農業は、高齢化や担い手不足、耕作放棄地の増加など、多くの課題を抱えています。

そこで今、働く場を求めている障がい者などと連携して農業に取り組む「農福連携」が注目を集めています。

今回のコラムでは「農福連携」の概要をはじめ、農業参入をする際に活用できる補助金情報まで幅広くご紹介します。

農福連携とは?

一般的には、農福連携=障がい者を雇用するという認識の方も多いですが、農林水産省では以下のように定義しています。

農福連携とは、障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組です。

農福連携に取り組むことで、障害者等の就労や生きがいづくりの場を生み出すだけでなく、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性もあります。

農業と福祉(障害者)の連携という狭い意味で捉えられがちな農福連携ですが、農の向こうには農林水産業や6次産業などがあり、福の向こうには障害者だけでなく、高齢者、生活困窮者、触法障害者など社会的に生きづらさがある多様な人々が包摂されます。

2019年6月に発信された農福連携等推進ビジョンでは、「農福連携を、農業分野における障害者の活躍促進の取組にとどまらず、ユニバーサルな取組として、農業だけでなくさまざまな産業に分野を広げるとともに、高齢者、生活困窮者、ひきこもりの状態にある者等の就労・社会参画支援、犯罪・ 非行をした者の立ち直り支援等にも対象を広げ、捉え直すことも重要である。」と明記されました。

その後多くの場面で「農福連携」から「農福連携等」と表現されるようになった背景には、農と福のもつ意味の広がりが生み出す新たな価値への期待が込められています。

以上のように、農福連携とは「農業」と「福祉」が連携して取り組んでいます。

参照:農林水産省-農福連携

農福連携が浸透した背景

農福連携の目的は、障がい者などに就労の場や就労を通して生きがいを提供することに加え、高齢化の進む農業分野において新たな担い手を確保することにあります。

「農福連携」という言葉は、2010年頃から一般的に浸透が始まりました。
鳥取県で農業と福祉が連携して推進する「鳥取発!農福連携事業」という事業名に使われたり、農林水産政策研究所において「農村活性化プロジェクト研究農福連携研究チーム」が発足したりなど、目にする機会が増えてきました。

行政主体の取り組みからはじまり、今では医療機関から一般企業まで浸透しています。

農福連携が注目される理由とは?

農福連携がなぜ注目をされているのかについてご紹介していきます。

農福連携が農業就業人口の減少と高齢化の解消への期待

農業の課題として、従事している人口が減少していることが挙げられます。

農業就業人口はここ20年で半分にまで減っています。さらには農業者の平均年齢も7歳上がり、高齢化が進んでいるのが現状です。さらに、自営農業に従事している基幹的農業従事者についても、近年は減少傾向にあります。

原因の一つに、農業が機械化されたことや、生産技術が向上したことで多くの人手が必要なくなった事情があります。しかし、農業従事者が高齢化だけでなく、農業の担い手が不足しているのが最も重要な課題と言えます。

そこで、農業を障がい者などの労働力を活用していくことで、この問題が解決されるのではないかと農福連携の取り組みが期待されています。

関連記事:農業人口の実態とは?高齢化による担い手・人手不足の解決策を解説


参照:農林水産省-農業労働力に関する統計

障がい者雇用に関する課題解消への期待

近年、障がい者の就業意欲は右肩上がりで高まっています。
本人の能力と適正を十分に発揮でき、個人の特性などに合わせた活躍の場がさらに必要となっています。

内閣府が発表している令和4年版-障がい者白書によれば、民間企業における障がい者の雇用者数は2011年から18年連続で更新を続け、2021年には597,292人となりました。

今後、障がい者が働く場を確保・拡大するためにも、担い手不足の農業との連携が期待されています。

参照:内閣府-令和4年版 障害者白書

農福連携の現状

結果から言えば、農福連携は増加傾向にあります。
令和3年度末の農福連携に取り組む主体数は5,509と、令和4年度末の主体数を比較すると938増えています。

農福連携に実際に取り組む農業者が、きっかけとして挙げたのは「障がい者就労施設等からの紹介」です。

また、実際に農福連携に取り組んでいる農業者の75%が「続けたい」と回答してます。農福連携の効果と定着を実感できる結果となっています。

障がい者就労施設だけではなく、農業者や行政なども農福連携に主体的に取り組むことで、今後さらに広がっていくことが予想されます。

参照:農林水産省-農福連携の取組主体数について
参照:農林水産省-令和3年度 食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査 農福連携の取組に関する意識・意向調査結果

農福連携の推進に向けた取り組み

農林水産省では、農業就業人口の減少と高齢化、障がい者などの雇用の課題に対して、具体的な取り組みの方向を示した「農福連携等推進ビジョン」を発表しています。

具体的な内容を確認していきましょう。

認知度の向上

農福連携の課題として、既存の取り組みが一般的に認知されていません。そこで以下のアクションを実施しています。

・定量的なデータを収集・解析し、農福連携のメリットを客観的に提示
・優良事例をとりまとめ、各地の様々な取組内容を分かりやすく情報発信
・農福連携で生産された商品の消費者向けキャンペーン等のPR活動
・農福連携マルシェなど東京オリンピック・パラリンピック等に合わせた戦略的プロモーションの実施

取り組みの促進

農福連携に興味があるが、どう取り組めばいいのかわからないといった課題もあります。

○ 農福連携に取り組む機会の拡大
・ワンストップで相談できる窓口体制の整備 ・スタートアップマニュアルの作成
・試験的に農作業委託等を短期間行う「お試しノウフク」の仕組みの構築
・特別支援学校における農業実習の充実
・農業分野における公的職業訓練の推進

○ ニーズをつなぐマッチングの仕組み等の構築
・農業経営体と障害者就労施設等のニーズをマッチングする仕組み等の構築
・コーディネーターの育成・普及
・ハローワーク等関係者における連携強化を通じた、農業分野での障害者雇用の推進

○ 障害者が働きやすい環境の整備と専門人材の育成
・農業法人等への障害者の就職・研修等の推進と、障害者を新たに雇用して行う実践的な研修の推進
・障害者の作業をサポートする機械器具、スマート農業の技術等の活用
・全国共通の枠組みとして農業版ジョブコーチの仕組みの構築
・農林水産研修所等による農業版ジョブコーチ等の育成の推進
・農業大学校や農業高校等において農福連携を学ぶ取組の推進
・障害者就労施設等における工賃・賃金向上の支援の強化

○ 農福連携に取り組む経営の発展
・農福連携を行う農業経営体等の収益力強化等の経営発展を目指す取組の推進
・農福連携の特色を生かした6次産業化の推進 ・障害者就労施設等への経営指導
・農福連携でのGAPの実施の推進

取り組みの輪の拡大

農福連携の認知度が上がって取り組みが進んでも、定着をしない、活動が一部に留まっていては意味がありません。
取り組みの輪を拡大していきましょう。

・各界関係者が参加するコンソーシアムの設置、優良事例の表彰・横展開
・障害者優先調達推進法の推進とともに、関係団体等による農福連携の横展開等の推進への期待

以上が農林水産省が発表している「農福連携推進ビジョン」の内容となります。

参照:農林水産省-農福連携等推進ビジョン

農福連携のメリット

では、実際に農福連携に取り組むことでどのようなメリットがあるのかご紹介します。

人材の確保ができる

農業は、就労人口が減少しているだけでなく、高齢化も進んでいます。その中で、農業の担い手をどう補うかが大きな課題です。

働く場を求めている障がい者などを受け入れることで、必要な人材を確保できれば、農家にとっては大きなメリットになります。また、障がい者にとっても働き先の確保にもつながるので、お互いにとってのメリットと言えます。

経営規模・栽培規模を拡大できる

上記で挙げた人材の確保と関連する内容になりますが、働き手が増えることで収益性が上がり、今後の規模拡大にも期待できます。

限られた人数では賄えなかった作業をすることもでき、経営者としての仕事にも時間を割けるようになります。

農地管理や維持につながる

農業就業人口の減少と高齢化は、農地が使われずに放置される耕作放棄地の増加にも深く関係しています。

農地を維持するためには作業を担える人手が必要です。
障がい者などを受け入れることで、農地を管理し、維持していくことにもつながります。

関連記事:日本の農業が抱える課題解決策を徹底解説

農福連携のデメリット

メリットがある一方で、デメリットもあります。

適切な技術指導が求められる

障がい者の方々が抱える特性は、人それぞれあります。
そのため、障がい者の方が栽培に関わるすべての作業をこなせるとは限りません。

できること、できないことを見極めた上で依頼しましょう。業務を依頼する際には、根気よい指導が求められます。

安定雇用の確保と技術取得が必要

農作業は天候などによって状況が左右されます。作業ができる日もあれば、できない日もあります。

継続的に仕事を依頼できないと、障がい者の技術習得が難しくなる場合があります。

安全面への配慮

農業は農業機械や農機具などを使います。安全に作業をするには、その使い方や操作方法などを、障がい者などに分かるように説明しなければなりません。また、足が不自由な障がい者を雇用する場合には、バリアフリーなどにも心がける必要があります。

農福連携に役立つ補助金や助成金制度

農福連携に取り組み際には、国や行政から出されている補助金や助成金の支援を活用できます。

農福連携支援事業

農福連携支援事業は、障がい者などの技術取得や作業工程のマニュアル化、ユニバーサル農園の運用などを支援する交付金です。

【事業期間:2年間、交付率:定額(上限150万円など)】

農福連携整備事業

農福連携整備事業は、障がい者などに配慮した生産施設やユニバーサル農園施設、安全・衛生上必要な付帯設備などの整備を支援する交付金です。

【事業期間:最大2年間、交付率1/2(上限1,000万円、2,500万円など)】

普及啓発・専門人材育成推進対策事業

普及啓発・専門人材育成推進対策事業は、農福連携を全国的な展開にする取り組みや、定着させるための専門人材の育成を支援する交付金です。

【事業期間:1年間、交付率:定額(上限500万円など)】

上記の他に、ハローワーク等の紹介により障がい者などを継続して雇用した場合に受けられる「特定求職者雇用開発助成金」や、障がい者などが働きやすい職場環境の整備にかかる費用の一部を補助する「障害者作業施設設置等助成金」(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)などがあります。

農福連携で栽培に取り組みお客さま事例
ウェルファームMINORI

ウェルファームMINORIは、大分県別府市にある農協共済別府リハビリテーションセンター障害福祉サービス事業所です。
農作業を通じて就労継続支援B型の作業所利用者さんの機能訓練を行っています。

ビニールハウスのなかで、年間85~100トンほどのミニトマトを栽培しています。年間を通して、1日約5時間ほどの作業を提供できています。

ミニトマトを選んだ理由は、片麻痺の障がいのある方が片手で収穫ができる、足が不自由な障がい者の方が車いすに乗ったまま収穫ができるためとのことです。

ウェルファームMINORIで働く障がい者の方からは「ミニトマト栽培をすることで、ものづくりの楽しさや社会貢献ができている感じられる」と言った嬉しい感想がありました。

関連事例:農作業を通じて障がい者の方々の支援を

農福連携での農業参入はイノチオアグリへご相談ください

イノチオアグリは「農業総合支援企業」をコンセプトに、ビニールハウスに携わり50年以上、培ってきたノウハウを活かし、コラム内でご紹介させていただいた事例以外にも、数多くの農福連携での農業参入をご支援してきました。

お客さまのご要望や条件に基づいて農業参入に向けた事業計画の作成や収支シミュレーションベースのご提案からビニールハウス、内部設備の設計と、農業参入までトータルで支ご援いたします。

さらに、各種研修プランや専門指導員によるサポートで、事業開始の準備期間だけでなく、栽培開始後の運営管理や従業員の労務管理、気象災害時のアフターフォロー、機器メンテナンスまでご対応いたします。