識を学びながら、実際の作業を通じて日本の農業を支える重要な存在となっています。
外国人技能実習生の制度は、国際的な技術移転を目的としており、農業分野においても多くの実習生が活躍しています。彼らは、収穫や植え付け、農薬散布などの作業を行い、農家の負担を軽減する役割を果たしています。また、実習生の雇用は、農業の生産性向上にも寄与し、地域経済の活性化にもつながると期待されています。
しかし、外国人技能実習生の雇用にはいくつかの課題も存在します。言語の壁や文化の違い、労働条件の整備など、受け入れ側の農家が配慮しなければならない点が多いのです。これらの課題を克服し、実習生が安心して働ける環境を整えることが、今後の農業の持続可能な発展にとって重要なポイントとなります。
地域雇用で労働力不足を解決した農業参入の成功事例
近年、地域雇用を活用した農業参入が注目されています。特に、地域の特性を生かした農業経営が労働力不足の解消に寄与している事例が増えてきました。例えば、地元で生活している主婦層・シルバー層の方々を積極的に雇用することで、農業の労働力不足の解消と地域の雇用創出にもなっています。
うれし野アグリ株式会社
三重県松阪市で3.2ha規模でミニトマトの栽培を行っているうれし野アグリ株式会社は、正社員約10名以外にも、パート従業員約110名の雇用をしています。パート従業員の大半は、地元松阪市で暮らすお母さんたちです。
うれし野アグリ株式会社では、ミニトマトを上へ上へと伸ばしていくハイワイヤーと呼ばれる栽培方式を行っていますが、高所台車などを導入することで背の低い女性でも働きやすい環境を生み出しています。
また、農業は基本的に日中の作業が中心なので、子どもを学校へ送り出して下校するまでの隙間時間で働くことができる点も雇用につながっているでしょう。このように、地元で農業を行うことは、これまでになかった形での雇用を創出するきっかけとなり得るのです。
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