新しく農業をはじめる際に、必須となる農地。

購入に向けては、農地の取得について定めている「農地法」や、必要になる手続きなどについて事前に確認しておく必要があります。

今回のコラムでは、個人・法人が農地を取得する方法と流れについて解説します。

目次

  1. 農地は個人も法人も購入可能!
  2. 個人が農地を買うときの条件とは
  3. 法人での農地取得の流れ
  4. 農地の価格相場とは?
  5. 農地を別の用途で使う場合は農地転用を
  6. 農地取得の際に注意するポイント
  7. 農地を「借りる」選択肢も
  8. 農地取得のご相談はイノチオアグリへ!

農地は個人も法人も購入可能!

農地の購入については農地法で定められており、農家間での売買が基本となります。

農地を取得するには、農地法に定められる一定の条件を満たす必要があります。
個人も法人も、これをクリアできれば農地の取得が可能となります。

個人が農地を買うときの条件とは

まず、個人が農地を購入するときの条件についてご紹介します。

新規就農者としての条件を満たす

個人で農地を取得する場合、まだ農家になっていない場合は、今後農家として活動する予定があることを証明する必要があります。

新規就農者または農家として認められる条件として、以下の4つが挙げられます。

  1. 取得する農地のすべてを耕作すること
  2. 農作業に常時従事すると認められること
  3. 総経営面積が、一定以上あること
  4. 周辺農地に対し支障を生じるおそれがないこと

それぞれご紹介していきます。

関連記事:新規就農に向けて必要な準備とは?

1.取得する農地のすべてを耕作すること

取得する農地をすべて農地として耕作することを証明するために、営農計画が必要です。面積に応じた機械を用意する計画や、必要になる労働力の試算などを行います。

しかし、ひとりで農業経営を行った経験がない場合、この営農計画をゼロから自力で作ることは非常に難しいのが現状です。その際は、農業の専門家である企業などに作成を相談しましょう。

2.農作業に常時従事すると認められること

農地を使用するにあたり、何も作が行われていない状態=耕作放棄地となることは避けなければなりません。そのため、農家の働き方として、週末農家のように週に何日かだけ働くスタイルは認められず、常時農作業に従事することが求められます。
具体的な日数としては、年間150日以上とされています。

3.総経営面積が、一定以上あること

取得する農地の面積が、北海道なら2ヘクタール、その他の道府県では50アール以上でなければ取得が認められません。このように定められているのは、経営面積があまりにも小さいと、生産性が低下し、効率的で安定的な農業が行われないと想定されるからです。

ただし、「花卉栽培など施設園芸等の集約的な農業経営であると認められる場合は、この下限面積に達しなくてもよい」とされています。また、各地域の農業委員会によっては面積の引き下げが可能な場合もありますので、詳しくは市町村の担当窓口まで確認しましょう。

4.周辺農地に対し支障を生じるおそれがないこと

取得しようとしている農地の周辺に迷惑をかけ、利益を阻害しないかどうかも確認されます。たとえば周辺農地が無農薬栽培を行っている場合、農薬使用をしないことなどが求められる可能性があります。

これら4つの条件をすべて満たしてはじめて、農業委員会から許可が下りる仕組みです。

農用地利用集積計画の利用でも購入可能

農業委員会の許可を得なくても、例外的に農地購入ができる方法として、「農用地利用集積計画」というものがあります。

農用地利用集積計画とは、農業経営基盤強化促進法という法律のもとに定められた施策です。農用地等の所有者が農用地等の所有権を移転したり、使用収益権を設定したりする法律行為をスムーズに行うための手続きを指します。

農業者から申し出のあった内容が、市で定める農業経営基盤強化促進基本構想に合致する場合、市町村が中心となって農業委員会やその他団体と協力して計画を策定し、その計画に沿って市町村が農地を集積します。

つまり、市町村がまず離農者や農家などから農地を購入または借りたうえで、新規就農者と契約できます。新規就農者は市町村にアクセスすればよいだけなので、直接売買する手間を軽減できます。

ただし、市町村の定めた計画にある条件を満たすかどうかは、農業委員会の許可と同じように確認されます。

個人での農地取得の流れ

ここからは、個人で農地を取得する場合の流れについてご紹介します。

農地探しの相談をする

まずは、取得したい農地を見つけます。かつては親から子へ継承することが一般的だった農業ですが、現在は少子高齢化による後継者不足などの原因から、買い手を募集するケースがあります。

知り合いや親族に交渉を行うだけでなく、不動産売買の専門家に相談する方法もあります。その他にも、市町村や農地バンクなどで情報が集まっている場合もあるため、まずは窓口で相談するのもおすすめです。

関連記事:農地バンクとは?新規就農・農業参入の農地探し

しかし、空いている農地がもともと少ないことや、栽培に適した農地を選ぶにはいくつもチェックするべきポイントがあるなど、自力だけで希望に沿った農地を見つけるのは難しいのが現状です。

農地の探し方や最終的な決定に困った際は、農業の専門知識を持っている企業に相談することをおすすめします。

農地の所有者と交渉

農地が見つかったら、所有者と具体的な交渉に入ります。個人間、不動産業者の仲介、あるいは自治体の仲介など、そのケースによって購入手続きは異なります。

後々のトラブルを防止するために、価格交渉などをする上では、リスクを含めた農地の特徴をしっかり確認しておきましょう。

農業委員会に申請

購入が決まったら、農業委員会へ許可申請を行います。許可が下りれば売買契約書を交わして登記を行いますが、専門知識が必要になるため、司法書士など専門家の手を借りることをおすすめします。

法人での農地取得の流れ

続いて、法人が農地を取得する場合の方法について紹介します。

農地所有適格法人を取得する

農地所有適格法人とは、農業を中心に経営をする法人のことです。農地を取得しようとする法人は、この「農地所有適格法人」を取得する必要があり、これがない場合、可能なのは農地の賃借のみで、農地を買って取得することはできません。

さらに、農地所有適格法人として農地を取得した場合は、農地を所有している間は農業委員会へ報告する義務があります。 農地保有適格法人については、下記の記事で詳しく解説しています。

関連記事:農業参入をするなら知っておきたい!農地所有適格法人とは?

農地の価格相場とは?

一般財団法人全国農業会議所のホームページでは、地域ごとの「耕作目的田畑売買価格」を確認できます。購入を考えている地域の価格相場把握に活用し、必要な資金を把握しましょう。

参考リンク:一般社団法人 全国農業会議所「田畑売買価格等に関する調査結果」

農地を別の用途で使う場合は農地転用を

「購入する農地に家を建てたい」など、農業以外の用途で農地を使用したい場合は、申請した土地の用途を、農地から住宅地用へ転用しなければなりません。農地転用をする際には、農地転用制度に基づいて、農業委員会を経由して知事や市区町村長の許可または届出が必要です。

許可が必要な理由として、農地転用を自由化してしまうと、農地が農業以外の用途に転用され、農業生産に支障をきたす恐れがあるためです。農地転用制度には、農業を担う人や農業により生み出される食料を守る役割があります。

農地転用においては、「転用後の土地の利用が農業上の利用に支障を及ぼさないこと」「転用後の土地の利用が公共の利益に適合すること」が許可の要件とされています。

これらの要件を満たし農業委員会から許可がおりれば、農地を農地以外の土地に転用することが可能となります。
農地転用の要件については、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。

関連記事:農地転用とは?費用相場や注意点について解説

農地取得の際に注意するポイント

続いて、農地を取得する際の注意点をご紹介します。

見つけるのが難しい

農地取得の注意点として、先述したように、希望に合致する農地がなかなか見つかりにくいという現状があります。

その要因として、貸し手と借り手のマッチングが思うように進まないことが挙げられます。 例えば、貸す側からすると、面識のない人に農地を貸し出すことに抵抗を感じる場合があります。また、代々受け継いできた農地を手離すことに抵抗を感じることも少なくありません。

加えて、農業を行う目的や意図、栽培作物、栽培方法、目指す生産量、ビニールハウスの規模、販売先に応じて、確保するべき農地の条件は変わります。そのため、候補となる農地を見つけても、水質や周囲の環境によっては農業に適さない場合もあります。

耕作放棄地が増加しているとはいえ、候補地を見つけ、希望の条件を満たした農地を確保することは容易ではありません。 取得の可能性を広げるために、農地を探す際は、ひとつの市区町村に絞らないことが大切です。

複数の市区町村に相談し、候補地となる農地をいくつか見つけておくのがよいでしょう。

農地取得の手続きが煩雑

農地を購入する際には、さまざまな手続きが必要となります。 農地の購入前には、事前の農地調査や農業委員会への申請、農業委員会への許可申請が必要です。取引が成立したら農地の所有権を取得するために、法務局で所有権移転登記手続きをおこないます。 これらの手続きを誤ると、農地の購入が遅れたり、認められなかったりする可能性があるため、注意が必要です。 余裕を持ったスケジュールで取り組みましょう。

取得に向けて資金が必要

農地の購入費用以外にも、さまざまな費用が発生します。 これらの費用を予算内に収めるために、余裕を持った資金計画が必要です。農地購入にかかる費用には、次のようなものが挙げられます。

農地の購入価格

農地の購入価格は立地や面積、形状などの条件により異なります。

仲介手数料

不動産会社を介して農地を取得すると、手数料が発生します。売買価格のおおよそ3%程度が一般的です。

所有権移転登記の登録免許税

農地の所有権を取得するために、所有権移転登記が必要です。これを申請する際、登録免許税が発生します。 登録免許税は、農地の評価額によって異なります。

その他の費用

申請にあたり専門家に相談したり業務を依頼すれば、その分の費用も発生します。農地の整備などに費用がかかる場合もあるでしょう。

さらに農地を購入した後も、農地の維持管理や農業経営に費用がかかります。国や市町村から交付される補助金や融資などの制度も活用しながら長期的な資金計画を立て、資金不足とならないようしっかり準備しておきましょう。

イノチオアグリでは、新規就農に向けた資金獲得の支援も行っています。農地の取得などにも活用できる補助金や融資にどんなものがあるのか、お気軽にご相談ください。

農地を「借りる」選択肢も

ご紹介した通り、農地の購入には多額の資金が必要です。資金に余裕がない場合は、農地の購入ではなく借りるという選択肢も検討しましょう。

農地借用のメリットは、農地の購入に比べて資金を抑えることができる点です。
農地の購入には、購入価格以外にも仲介手数料や所有権移転登記の登録免許税などの費用がかかりますが、農地借用ではこれらの費用が発生しません。

特に、これから新しく農業を始める新規就農者の場合、農地の他にも、農作業に必要な設備や機械などに多額の初期費用がかかります。そのため、農地取得の際はまとまった資金が必要ですが、農地借用では農地にかかる初期費用を抑えることができるため、農業を始めやすいメリットというメリットがあります。

一方で、農地借用にはデメリットも存在します。
農地借用の場合、農地の売却や担保設定、利用方法等について、所有者が制限を設ける場合があります。あくまで所有者から借りている立場のため、これらの制限には従う必要があります。 また、借りている間は農地の所有者に賃料を支払い続けます。長期にわたって農業をおこなう場合、賃料の支払いが経営の負担となる可能性も考えられます。

このほか、農地借用をおこなう際には、次の点にも注意が必要です。

農地を借りるときの注意点

農地を借りるときの注意点として、以下の3点があります。

  1. 所有者と賃貸借契約を結ぶ
  2. 農地をよく確認する
  3. 農業委員会の許可を受ける

順番にご説明します。

①所有者と賃貸借契約を結ぶ

農地借用をおこなう際には、必ず農地の所有者と賃貸借契約を結びましょう。賃貸借契約では、賃料や利用状況、契約期間などを定めます。

②農地をよく確認する

農地取得の際も同様ですが、農地借用をおこなう際にも、農地の状況をよく確認する必要があります。農業開始後のことをイメージしながら、農地の境界や利用状況、周辺の環境などをしっかり把握しておきましょう。

これをおざなりにしてしまうと、いざ栽培をはじめた際に、思わぬトラブルが発生してしまうかもしれません。

農地のチェックポイントについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

関連記事:ビニールハウスを建設する際に農地の見るべきポイントとは?

 

③農業委員会の許可を受ける

農地を農地以外の利用目的で転用する場合は、農業委員会の許可が必要です。

農地借用後に農地を農地以外の土地に転用する可能性がある場合は、事前に農業委員会に相談しましょう。

農地取得のご相談はイノチオアグリへ!

イノチオアグリは「農業総合支援企業」をコンセプトに、農業用ビニールハウスに50年以上携わってきました。これまで培ってきた農業のノウハウを活かし、これから農業をはじめる新規就農者の方をご支援します。

新規就農で農地を探す際「本当にこの農地で問題ないのか」といった不安を覚える方は少なくありません。イノチオアグリでは、農地の候補地の探し方はもちろん、どのような基準で選べばよいのかなど、多くの方の農地探しをサポートさせていただいております。

そのほか、新規就農や農業参入を検討されている中での疑問やお悩みについて、お気軽にお問い合わせください。各種専門知識を持った社員がお答えいたします。