独立して農業をはじめる際には、十分な事前の計画と、地道な準備が必要です。

今回のコラムでは、個人事業主としての農業の開業にあたって必要な基礎知識についてご紹介します。

農家は個人事業主になる?

そもそも、農家は「個人事業主」にあたるのか?という疑問は、新規就農を目指す方からよく聞かれます。 結論として、農業所得を含む事業所得を得ている人は、基本的に個人事業主に該当します。

通常は開業届を提出し、開業日から個人事業主を名乗ることができます。

農業法人を設立するという方法も

個人事業主として就農するケースのほかに「農業法人を設立する」という方法もあります。 法人格を取得することで社会的信用を得やすくなり、銀行からの借り入れをスムーズに行うことができたり、取引先からの信用を得やすくなったりするなどのメリットがあります。

個人事業主として就農する場合と農業法人を設立する場合とで、それぞれにメリット・デメリットがあります。対応にかかる手間や税制と、将来のビジョンとを照らし合わせた上で選ぶことをおすすめします。

農業をはじめるために必須の準備とは

農業をはじめるにあたり、最も大切なのは事前の準備です。これが不足していたために、思い描いていた農業ができず、農家をやめてしまうという例は数え切れません。

ここでは、新しく農業をはじめる方(新規就農者)がもっとも苦労する、土地・資金・栽培技術を準備する際のポイントについて解説します。

土地の準備

農地の準備は、もっとも多くの人がつまずくポイントです。

そもそも土地の貸し手・借り手のマッチングが難しいということもありますが、その土地が栽培に適しているのかを吟味しないままに選んでしまい、いざ栽培をはじめるときになって問題が発生する、というケースが少なくありません。

農地を選ぶ際は、次の6つのポイントにあてはまっているかを必ず確認しておきましょう。

  • 利便性:自宅から近く、大きな道路に面していること
  • 土地特性:水源が近くにあり、水はけが良いこと
  • 土地形状:正方形または長方形に近い形状をしていること
  • 周囲の環境:周囲が住宅街でなく、日光を遮る建設物がないこと
  • 土地の環境:風速や積雪が厳しくないこと
  • 規模拡大への備え:近隣に空いている農地が隣接していること

なぜこれらの項目が重要なのか、具体的にどのような土地があてはまるのかについて、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。

関連記事:新規就農に向けて農地の見るべきポイントとは?

資金の準備

農業は、農業用トラクターやビニールハウスなど、初期投資が高額になる事業です。さらに、栽培中は肥料代や人件費といった費用も発生します。しかし、農業収入を得るまでには時間がかかりますので、就農前の資金の準備が大変重要です。

国や自治体は、日本の農家が減少している状況を鑑み、新規就農者に対してさまざまな経済的支援策を講じています。就農前の研修時から活用できる補助金もありますので、資金に関する情報は適宜チェックし、活用することをおすすめします。

新規就農におすすめの融資や補助金については、こちらの記事で詳しく解説しています。

関連記事:農業の資金調達は難しい?新規就農におすすめの融資・補助金を解説

補助金を申請する際、具体的な事業計画など、自力だけでは作成することが難しい書類を求められることもあります。 イノチオアグリでは、新規就農される方へ、融資や補助金に関するご相談も承っております。申請に向けご不安な点など、ぜひご相談ください。

栽培技術の習得

農業は自然を相手にする事業です。きちんと栽培管理を行わないと年収ゼロ円ということにもなりかねません。

研修を受けているとはいっても、栽培技術に不安を覚える人は少なくありません。 その際は、新規就農後に栽培を伴走するサービスを積極的に活用しましょう。
作物を育てる際の不安はもちろん、自分の経営状況を含めて、よりよい農業経営を行っていくための方法について専門家に相談することができます。

開業届や社会保険はどうする?
農業をはじめる際の手続きとは

個人事業主として農業をはじめるためには、いくつかの手続きを行います。
ここでは、必要な手続きについてご紹介します。

事業計画を立てる

農業で生計を立てていきたい場合、事業計画の作成は欠かせません。事業計画書はどのように農業を行っていきたいかをまとめられるだけではなく、すでにご紹介したように、補助金や融資を申請する際にも必要になります。

しかし、農業の何ににどのくらいのお金がかかるのか、自力ですべて調べて事業計画書を作ることは簡単ではありません。

そのため事業計画の立て方は、農業のノウハウを持った企業などに相談することがおすすめです。

社会保険を切り替える

農業をはじめる際に、公的保険を切り替えましょう。特に、農家になる前にサラリーマンとして勤めていた方は、確認しておくべき項目です。

独立農家になると、労働保険と社会保険の2つに加入する必要があります。内容は個人・法人で変わりますが、ここでは個人事業主の場合にフォーカスしてご紹介します。

労働保険について

労災保険・雇用保険ともに、個人経営の場合、労働者が常時5人未満であれば「暫定任意適用事業」といって、一部の場合を除き、原則として加入は任意です。
労働者が常時5人以上いる場合は、労働保険は強制適用となります。

社会保険について

個人経営の場合は、原則として国民健康保険と国民年金に加入する必要があります。

保険の加入については、専門知識がある方に相談してすすめていくことをおすすめします。

参考:AgriweB「農業の労働・社会保険」
参考:農家の家計簿「脱サラ新規就農者の社会保険切替時の注意点~保存版~」

青色申告承認申請書を提出する

青色申告とは、確定申告の区分のひとつです。
確定申告で青色申告を選択することで、次のようなメリットがあります。

  • 最大65万円/55万円/10万円の青色申告特別控除を受けられる
  • 家族の給与を必要経費にすることができる
  • 赤字を3年間繰り越せる ・減価償却の特例を受けられる
  • 一括評価分の貸倒引当金の計上が可能

青色申告で確定申告を行うためには、「青色申告承認申請書」を作成し、管轄の税務署に提出する必要があります。

青色申告承認申請書の提出は通年で受け付けてもらえますが、青色申告による控除を受けたい場合、その年の3月15日までに提出しましょう。
たとえば、2024年分の確定申告を青色申告にしたい場合は、2024年の3月15日までに青色申告承認申請書を提出する必要があります。

確定申告や青色申告について、詳しくはこちらの記事で解説しています。

関連記事:農業経営における確定申告の重要性とは?経費や必要書類を徹底解説

農家資格を取得する

農家資格は、農業をおこなっていく上で必須の資格といえますが、正確には「農地を購入したり、借り入れたりするための資格」です。農地法では、一般人は農地を自由に売買・貸し借りすることができない、と定められています。

資格は、市町村の農業委員会に農家として認定を受け「農地基本台帳」に登録されることで取得できます。「認定申請書」や「営農計画書」などを提出する必要があるため、まずは市町村の農地委員会に相談しましょう。

開業後の経費計上はどのように行う?

農家として開業するにあたって発生する経費への対応についてご紹介します。

経費計上できる期間とは

就農の準備のために使った費用、たとえば農業に関連する本の購入やセミナー受講料、研修費といった費用は「開業費」として扱われます。
開業費は一度資産に計上して、開業した年も含めて2年目、3年目と少しずつ経費に計上できます。

これらの支出は、開業のためと説明できれば、いつでも開業費として計上することができます。支出の理由が具体的に説明できるものであれば、開業費に含めて計上し、節税に繋げましょう。

経費計上できる金額とは

開業費として計上できる金額は、期間と同じく支出の理由を説明できるのであれば合計金額の上限は問われません。
しかし、1項目あたりの金額が10万円以上か、10万円未満かで扱いが異なります。 1項目あたりの取得価額が10万円を超えてしまうと、固定資産として扱われるため、開業費に含めることができません。

たとえば、業務に使用するパソコンを購入した場合、10万円以上なら固定資産として扱って毎年「減価償却費」として計上、10万円未満なら「開業費」に計上します。

減価償却費とはなにか?や、計算方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:農業所得における減価償却費の計算方法とは?耐用年数も紹介

個人事業主として農業をはじめるときの注意点

ここまで、個人事業主として農業をはじめるための準備についてご紹介しました。

しかし、そもそも独立を志すにあたり、注意しておきたいポイントがあります。

はじめは農業法人への就職も視野にいれておく

1つ目のポイントとして、個人として独立することだけでなく、「農業法人への就職を視野に入れること」も考えてみましょう。

未経験から開業を目指す方もいますが、成功することは簡単ではありません。
その理由のひとつは就農後の生活の煩雑さにあります。

農家の業務は作物の管理はもちろん、農業に関する知識の習得や経理についての勉強など、膨大な量の仕事があります。また、日々の業務に加えて、周囲の農家との情報交換や人脈づくりの時間も必要になります。慣れない業務を行いながら、経営者として資金等の管理をするのはなかなか難しいものです。

一方、はじめは農業法人に就職するかたちで就農すれば、作物の管理や経理業務等を学びながら、一定の収入を得ることができます。実際に、この方法で栽培技術を身につけ、独立する方は多くいらっしゃいます。

自分が農業に向いているかどうかも確認できるため、開業以外の選択肢に加えておきましょう。

関連記事:農業経営を勉強するには?おすすめの勉強方法8選!

生活防衛資金も確保する

2つ目は「生活防衛資金の確保」です。生活防衛資金とは、万が一のとき、当面の暮らしを維持していくために備えておくお金のことです。

開業時は事業運営に目が向き、衣食住など自分の生活に必要な資金が後回しになることも考えられます。 事業用の資金を確保しておくことも重要ですが、それ以上に、生活費の足りなくなることは大きな問題です。

すでにご紹介した新規就農者向けの資金の中には、生活費の補填のためとして受け取れるものもあります。一定期間、収入がゼロになっても生活していける程度の生活防衛資金を貯めたうえで、開業を検討しましょう。

農業について相談できる相手を見つける

3つ目に「農業について相談できる相手を見つける」ことが挙げられます。

農業は熟練の方でも判断に迷うことがある世界であり、新規就農の際はとくに、栽培や経営上の壁にぶつかってしまいがちです。

栽培や営農についての不安は、スキルを持った専門スタッフに相談することをおすすめします。

将来像をしっかりイメージしてから就農を!

今回は、個人事業主として農業をはじめる際の基礎知識についてご紹介しました。

どんなかたちで農業をスタートするにしても、まずは、将来像をしっかりとイメージすることが大切です。行き当たりばったりでは周囲の理解を得ることが難しく、また、資金獲得などもスムーズに進めることができません。

「どんな農業がしたいか」のイメージに基づいて、どんな作物をどこで栽培するのか、どのように販売していくらの収益を得るのか…といった細かい部分まで決定していきましょう。

イノチオアグリは新規就農を総合的にサポートします

ビニールハウスにたずさわり50年以上の歴史を持つイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として数多くの方の新規就農をご支援してきました。

農業の開始に向けて必須となる農地や資金の準備、栽培技術をサポートするだけでなく、ビニールハウスの設計と建設、収支シミュレーションに基づく作物や栽培方法のご提案など、農業経営に向けた支援を行っています。

お客さまひとりひとりの状況に合わせ、開業前の準備だけでなく農業をスタートした後の経営安定に至るまで、総合的にサポートさせていただきます。

就農に関するお悩みは、ぜひイノチオアグリにご相談ください。