「農業はやったことも学んだこともないけれど、自分の手で作物を育ててみたい」
そうした思いから、農業の世界に飛び込む人が増えています。しかし、未経験で挑戦することに対して不安を覚える方は少なくありません。

農業をはじめる際に最も重要なのは、事前の情報収集です。
今回のコラムでは、未経験から農業をはじめる前に知っておきたい、農業界の現状やメリット・デメリットについてご紹介します。

未経験でも農業へ転職できる?

結論から言えば、未経験からの農業への転職は十分可能です。現在の農業界には、意欲を持って新しく農業に取り組む人が求められています。

農業をはじめるにあたって最も重要なのは「農業の世界で生きていくという強い意志」と言っても過言ではありません。

関連記事:【新規就農者必見!】 新規就農者の支援制度を解説

転職前に知っておきたい農業の現状とは

農業に限らず、目指している業界が現在どのような状況にあるのかを知っておく必要があります。農業界は今、深刻な人手不足が続いています。少子高齢化社会の影響を受けて担い手が減っているため、後継者となる人材が求められています。

農業の就業人口

前述した通り、農業人口は減少の一途を辿っています。
農林水産省の農林業センサスによると、2023年の基幹的農業従事者数は約116万人で、2010年からの減少率は約43%にも上ります。

※基幹的農業従事者とは、15歳以上の世帯員のうち、ふだん仕事として主に⾃営農業に従事している者(雇⽤者は含まない)を指します。

また、農業人口の高齢化も顕著です。70歳以上の農業従事者が全体のおよそ59%を占めています。

これらのデータから、農業は、少子高齢化の著しい産業であることが伺えます。
だからこそ、若手の就農が期待されています。 また平均年齢の高さから、30代・40代も若手として十分にチャレンジできるというのも、農業界の特徴のひとつと言えます。

参考リンク:農林水産省「農林業センサス」

農業を支える補助金制度

農業は、食料を安定生産するためにたいへん重要な産業です。国や自治体は、農業へ取り組む人を支援するために、補助金や融資といったさまざまな支援制度を展開しています。

例えば、以下のような支援策があります。
・農業研修の期間中に年間150万円を受給できる制度(最長2年間)
・一定の条件に当てはまる場合、最大3,700万円の融資を無利子で受けられる制度

補助や融資を受けるための要件や詳細な条件については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。

関連記事:農業の資金調達は難しい?新規就農におすすめの融資・補助金を解説

農業未経験者は必見!農業の働き方とは?

続いて、農業の働き方についてご紹介します。農業をはじめる前に、農家になったらどんな生活が待っているかを具体的にイメージできると良いでしょう。

どんな働き方がある?

農業では、大きく分けて二つの働き方があります。個人事業主として開業する「新規就農」と、農業法人に就職する「雇用就農」という方法です。

新規就農とは

個人事業主として独立して新規就農すれば、「どの作物を作るか」「どんなスケジュールで栽培するか」など、すべて自分で決めることができます。
しかし、独立して就農する場合は、農地や資金の事前準備が必要になるだけでなく、収益を得るために栽培の知識・技術の習得も欠かせません。
自由な働き方ができる一方で、ハイリスク・ハイリターンな方法と言えます。

雇用就農とは

農業法人に就職する場合は、サラリーマンと同じように、給料を受け取って働きます。すべてを自分の思う通りにはできない一方で、安定した収入を得ながら、農業の知識や技術を習得できるという利点があります。 将来的に独立を考えている場合も、まずは雇用就農で知識をつける、という方法をとる方も多くいらっしゃいます。

1日の労働時間と年間休日はどのくらい?

農家は畑や田圃の作物、牛豚鶏などの家畜を扱います。生き物ですから、長い間放っておくことはできません。そのため、農家・農業に携わる人の休日は一般の企業と比べて少ない傾向にあります。

栽培作物や栽培形態にもよりますが、年間休日は70日前後が一般的と言われています。 作業スタッフを雇っている圃場なら、休日の取得はシフト制が一般的です。

また1日の労働時間は、夏季は約10時間、冬季は約7時間程度が平均となります。

農家の平均年収は?

農林水産省の「農業経営統計調査」によると、2021年の農業経営体における10アールあたりの平均所得(農業粗収益から農業経営費を引いたもの)は125万4,000円です。

これを個人経営と法人経営で分けると、個人で農業を営む人の平均所得は約115万2,000円、法人での平均所得は約424万5,000円となっています。

ここで注意したいのは、農業分野の所得には大きなばらつきがあるという点です。1,000万円以上の収入を得ている農業経営体もあれば、赤字になってしまっている農業経営体もあります。個人経営体の中でも、世帯所得の50%以上が農業所得である主業経営体に絞って見れば、平均所得は約434万円となっています。

農業を本業とするのか、他の仕事と掛け持ちをして兼業で行うのかによっても、収入は大きく異なります。

参考リンク:農林水産省「農業経営統計調査」

未経験者が農業に転職するメリットとは

ここからは、未経験者が農業に転職した場合のメリット・デメリットについて解説します。農業の良い面だけでなく、想定されるリスクも予め確認しておきましょう。

学歴・職歴は重視されない

一つ目のメリットとして、農業に学歴・職歴は重視されない傾向にあることが挙げられます。 もちろん、学生時代や前職で経験したことを栽培に役立てることもできますが、農業では肉体労働を中心とした仕事を毎日行うことになるため、それに耐えられる体力や意欲が伴っていることが優先されます。

規則正しい生活を送ることができる

農家は、朝から夕方まで仕事をするのが基本的な労働時間です。その上、体力仕事なので、早寝早起きで規則正しく、健康的な毎日を送ることができます。

デスクワークの仕事から農家へ転職した人の中には「前より健康的に過ごせていて、ご飯も美味しく感じられる」と生活の変化を喜ぶ方もいます。 人間らしい生活を送ることができる点も、農業の魅力のひとつかもしれません。

食への知識と経験が増える

味はもちろん、見た目の色や大きさ、収穫量など、当然ながら農業を始めて経験を積むことによって、自らが育てる作物や食材、加工方法などについての知識が身につきます。

こういった知識は消費者として野菜を選んだり、料理をしたりといった場面でも役立ちます。好きな野菜を栽培すれば、自身の食生活を豊かにすることにも繋がるでしょう。

工夫と努力で収入アップの可能性も

すでにご紹介した通り、個人で農業を営む人の平均所得は他業種と比べると決して高い金額ではありません。

しかし、作物の品質や収量、売り方の工夫によって1,000万円以上の高収益を実現している人がいるのも事実です。農業は工夫と努力によって高収益を得られる可能性がある、夢のある産業だと言えます。

独立すれば自分の考えで経営ができる

独立して個人事業主として農業を営むことで、働き方や経営方法、ブランディングに至るまでを自らの裁量で行うことができます。

会社員から農家へ転身した人の中には、自由な働き方ができるという点に最もメリットを感じている方もいます。

未経験者が農業に転職するデメリットとは

続いて、農家に転職する際のデメリットについて解説します。

肉体労働が多く、体力が必要

農家の仕事は肉体労働がメインです。特に育てている作物にとって大事な時季には休日を取得することが難しい場合もあります。 農業に携わって間もない人からは「肉体的にこんなにハードだとは思わなかった」という言葉も聞かれます。

近年では、「スマート農業製品」と言われる機械や技術の進歩により、農作業の省力化が進んでいます。導入には費用がかかりますが、今後何年も栽培をしていくことを考慮して導入する方も増えています。

関連記事:ビニールハウス栽培で役立つスマート農業製品

生産量・収入が天候に左右される

農業は、天候をはじめとする自然条件に影響を受けやすい仕事です。
災害などにより畑がダメージを受けると、作物が出荷できず、最悪の場合は収入が得られません。
このような予期せぬ自然災害によるリスクを抑えるため、農業用の保険に入っておくこともおすすめです。

参考サイト:農林水産省「農業保険(収入保険・農業共済)」

ビニールハウスの中で栽培する施設栽培なら、自然の中で栽培する露地栽培と比べて天候による影響を受けにくいというメリットがあります。さらに生育環境をコントロールできるので、年間を通して栽培でき、収量が安定する点も特徴のひとつです。

関連記事:ビニールハウスのメリット・デメリット

人とのコミュニケーションは必須

農業に対して、ひとりでもくもくと作業を行うというイメージをお持ちではないですか? 実際は、栽培について近所の先輩農家に教えてもらったり、作物を販売したりと、農業においても人との円滑なコミュニケーションはとても大切です。

ただ畑に向き合うだけの仕事ではないことをイメージしておくと良いでしょう。

長期の外出が難しくなる

前述したとおり、農業は生き物を相手にする仕事のため、長期間不在にしておくことはできません。

しかし、経営が順調に拡大すれば、社員やアルバイトを雇用して一定期間、仕事を任せることも可能になります。それまでの間は自分だけでなく、家族にも我慢をお願いすることになるかもしれません。家庭のある人は、事前にしっかりと相談しておきましょう。

初期投資に費用がかかる

農業は、他業種に比べて初期費用がかかる事業です。

全国新規就農相談センターの経営シミュレーションによると、新規就農のための平均的な準備資金額、また土地以外の機械や施設を取得するのに必要な金額の平均は下記の表の通りです。

栽培形態 栽培作物の一例 土地を除く機械・施設準備にかかった費用
水稲 4,327,000
施設野菜 トマト、イチゴ、ナスなど 7,953,000
果樹 リンゴ、モモ、ナシなど 3,675,000


この金額をすべて自己資金で賄うのは、現実的ではありません。すでにご紹介した通り、新規に農業を始めようとされる方に向けては国や市町村からさまざまな支援策が打ち出されています。このような制度を上手く活用することがおすすめです。

関連記事:農業の資金調達は難しい?新規就農におすすめの融資・補助金を解説

また、イノチオアグリでは新規就農・農業参入のための融資取得に向けたサポートを行っております。資金についてご不安があれば、お問い合わせください。

農業をはじめるのに必要な資格はある?

農家になるために必須の資格

農家になるには、農家の定義や市町村の農業委員会の判断を受け、農家として登録される必要があります。 これがなければ、農地を買ったり借りたりすることができません。

農林水産省によると、農家は「経営耕地面積が10アール以上の農業を営む世帯または農産物販売金額が年間15万円以上ある世帯」と定義されています。販売農家の場合は、「経営耕地面積30アール以上または農産物販売金額が年間50万円以上」である必要があります。

そして農地法(農地の保護や権利関係に関する法律)によると、第3条に「農地を買ったり借りたりする場合には市町村農業委員会の許可が必要」と記載があります。

許可を得るには、市町村の農業委員会に「認定申請書」や「営農計画書」などを提出し、「農地基本台帳」に登録される必要があります。 この登録を受けることで、農地の取得が可能になります。

このほかに、農家になるために必要となる資格や免許等はありませんが、持っておくと便利な免許がいくつかあります。

あると便利な運転免許

栽培作物や農場の規模により異なりますが、農業で役に立つ免許として次の5つが挙げられます。

大型特殊自動車免許

代表的な免許で、トラクターや重機を運転できることはもちろんですが、公道を走っていくつかの農場を行き来することもできるようになります。

牽引免許

農耕車牽引免許を持っていると、農場で使う多種多様な機械を牽引することができます。

普通自動車免許(MT)

多くの農業生産現場で活躍している軽トラは、マニュアル車が主流。作物や道具を運ぶために重宝します。

普通自動車免許(AT)

こちらは最低限持っておきたい免許です。車が運転できないと、畑へ通うのが難しい場合が多くあります。

フォークリフト作業免許

フォークリフト作業免許は、収穫して軽トラで運ばれてきた農産物を一時保管する倉庫に収容したり、出荷のために迎えにくる大型トラックに積み荷したりする用途で活躍します。

転職を失敗しないための3つのポイント

ここまで、農業への転職に必要な情報について解説しました。 ここからは、いざ農業への転職を考える際、失敗しないために考慮するべき3つのポイントをご紹介します。

目的と将来像を明確にする

農業に限らず、転職活動で大切なのは目的と将来像を明確にすることです。自分自身とじっくり向き合い、なぜ農業をはじめたいのか、そして将来どのようになりたいのかを具体的にイメージしましょう。

将来像が不明確な場合は、今一度農業についてリサーチしましょう。農家や田舎暮らしへの憧ればかりが先行して、現実的なイメージができていないと、農業開始後にギャップに苦しんでしまう可能性があります。

農業に転職するイメージが膨らまない場合は、まず行動してみることもおすすめです。アルバイトやボランティアを通して農業を体感するのも、自分の将来をイメージするきっかけになります。

農業の知識・ノウハウを得る

転職を成功させるには、前もって農業の知識・ノウハウを身に着けておくのも重要です。

農業は、土地や作物、栽培方法によって、必要な知識や技術が変わります。求められるノウハウが多く、勉強不足で失敗してしまうケースが少なくありません。 農業に転職する前に、学校や研修で農業の知識を身に着けておくことをおすすめします。

農業を学ぶ手段として代表的なのは、農業大学校や就農準備校といった学校に通うことです。このほか、より短期間で実践的に農業を学べる農業研修に参加するという方法もあります。 農業大学校や農業研修の詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:農家になるには?農業従事者の仕事、年収・資格やりがいなどを解説

農業関連の資格・法律を学ぶ

農業関連の資格や法律の勉強をするのもおすすめです。 農家になるために必須となる資格はありませんが、取得することで役立つ資格がいくつかあります。 例えば、本記事でご紹介したような運転免許を、事前に取得しておくことで優遇してくれる農業法人もあります。

また、農家として独立することを考えている場合は、作物を栽培する農地を確保しなければなりません。 農地の購入や賃貸には「農地法」に基づく市区町村の許可を得る必要があります。そのため、農業に関わる法律の勉強も不可欠です。

関連記事:農地とは?農地法上の定義や種類について徹底解説!

イノチオは未経験からの農業のスタートをサポートします

イノチオアグリは、新しく農業をはじめる方に向けて、栽培をスタートするまでの計画立案からビニールハウス設計、建設、収支シミュレーションのご提案など、農業のスタートを総合的にご支援します。

お客さまのご要望や理想とする農業経営に基づいてビニールハウス、内部設備を設計し、栽培方法や作業計画を一緒に考え、事業収支の試算をお手伝いしております。

さらに、圃場研修や専門指導員による就農後のサポートで、事業開始の準備期間から栽培開始後の運営管理や労務管理に至るまで、お客さまの農業を総合的にご支援します。