地元への帰郷、定年退職など、人生の節目を機に自身が実施したいことに挑戦される方も多いのではないでしょうか。実際に新規就農し、農業で生計を立てようと考える方も数多くいらっしゃいます。

一方で新規就農、農業参入するまでの流れや必要な準備物、就農までのスケジュールなど情報をご自身で調べるには限度があります。新規就農・農業参入を検討されている方々のために、新規就農された実際の事例から就農するまでの準備についてご紹介します。

新規就農者の実態

新規就農の種類とは?

農業に関わる方法は大きく分けると3つあり、関わり方も様々存在します。
新規就農者は「新規自営農業就農者」、「新規雇用就農者」、「新規参入者」の3つをまとめて表現する言葉です。

新規就農者の3つの形態についてご説明します。

新規就農者の形態
新規自営農業就農者
個人経営体の世帯員で、調査期日前1年間の生活の主な状態が、「学生」から「自営農業への従事が主」になった者及び「他に雇われて勤務が主」から「自営農業への従事が主」になった者を表します。
新規雇用就農者
調査期日前1年間に新たに法人等に常雇い(年間7か月以上)として雇用されることにより、農業に従事することとなった者(外国人技能実習生及び特定技能で受け入れた外国人並びに雇用される直前の就業状態が農業従事者であった場合を除く。)を表します。
新規参入者
農地や資金を独自に調達(相続・贈与等により親の農地を譲り受けた場合を除く。)し、調査期日前1年間に新たに農業経営を開始した経営の責任者及び共同経営者を表します。なお、共同経営者とは、夫婦が揃って就農、あるいは複数の新規就農者が法人を新設して共同経営を行っている場合における、経営の責任者の配偶者又はその他の共同経営者も対象になります。

 

一般的にイメージされる新規就農者は「新規参入者」のことを指します。すなわち、農業生産法人へ就職し、農業に関わることとは異なり、新規就農に向けて農地や資金、営農技術などを準備し、経営者として農業経営を興すことになります。

各業種の起業と同様に、事業が持続化するような資金確保、販路獲得に加えて、農業特有の農地の取得や農業用水の活用を行うべく、各市区町村との交渉も必要であり、場合によっては認定新規就農者制度の認可も必要です。

弊社も新規就農者の支援を行っていますが、独自で農地や資金、農業経営の基盤となるビニールハウス、機械を準備することは多くの手間と労力がかかります。

加えて、新規就農までの流れは農林水産省、日本政策金融公庫、就農先の市区町村に情報が点在しており、全てを理解するのは困難です。

関連記事:認定新規就農者は厳しい?新規就農者制度の条件について徹底解説

 

新規就農の際に苦労したこととは?

参考文献:新規就農の実態に関する調査結果(2022年3月)

新規就農・農業参入には時間と事前準備が必要となります。「新規就農者の就農実態に関する調査結果」のアンケートでは、新規就農・農業参入時に「農地の確保」(72.8%)、「資金の確保」(68.6%) 、「営農技術の習得」(57.7%)の順に苦労したと回答した方の割合が多い状況です。

就農初期段階の「相談窓口探し」や「家族の了解」の割合は低く、就農準備段階における農地・資金・技術の3つにおける事前準備が必要です。

新規就農される多くは経営基盤、経営資源(人、モノ、金、情報、知的財産など)を確保する状態からスタートします。アンケート及び就農の実例から、農地、資金、営農技術、新規就農までの手順で苦労するケースが大半です。

実際に資金を獲得しようにも、営農技術や栽培技術を持ち合わせているかどうかなども1つの判断基準にもなるため、これらの経営資源は事前に準備することが新規就農に向けて必須となります。

新規就農に向けたポイントとは

実際に就農された方々のアンケート、実例から新規就農におけるポイントは農地・資金・営農技術などの経営資源とビニールハウスや機械などの経営基盤の計4つになります。

1つ1つご紹介します。

新規就農に向けたポイント 農地編

農地取得の実情

新規就農者の多くは自身で農地を借りる又は農地を購入する必要があります。2009年に農地法が改正され、農地の貸借に関わる規制緩和が行われました。

それにより、農地を借りて農業を行うリース方式の営農であれば、農業参入を制約されてきた株式会社やNPO法人なども農業に参入可能となりました。

一方で新規就農者・企業が農業参入時に農地を確保することは困難を極めます。大きな課題として、貸し主と借り主のマッチングが思うように進まないことがあります。

例えば、貸す側からすると、面識のない人に農地を貸し出すことに抵抗を感じることもあります。また、代々受け継いできた農地を手離すことに抵抗を感じることも少なくありません。

加えて、農業を行う目的や意図、栽培作物、栽培方法、目指す生産量、ビニールハウスの規模、販売先に応じて確保すべき農地の条件が変化します。そのため、候補となる農地を見つけても水質や周囲の環境によって、農業に適さないケースも存在します。

耕作放棄地が増加しているとはいえ、実際には候補地を見つけ、希望の条件を満たした農地を確保することは容易ではありません。新規就農する際には1つの市区町村に絞らないことが重要です。特に都市部では農地を宅地として活用した方が、地権者にとっては有益となります。

そのような実例も考慮し、まずは複数の市区町村に相談し、候補となる農地を見つけるところから始めましょう。

関連記事: ビニールハウスを建設する際に農地の見るべきポイントとは?

 

新規就農に向けた農地取得の主な相談先とは?

新規就農の際に農地を確保するには、一般的に市区町村の農政課や農業委員会、農地バンクを活用し、探されるケースが多いです。市区町村の農政課や農業委員会、農地バンクで候補地を複数ピックアップすることが最初のアクションになります。

注意として、1つの土地のみをピックアップしてしまうと、新規就農後に課題が浮き彫りになるケースもあります。実際に、近隣住民との騒音トラブルや栽培環境が思わしくない土地環境により、収量が減ってしまう事例も見られます。

そのため、複数候補地の中から最適な農地をビニールハウスメーカーの担当者と選んでいくのが新規就農後のリスクを軽減するポイントと言えます。ビニールハウスの建設を検討されている場合は下記の条件をもとに農地を探すことを推奨します。

  • 利便性  :自宅から近く、大きな道路に面した農地
  • 土地特性 :水源が近くに存在し、水はけの良い農地
  • 土地形状 :正方形又は長方形に近い形状をした農地
  • 周囲の環境:周囲が住宅街でなく、日光を遮る建設物が無い農地
  • 土地の環境:風速や積雪の環境が厳しくない農地
  • 規模拡大 :中長期的な規模拡大を視野に近隣で空いている農地が隣接する塗地

新規就農に向けたポイント 営農技術編

新規就農時に営農技術が必要な理由とは?

農業の特性上、作物ごとに最適な環境は変化します。ビニールハウス栽培は、外的な栽培環境や外部気象環境による影響を受けないため、最適な栽培環境をビニールハウス内部に実現します。

栽培環境の実現は可能な一方で、新規就農時に必要な営農技術は気温や湿度などの栽培条件が毎年変わることから携わった年数に比例して身についてきます。

また、営農技術を持ち合わせいるかどうかは資金獲得に向けて、判断基準の1つになることから最低でも1年、場合によっては2年~3年に渡り、栽培研修を受講する必要があります。

そうは言うものの新規就農の準備に向けて、2~3年もかけることは自身の生活も鑑み、非常に難しいのが実情です。その際は新規就農後に栽培を伴走するサービスを積極的に活用しましょう。

研修中に活用できる資金とは?

農業従事者の高齢化が進展する中で、新規就農者は非常に大切な存在です。そのため新規就農者の増加により、世代間バランスのとれた構造にしていくことを目的に、国・各市区町村を中心に新規就農者のための支援策を行っています。

支援策の1つに、新規就農に向けた栽培研修中から活用できるものとして「就農準備資金」といった制度があります。

新規就農者総合支援対策「就農準備資金」とは?

■ 就農準備資金の交付対象者に関する主な要件

  1. 就農予定時の年齢が、原則49歳以下であり、次世代を担う農業者となる
    ことについての強い意欲を有していること
  2. 独立・自営就農または雇用就農を目指すこと
  3. 親元就農を目指す者については、就農後5年以内に経営を継承する、
    農業法人の共同経営者になる又は独立・自営就農すること
  4. 都道府県等が認めた研修機関等で概ね1年以上(1年につき概ね1,200時間以上)
    研修すること。常勤の雇用契約を締結していないこと。
  5. 生活保護、求職者支援制度など、生活費を支給する国の他の事業と重複受給でないこと
  6. 原則として前年の世帯(親子及び配偶者の範囲)所得が600万円以下であること
    研修中の怪我等に備えて傷害保険に加入すること

■ 就農準備資金の返還に関する主な要件

  1. 適切な研修を行っていない場合
    交付主体が、研修計画に則して必要な技能を習得することができないと判断した場合
  2. 研修終了後1年以内に原則49歳以下で独立・自営就農又は雇用就農しなかった場合
    就農準備資金の交付を受けた研修の終了後、更に研修を続ける場合(原則4年以内で
    就農準備資金の対象となる研修に準ずるもの)は、その研修終了後
  3. 交付期間の1.5倍(最低2年間)の期間、独立・自営就農又は雇用就農を継続しない場合
  4. 親元就農者について、就農後5年以内に経営継承しなかった場合、農業法人の
    共同経営者にならなかった場合又は独立・自営就農しなかった場合
  5. 独立・自営就農者又は親元就農者で5年以内に独立・自営就農する者について、
    就農後5年以内に認定農業者又は認定新規就農者にならなかった場合

また、就農準備資金は国内での2年間の研修に加え、将来のビジョンとの関連性が認められて海外研修を行う際は交付期間が1年延長になるなど充実した制度となります。
申請に向けた相談先としては都道府県、市区町村の農政担当窓口に相談しましょう。

参考文献:農林水産省 就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人財投資資金)

新規就農における営農技術の習得先とは?

研修先のアンケート結果(新規就農者の就農実態に関する調査 2022年3月)を見ると、「実践的な経営技術が学べる」「希望の作目の研修ができる」との理由から、一般農家や農業生産法人を選んだ方が70.6%を占めています。

その他では農業大学校(11.7%)、市区町・市区町村公社・農協(10.8%)の結果となっています。実際に就農した方々の「実践的な経営技術が学べる」又は「希望の作目の研修ができる」選択理由は研修先を選ぶにあたり、1つの基準になるかもしれません。

参考文献:新規就農者の実態に関する調査結果(2022年3月)

新規就農に向けた、実際の研修期間は「1年以上2年未満」と回答した方が最も多く(46.8%)、次いで「2年以上3年未満」と回答した方が(21.3%)の結果になります。

新規就農に必要な研修期間は「1年以上2年未満」と回答した方が最も多く(50.6%)、次いで「2年以上3年未満」と回答した方が(22.1%)の結果となり、実際の研修期間と概ね一致する結果になります。

冒頭ご紹介した、「営農技術」の習得をするにあたり、新規就農に向けた研修期間は最低1年間以上と考え、営農技術や知識経験を習得した後に新規就農することで、農業経営を開始した後の苦労を軽減し、加えて資金獲得における確率が高まると考えます。

新規就農に向けたポイント 資金編

新規就農時に資金確保が何故難しいのか?

新規就農者は、農地や住宅、ビニールハウス、機械を用意する費用のほか、生産に関する農薬や肥料、種苗などの生産資材、売上が安定するまでの所得を考える準備をする必要があります。

実際に、新規就農者の就農実態に関する調査結果にて、資金確保は農地の次に苦労した方が多いため、新規就農を実現する上で事前準備は欠かせません。

実際に資金を獲得しようにも、営農技術や栽培技術を持ち合わせているかどうかに加えて、新規就農後の青年等就農計画又は事業計画書が資金獲得の判断基準となります。そのため農地、営農技術も含めて同時に進める必要があり、最も苦労する障壁の1つです。

新規就農者が相談する資金確保の相談先とは?

新規就農者が資金確保を進めるにあたり、主な相談口は日本政策金融公庫(29.0%)、市区町村(27.3%)、農協(26.3%)、農業普及指導センター(15.7%)の順となっています。特に日本政策金融公庫は前回から12.5%と、相談口として大幅に増加しています。

日本政策金融公庫が大幅に増加している背景としては、国が掲げている新規就農者の支援制度(認定新規就農者制度)が関係します。

新規就農者を支援する認定新規就農者制度とは?

認定新規就農者制度とは、これからの農業を支える新規就農者を増やし、安定的な新規就農者を地域農業の担い手として育成することを目的にしています。

新たに農業を始める方が作成する青年等就農計画(事業計画書)を各市区町村が認定し、認定を受けた方に対して、早期の経営安定に向けた措置を集中的に実施する制度です。

認定を受ける上で新規就農者が提出する青年等就農計画が、市町村の基本構想に照らし適切であること、 その計画が達成される見込みが確実であること等がポイントになります。

認定新規就農者の取得に向けて、青年等就農計画を提出する際は、ポイントに沿って適切かどうかを確認しましょう。

関連記事:認定新規就農者制度とは?メリット・デメリットまで解説

 

認定新規就農者として
認定されるための要件
対象要件①
青年(原則18歳以上45歳未満)
対象要件②
効率的かつ安定的な農業経営を営むために
活用できる知識・技能を有する65歳未満
対象要件③
対象要件①又は②の者であり、法人が営む農業に
従事すると認められるものが役員の過半数を
占める法人
補足
農業経営を開始してから一定の期間(5年)以内
の者を含み、認定農業者をは含みません。
認可機関
各市区町村

 

認定新規就農者のメリット&デメリットとは?

認定新規就農者を取得することで、独立して農業を始める際に必要な設備や機械の初期投資資金や所得確保の給付金等の支援策が優先して、取得できる等のメリットがあります。

支援策として、経営開始資金(農業経営を始めてから経営が安定するまでの最大3年間月12.5万円(年間150万円)の定額交付や、青年等就農資金(日本政策金融公庫から最大3,700万円融資)などの対象となります。

そのため、認定新規就農者制度を活用することで新規就農における資金確保の課題を解決しうる制度と考えています。認定新規就農者のデメリットとして、青年等就農計画の作成から提出まで新規就農者が行う場合、障壁が高いことが挙げられます。

青年等就農計画を作成するにあたり、農地の確保は勿論のこと、農地に合わせたビニールハウスの見積や図面、農業経営におけるイニシャルコスト及びラニングコストの算出を研修と同時に独自で進めることは非常に困難です。

特に農業業界の特性上、各コストは理想とする農業経営や栽培作物、栽培方式、農地などに応じて変化するため、独自で青年等就農計画の作成を進めることは大変な労力が必要になります。

そのため、事業計画からビニールハウスの設計、提案まで可能なハウスメーカーに相談し、支援してもらいましょう。

新規就農者を支援する経営開始資金

経営開始資金は経営を始めて間もない時期の所得を確保したい方におすすめです。制度内容としては規定の要件を満たす認定新規就農者に対して、経営開始から最長3年間、月12.5万円(年間最大150万円)の給付になります。

要件としては、就農時の年齢が原則49歳以下の認定新規就農者であることなど、5項目を全て満たす方が対象となります。

新規就農者を支援する青年等就農資金

青年等就農資金は新たに農業経営を開始する新規就農者を対象に、国が無利子で資金を融資する制度になります。実際には国の出資金をもとに、株式会社日本政策金融公庫が融資に関する審査及び諸手続きを行います。

資金の取得により就農準備に幅広く活用できるため、新規就農の課題である「資金の確保」を支援する制度になります。青年等就農資金の活用を検討する際は、日本政策金融公庫の窓口機関、市区町村の農政課に相談ください。

対象となる条件として、認定新規就農者として市区町村から認定を受けた青年(原則18歳以上45歳未満)、効率かつ安定的な農業経営を営むために活用できる知識・技能を有する65歳未満、これに該当する人が役員の過半数を占める法人が該当するほか、農業経営を開始してから5年以内の方も対象になります。

青年等就農資金の融資限度額は3,700万円(特認1億円)になります。利子は返済終了まで無利子であることも、新規就農者にとって力強い支援制度です。

返済期間は12年で、据置期間は最大5年以内と設定されています。資金の使い道も幅広く活用可能であり、施設・機械の導入費や農地の借地料・機械のリース料に関する一括支払いなどでご活用いただけます。

新規就農実現に向けた支援

イノチオアグリについて

イノチオアグリはビニールハウスに携わり、50年以上の知見がございます。50年以上に渡り、培ったノウハウを活かし、新規就農者を就農計画段階からご支援しております。

お客さまのご要望や条件に基づいてビニールハウスを設計し、栽培方法や作業計画を一緒に考え、事業収支の試算までの事業計画の策定をお手伝いします。

更に、圃場研修や専門指導員によるサポートで、事業開始の準備期間から栽培開始後の運営管理や労務管理に至るまで、農業ビジネスの最前線で培ったノウハウを活かしてお客さまの新規就農実現をトータルサポートします。

イノチオアグリで行う新規就農支援とは?

新規就農は一次産業ですが、会社を興すことと何ら変わりません。新規就農の実現に向けた農業経営を行うための経営資源である資金確保や経営、営農技術の習得からビニールハウス・機械などの経営基盤構築が必要になります。

新規就農には、十分な事前準備が不可欠です。

弊社は新規就農までの課題である、就農計画の提案や新規就農で活用できる融資制度のご紹介、就農までに必要な事業計画書作成支援やビニールハウスの図面、概算見積をトータルで支援いたします。ご要望ございましたら、下記お問い合わせからお申込みください。