農業をはじめるにあたっては、まとまった資金が必要です。手元の資金だけで農業はじめようと考える方もいらっしゃいますが、農業研修中や栽培をはじめたばかりの期間は収入が入らないことを考慮すると、自己資金だけでは難しい場合もあります。

補助金を上手に活用することで、経済的な不安や負担を軽減し、理想の農業の実現を目指すことができます。 今回のコラムでは、農業で使える補助金について、用途別にご紹介します。

※本記事でご紹介しているのは、2025年2月時点の情報です。補助金をご利用の際は、各サイトから最新の情報をご確認ください。

農業に必要なお金とは

新規就農にかかった費用は?

全国新規就農相談センターの令和3年度の調査によると、就農1年目で発生した費用の平均額は下記の表の通りです(一部抜粋)。

  営農面 生活面自己資金 就農一年目の
農産物売上高
土地を除く
必要経費
自己資金 差額
露地野菜 431万円 238万円 -193万円 151万円 227万円
施設野菜 1,136万円 321万円 -815万円 186万円 480万円
果樹 419万円 247万円 -171万円 202万円 195万円

引用:全国新規就農相談センター「新規就農者の就農実態に関する調査結果 令和3年度」

差額の欄を見ると、いずれの栽培方法も、営農面の必要経費が自己資金を上回っていることがわかります。とくに施設野菜は、作物の品質・収量の安定に向けてビニールハウスや冷暖房などの設備を整えるために、多くの資金が必要です。

こうした就農時の資金不足に対して、新規就農者のうち約50%の方は、資金を借り入れるなどして資金を補っています。

資金計画を立てることが大事

農業に限らず、事業をはじめる際は「どのくらいの売上・利益を確保するか」を計画します。しかし、これとは別に「資金計画」も欠かせない要素です。利益が出ていても、資金が足りない場合があるためです。

「黒字倒産」という言葉があるように、黒字でも手元資金がないと支払いができず、倒産することがあります。特に農業では、収穫や収入がない月が続くことがあるため、資金の流れを見通すことが重要です。

資金の流れを確認するには、月次で資金繰り表を作成するのが効果的です。事前に「いつ・いくら資金が必要か」を明らかにすることで、余裕をもって資金調達ができ、資金不足を避けられます。 農業は天候や市場の変化に左右されますが、計画を立てて必要な資金を準備することで、事業を安定して続けることができます。

補助金と助成金・給付金の違いとは

補助金や助成金は、事業期間中に支払った特定の経費について、事業終了後の確定検査を経て補助されます。一方、給付金や支援金は使用用途が特定されておらず、確定検査もありません。

助成金や給付金は申請要件を満たせば支給されることが多いですが、補助金は要件を満たしても全てが補助されるわけではなく、申請内容の審査と評価に基づいて採択者が決まるため、これらを混同しないよう注意する必要があります。

このコラムで紹介している補助金の一覧

これから農業をはじめたい人におすすめの補助金

農業事業を行うために活用できる補助金

農業機械・設備への投資に活用できる補助金

農産物の生産力・生産技術向上に向けて活用できる補助金

農産物の販路拡大に向けて活用できる補助金

これから農業をはじめたい人におすすめの補助金

就農準備資金

就農準備資金は、農家を目指す方々が就農前に研修を受けるための支援金です。

対象者や支援額については次の通りです。交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 研修期間中の研修生
支援額 12.5万円/月(150万円/年)×最長2年間
支援率 国による支援:100%
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立後、5年以内に認定新規就農者または認定農業者を取得すること
  3. 自営就農または雇用就農を目指す都道府県等が認めた研修機関等でおおむね1年以上(1年につきおおむね1,200時間以上)研修すること
  4. 常勤の雇用契約を締結していないこと
  5. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  6. 前年の世帯所得が600万円以下であること
  7. 研修中の怪我等に備えて傷害保険に加入すること


適切な研修を行わなかった場合や、研修後に就農しなかった場合は、資金返還が求められることがあります。

参考:就農準備資金・経営開始資金-農林水産省

経営開始資金

経営開始資金は、認定新規就農者を対象に、就農直後の経営確立を支援するための資金です。

対象者や支援額については次の通りです。交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 認定新規就農者(前年の世帯所得が原則600万円未満)
支援額 12.5万円/月(150万円/年)×最長3年間
支援率 国による支援:100%
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立して営農を行っていること
  3. 親元就農の場合は、農業に従事してから5年以内に経営権を継承し、新規参入者と同等の経営リスクを負うものと市町村に認められること
  4. 「人・農地プラン」に中心経営体として位置づけられているか、農地中間管理機構(農地バンク)から農地を借り受けていること
  5. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  6. 前年の世帯所得が600万円以下であること
  7. 研修中の怪我等に備えて傷害保険に加入すること


申請窓口は市町村が担当しています。 特例として、夫婦で就農する場合は、夫婦合わせて1.5人分の交付を受けることが可能です。さらに、複数の新規就農者が法人を新設し共同経営を行う場合、それぞれに最大150万円が交付されることもあります。
関連記事:新規就農者育成総合対策「経営開始資金」とは?

対象者の要件である認定新規就農者については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:認定新規就農者制度とは?メリット・デメリットまで解説

経営発展支援事業

経営発展支援事業は、就農後の経営を発展させるために必要な機械や施設、家畜の導入、果樹や茶の新植・改植などを支援する制度です。

対象者や支援額については次の通りです。交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 認定新規就農者(就農から3年以内)
支援額 補助対象事業費として上限1,000万円(機械・施設、家畜導入、果樹・茶改植、リース料等が対象)
※経営開始資金の交付対象者は上限500万円まで
支援率 県支援分の2倍を国が支援( 国:1/2、県:1/4、本人:1/4)
償還スケジュールは10年均等
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立して営農を行っていること
  3. 「人・農地プラン」に中心経営体として位置づけられているか、農地中間管理機構(農地バンク)から農地を借り受けていること
  4. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  5. 本人負担分の経費については、融資機関から融資を受けること
使用用途
  1. 事業の対象となる機械等は、新品の法定耐用年数がおおむね5年以上20年以下のものであること。中古の機械・施設にあたっては、中古耐用年数が2年以上のものであること
  2. 原則として、トラックやパソコン等、農業経営以外の用途にも使用されるような汎用性の高いものでないこと
  3. 事業の対象となる機械等は、あらかじめ立てた計画の成果目標に直結するものであること
  4. 事業の対象となる機械等については保険加入等、気象災害等による被災に備えた措置がされるものであること
  5. 個々の事業内容が単年度で完了すること


また、特例として夫婦ともに就農する場合は、補助上限額の1.5倍が上限額となります。

関連記事:新規就農者1,000万円の補助?経営発展支援事業を徹底解説

農業事業を行うために活用できる補助金

すでに他の事業を行っている企業が、新しく農業事業を開始する場合に活用できる補助金についてご紹介します。

中小企業新事業進出補助金

新規事業への進出により、企業の成長・拡大を図る中小企業を対象としています。こちらは2025年度より設立される新しい補助金で、2月時点では公募開始時期は調整中となっています。

対象者の条件や補助の内容は以下の通りです。補助を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象者 企業の成長・拡大に向けた新規事業への挑戦を行う中小企業等
補助上限額 従業員数20人以下:2,500万円(3,000万円)
従業員数21~50人:4,000万円(5,000万円)
従業員数51~100人:5,500万円(7,000万円)
従業員数101人以上:7,000万円(9,000万円)
補助率 1/2
基本要件
  1. 付加価値額の年平均成長率が+4.0%以上増加
  2. 1人あたり給与支給総額の年平均成長率が、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上、又は給与支給総額の年平均成長率+2.5%以上増加
  3. 事業所内最低賃金が事業実施都道府県における地域別最低賃金+30円以上の水準
  4. 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表等


補助の対象となる経費やその他の注意事項等は、下記のリンクをご参照ください。

参考:中小企業新事業進出補助金-中小企業庁

農業機械・設備への投資に活用できる補助金

強い農業・担い手づくり総合支援交付金

強い農業づくり総合支援交付金は、食料システム構築に向け生産から流通に致るまでの課題解決に向けた取り組みを支援します。支援内容が異なる3つのタイプがあります。

令和7年度の募集はすでに終了していますが、傾向として、この交付金は毎年募集が行われていますので、今後の募集に向けた参考としてご覧ください。
※支援内容は変更になる場合があります。

参考:2025年度強い農業づくりの支援に係る関係通知について-農林水産省

⾷料システム構築⽀援タイプ

⾷料・農業・農村基本法の改正を受けて、⾷料システムを構築するために、実際の需要とつながる拠点事業者が農業者や産地と協力し、⽣産から流通までの課題を解決するためのソフト面やハード面の取り組みを一体的に支援します。

補助の内容は以下の通りです。

助成対象 整備事業(農業用施設)、ソフト支援(農業用機械、実証等)
補助上限額 整備事業:20億円/年、ソフト支援:5,000万円/年 ×3年間
補助率 定額、1/2以内

地域の創意⼯夫による産地競争⼒の強化(産地基幹施設等⽀援タイプ)

産地基幹施設等支援タイプでは、次の2つの観点で支援を行っています。

①産地収益⼒の強化、産地合理化の促進

産地農業において中⼼的な役割を果たしている農業法⼈や農業者団体等による集出荷貯蔵施設や冷凍野菜の加⼯・貯蔵施設など、産地の基幹施設の整備等を⽀援します。 また、産地の集出荷、処理加⼯体制の合理化に必要な産地基幹施設の再編等を⽀援します。

②重点政策の推進

みどりの⾷料システム戦略、産地における戦略的な⼈材育成といった重点政策の推進に必要な施設の整備等を⽀援します。

補助の内容は次の通りです。

助成対象 農業用の産地基幹施設
補助上限額 20億円等
補助率 1/2以内等

⾷品流通の合理化(卸売市場等⽀援タイプ)

物流の効率化、品質・衛⽣管理の⾼度化、産地・消費地での共同配送等に必要な ストックポイント等の整備を⽀援します。

補助の内容は次の通りです。

助成対象 卸売市場施設、共同物流拠点施設
補助上限額 20億円
補助率 4/10以内等

農産物の生産力・生産技術向上に活用できる補助金

農地耕作条件改善事業

農地耕作条件改善事業は、農業を持続的に行うための環境整備を目的とした支援制度です。この事業では、農地の基盤整備や作物の品質向上を図るためのさまざまな支援が行われています。

具体的には、区画整理や暗渠(あんきょ)排水、用排水路の整備などが対象となります。 この制度にはいくつかのタイプに分けられており、農地集積促進型、高収益作物転換型、スマート農業導入推進型、病害虫対策型、水田貯留機能向上型、土地利用調整型などがあります。それぞれのタイプで交付要件や補助金額が異なるため、申請を検討する際には、事前に自治体やJAに確認することが重要です。

参考:農地の整備-農林水産省

農地集積促進型

農地の区画拡大や暗渠排水などを通じて、農地の利用効率を高め、地域内での農地集積を促進する型です。この型では、農地の整備や耕作条件の改善が重点的に行われます。

主な支援の内容は以下の通りです。

支援メニューの例 区画拡大、暗渠排水、湧き水処理など
補助額・補助率 定額での支援。
・区画拡大(定額助成単価:25万円/10aあたり)
・暗渠排水(定額助成単価:19万円/10aあたり) 等

高収益作物転換型

収益性の高い作物への転換を促進するための支援型です。農業者が高収益作物への転換を図る際に必要な計画策定や高付加価値農業施設の設置を支援します。

主な支援の内容は以下の通りです。

支援メニューの例 高収益作物転換プランの作成、技術指導、農業機械のリースなど
補助額・補助率 平地:定率補助50%
中山間地域:定率助成55% 等

スマート農業導入型

スマート農業技術の導入を支援する型です。GNSS基地局の設置や自動操舵システムの導入など、先進的な省力化技術を農業に取り入れ、生産性と効率を向上させます。
労働力の不足に対応し、農業の効率化を推進します。

主な支援の内容は以下の通りです。

支援メニューの例 GNSS基地局の設置、自動操舵システムの導入など
補助額・補助率 平地:定率助成50%
中山間地域:定率助成55% 等

病害虫対策型

病害虫の発生予防とまん延防止を目的とした支援型です。土層改良や排水対策を通じて、地域農業に対する病害虫の影響を最小限に抑えることを目指します。

主な支援の内容は以下の通りです。

支援メニューの例 土層改良、排水施設の整備、客土・反転耕など
補助額・補助率 定額助成(単価例:反転耕35万円/10a、明渠排水1.5万/100m 等)

水田貯留機能向上型

水田の雨水貯留機能を向上させるための支援型です。これにより、田んぼダムの実施に必要な基盤整備が支援され、水資源の管理と有効活用を促進します。

主な支援の内容は以下の通りです。

支援メニューの例 田んぼダムの実施に向けた畦畔の更新や排水桝の設置など
補助額・補助率 田んぼダムの整備費用(単年度あたり300万円まで)定額助成

 

土地利用調整型

多様で持続可能な農地利用を実現するための支援型です。農地のゾーニングや交換分合、基盤整備を通じて、計画的な土地利用を推進します。

主な支援の内容は以下の通りです。

支援メニューの例 土層改良、明渠排水、農作業道の整備など
※定率助成及び定額助成で提供
補助額・補助率 田んぼダムの整備費用(単年度あたり300万円まで)定額助成

IT導入補助金

IT導入補助金は、中小企業が業務効率や売上向上を目的にITツールを導入する際に利用できる補助金制度です。特にスマート農業に取り組む農業者にとっては、コストを抑えながらITツールを導入する良い機会となるでしょう。

この補助金は、通常枠、デジタル化基盤導入枠、セキュリティ対策推進枠の3つに分かれていますが、農業分野では通常枠が一般的に利用されています。

補助率 1/2以内または2/3以内
※3か⽉以上地域別最低賃⾦+50円以内で雇⽤している従業員が全従業員の30%以上であることを示した場合は、2/3以内
補助額 1プロセス以上:5万円以上150万円未満
4プロセス以上:150万円以上450万円以下


通常枠の要件として、「決済」「在庫」「経営」などの業務プロセスを1種類以上保有するソフトウェアを申請する必要があります。 要件とプロセスの内容については、IT導入補助金のホームページにてご確認ください。

参考:IT導入補助金2025 通常枠

ただし、同じ購入品に複数の補助金を用いることはできないため、他の補助金と重複して申請することのないようご注意ください。

農産物の販路拡大に向けて活用できる補助金

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金は、持続的な農業経営を実現するために、政府や地方自治体が実施している支援策です。 この補助金制度では、農業者が自ら作成した経営計画に基づき、新たな販路の開拓や農産物の商品改良・開発に取り組む際に、その費用の一部を支援します。

ただし、系統出荷(JAなどにのみ作物を納めること)のみの農業者は対象外となります。

対象者 常時使用する従業員の数が20人以下の法人、個人事業、特定非営利活動法人
補助率 2/3
※特別枠の「賃金引上げ枠」では、赤字事業者については3/4
補助額 通常枠:50万円
特別枠:200万円
※通常枠、特別枠のうちいずれか1つの枠のみ申請可能

参考:小規模事業者持続化補助金-商工会議所地区

※2025年2月現在は募集がなく、次回公募は未定となっています。

補助金を上手に活用しよう

補助金を効果的に活用するためには、いくつかの重要なポイントがあります。 まず、事前準備が非常に重要です。補助金の申請には詳細な計画書や見積もりが必要になるため、しっかりとした事業計画を立てることが成功のポイントとなります。

次に、過去の採択事例を参考にすることも有効です。同じ補助金を活用した他の農業者の成功事例を調べ、そのノウハウを活かすことで、効果的な事業展開が可能になります。例えば、どのような設備投資が効果的だったのか、どのようなITツールが実際に導入されているのかなど、具体的な事例から学べることは多くあります。

過去の事例については、各補助金の交付機関のホームページなどで公開されている場合がありますので、準備する段階で調べてみることをおすすめします。

農業の資金に関するご相談はイノチオアグリへ

イノチオアグリは、ビニールハウスの建設などの施設栽培に50年以上携わってきた経験があります。

これまでに培った豊富な農業ノウハウを活かし、「農業総合支援企業」として、お客様の新規就農や農業参入を計画段階からサポートします。お客様の理想の農業を実現するために、ビニールハウスの設計・建設や栽培方法の相談、作業計画の作成などをお手伝いします。

「農業にどのくらい費用がかかるかわからない」
「他の人はどんな風に資金を準備しているのか気になる」
このようなお悩みをお持ちなら、ぜひ一度、イノチオアグリにご相談ください。