「自分らしい暮らしを実現したい」と、田舎に移住して農業をはじめようと考える方が増えています。

今までとは異なる環境で農業をはじめるにあたって、少しでも不安を減らすために、移住先のことや、利用できる支援や補助金情報をよく調べておくことが大切です。

今回のコラムでは、移住するまでのステップや各自治体から受けられる支援策、補助金の情報について解説します。

田舎に移住する人は増えている?

総務省の調査によると、各都道府県及び市町村の移住相談窓口等における相談件数は年々増加しており、令和5年度は過去最高の相談件数※となりました。

※各市町村の移住相談窓口やイベントで受け付けた相談の数
参考:総務省「令和5年度における移住相談に関する調査結果(移住相談窓口等における相談受付件数等)」

この背景として、政府による地方創生政策や、プライベートを重視する傾向などが挙げられます。またコロナウイルス流行をきっかけに、ライフスタイルを見つめ直したい、自分で生きる力を身につけたい、といった考えを持つ人が増えたことも要因のひとつだと考えられます。

移住して農業をはじめるまでの流れ

ここからは、実際に田舎に移住して農業をはじめるまでに必要なステップについてご紹介します。

1.情報収集、移住先候補を検討

農業移住に興味を持ったら、まずは情報収集から始めましょう。

就農に関するメディアをチェックするのはもちろん、自治体や企業が開催する就農相談会に参加して話を聞くのもおすすめです。 実際に就農した方々の体験談や、自治体の支援策、収入や生活に関する不安についても相談できます。農業の実態や、新規就農に必要な準備や覚悟を具体的にイメージするのに役立ちます。

作りたい作物や、どんな農業をしたいのかを明確にしながら、移住先の候補を検討していきましょう。

2.移住候補先の新規就農相談センターに相談する

移住先の候補が決まったら、その地域の新規就農相談センターに問い合わせてみましょう。後悔のない農業移住を実現するためには、自分の理想とする農業がその地域で実現可能かどうか、地域の実情を知ることが重要です。

農業を始めるための初歩的なステップから、就農可能な場所の有無、技術の習得方法など、農業移住に関するさまざまな疑問に答えてもらえます。また、新規就農を目指す方向けに現地見学会を開催するなど、就農への活動をサポートしています。

3.農業体験などで現地を訪れる

短期の農業体験や農家でのバイトを通じて、移住候補先に足を運ぶことも重要です。農業インターンシップの相談窓口としては、日本農業法人協会や全国新規就農相談センター、農業に特化した求人支援サイトがあります。

実際にその地域で農業を体験することで、本当に農業を続けられるか、その土地で暮らしていけるかを見極めることができます。移住後に「こんなはずではなかった」と後悔しないためにも、納得がいくまで何度でも足を運び、農業や地域への理解を深めましょう。

4.家族全員の同意を得て移住する

独身でない場合、移住や就農を実現するには家族の理解が不可欠です。情報収集を通じて移住や就農に対する明確なビジョンができたら、現在の仕事の処遇、移住後の生活や収入の計画など、家族全員でしっかり話し合いましょう。

家族全員が納得し、移住の意思が固まったら、いよいよ移住の準備に入ります。移住後に住む場所を決め、転居の手続きを進めます。また、移住後にどこで農業のノウハウを学ぶかも事前に決めておくとスムーズです。

5.農業研修と並行して営農計画を作成する

移住後は、市町村やJAが提供する農業研修や農業法人の研修生として、栽培技術や農業経営の実務を学びます。地域での研修は、地域や農家さんとのネットワークを築く良い機会にもなります。

農業研修を受けながら、独立に向けて営農計画の作成も進めます。営農計画とは、約5年先までの生産計画、販売計画、資金計画を記したもので、独立時には市町村の農業委員会等に所定の様式で提出する必要があります。

6.農地を取得する

農地の確保は、新規就農者にとって最大の課題と言っても過言ではありません。農地法に基づき、農地を購入する場合も借りる場合も、知事または農業委員会の許可が必要です。農地取得の規則を理解し、必要な要件を満たしておくことが重要です。

関連記事:農地を買うには どうしたら良いのか?購入までの流れや注意点を解説

さらに、優良な農地を見つけるためには、農業研修などを通じて地元の農家との信頼関係を築くことが不可欠です。疑問がある場合には、農業委員会事務局窓口などに相談することをおすすめします。

自治体の就農支援とは

移住したい自治体の支援情報を確認しておこう

移住して農業を行う際に活用できる支援策は、各自治体でさまざまなものが展開されています。移住を検討する段階で、候補となる移住先ではどんな支援が行われているのかを事前に確認しておきましょう。あるいは、移住後の支援が手厚いという観点で、移住先を選ぶ方法も良いでしょう。

「農業をはじめる.JP」では、全国の都道府県で実施されている就農支援情報をチェックすることができます。

参考:農業をはじめる.JP「支援情報」

就農研修ができる「地域おこし協力隊」とは

定住して農業をするつもりで田舎に移住するのであれば「地域おこし協力隊」として活動するという方法もあります。 地域おこし協力隊は、都心部から地方に移住し、地域活性化を目指す制度です。農業や酪農などの第一次産業への就農支援も含まれ、研修期間中は給金が支給されます。

隊員は地方自治体の委嘱を受け、地域振興や第一次産業に従事し、任期終了後も定住が期待されます。任期は1~3年で、有期公務員として給料と社会保険が提供されるので、経済的に安心して取り組むことができます。

インターネットで全国の募集状況を確認でき、説明会も開催されています。隊員の選考は書類審査と面接で行われ、採用後は住民票を移して活動を開始します。地域おこし協力隊の経験談や自治体の実績を調べ、目的意識を持って選択することが重要です。

参考:ニッポン移住・交流ナビJOIN「地域おこし協力隊」

移住農業に活用できる補助金とは

移住して農業を行う際に活用できる補助金についてご紹介します。

就農準備資金

就農準備資金 就農準備資金は、農家を目指す方々が就農前に研修を受けるための支援金です。 対象者や支援額については次の通りです。交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 研修期間中の研修生
支援額 12.5万円/月(150万円/年)×最長2年間
支援率 国による支援:100%
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立後、5年以内に認定新規就農者または認定農業者を取得すること
  3. 自営就農または雇用就農を目指す都道府県等が認めた研修機関等でおおむね1年以上(1年につきおおむね1,200時間以上)研修すること
  4. 常勤の雇用契約を締結していないこと
  5. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  6. 前年の世帯所得が600万円以下であること
  7. 研修中の怪我等に備えて傷害保険に加入すること

適切な研修を行わなかった場合や、研修後に就農しなかった場合は、資金返還が求められることがあります。

参考:就農準備資金・経営開始資金-農林水産省

経営開始資金

経営開始資金は、認定新規就農者を対象に、就農直後の経営確立を支援するための資金です。 対象者や支援額については次の通りです。交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 認定新規就農者(前年の世帯所得が原則600万円未満)
支援額 12.5万円/月(150万円/年)×最長3年間
支援率 国による支援:100%
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立して営農を行っていること
  3. 親元就農の場合は、農業に従事してから5年以内に経営権を継承し、新規参入者と同等の経営リスクを負うものと市町村に認められること
  4. 「人・農地プラン」に中心経営体として位置づけられているか、農地中間管理機構(農地バンク)から農地を借り受けていること
  5. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  6. 前年の世帯所得が600万円以下であること
  7. 研修中の怪我等に備えて傷害保険に加入すること


申請窓口は市町村が担当しています。 特例として、夫婦で就農する場合は、夫婦合わせて1.5人分の交付を受けることが可能です。さらに、複数の新規就農者が法人を新設し共同経営を行う場合、それぞれに最大150万円が交付されることもあります。

関連記事:新規就農者育成総合対策「経営開始資金」とは?

対象者の要件である認定新規就農者については、こちらの記事で詳しく解説しています。

関連記事:認定新規就農者制度とは?メリット・デメリットまで解説

経営発展支援事業

経営発展支援事業は、就農後の経営を発展させるために必要な機械や施設、家畜の導入、果樹や茶の新植・改植などを支援する制度です。 対象者や支援額については次の通りです。交付を受けるには、要件をすべて満たす必要があります。

対象 認定新規就農者(就農から3年以内)
支援額 補助対象事業費として上限1,000万円(機械・施設、家畜導入、果樹・茶改植、リース料等が対象)
※経営開始資金の交付対象者は上限500万円まで
支援率 県支援分の2倍を国が支援( 国:1/2、県:1/4、本人:1/4)
償還スケジュールは10年均等
主な要件
  1. 就農予定時の年齢が49歳以下であること
  2. 独立して営農を行っていること
  3. 「人・農地プラン」に中心経営体として位置づけられているか、農地中間管理機構(農地バンク)から農地を借り受けていること
  4. 生活保護、求職者支援など国の他の助成金と重複受給していないこと
  5. 本人負担分の経費については、融資機関から融資を受けること
使用用途
  1. 事業の対象となる機械等は、新品の法定耐用年数がおおむね5年以上20年以下のものであること。中古の機械・施設にあたっては、中古耐用年数が2年以上のものであること
  2. 原則として、トラックやパソコン等、農業経営以外の用途にも使用されるような汎用性の高いものでないこと
  3. 事業の対象となる機械等は、あらかじめ立てた計画の成果目標に直結するものであること
  4. 事業の対象となる機械等については保険加入等、気象災害等による被災に備えた措置がされるものであること
  5. 個々の事業内容が単年度で完了すること


また、特例として夫婦ともに就農する場合は、補助上限額の1.5倍が上限額となります。

関連記事:新規就農者1,000万円の補助?経営発展支援事業を徹底解説

移住支援金

移住支援金とは、東京23区に在住または通勤する方が、東京圏外(東京圏内の条件不利地域を含む※)へ移住し、起業や就業等を行う方に、都道府県・市町村が共同で交付金を支給する事業です。

※条件不利地域とは、地形や気候、交通、水利などの自然的、社会経済的条件が不利な地域を指します。こうした地域は若年者の流出や少子高齢化、産業の衰退といった課題を抱えている場合が少なくありません。

支給金額については次の表の通りです。
このうち都道府県が設定した金額が支給されます。

世帯

100万円以内 ※18歳未満の世帯員が帯同する場合は、18歳未満の者ひとりにつき最大100万円を加算

単身 60万円以内


参考:内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生「移住支援金」

移住農業で失敗しないためのポイント

移住した先での農業で失敗しないためには、事前の確認や準備がもっとも重要です。特に、次の3つのポイントに注意しましょう。

1.生活環境の違いを受け入れられるか確認する

移住先では、これまでの環境と大きく異なるため、都市での生活で当たり前に享受していたものがなくなったり、以前住んでいた場所での考え方が通用しなかったりと、ストレスを感じることがあるかもしれません。このようなギャップが生まれる可能性を十分考慮し、慎重に選択することが重要です。

2.事前の調査と準備を入念に行う

移住先の生活環境、文化、交通、医療、教育などの情報を徹底的に調べましょう。メリットだけではなく、デメリットにもきちんと向き合うことが大切です。 また、地方自治体によって移住支援制度が大きく異なるため、内容をよく確認し、利用できるものを漏れなく活用しましょう。

3.現地の視察や体験を必ず行う

移住前に現地を訪れて、生活環境やコミュニティの雰囲気を実際に体験してみましょう。また、地域の人々と交流し、現地での生活についてリアルな情報を得ることも重要です。

イノチオアグリは新たな農業のスタートを応援します

ビニールハウスを用いた施設園芸にたずさわり50年以上の歴史を持つイノチオアグリは、「農業総合支援企業」として数多くの方の新規就農者・農業参入企業をご支援してきました。 農業の開始に向けて必須となる農地や資金の準備、栽培技術をサポートするだけでなく、ビニールハウスの設計と建設、収支シミュレーションに基づく作物や栽培方法のご提案など、農業経営に向けた支援を行っています。

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