自然の中で、自分の手で農作物を育て、収穫し、販売する農業。そもそも農業とはどんな仕事なのか、そして農家になるためには何をすればよいのか、分かりやすく解説します。

農業の定義とは?

農業は、その土地の自然環境を利用して農産物を生産し、出荷することで利益を得る産業です。生きる上で欠かせない食料を供給する、重要な仕事である一方で、環境保全や地方活性化を担うといった地域貢献の役割も果たしています。

農業の仕事内容

農業の仕事は、育てる農作物・家畜の種類・品種によって栽培・飼育方法や収穫時期がまったく異なります。そのため、農畜産物の種類が、1年間の仕事内容やスケジュールを決定する大きな要因となります。

ここでは、農業の仕事の種類についてより詳しく解説します。

農家の仕事を簡単に解説!

農業には多様な形態がありますが、大まかには以下の4つに大分されます。
どのような形態で何を育てるかによって、仕事の内容はさまざまです。

耕種農業
田畑を耕し、種や苗を植えて作物を作ります。 稲作や畑作、野外で栽培する露地野菜、ビニールハウス等の施設内で栽培する施設野菜などが耕種農業に該当します。

果樹・花き農業
くだものや植物を育てる農業です。 ブランド化や加工品販売が盛んであり、生産から販売まで一貫して行う6次産業化に積極的な農家が多いのが特徴です。

畜産農業
家畜を飼育する農業です。酪農・肉牛・養豚・養鶏のほか、競走馬を育てる仕事も畜産農業に含まれます。

観光農業
「観光」と「農業」が結びついた農業のかたちです。 イチゴ狩りなどのように、気軽に収穫体験ができる農園を開放したり、採れたての農作物を提供する農家レストランを開いたりといった経営方法があります。

農業は、天候によって農畜産物の質が変化することもあれば、社会情勢に左右される場合もあります。どの形態で農業を行うにしても、自然環境と時代の変化を見据えて、育てる農畜産物の種類を検討したり、出荷量を調整したり、栽培方法を見直したりといった工夫が必要です。

農業の「3K」はもう古い!

一般的に、3Kとは「きつい・汚い・危険」という意味で、労働環境が悪いことを表します。

農業も長らく「3K」と言われ、多くの若者がサラリーマンに憧れた高度経済成長期には特に、職業選択の際に避けられてしまう仕事でした。しかし、テクノロジーの進歩によって、農業のイメージは変わりつつあります。

植物に水や肥料を供給する灌水・給液は手間がかかる作業ですが、スマートフォンなどを用いた遠隔操作によって、自宅にいても可能になりました。

また、農業は長い間、職人のように「勘」が重要な仕事でしたが、現在はあらゆる植物の状態が数値で表せるようになり、栽培の経験が少ない人でも、おいしい野菜を作ることができます。

栽培の効率化・省力化を実現し、かつての「きつい・汚い・危険」のイメージを払拭するような最新のシステムや技術が日々生み出されているのが、現代の農業です。

さらに、最近では、農業に従事している人の間で「感動・かっこいい・稼げる」を意味する「新3K」という言葉が生まれています。

自らの手で一から農作物を育てる「感動」を味わうことができ、販路開拓やマーケティングの腕を磨くことで「かっこいい」経営者になれる。さらに、ただ栽培するだけではなく、工夫して農作物の付加価値を高めることで「稼げる」仕事へと、農業は進化しています。

農業は外部の環境に左右されるため、デスクワークなどと比べると、仕事量や休みが不安定だったり、体力が必要だったりする場合があります。

しかし、農作物に触れることが好きな人にとっては、自然の中で一から作物を育て、それを消費者に届けることができるという点に、他の職業では得難い喜びを見出せるのではないでしょうか。

主な就農方法とは?

農業の仕事に就くことを「就農(しゅうのう)」といいます。

就農には、親や親戚の後を継いで農家になる「親元就農」のほかに、農業法人に就職する「雇用就農」と、個人事業主として開業して働く「新規就農」という方法があります。

ここからは、雇用就農と新規就農の道のりについて、詳しく解説します。

農業法人に就職する

雇用就農というかたちで農業法人に就職する場合は、サラリーマンと同じように、給料を受け取って働きます。

すべてを自分の思う通りにはできない一方で、安定した収入を得ながら、農業の知識や技術を習得できるという利点があります。

雇用就農する人の中には、将来的な独立を目指し、農業法人で栽培や営農の経験を積むことを目的として就職するケースもあります。

就職までのステップは、一般の企業に応募する場合とほとんど同様の流れです。
次では、農業法人への就職に必要となるポイントについて解説します。

農業法人への就職で求められること

結論から言えば、農業法人への就職で求められる要件に、特別なものはありません。

農林水産省が行った調査によると、採用時に最も重視されるのは、どうして農業をしたいのかといった「志望動機」です。

また、採用時に評価する資格・免許についての調査では、回答した企業のうち91%が、必須の免許として「普通自動車免許」を挙げています。

農業法人への就職にあたり、特別な免許・資格が求められることはほとんどないと言えます。

出典:農林水産省「農の雇用事業に関するアンケート 調査結果概要」

就職前に自己分析を!

農業法人への就職には志望動機が重要とはいえ、「就農したい!」という想いや勢いだけでは、理想の就農を実現することは難しい可能性があります。

就職する前に、自分の考えをまとめ、就職先の仕事が自分のやりたい仕事かどうかを判断できる「評価軸」を持っておくことが、就農を成功に導くポイントです。

まずは、「なぜ農業を仕事にしたいのか?」を明確にしましょう。本当に農業を仕事にしたいのか、どうして農業がしたいのか、どのように働きたいのかを明らかにします。

それらを踏まえ、やりたいことや希望の働き方などを具体化することで、企業選びがよりスムーズになります。また、採用時に重視される志望動機の作成においても、説得力のあるものが書けるようになります。

独立して新規就農する

個人事業主として独立して新規就農すれば、「どの作物を作るか」「どのような働き方をするか」など、すべて自分で決めることができます。

現在の情勢や今後のトレンドなどを読み解き、独自性のある農業を行うことで、高収益を得られる可能性もあります。

ただし、新規就農にあたって高いハードルとなるのが、「初期費用・運転資金などに必要なお金をどう工面するか」「農業の知識・技術をどう習得するか」など、長期的な視野を持って経営をすすめなければならない点です。

これらを検討するにあたり、事前にしっかりと準備をしておく必要があります。

関連記事:新規就農・農業参入のポイント

新規就農は事前準備が重要!

独立して就農する場合は、農地や資金の事前準備がとても重要です。
それだけではなく、栽培の知識・技術の習得も欠かせません。

「新規就農者の就農実態に関する調査結果」のアンケートでは、新規就農・農業参入時に苦労したこととして「農地の確保」(72.8%)、「資金の確保」(68.6%) 、「営農技術の習得」(57.7%)の順に高い割合を占める結果となりました。

就農準備においては、農地、資金、営農技術の3点の確保が主な課題であることがわかります。ここからは、これら3点を準備する際のポイントについて解説します。

土地の準備

耕作目的で農地を買う、借りる場合には、農地法第3条に基づき農業委員会(または都道府県知事)の許可を受ける必要があります。

農業委員会が許可するか否かの判断は下記の審査により行われます。

  • 農地の受け取り手が農地を効率的に利用するかどうか
  • 受け取り手の農業経営状態
  • 経営面積
また、個人が農地を取得するための要件には下記が挙げられます。
  • 取得する農地すべてを耕作して有効活用すること
  • 農業経営に必要な農作業の常時従事すること(原則年間150日以上)
  • 総経営面積が北海道の場合は2ha以上、都府県では50a以上であること
  • 周辺の農地利用に支障がないこと


新規就農する場合は、3つ目の下限面積条件に注意が必要です。

北海道で2ha以上、都府県で50a以上と定められている理由は、経営面積があまりにも小さいと、生産性が低下し、効率的かつ安定的な農業が行われないと想定されるおそれがあるためです※。

※ただし、花卉栽培など施設園芸等の集約的な農業経営であると認められる場合は、この下限面積に達しなくてもよいとされています。

4つ目の要件の具体例としては、無農薬栽培の取り組みが行われている地域で農薬を使用するなどの行為をしないことなどが挙げられます。農地を確保するには、市区町村の農政課や農業委員会、農地バンクを活用して探すケースが一般的です。

耕作放棄地が増えているとはいえ、希望条件に合致した農地を探すことは容易ではありません。より多くの選択肢を得るためにも、候補地はひとつの市区町村に絞らず、複数選んでおくことが重要です。

農地の選び方については、以下の記事でより詳しく解説しています。

関連記事:ビニールハウスを建設する際に農地の見るべきポイントとは?

資金の準備

新規就農する際には、農地や住宅、ビニールハウス、機械を用意するための費用が必要です。これに加え、生産に関する農薬や肥料、種苗などの生産資材、売上が安定するまでに必要な所得を考慮し、準備する必要があります。

また、就農時に必要な資金は、どの作物をどのように栽培するかで大きく金額が変わります。全国新規就農相談センターの経営シミュレーションによると、新規就農のための平均的な準備資金額、また土地以外の機械や施設を取得するのに必要な金額の平均は下記の表の通りです。

栽培形態 平均準備資金額 土地を除く機械・施設準備費
水稲 6,258,000 4,327,000
施設野菜 5,285,000 7,953,000
果樹 5,093,000 3,675,000


全作目で機械や施設を取得する際にかかった平均額は561万8,000円です。
水稲と果樹は、全作目平均よりも比較的安い金額で機械や施設を用意することが可能です。

いずれにしても多額の資金が必要になるため、国や自治体による経済的支援制度も活用しながら、就農に向けて準備をすすめることが重要です。

関連記事:認定新規就農者制度とは?メリット・デメリットまで解説

 

機械や施設は、高い性能を望めばそれだけ費用がかかりますが、就農したばかりの頃は栽培作物の利益化まで時間がかかってしまい、経営がうまく回らない可能性もあります。

資金が限られている場合は、最初からハイスペックな環境を整えようとせず、まずは必要最低限の設備で栽培をはじめるという方法もあります。

自分の理想の農業を実現するためにはどのくらいの費用がかかるのか、ハウスメーカーなどに依頼して一度試算してみると、今後の計画が立てやすくなります。

就農を成功させるポイントとは

農家として独立することは、1事業の経営者になるということです。

就農後に農業経営を成功に導くために重要なポイントについて紹介します。

農業で生計を立てるための考え方

農業で生計を立てるために必要なのは、売上と経費の考え方です。

たくさんの収益があっても、生計を立てられるとは限りません。粗収益から経営費(必要経費)を引いたものを「農業所得」といい、これを伸ばしていくことが高収益に繋がります。

農業で生活していくためには、経費から必要な収益を逆算して農業所得を算出し、生活・経営の両方を成り立たせるための方針を固める作業が不可欠です。

作物や栽培方法に関わらず、農業で生計を立てていくためには、売上や必要経費などを目先の数字として単体で捉えるのではなく、全体を俯瞰して、売上と経費のバランスを長期的に保つことが重要です。

儲かる作物選びとは?

多くの農業所得を得ている農家の中には、高単価の作物を選んで作っているところが多くあります。

作物や栽培方法によって栽培に必要なリソースは異なるため、なるべく利益を得やすい作物を選ぶことが、高収益を目指すにあたり重要となります。

農林水産省の「品目別経営統計」では、生産している作物別の農業所得(農業粗収益から農業経営費を引いたもの)が公表されています。

露地で栽培されている中で所得が高い作物は以下の通りです。

作物 10a(1,000㎡)あたりの農業所得
シシトウ 1,428,000
ナス 1,226,000
キュウリ 1,185,000


また、ビニールハウスなどで栽培される施設野菜では、下記のようなランキングになっています。

作物 10a(1,000㎡)あたりの農業所得
ミニトマト 2,028,000
イチゴ 1,808,000
ナス 1,694,000


施設野菜は通年で栽培ができる点からも、10a当たりの農業所得は露地野菜に比べるとおおむね高くなっていますが、同時にハウスの管理費といった農業経営費も多くかかるのが特徴です。

ただし、注意点として、農業所得以外にも作物の栽培にかかる時間を考慮する必要があります。単純な農業所得は多くても、栽培にかかった時間を考慮して時給換算すると、実はそれほどコストパフォーマンスが良くないという場合があります。

以下の記事では、ビニールハウスで栽培される施設野菜にスポットを当て、儲かる作物とその考え方について、より詳しく解説しています。

関連記事:ビニールハウス栽培で儲かる作物・果物5選!

参考:農林水産省-品目別経営統計

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ビニールハウスにたずさわって50年以上のイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として、これまで数多くの方の新規就農をご支援してきました。

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