近年、法人が農業へ参入することが増えています。しかし、どのような法人でも農地を簡単に取得できるわけではありません。

農地を取得・購入できるのは、「農地所有適格法人」の要件を満たした法人だけであり、以前は農業生産法人とも呼ばれていました。

今回のコラムでは、農地所有適格法人の説明だけでなく、設立するメリットやデメリットなども解説していきます。

目次

  1. 農地所有適格法人とは?
  2. 農地所有適格法人として認可される要件
  3. 農業法人との違いとは?
  4. 農地所有適格法人の設立方法
  5. 農地所有適格法人のメリット
  6. 農地所有適格法人のデメリット
  7. 農地所有適格法人を成功させるには?
  8. 認定農業者制度
  9. 農業参入のご相談はイノチオアグリへ

農地所有適格法人とは?

はじめに、農地所有適格法人の定義と認可を受けるための要件についてご紹介します。

農地所有適格法人とは、農業を中心に経営をする法人のことです。
以前は、農業生産法人という名称でしたが、2016年に農地所有適格法人へ変更されました。

農地所有適格法人は、法人という名称が付いていますが、設立をするものではありません。農地取得の際に定められた要件を満たすことで、農地所有適格法人として認可されます。

そのため、農地を取得して初めて農地所有適格法人となります。

農地所有適格法人として認可される要件

農地所有適格法人となるためには、定められた4つの要件を満たす必要があります。

法人形態要件
法人形態の要件とは、農事組合法人か株式会社または、持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)のいずれかにあってはまっていることです。

そして、株式会社の場合は非公開会社でなければいけません。非公開会社とは、定款で株式の譲渡制限があり、譲渡や取得には会社の承認がいるといった内容です。

農事組合法人の場合でも、主な事業が農業でなければ要件を満たすことはできません。

事業要件
事業要件として、まず第一に法人としての主な事業が農業であることです。

「農業のみ」ではなく、3年間の事業全体売上のうち、農業による売上が過半数を占めていれば問題ありません。他の事業を行いながら農業に参入することも十分に可能です。

構成員・議決権要件
基本的には構成員のうち、農業関係者が総議決権の過半数を占めることで要件が満たされます。また農業や関連事業には、年間150日以上従事しなくてはいけません。

役員要件
役員の過半数が農業や関連事業に常時従事する構成員であること、役員か重要な使用人のうち1人以上が農作業に年間60日以上従事すること、以上2点が役員要件として定義されています。

農業法人との違いとは?

農地所有適格法人を深掘りする前に、農業法人との違いについて簡単にご説明します。

農業法人とは、法人形態で農業を経営する法人の総称です。
組織形態としては、会社法に基づく株式会社や合名会社、農業協同組合法に基づく農事組合法人に分類されています。

この中に、農地所有適格法人も含まれており、農地を所有・購入して農業を営む際には、上記でご紹介した要件を満たして認可を受ける必要があります。

関連記事:認定農業者制度とは?企業の農業参入・新規就農時に活用する方法を徹底解説

農地所有適格法人の設立方法

それでは、農地所有適格法人を設立する方法をご紹介します。

農地所有適格法人設立までの流れ

農地所有適格法人の設立は、一般的な法人設立と同じ方法です。

設立にかかる費用の目安は、おおよそ25万円~30万円ほどです。

費用は、事務的な手続きだけなので、専門家へ代行依頼をした場合には料金がプラスで掛かってきます。法人の設立は自分でもできます。ただし手間の削減を考えると、専門家への依頼が望ましいです。

手数料も高くはなく、定款も専門家であれば電子作成できるので定款の印紙代が必要ありません。

農地所有適格法人となるのは、農地を取得してからです。
上記でも説明している通り、法人を設立した際に農地所有適格法人になるわけではなく、農業委員会の許可を得て農地を取得した際に農地所有適格法人となれます。

農地所有適格法人になるために手続きを行うのではなく、農地を取得したら農地所有適格法人になれるというイメージです。

報告書の提出義務

農地を農地所有適格法人として取得した場合、農地を所有している間は農業委員会への報告義務があります。

毎年、事業年度の終了から3ヶ月以内に報告書を提出が求められます。

提出時に農地所有適格法人としての要件を満たしていなかった場合、罰則を受ける可能性もあるため注意しましょう。

農地所有適格法人のメリット

農地所有適格法人になると、どのようなメリットがあるのか?
ここでは4つのメリットをご紹介します。

農地取得ができる

一般企業が農業へ参入する際、要件を満たしていなければ農地の取得ができません。
要件を満たして、農地所有適格法人になることで農地を購入できるため、農業参入を考えるのであれば必須とも言えます。

しかし、農地の賃借に関しては一般法人でも可能です。
下記が一般法人が農地を借りるための条件となります。
・賃借契約に解除条件を追加する
・適切な役割分担をして農業を行う
・業務執行役員か重要な使用人1人以上が農業に常時従事する

農地は日本にとって重要な土地です。農地を適切に利用していないと見なされた場合には賃借を解除されてしまいます。普通に農業を行うのであれば問題はありませんが、契約書には契約解除の条件を追加する必要があります。

農作業以外にも、経営や企画でも問題ありません。役員や重要な構成員が一切農業に関わらない場合は、賃借はできません。

関連記事:ビニールハウスを建設する際に農地の見るべきポイントとは?

補助金の採択率が上がる

農業に関わる補助金や交付金には、農地所有適格法人の認可を得ていることで優遇されるものがあります。

そして、補助金の対象となるだけではなく、場合によっては採択率が上がる場合もあります。

ただし、補助金は毎年内容が変更されるため、一概に農地所有適格法人であることが優先事項とは限りません。

しかし、農地所有適格法人は農業の発展に貢献している点から採択率が上がる可能性は高くなっています。

税制面が優遇される

法人は個人と比べて、税制面で優遇されています。

個人であれば所得税を支払い、法人は法人税を支払います。
個人の所得税は、所得が上昇するたびに税率も上がります。一方で、法人税の場合は区分はあるものの税率は一律です。

しかし、必ずしも法人のほうが税制面で有利というわけではありません。所得によっては、個人の所得税のほうが低い場合もあるのでご注意ください。

一般的に、年間所得が600万円~800万円ほどであれば、法人化したほうが税金は安くなります。

関連記事:新規就農者1,000万円の補助?経営発展支援事業を徹底解説

社会的信用度が上がる

社会的信用度は、個人よりも法人のほうが高いです。規模の拡大に伴う、販路の拡大の際にも、法人の方がスーパーなどから取り合ってもらえる可能性があります。

また、農地を手放したい人も、個人より法人のほうが安心感は高く、規模拡大のきっかけにもなります。

以上のように、農地所有適格法人になることでのメリットは多岐に渡っています。

農地所有適格法人のデメリット

メリットの次は、デメリットをご紹介します。
農地所有適格法人を継続するためには必要な内容でもあります。

農地所有適格法人の要件を満たし続ける必要がある

農地所有適格法人は、法人を設立した際になるものではなく、農地を所有した際に農地所有適格法人となります。

取得した農地を手放した場合には、一般法人に戻ります。

農地所有適格法人として農地を所有し続けるには、農地所有適格法人の要件」を満たし続ける必要があります。

報告書の提出義務がある

農地所有適格法人になると毎年、報告書の提出義務があります。
事業年度終了から3ヶ月以内に「農地所有適格法人報告書」を提出を毎年しなければなりません。

報告書に記載する内容は「法人の概要」「事業の種類」「売上高」
「構成員全ての状況」「理事や取締役、役員全ての状況」の5つです。
添付書類は地域によって異なります。

報告書のフォーマットは決まっておらず、内容さえ網羅されていれば自由に作成可能です。

まれに農林水産省や各地域の農業委員会が、農地所有適格法人報告書のフォーマットを用意していることもあります。

農地所有適格法人を成功させるには?

農地所有適格法人を設立して成功するために必要な3点をご紹介します。

農業のノウハウを持った人材の確保

これまでに個人で農業してきた人が農地所有適格法人を設立する場合には、ノウハウを持った人材の確保は必要ありません。

しかし、未経験から始める場合には注意が必要です。
農業はだれでもできる簡単な事業ではなく、収益を得るためには栽培技術などのノウハウが不可欠です。

新規事業として未経験の農業分野へ参入するのであれば、農業のノウハウを持った人材を確保しましょう。

栽培技術を持った人材がいることで、収益確保や将来的に事業拡大をしていくことも十分に可能です。

収益計画の作成

農業は作物を栽培から販売まで時間が必要なため、収益化までに時間がかかります。
また、その年の気候変動や病害虫の発生などにも左右されるため、安定した収益を確保することが困難な場合もあります。

1年目から大きな収益を予想をすることは、正しい判断とは言えないかもしれません。
事業として農業を成り立たせるためには、長く続ける必要があるため、短かすぎる収益目標は危険です。

上記で紹介したリスクを踏まえて、収益計画を立てて行きましょう。

自然災害へのリスク対策

農業は自然災害の影響を受けやすく、収益が大きく変化します。露地であれば台風だけではなく、雨や日照りが続けば予定通りの栽培が行えません。

またビニールハウスでも、台風などによって破損し、想定外の修理費が発生することもあります。

事業の中でも自然災害によるリスクが多い業種になるため、収益の変化や出費を考えて経営にあたる必要があります。

このような被害によって廃業に追い込まれるケースもあります。
リスクへの対策はきっちりと備えておきましょう。

関連記事:企業の農業参入におけるメリットやポイントを徹底解説

認定農業者制度

認定農業者制度とは、市区町村の農業経営目標に向けて、自らの創意工夫に基づき、経営の改善を進めようとする計画を市区町村が認定した農業者に対して、支援措置を講じる制度です。

複数の市区町村で農業を営む農業者が経営改善計画の認定を申請する場合には、営農区域に応じて、都道府県または国が認定します。

認定農業者を取得することで、農家を支援するさまざまな制度を活用できます。

例えば、農地・施設・機械などの必要資金や、農業経営における運転資金などに活用できる長期低利融資、融資を活用して農業用機械等を導入する際の融資残を補助する補助金などの経営改善を目的とした支援制度を活用できます。

関連記事:認定農業者制度とは?企業の農業参入・新規就農時に活用する方法を徹底解説

農業参入のご相談はイノチオアグリへ

イノチオアグリは「農業総合支援企業」をコンセプトに掲げ、お客さま農業経営を多岐に渡り支援することを掲げています。

新規就農から農業業参入、その後の規模拡大から栽培課題の解決まで、農業経営へのお悩みにお応えます。まずは、お気軽にお問い合わせください。