農地法は、農地の適正な利用と保護を目的として制定されており、農業を行うにあたって適切に把握する必要があります。

このコラムでは、農地法の概要と各条項の違い、最新の改正点について解説し、農地取得時に押さえておくべきポイントについてご紹介します。農地の取得を検討している方や農地の活用を考えている方に役立つ内容となっています。(2025年1月作成)

農地法とは

農地法の目的

農地法は農地の適正利用と保護を目的とし、持続可能な農業の発展を促進するための法律です。農地の所有や転用について規制することで、農地の乱開発や無秩序な転用を防ぎ、農業生産の安定を図るために制定されました。農業従事者が安心して農業を続けられる環境を整え、食料の安定供給を支えることを目指しています。

農地法で規制される土地

農地法では、農地や採草放牧地など、特定の土地に対して規制が設けられています。

具体的には、畑や水田、果樹園、苗圃、わさび田、はす田、そして販売用の植木や芝を栽培する土地が農地として分類されます。 採草放牧地は主に耕作や養畜に利用される土地ですが、その主要目的が採草放牧でなければ認められません。

農地法改正の歴史

農地法は、農業の生産性を維持し、国民に安定した食料供給を確保するために制定されました。その後、時代の変化に応じて改正が行われてきました。

年度 農地法改正情報 概要
1952年 農地法制定 自作農主義を制度化した
1962年 農地法改正(1回目) 農業生産法人を認めた
2001年 農地法改正(2回目) 農業生産法人の要件を緩和した
2009年 農地法等改正法の制定・施工
(3回目)
・個人の農業参入ハードルを緩和した
・企業として農地を借りられるようにした
・出資として農業参入できるようにした
2016年 農地法改正(4回目) ・農業生産法人と言う言葉を農地所有適格法人へ   変更し、参入ハードルを緩和した
2023年 農地法改正(5回目) ・農地取得許可を得やすくなった
・一般人が兼業農家を目指せるようになった


近年の改正では農地の取得条件が緩和され、一般法人や個人事業主でも農地を取得しやすくなりました。 農地法の改正は、農業の未来を見据えた重要な施策です。

農地法第3条・4条・5条の規制とは?わかりやすく解説

農地法は、農地の権利移転や転用に関する重要な規定を設け、農地の適正利用と農業生産の安定化を目的としています。

ここでは、農地法の3条・4条・5条の内容について解説します。

農地法第3条:権利・所有権の移転について

「農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、貸借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。」(一部抜粋)


農地法第3条は、簡単に言うと「農地を農地のまま売却や賃貸する場合」に適用される条項です。農地が農地としてきちんと活用されるために、原則として農業委員会の許可を許可を受けなければ売買などができないように定められています。

農地法第4条:農地転用について

「農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)の区域内にあつては、指定市町村の長。以下「都道府県知事等」という。)の許可を受けなければならない。」(一部抜粋)


農地法第4条が適用される場面は「自身で農地転用をする」場合です。

「自身の農地を、自身が使用するために、自身で転用する」際に、都道府県知事(農林水産大臣が指定する市町村の区域内にある農地を転用する場合には、指定市町村長)の許可を得る必要があります。

関連記事:農地転用とは?費用相場や注意点について解説

農地法第5条:権利を移動後に農地転用について

「農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く。次項及び第四項において同じ。)にするため、これらの土地について第三条第一項本文に掲げる権利を設定し、又は移転する場合には、当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならない。」(一部抜粋)


要約すると、農地や採草放牧地を他人に貸し出す、または売ったあとに、その買主や借主が農地を転用する場合を指しています。

例えば、農地を購入した人が、その農地を宅地に変えて住宅を建築しようとする場合に、原則として都道府県知事の許可が必要となります。 「自身の農地を、他人が使用するために、その他人が転用する」というのが、前述の農地法第4条と異なるところです。

2023年の農地法改正で変わったことは?

2023年、農地法が一部改正されたことで農地や牧草地取得のハードルが下がりました。では、具体的にどこがどのように変わったのでしょうか?

農地取得許可についての改正

これまでの農地法では、「農地や採草放牧地の面積が、北海道の場合では2ha(ヘクタール)、そのほかの都府県では50a(一般的に5反)に達しない場合」は、農地の取得が許可されませんでした。
2023年の改正では、この農地面積の下限条件が撤廃されたのです。

これによって、農地売買の際に耕作面積の要件確認などが不要になり、農地を手放したい方や相続で農地の処分に困っていた方が売りやすくなったと同時に、個人や企業が農地を取得しやすくなりました。

農地法に違反するとどうなる?

許可なく農地の売買や転用を行うなど、農地法に違反した場合は罰則の対象となります。

最悪の場合、3年以下の懲役または300万円以下(法人は1億円以下)の罰金が科されます。 しかし、売主から売買もしくは転用許可の下りていない土地だと知らされていなかったなど、故意ではなく違反してしまうケースも考えられます。 違反した場合でもすぐに罰則の対象になるわけではなく、まずは調査や報告が実施され、次に是正の指導といったように、段階を踏んだ措置が行われます。

万が一違反してしまった場合は、焦らず迅速に、そして嘘をつくことなく正直に対応することが大切です。

持っている農地を転用・売却する際に知っておきたいこと

農地を別の用途に転用する

農地を別の用途に転用する際には、農地法に基づく厳格な手続きが必要です。まず、転用を希望する農地がどのような種類に該当するかを確認し、農業委員会に相談することが重要です。

農地転用の申請は、農業委員会への届出からはじまり、場合によっては都道府県知事の許可も必要になります。 申請にかかる期間は、農業委員会への届出であれば1~2週間、都道府県知事への許可申請では40日から90日程度が一般的です。

また、申請に必要な書類も多岐にわたります。具体的には、許可申請書や土地登記簿謄本、事業計画書などが求められます。 転用の目的や計画が明確であることが求められ、資金の証明も必要です。これらの手続きを適切に行うことで、農地を別の用途に転用することが可能となりますが、事前にしっかりと準備を整えておくことが成功の鍵となります。

農地転用については、次の記事で詳しく紹介しています。

関連記事:農地転用とは?費用相場や注意点について解説

農地を農地のまま売却する

農地を持っている場合、自分がそこで農業を行わないのであれば、農地のまま売却するのが最も簡単な方法です。特に、近隣の農家が規模を拡大したいと考えている場合、そこに売却できれば理想的です。

しかし、後継者不足や経済的な不安が広がる中で、安定した農業経営が行われている地域でないと、買い手を見つけるのは難しい可能性があります。 知り合いに買ってもらうことが難しい場合、購入者を探す必要がありますが、これも簡単ではありません。具体的には、すでに農業を営んでいることや、必要な機器を所有していること、適切な人数が農業に従事していること、さらに現在の耕作面積が50a以上であることなど、いくつもの条件が求められます。

このような理由から、農地を農地のまま売却する際は買い手が限られるため、農地の価格が下がり続けているケースもあります。場合によっては、農地の転用を積極的に検討する方がメリットが大きい可能性があります。

農地を転用して売却する

農地を転用して売却する際には、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。

まず、農地を転用するためには、冒頭でご紹介した農地法5条に示されるように、農業委員会または都道府県知事の許可が必要です。そのためには、転用の目的や計画を明確にし、必要な資金が確保されていることを証明しなければなりません。

また、転用申請の際には、所有者が過去に農地法違反をしていないかどうかも重要なチェックポイントです。問題があるとみなされると、転用は認められません。さらに、転用後の土地利用計画が具体的でなければ、申請自体が受理されない可能性もあります。

転用のプロセスは複雑であるため、農地売却に特化した不動産業者と契約することが推奨されます。農地特有の事情に精通している不動産業者を選びましょう。転用許可が得られるかどうかは、業者の経験や知識にも大きく依存するため、信頼できるパートナーを見つけることが成功の鍵となります。

農地の転用や売買については農業委員会に相談を

農地を転用したり売却したりする際には、農業委員会に相談しましょう。農地法にも示されている通り、農地を借りたり買ったりするには基本的に農業委員会の許可が必要です。 各種手続きには時間がかかりますので、もし期限などが決まっている場合には、早めに相談することをおすすめします。

新たに農地を取得する際に知っておきたいこと

農地を選ぶ

ビニールハウスを建てて施設栽培を行う場合、ハウスを建てる農地が次の6つのポイントを満たしているか確認しましょう。

・利便性:自宅から近く、大きな道路に面しているか
・土地特性:水源が近くにあるか、水はけは良いか
・土地形状:正方形または長方形に近い形をしているか
・周囲の環境:周囲が住宅地でないか、日光を遮る建設物がないか
・土地の環境:風速や積雪の環境が厳しくないか
・規模拡大:栽培規模の拡大を視野に入れた場合、近隣に空いている農地があるか

関連記事:ビニールハウスを建設する際に農地の見るべきポイントとは?

ただし、新規に農業をはじめる場合などは、これらの条件に合致しているかどうか自分で判断することが難しい可能性があります。自分が検討している農地で本当に農業が可能かどうか、専門知識をもった企業に相談してみるのもおすすめです。

農地を借りる

農地の購入には多額の資金が必要ですが、資金に余裕がない場合は農地を借りることも検討しましょう。

農地借用のメリットは、購入に比べて初期費用を抑えられる点です。購入には仲介手数料や登記費用がかかりますが、借用ではこれらの費用が発生しません。特に新規就農者にとっては、農地以外にも設備や機械に初期費用がかかるため、借用の方がはじめやすいです。

一方、農地借用にはデメリットもあります。所有者の制限に従う必要があり、賃料の支払いが長期的な負担となる可能性があります。
農地を借りる際には、所有者と賃貸借契約を結び、農地の状況をよく確認し、農業委員会の許可を受けることが重要です。

農地を購入する

個人が農地を購入する際には、新規就農者として認められるための条件を満たす必要があります。例えば、取得する農地をすべて耕作することや、年間150日以上農作業に従事することなどが条件の一部です。

法人が農地を取得する場合は、「農地所有適格法人」として認められる必要があります。これは、農業を中心に経営を行う法人のことで、この資格がない場合、農地の賃借のみが可能で、購入はできません。 農地を購入する際に注意するべきポイントについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

関連記事:農地を買うにはどうしたら良いのか?購入までの流れや注意点を解説

農地を購入する際には、知識を持った企業や専門家に相談することをおすすめします。購入費用以外にも仲介手数料や所有権移転登記の登録免許税などの費用が発生するため、長期的な資金計画を立てることが重要です。

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