施設園芸農業とは?はじめる際のポイントを解説
施設園芸農業が発展する以前は、野菜や花きを安定して収穫するために、栽培に適した気候の生産地を選ぶほかありませんでした。
近年では、栽培環境をコントロールできるビニールハウス栽培が各地で一般的になったことで気候に縛られにくい施設園芸農業が定着してきました。安定生産、安定経営の農業を目指す上で、ビニールハウスを活用した農業が注目を集めています。
今回のコラムでは、施設園芸農業をはじめるポイントをテーマに、メリット・デメリットを含めて解説していきます。
目次
施設園芸農業とは?
施設園芸農業とは、文字通り外での農業ではなく、施設を用いた農業のことを指します。
この施設が、みなさんが目にしたことがある丸型や屋根型と呼ばれるビニールハウスです。
ビニールハウスを用いた施設園芸農業は、外部環境から隔離することで人工的に気象環境と植物の生育を制御して、出荷時期の調整を行える栽培となります。
出荷時期を早めることを促成栽培、遅くすることを抑制栽培と言います。ビニールハウス内を加温することで抑制が可能な野菜は生育の制御がしやすいですが、冷温による制御が必要な野菜は栽培が難しい傾向にあります。
また、制御においても多くの生産者が取り組む施設内の温度制御をはじめ、日照条件・湿度・二酸化炭素濃度・肥料割合等までを行う高レベルな制御まで幅広く行われています。
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施設園芸農業が選ばれる理由・背景
施設園芸農業が選ばれる理由・背景として、理想とする栽培を実現しやすく、高品質な生産が行える点があげられます。
ビニールハウスも小規模なパイプハウスから、大規模な鉄骨ハウスまでさまざまありますが、外部環境と隔離すること病害虫や病気のリスクを軽減でき、スマート農業機器を導入することで環境や生育の制御ができることで、生産量を安定させ且つ、高品質な生産を実現できます。
また、施設園芸農業が選はれていることには社会的背景も一つの要因となっています。
家電メーカーが冷蔵庫の機能として、野菜の鮮度を保つことを売りにしているように消費者は鮮度が良い野菜を常に求めています。
このようなことも相まって施設園芸農業の技術は発展してきました。そのおかげで、スーパーに行けばその日に採れた新鮮な野菜をいつでも買えることができるようになっています。
新規就農・農業参入に向いている
農林水産省の「施設園芸をめぐる情勢」の報告によると、日本の農業産出額約8兆8,384億円のうち野菜・果樹・花きといった施設園芸作物を含む生産額は38%を占めています。次世代施設園芸は栽培の工夫により10aあたりの所得額は露地栽培の3倍とも言われています。
研修先で学んだ技術、パートナー企業からのサポートなどを活用することで経験が浅くても、熟練の生産者に負けない結果を生むことができます。
施設園芸農業のメリット
ここまでの解説で登場している内容にもなりますが、施設園芸農業のメリットについてまとめて紹介します。
収穫量が安定している
露地栽培と異なり、施設園芸農業はビニールハウスを活用することで栽培環境を自らがコントロールできるので、季節や天気などの外部環境の影響を受けずに作物を育てることが期待でき、収穫量が年間を通じ安定させられるため、収入面の不安も軽減できます。
特に新規就農・農業参入の場合、今後の規模拡大を踏まえると収入面の安定性はとても重要なポイントです。
高品質な作物を育てやすい
スマート農業を活用して人工的に環境を制御できる施設園芸農業は、作物の成長段階に合わせ最適な環境を整え、高い品質を保った生産が行えます。
例えば、日照が足りない時期には電照を用いて補光させる、二酸化炭素濃度をコントロールして光合成を促進させるなど、工夫によってより良い品質の作物を栽培することが可能です。
病害虫の被害を受けにくい
施設園芸農業はビニールハウス内で栽培を行うため外部環境と切り離されています。
そのため病気や害虫が侵入するリスクが低くなります。病害虫の発生は、収入面にも大きく影響を受けます。被害が出てからでは、手遅れの場合もありますので、甘く見ずに対策を行いましょう。
また、病害虫が発生した場合にも焦らずに専門機関への調査を行い、適切な対策を施すことで被害を最小限に抑えることも可能です。
関連事業:土壌分析・病害虫診断事業
施設園芸農業のデメリット
ここまで施設園芸農業のメリットの関連する内容 を紹介してきましたが、もちろんデメリットも存在します。メリットとデメリットを照らし合わせてご検討ください。
施設・設備の導入コストが高い
施設園芸農業は、露地栽培と異なりビニールハウスを使用します。そのため建設に掛かる導入コストが発生します。また、栽培する作物や理想とする栽培環境によって内部環境の制御機器、養液の管理機器などの設備の導入コストも掛かってきます。
機能面は求めれば切りがないのが実情です。安定した経営を目指すためにも、予算と必要な設備を照らし合わせながら検討を進めましょう。
判断に困る場合には、営農支援などの知見がある企業へ依頼することもおすすめです。
施設・設備の故障リスクがある
近年、日本では台風や大雪だけでなく、線状降水帯などによる急な大雨などによる被害が起きています。また、建物倒壊を伴う地震の発生など、日本中どこにいても対策が求められます。
もし、ビニールハウス建設を予定している地域が決まっていれば、その地域ではどのような自然災害が起きやすいのか、河川との距離や高低差はあるのかなど、しっかりと調べるようにしましょう。
把握することで、対策も立てやすくなり、リスクを最小限に抑えることにつながります。
施設園芸農業と園芸農業の違い
施設園芸農業と園芸農業との違いについて疑問を持たれている方がいるかと思いますのでそちらについて少しだけ解説します。
園芸農業とは、野菜や花などを都市部への出荷を目的に栽培する農業のことを言います。この中には露地栽培も含まれています。
施設園芸農業とは、園芸農業のなかでもビニールハウスなどの施設を使用して栽培を行う農業のことを意味しています。
施設園芸農業をはじめる前に知っておきたいポイント
ここまで施設園芸農業の概要をはじめ、メリットとデメリットについて紹介してきました。最後に、実際に施設園芸農業をはじめる前に知っておいていただきたいポイントについて解説していきたいと思います。
補助金・融資を利用する
施設園芸農業では、生産が安定しやすいため露地栽培を上回る収入が見込める可能性がありますが、デメリットでも紹介した通り導入コストが大きな負担となります。
そのため、自治体などからの補助金や金融機関からの融資の活用をおすすめします。
各自治体や農業情報関連のWebサイトなどで、新規就農・農業参入向けの補助金や融資の情報が載っている場合があります。上手に制度を活用することで、費用を抑えられます。
関連記事:農業の資金調達は難しい?新規就農におすすめの融資・補助金を解説
施設園芸農業に適した土地を選ぶ
施設園芸農業をはじめるにあたり土地選びが難航もしやすいポイントであり、最も重要なポイントでもあります。
農地を探して見つかっても、そこがビニールハウス建設に最適な場所とは限りません。方角、土地形状、インフラ(電気・水源)など見るべきポイントは多岐に渡ります。
ご自身で判断が付かない場合には、契約をする前にビニールハウスメーカーの担当者へ相談するようにしましょう。
関連記事:ビニールハウスを建設する際に農地の見るべきポイントとは?
必要な設備を準備する
施設園芸農業をはじめる際、温度管理のみの設備からスタートする例が多いと上記でも紹介しました。
しかし、施設園芸農業の先進国であるオランダでは、大規模化施設を複数の設備を導入して複合的に制御することで1000㎡あたりの収穫量は日本の約5倍にもなると言われています。
温度管理だけでなく可能な範囲で設備を導入すれば、日本でも生産性を向上させられるでしょう。
しかし、設備導入には切りがないので長期的な規模拡大を視野に検討をすることも重要です。
関連記事:スマート農業の有効活用で生産性向上&コスト削減
栽培に適した土地環境を作る
施設園芸農業はビニールハウス内で栽培用の架台を使用するだけでなく、露地栽培のように土耕栽培で育てるケースも多くあります。トマト、キュウリ、イチゴなど多くの作物で採用されています。
施設園芸農業と言えど、土耕栽培を行うためには作物に最適な土壌環境が必要です。土壌改良剤、または遅行性肥料などを使用し、水はけと通気性のよい土壌を作りましょう。
また、土耕栽培を想定しているのであればビニールハウス建設の前に選ばれた農地の土壌診断をおすすめしています。そもそもその土地の土壌が農業に適しているのか、作物に適しているのか、専門家に判断してもらいましょう。
関連事業:土壌分析・病害虫診断事業
病害虫対策をする
施設園芸農業は、外の環境と隔離しているからと言って病害虫の被害が発生しない訳ではありません。
露地栽培と比較して被害にはあいにくいですが、それは病害虫を施設に入れないことが大前提にあります。
病害虫の被害が発生した際には捕虫用資材を使用したり、天敵製剤を活用したりすることで繁殖しないよう対策することが急務です。施設内から菌を完全に排除することが大切です。
関連事業:土壌分析・病害虫診断事業
パートナー企業を見つける
上記で説明したような情報や専門知識をこれまで農業未経験の方が一人で補うことは難しいです。
施設園芸農業をはじめる際にはビニールハウスのみ、コンサルティングのみを行う業者ではなく総合的にサポートをしてくれる業者を選ぶことをおすすめします。
農業をはじめる際は、目先のビニールハウスや補助金などに目が行きがちですが栽培開始後の時間の方が圧倒的に長いです。農薬や肥料、病害虫の問題など長期的な視点で依頼する業者を選びましょう。
栽培作物に最適なビニールハウスとスマート農業設備を選ぶ
ひとことに施設園芸農業と言っても、栽培する作物や理想とする栽培方法によって必要なビニールハウスや設備の性能が変わってきます。
例えば、イチゴ栽培であればビニールハウスに高さを求めませんが、トマトやキュウリなど誘引をする作物の場合には高さが必要となってきます。
ビニールハウスや設備に必要以上のスペックを掛けるとコストも上がります。予算を踏まえて、的確なアドバイスをくれる業者へ相談しましょう。
新規就農・農業参入をサポートします!
イノチオアグリは「農業総合支援企業」をコンセプトに、ビニールハウスに携わり50年以上、培ってきたノウハウを活かし、これから農業を始められる方をご支援します。
施設園芸農業で新規就農・農業参入をお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。みなさんのお悩みやご相談に専門知識を持った社員が対応します。