都市の近くで行われる、近郊農業。

小規模経営のイメージを持たれやすいですが、その土地の特色を活かした栽培の効率化や販売ルートの工夫によって、高収益を実現している農家もいます。

今回は、近郊農業のメリット・デメリットから、混同されやすい園芸農業との違いなど、近郊農業について幅広く解説します。


近郊農業(都市近郊農業)とは?


近郊農業とは、都市の消費者向けに、都市から距離の近い地域で行われる農業を指します。

新鮮さが求められる野菜や果物、花、鶏卵など、消費者のニーズに合った農作物を生産する経営方法です。「都市近郊農業」と呼ばれることもあり、地産地消の取り組みとしても関心が高まっています。

また、その役割は新鮮な農産物を供給するだけではありません。

消費者に近いという特性を活かし、災害時の避難場所などの「防災機能」、農業体験や交流活動の場としての「交流・レクリエーション」や「教育・学習・体験の場」などとして地域コミュニティに組み込まれており、都市農地の保全を求める声も高まっています。

都市近郊の範囲

都市近郊の範囲について明確な定義はありませんが、一般に中心都市の周辺地域を指します。例えば東京近郊は、東京への出荷が盛んな千葉県、埼玉県、茨城県、神奈川県などが該当します。

農林水産省は、その土地の土地利用上の特性に応じてタイプ分けした「農業地域類型」を設定しています。この中で、都市近郊にあたる「都市的地域」は次のような基準指標が設けられています。

・可住地に占めるDID(人口集中地区)面積が5%以上で、
 DID人口が2万人以上または人口密度500人以上の市区町村
・可住地に占める宅地等率が60%以上の市区町村

近郊農業の成り立ち

近郊農業の経営体数は全国の1割弱を占めており、都市の重要な産業としても位置づけられています。

高度経済成長に伴う宅地開発需要に対応するため、昭和43年に新都市計画法が制定されました。しかし、市街化区域内の農地は農業振興の施策の対象外とされました。

平成3年の生産緑地法の改正では、三大都市圏の特定市にある農地を「宅地化する農地」「保全する農地」に区分する制度が作られ、保全する農地は生産緑地として指定されました。

指定されると、最低30年は他人に譲渡ができず自ら管理しなければならない一方で、長期的な農業施策が実施できるようになりました。

農産物の供給機能を向上させるとともに、良好な都市環境を形成するため、平成27年に都市農業振興基本法が制定されました。さらに平成28年には都市農業振興基本計画が閣議決定され、都市部の保全する農地に対しても農業振興施策が講じられるよう方針が転換されました。

平成3年に指定された生産緑地は、指定から30年が経つと指定が解除され、他人への譲渡等が可能になります。令和4年以降は様々な農地が指定解除となることが予想され、近郊農業に取り組む人にとっては規模拡大のチャンスとなる可能性があります。

近郊農業のメリット


立地の特性を活かすことができる、近郊農業のメリットをご紹介します。

1:輸送費用が抑えられる

消費地である都市の近郊で栽培しているので、都市から離れている地域に比べて物流コストを抑えて市場や顧客に農作物を届けることができます。

例えば北海道や九州から東京へ野菜を輸送する場合は、トラックで20時間程度かかります。輸送時間が長くなればなるほど物流コストも高額となり、農業経営で得ることのできる利益が圧迫されてしまう可能性があります。

そのような背景から近郊農業は物流コストの削減と利益を確保を可能にし、利益貢献が高い農業形態と言えます。

2:鮮度を保てる

市場や消費者に近いところで栽培しているため、短時間で輸送でき、農作物を新鮮な状態で届けることができます。

これにより、鮮度が落ちてしまったことによる卸値の下落や廃棄のリスクも軽減され、消費者に新鮮な鮮度で農産物を届けることが可能になります。

3:消費者との距離が近い

消費者との距離が近いので、レストランに卸したり、イベントに出店したりと直接的な販路を確保する機会が豊富です。その場合、消費者の反応を直接得ることができるので、農業生産者のモチベーション向上にもつながります。

また、貸農園や体験農園を運営する場合も、都市住民がアクセスしやすいという利点があり、集客数の向上、結果的には農業生産の売上拡大に繋がる傾向にあります。

近郊農業は販路拡大や売上向上の可能性を広げる農業形態にもなります。

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4:多様な商品を求める消費者がいる

消費者が多いということは、それだけ求められる商品も多様になるということです。
価格よりも品質や、ストーリー性のある商品を重視する消費者もいます。

近年、農業生産者と消費者が連携して持続的な農業経営をめざす、地域支援型農(CSA)が注目を集めています。消費者が農業生産者に1年分の農作物の代金を前払いする仕組みです。

農業生産者にとっては経営の安定につながるのがメリットです。消費者に対しても、交流のある農家から安心できる農作物を手に入れられるという付加価値を提供できます。

このように、多様なニーズに合わせた農業生産や農業経営ができることも近郊農業の魅力の一つです。

5:農業を始めたい方の移住のハードルが下がる

新たに農業を始めるにあたり、新規就農準備段階でも費用が必要です。実際に、新規就農を実現した方のアンケートでは「住宅の確保」で苦労したと回答した方の割合は4番目に多い状況です。

近郊農業では都市から遠方の地方へ移住する場合と比べると、転居に伴う引越し費用や、地域に溶け込む努力などの負担が少ないといった側面もあります。

6:近郊農業の具体例とは


兵庫県神戸市でトマトとイチゴの栽培に取り組む、株式会社東馬場農園の東馬場さん。

もともとトマトの産地ではなかった場所で農業経営を行うために、消費者の購買行動を研究し、エリアとターゲットを絞って、自ら販売ルートを開拓されました。

今後の農業経営について、「これからは今よりも消費者の近くで農業をして自分たちのファンを作ることで、価格勝負にならない経営を目指したい」と仰っています。

農業生産においても、「農産物」へ如何にして付加価値を付けて販売するのかが今後の農業経営を持続する上で必要です。

実際に「消費者の近くで農業を行い、自分たちのファンを作る」農業経営を目指す方の事例をご覧ください。

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近郊農業のデメリット


都市近郊だからこそ発生してしまうデメリットをご紹介します。

1:農地の確保が難しい

都市部では農地が限られているため、新規就農を考える場合には農地の確保が難しいことが難点です。

農地を買う場合にも借りる場合にも、地方よりコストがかかり、農地の候補も少ないのが実態です。実際に新規就農時に農地確保で苦労したと回答した方の割合は72.8%にものぼり、最も多い状況です。

また、せっかく農地を見つけた場合も、希望する農業の経営形態や作物に適さない場合、思い描いていた農業経営・栽培が実現できない場合があります。
都市部を始め、その他の地域でも、ポイントを踏まえた農地選びが重要です。

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2:生活費・人件費が高い

都市近郊では、生活費や人件費が地方よりも割高になります。
特に社員やパートナー・アルバイトを雇用する場合は、固定の人件費が売上を圧迫してしまう可能性があります。

実際に農業経営を成功に導く秘訣の1つとして、3大経費(減価償却費、エネルギーコスト、人件費)を抑える必要があります。

人件費を抑えるには、必要なだけの人員で、より短い時間で成果を上げることが重要です。作業進捗を数字で把握することで、現状を「見える化」し、作業改善・経営改善に繋げることも農業経営を成功に導く上で欠かせません。

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近郊農業が盛んな県はどこ?栽培作物は?


近郊農業が盛んなエリアと、そこで栽培される作物についてご紹介します。

関東地方の農業

都心に近い関東地方では、鮮度が落ちやすい野菜や草花を中心に、市場でより高く売れる作物が効率的に栽培されています。

日本で一番広い平野である関東平野では、野菜が多く生産されており、関東平野の野菜畑の面積は、全国の野菜畑の約4分の1を占めるほどです。

関東地方では、収穫量(2021年調査)が全国1位になっている野菜が多くあります。
いずれも全国的に流通し、消費量が多い野菜ばかりです。

収穫量では、ネギ、ほうれん草、さといもは埼玉県が全国1位となっています。特にネギとほうれん草は、上位3位を関東地方の県が占めています。

また、栃木県のいちごの収穫量も全国1位で、「とちおとめ」などのブランド品種が作られています。

加えて、関東圏は農業者の組織化が進んでいないという特徴があります。集落営農組織などの販売目的で営農する組織経営体は、1割にも及びません。 大都市へアクセスしやすい関東地方の農業地では、集団的対応の必要性が少ないため、個人個人の農家が、市場の環境変化に素早くに対応することができます。

近畿地方の農業

近畿地方では、大消費地・京阪神などの都市と農村が近距離で共存しており、多様な農作物がバランスよく育てられています。

近郊農業が特に盛んなのは大阪府、京都府、兵庫県です。大阪府では春菊の出荷が全国1位となっており、京都府では小松菜とほうれん草、兵庫県ではレタスやキャベツの出荷が、関西で最多となっています。

江戸時代には「天下の台所」と呼ばれた大阪府では、しおれやすい葉物野菜や傷みやすい果物など、輸送時間の短さが重要となる農作物を栽培し、大量消費地の需要に応えています。
盆地が多い京都府・奈良県や、琵琶湖を有する滋賀県は、その特色を活かした農業を行っています。

近畿地方の農業は、地域の特性を活かして行われていることが大きな特徴と言えます。

近郊農業と園芸農業の違いとは


混同しやすい「園芸農業」と「近郊農業」の違いを解説します。

近郊農業と園芸農業の違い

「園芸農業」とは、都市部へ出荷することを目的として野菜や花などを栽培する農業を意味します。

そして園芸農業の中で、都市の近くで行われているものを「近郊農業」といいます。

施設園芸農業とは

園芸農業のうち、ガラス温室やビニールハウスを利用して野菜などを栽培する農業を「施設園芸農業」といいます。

温度や湿度、供給する水分量に至るまで、作物に適した栽培環境を整えることが可能であり、 天候や外気温に左右されず、安定した環境で栽培をすることができます。

施設園芸農業に不可欠なビニールハウスの特徴

ビニールハウスは、鉄骨や曲げ加工したパイプで骨組みを作り、ビニールで覆われた農業用の施設です。ガラス温室と比べて安く農業経営の基盤を整えることができます。

理想とする農業経営像や、求める需要に応じて、ビニールハウスの形状や骨材、被覆材、内部設備を決定します。

作物や土地環境、栽培方式に応じて、複数のビニールハウスを使って管理できるのも特徴のひとつです。

ビニールハウスといっても、栽培する作物や環境によってその種類は多岐に渡ります。ビニールハウスの主な使用用途は次の通りです。


  • 雨風を防ぐ
  • 栽培環境のコントロールによる収量&品質向上
    (温度、湿度、採光性、病害虫リスクの軽減)
  • 栽培時期を管理し、出荷量が落ち込む時期に出荷する


農業生産用のビニールハウスは、オーダーメイドで建設するケースが多くあります。

お客様の目的や活用用途、建設予定地、栽培作物、栽培形態に応じて、ビニールハウス本体の仕様やビニールハウスの内部設備、効率の良い栽培を実現するハウス内のレイアウトを検討した上で建設します。

ビニールハウスを建てる際は、農地(建設予定地)や栽培作物からビニールハウスの形状や仕様を決定し、栽培形態に応じて、内部設備を決定する流れが一般的です。

新たに農業生産用のビニールハウスの建設を検討する際は、ハウスメーカーに問い合わせ、形状や仕様など含めて相談しましょう。


イノチオアグリは施設園芸をトータルサポートします


イノチオアグリは施設園芸(農業ハウスやビニールハウス)に携わり、50年以上の知見がございます。50年以上に渡り、培ったノウハウを活かし、企業の農業参入を計画段階からご支援いたします。

お客さまのエリアやご要望の農業形態をお伺いし、各農業形態(園芸農業や近郊農業)のメリットや違いから伴走いたします。また、農業形態の他にもビニールハウスの設計や栽培方法、作業計画を一緒に考え、事業収支の試算までの策定をお手伝いします。