農業IT(スマート農業)について解説!導入課題から成功事例を紹介
日本の農業は、高齢化や担い手不足が大きな問題とされています。これらの問題は、以前から取り沙汰されていますが、依然として人手に頼る作業や熟練者でなければできないとされる作業が多く、省力化、人手の確保、負担の軽減と言った課題解決は、実際の農業現場では大きく進捗していません。
そのような中、ロボット技術や情報通信技術(ICT)などの「先端技術」を活用して、農作業における省力化・軽労化であったり、新規就農者の確保、栽培技術力の継承などをすすめていこうとする農業IT=スマート農業に期待が集まっています。
今回のコラムでは、農業ITの技術発展の背景と事例を中心に紹介します。
目次
- 農業へのIT導入が注目される背景
- 農業へのIT導入事例➀ロボット
- 農業へのIT導入事例➁AI
- 農業へのIT導入事例➂IoT
- 農業へのIT導入事例④ビッグデータ
- 農業にITを導入するメリット
- 農業にITを導入するデメリット
- 農業×ITが目指す未来
- 農業×ITで農業生産に取り組むお客さま事例株式会社霧島酒造
- 農業ITを活用した農業の相談はイノチオアグリへ!
農業へのIT導入が注目される背景
農業へのIT導入が注目される背景には、農業従事者の高齢化や人手不足の原因があります。
農林水産省から出されている「農林業センサス」によると、1995年から2022年までに農業就業人口は414万人から122万人に減少し、平均年齢は59.1歳から67.9歳に上昇したとされています。
このような問題は、日本だけでなく、世界においても同様です。農業領域の人手不足が2025年には11万4,000人に拡大すると試算が出ており、アメリカでは移民の減少が農業の人手不足を起こしていると言われています。
身体が資本の農業で、ご高齢の農家が体に負担の大きな農作業を続けるのは簡単なことではありません。また、近年の夏場の高温や急な天候の変化も危惧される一つの要因と言えるでしょう。
関連事業:スマート農業事業
農林水産省による定義
このような背景もあり、農林水産省が提唱しているのが「スマート農業」です。
農林水産省では、スマート農業を以下のように定義しています。
ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業
ICTとは、ITとほとんど同じような意味ですが、コンピューター技術の活用を協調する際に用いられます。「スマート農業」をはじめとする政府の働きかけもあり、農業にITを導入する事例が近年増えてきています。
海外での農業へのIT導入
世界では、日本に先駆けて農業へのIT導入が始まっています。
アメリカでは広大な農地の分析や管理にドローンを活用、オランダでは約8割の一般農家で自動制御システムを搭載したコンピューターが導入されています。
農業へのIT導入は、国内での生産量の確保、輸出による販路開拓に不可欠と言えるでしょう。続いて、実際に生産現場に導入されている農業ITの導入事例について紹介していきます。
農業へのIT導入事例➀ロボット
農業の生産現場では、ロボットがさまざまな作業を担っています。
農作物の収穫、ドローンによる農薬散布、無人走行するトラクターなど、これまで人の手で行っていた作業をロボットが代用することで、大幅な省力化に期待できます。
収穫用ロボット
収穫用ロボットと聞くと、「無作為に収穫してしまう」「作物を傷つけてしまう」などの心配を思い浮かべるかもしれませんが、その技術は日夜進歩をしています。
ナショナル企業やスタートアップ企業、大学などの研修期間で農業収穫ロボットの開発が盛んに進められ、最近では人手よりも高性能なロボットが開発されるようになっています。
収穫用ロボットの利点は、長時間や夜間の作業も行え、収穫時期の人手不足を補うことができます。さらに、AIなどで学習させることで作業の精度やスピードを改善できるのも大きなメリットです。
農薬散布用ドローン
これまでの農薬散布と言えば、農薬が入った重いタンクを背負い、シャワーのように手作業で散布を行うことが一般的でした。
作物によっては、頻繁に農薬散布が必要のため、時間と体力を奪われる重労働というイメージがありました。そのような重労働を解決できるのが、ドローンによる農薬散布です。
ドローンを使うことで広大な農地でも少ない労力で散布作業ができます。また、小規模な農地でも小回りが利くので、場所を選ばず問題なく使用できます。
無人トラクター
農業現場において、トラクターは農具や物を運ぶほか、アタッチメントを変えることで土壌づくりのための耕起や、肥料散布、草刈りなどの作業を担っています。
このような役割のあるトラクターの自動化は、負担軽減の大きな要因と言えるでしょう。
無人トラクターは、人がトラクターに乗ることなく近距離監視下でコントロールできます。有人トラクターと合わせることで2つの作業を1人で同時に行うことも可能です。
農業へのIT導入事例➁AI
ChatGPTでも話題になっているAI技術は、農業においても活躍しています。
画像解析
これまで目視で行ってきた作物を選ぶ収穫作業は、AIによる画像解析を活用できます。
上記で紹介した収穫ロボットに組み込むことで、人件費削減だけでなく、精度の向上にもつながります。
また、田畑の土壌を画像解析して農薬散布量の調整を行ったり、データを蓄積して農作業に行かしたりなど、幅広く活用できます。
収量・出荷量予測
AIによって収穫量を予想できれば、出荷量も正確に把握できます。
これは生産物の納品を待つ取引先にとっても大きなメリットです。
近年、気候変動や異常気象などによって農作物へ与える影響は非常に大きく、正確な予測が難しくなっています。こういった状況下だからこそAIの分析やデータが必要とされています。
農業へのIT導入事例➂IoT
家電や自動車にも活用されているIoTの通信技術は農業にも活かされています。
情報収集
IoTの技術は、田畑やハウス内の状況把握に役立てられています。
小型カメラとネットワークシステムを活用すれば、気温・湿度・雨量といった気象データと作物の育成データの把握が容易になります。
データ収集をすることで農園全体の状況を把握でき、それによって大幅な工数削減を実現しています。
リアルタイムで確認
IoTによって習得した情報は、常に手元のスマートフォンで確認できます。
生育状況をリアルタイムで把握できることで、農業に対する難しい専門知識が必要だというイメージの軽減にもなり、農業へ参入する人や企業のハードルを大きく下げることにつながります。
農業へのIT導入事例④ビッグデータ
データを解析することで、これまで把握できなかった栽培に関する情報を見える化できます。
収穫時期予測
農作物の生育状況や、気象条件による変化なども、データ解析により予測可能になります。過去のデータから生育状況の傾向を割り出し、収穫時期の予測を立てて計画的な出荷も可能です。
勘や経験に頼らない農業
データに基づいた農業は、これまで経験や勘に頼っていた農業に大きな変化をもたらしています。
人の経験や記憶による判断ではなく、蓄積したデータの傾向を分析・解析し、対応策を講じることで、農業経験がない人でも比較的容易に農業へ参加することができるようになります。
人手不足や高齢化が課題となっている農業では、従事するハードルが下がることは、大きなメリットです。
また、データを活用するという意味では、体力的に自信のない人でも業務ができるので、幅広い人にも農業への門戸が広がります。
農業にITを導入するメリット
上記の事例をまとめるような形になりますが、農業にIT技術することで生まれるメリットについて紹介します。
農作業の効率化と負担軽減
農業にIT技術を導入するメリットの第一は、農作業の効率化や負担軽減です。
農地の状況を知りたければ、あらかじめドローンやセンサーなどでチェックすれば、見回り回数を減らせるでしょう。スマートフォンへの通知と組み合わせて、それまでよりも早く異常を知ることができます。
また、自動運転農機や収穫ロボットなどによって一部の作業が削減されれば、体への負担も軽くなります。これらは、農家の高齢化や労働力不足という課題に大いに役立つと言われています。
農業に関する技術継承
作業記録の見える化やAI分析などによって、ベテラン農家の「経験と勘」も再現可能な技術として引き継がれやすくなると考えられます。
また、スマート農業により効率化され負担も軽減されれば、働きやすい環境を作ることができます。働きやすく、結果も出しやすい貴重な農業技術の継承も容易になるでしょう。
関連製品:培地重量センサ スラブサイト
農作物の品質向上
栽培のリスクを予測し、対策をすることでより良い農作物を作ることができれば、生産性や品質も向上して、結果的に収益改善にもつながります。
農業は長期間の栽培を経て、収穫して販売しなければ収益が生まれないビジネスモデルです。そのため、農作物の品質向上は欠かすことのできないポイントでもあります。
食料自給率の改善
日本の食料自給率は改善が求められており、政府は2030年までにカロリーベースで現在の37%から45%に引き上げることを目標としています。
スマート農業により、広範囲の農作業を効率的に進めることも期待されています。生産性の向上は、食料自給率の改善にも影響しています。
課題の見える化
課題の「見える化」も、先進技術が得意とする分野です。
例えば、作業記録をデータとして記録していくことで、傾向や問題点が分かり、改善策を立てることができます。農作物の生産の改善ができるだけでなく、従業員の教育にも役立てることができるでしょう。
関連サイト:株式会社はれると 労務管理アプリ「agri-board」
農業にITを導入するデメリット
最新の技術を用いる農業ITには、下記のようなデメリットもあります。
導入コストがかかる
ドローンや無人トラクターなど、スマート農業に必要になる機械は高額なものが多いです。
農薬散布や生育確認を行う農業用ドローンは1台100万円〜300万円が相場です。収穫ロボットにもなると1台500万円以上はかかってきます。
便利になるのはもちろんですが、高額な導入コストはデメリットと言えるでしょう。
機器同士の連携が難しい
農業に導入されるIT技術は、最新技術が利用されているため、専門的な知識やITならではの高度な技術が必要なものもあります。
就農者にとっては、従来の機具や重機とは操作方法が大きく異なるでしょう。
また、データを活用したい場面でメーカーが異なる機器の連携ができなかったり、データの統合がうまくいかないなどのトラブルも想定できます。
農業界にIT人材が不足している
急激に進歩する農業のIT化に対応できる人材が、農業界には不足しています。
そのため、最新機器は高齢者が多い農業の領域でいかに理解を深め活用してもらえるかがカギとなります。
関連コラム:スマート農業メリット・デメリット紹介
農業×ITが目指す未来
農業界にITが浸透することは、従来の農業へのイメージ払拭や、農業を始めるハードルが低くなり、農業就労人口が増えるきっかけづくりをすることができます。
また、実際に栽培に従事するだけでなく、農業の効率化や農業技術の継承を進める領域に従事することが増えることも、農業の発展への相乗効果にもなります。
農業×ITで農業生産に取り組むお客さま事例
霧島酒造株式会社
農業のIT技術を活用して生産に取り組んでいるイノチオのお客さま事例を紹介します。
本格芋焼酎「黒霧島」でおなじみの霧島酒造株式会社。
九州産100%のさつまいもにこだわり取り組んできた芋焼酎製造。しかし、一時期は芋焼酎の生産を停止する事態に追い込まれました。そこで、自社でも甘藷苗(さつまいも苗)を生産するという決断をして、霧島さつまいも種苗生産センター「イモテラス」を建設して農業生産を開始しました。
関連事例:高品質な芋焼酎を届けるための健全な苗栽培 霧島酒造株式会社
お客さまが導入する農業IT製品➀
自動環境制御システム「エアロビート」
イノチオアグリの環境制御システム「エアロビート」を導入することで、ビニールハウス内外の状況を各種センサ感知し、自動で細やかな制御をおこなってくれます。異常時には、警報が発生られメールでも状況を把握することができます。
環境制御システム「エアロビート」は、人の経験や勘ではなく、データに基づいた農業をサポートしてくれます。
関連製品:環境制御システム エアロビート
お客さまが導入する農業IT製品➁
自動灌水制御システム「アクアビート」
栽培において、作物への的確な栄養供給は安定した生産をする上で不可欠です。霧島酒造さまが導入された自動灌水制御システム「アクアビート」は、お客さまの理想とする、栽培管理の方法に合わせて給液方法を設定できます。
最新の「アクアビートメビウス」では、AI学習機能を搭載しており、より精度の高い給液を実現できます。
関連製品:自動灌水制御システム アクアビート/アクアビートメビウス
農業ITを活用した農業の相談はイノチオアグリへ!
ビニールハウスにたずさわり50年以上の歴史を持つイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として数多くお客さまをご支援してきました。
イノチオアグリでは、ビニールハウス建設や農業ITに関連した製品だけでなく、収支シミュレーションに基づく作物や栽培方法のご提案や各種資材の提供まで、お客さま一人ひとりの状況に合わせて総合的にサポートさせていただきます。
農業に関するお悩みは、ぜひイノチオアグリにご相談ください。