農業をはじめる際は多額の資金が必要です。作物が出荷でき収入が得られるまでに時間がかかるほか、そのあいだの生活資金も賄わなければなりません。

「青年等就農資金」は、新しく農業を始める人に無利子で資金を融資し、就農準備をサポートする制度です。利用によって、安定した農業経営を目指すことができます。

今回のコラムでは、青年等就農資金の概要や利用するための条件、そのほかにも無利子で活用できる補助金情報についてご紹介します。

新規就農を支える「青年等就農資金」とは

新しく農業を始めようとする人にとって、資金の確保は大きな課題です。政府は農業従事者の高齢化が進む中で、新規就農者を重要視し、世代間のバランスを取るために新規就農者を増やすことを目指しています。

国や各市区町村は、新規就農者を支援するためのさまざまな施策を行っています。 その支援策の一つとして、「青年等就農資金」という農業融資制度があります。ここでは、その融資制度の概要をご紹介します。

制度の概要

青年等就農資金は、新しく農業を始める人を対象に、国が無利子で資金を融資する制度です。この制度では、国の出資金をもとに、株式会社日本政策金融公庫が融資の審査や手続きを行います。

この資金は就農準備に幅広く活用でき、新規就農者にとって課題のひとつである「資金の確保」を支援します。青年等就農資金を検討する際は、日本政策金融公庫の窓口機関や市区町村の農政課に相談しましょう。

参考:日本政策金融公庫ー店舗案内

青年等就農資金の使用用途

さきほどご紹介したように、青年等就農資金は幅広い用途に利用できます。 借入条件として定められている資金用途は次の通りです。

使用用途
青年等就農計画の達成に必要な次の資金
ただし、経営改善資金計画を作成し、市町村を事務局とする特別融資制度推進会議の認定を受けた事業に限る。
施設・機械
農業生産用の施設・機械のほか、農産物の処理加工施設や販売施設など
果樹・家畜等
家畜の購入費、果樹や茶などの新植・改植費のほか、それぞれの育成費など
借地料などの一括支払い
農地の借地料や施設・機械のリース料などの一括支払いなど ※農地の取得費用は対象外
その他の経営費
経営開始に伴って必要となる資材費など

利用の条件と融資限度額

融資限度額は3,700万円(特別認定で1億円)で、返済が完了するまで無利子です。返済期間は12年で、据置期間は最大5年以内に設定されています。

青年等就農資金を利用する際には、融資対象物件を担保とします。 個人の場合、保証人は不要ですが、法人の場合は必要に応じて代表者が保証人となります。運転資金や資材購入費などの資金の使い道は、経営改善資金計画書で明示する必要があります。

利用できる人

青年等就農資金の融資対象となるのは、認定新規就農者として認定された方です。 認定新規就農者になるためには、次の要件を満たす必要があります。

認定新規就農者として
認定されるための要件
対象要件①
青年(原則18歳以上45歳未満)
対象要件②
効率的かつ安定的な農業経営を営むために
活用できる知識・技能を有する65歳未満
対象要件③
対象要件①又は②の者であり、法人が営む農業に従事すると認められるものが役員の過半数を占める法人
補足
農業経営を開始してから一定の期間(5年)以内の者を含み、認定農業者は含みません。
認可機関
各市区町村


認定新規就農者の詳細は次のコラムで解説しています。
関連記事:認定新規就農者制度とは?メリット・デメリットまで解説

青年等就農資金を受けるまでの流れ

青年等就農資金を受けるまでの流れは次の通りです。

  1. 新規就農者が「青年等就農計画認定申請書」を作成し、就農先の市区町村へ申請する。
  2. 申請した市区町村が青年等就農計画を審査し、認定を実施する。
  3. 認定後、申請先の市区町村から申請者に結果が通知される。
  4. 市区町村、都道府県等関係機関により、計画達成に向けフォローアップが行われる。

「青年等就農計画」に記載するべき事項として、就農先の農地の場所や栽培する作物、農業経営の開始日、経営規模、作物の生産方式など、幅広い領域の記載が求められます。

さらに、市区町村の構想に適しているかも重要なポイントとなるため、計画作成段階で市区町村の新規就農支援担当者に確認や相談をしておくことがおすすめです。

青年等就農資金のメリット・デメリット

ここからは、青年等就農資金利用によるメリットとデメリットを解説します。

青年等就農資金のメリット

一つ目のメリットとして、据え置き期間が設定されていることです。返済期間は最大17年以内(据置期間は最大5年以内、返済期間は最大12年以内)と長いため、農業経営開始にあたり、負担軽減のポイントになります。
経営開始してから一定期間の間、収入が少なく返済が難しい場合も据置期間があることは大きなメリットになり、据置期間内の売上や営業利益を農業経営の規模拡大や経営基盤強化への投資に活用できる可能性もあります。

二つ目に、資金の使い道が幅広いことです。通常、融資の際は資金の使い道が限定されることが多いです。しかし、青年等就農資金では、提出した計画の達成に必要だと認められれば、幅広い用途に活用することができます。

青年等就農資金のデメリット

青年等就農資金のデメリットの一つ目は、申請順に融資が決定される点です。また、各年度で予算が決まっており、予算を使い切ってしまった際には融資が行われないため、早めの申請を心掛けましょう。

二つ目のデメリットは、青年等就農資金が農地の取得には使えない点です。農地を取得したい場合は、自己資金を活用するか、他の制度(経営体育成強化資金)等を活用する必要があります。

参考:経営体育成強化資金ー日本政策金融公庫

青年等就農資金を活用して新規就農した事例をご紹介

苺屋 ガルテンベーレンさま

イノチオのビニールハウスでイチゴ栽培をスタートさせた、苺屋ガルテンベーレンの立花さま。
資金確保にあたり青年等就農資金を利用されましたが、申請にあたって必要な青年等就農計画書の作成に苦労されたそうです。

「青年等就農計画には初年度と5年後の所得見込みを記入する欄があります。書面上には1年目と5年目という項目しかありませんが、農業経営に掛かる経費と作物の売り上げなどをもとに計算をした上で、結果の数字だけを記載しなければなりません。」

「私が一番困ったことは苗代、肥料代、電気代などの経費に関して全く予想できなかったことです。そのようなときに、イノチオさんに相談したら、私の栽培する面積と作物単価を踏まえた収支シミュレーションを出していただきました。」

関連事例:新規就農で大好きないちご農園を開園 苺屋ガルテンベーレン

実際の農業にどのくらいお金がかかるのか、農業未経験者の方にとってそれらを見定めるのは大変難しいことです。しかし、申請にあたり提出する計画書は具体的でなければなりません。

イノチオアグリでは、農業経営で実際にどのくらいの支出があるのか、作物を販売してどのくらい儲かるのか、といった収支シュミレーションを、ご希望の作物や栽培方法に合わせてご提案いたします。

無利子・低金利で利用できるそのほかの補助金制度

就農後、さらに理想の農業を目指すことを目的に、無利子または低利で活用できる補助金制度についてご紹介します。

農業改良資金

農業改良資金は、日本金融公庫から融資される資金のひとつです。

幅広い用途に活用できますが、「農業改良措置に関する計画(都道府県から認定を受けた経営改善資金計画)」の実施を認められた人、またその計画実現に必要な範囲の中で資金を活用することができます。

融資限度額は個人で5,000万円、法人・団体で1億5,000万円です。 利率は借り入れている全期間にわたって無利子となります。

農業改良資金に関する詳細は、日本政策金融公庫のHPからご確認いただけます。

参考:農業改良資金(農業者向け)ー日本政策金融公庫

スーパーL資金

スーパーL資金もまた、日本政策金融公庫から融資される資金であり、正式名称を「農業経営基盤強化資金」といいます。経営改善を希望する農業者を資金面で応援するための制度です。 融資額が3億円、法人で10憶円と金額が大きく、幅広い用途に活用できる点がポイントです。

スーパーL資金に一般様式で申し込んだ場合、年0.55%~1.10%の金利が発生します。ただし一定の条件を満たすことで、利子助成を受けることができ、貸付当初5年間の金利負担を実質無利子として融資を受けられる措置が設けられています。

スーパーL資金の対象となる条件や使用用途などの概要は次の通りです。

対象者 認定農業者(農業経営改善計画の認定を受けた個人・法人)
※なお、個人の場合、簿記記帳を行っていること、または今後簿記記帳を行うことが条件となります。
資金の
使い道
農業経営改善計画の達成に必要な次の資金
ただし、経営改善資金計画を作成し、市町村を事務局とする特別融資制度推進会議の認定を受けた事業に限ります。
農地等 取得、改良・造成
施設・機械 農産物の処理加工施設、店舗などの流通販売施設
果樹・家畜等 購入費、新植・改植費用のほか、育成費など
その他の経営費 規模拡大や設備投資などに伴って必要となる原材料費、人件費など
経営の安定化 負債の整理(制度資金は除く)など
法人への出資金 個人が法人に参加するために必要な出資金等の支払い
融資条件 返済期間 25年以内(うち据置期間10年以内)
融資限度額 【個人】3億円(特認6億円)
【法人】10億円(特認20億円[一定の場合30億円])

※1
このうち経営の安定化のための資金の融資限度額は個人6,000万円(特認1億2,000万円)、法人2億円(特認6億円)です。
※2
法人の場合、特認の利用に際しては、民間金融機関からの資金調達などの要件があります。詳しくは、日本公庫等の取り扱い機関へお問い合わせください。
利率(年) 一般:0.55%~1.10%
特例:0%(公益財団法人農林水産長期金融協会より、貸付実行日から5年後の応当日の前日まで利子助成を受けた場合)
(令和5年10月19日現在)
担保・保証人 相談の上、決定されます。


スーパーL資金については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。

関連記事:スーパーL資金(農業経営基盤強化資金)とは?審査ポイントを徹底解説!

新規就農のご相談はイノチオアグリへ

イノチオアグリでは、ビニールハウスの製造・販売のほか、新しく農業をはじめる方の支援も行っております。 資金計画の立て方や資金調達でお悩みの際は、ぜひご相談ください。

理想の農業についてしっかりとヒアリングし、その実現に向け、農地・資金・栽培技術の準備を含めて、総合的にサポートいたします。