近年、自然環境を保護しながら安定した食料生産を目指す「協生農法」が話題です。農薬や肥料を使わないこの方法は、自然環境にも人の体にも優しく、持続可能な農法として注目されています。

この記事では、協生農法について知りたい方や、実際に試してみたい方に向けて、その基本的な考え方や実践方法についてご紹介します。

 

協生農法とは

協生農法とは、人為的に多種多様な植物を密生混生させ、土を耕さず、肥料や農薬も使わず、虫や鳥などを呼び込んで生態系の機能を高めて作物を実らせる露地栽培法のことをいいます。

『協生農法実践マニュアル』によると、協生農法は「無耕起、無施肥、無農薬、種と苗以外一切持ち込まないという制約条件の中で、植物の特性を活かして生態系を構築・制御し、生態学的最適化状態の有用植物を生産する露地作物栽培法」と定義されています。

ここでいう生態学的最適化状態というのは、ある土地の気候や地形・土の性質などにおいて、複数の種が生存を争ったり助け合ったりしながらそれぞれが最大限に成長できるような状態のことを指しています。

まとめると、「作物の生育に手を加えなくても、おいしい野菜や果物がとれる環境を一から作り出す農法」と表現できます。

現在の農法について

そもそも農法とは、農作の方法のことです。 栽培作物が成長するために最適な環境に整える方法とも言えます。

現在の代表的な農法を2つ解説します。

1.慣行農法
慣行農法は、一般的に農家の方々が行っている伝統的な農業手法のことです。農作物の生産量を安定させるために、農薬や除草剤、化学肥料を使用するなど、収穫まで人が関与して栽培します。

2.有機農法
有機農法は、自然農法の考え方を残しながら、慣行農法の「人が関与する」という点を取り入れた方法です。 土を耕し、種や苗を植えた後、水やりや草刈りによる除草、肥料を与えるなどして育てます。
このときに使用する肥料は、米ぬかや貝殻、卵の殻といった自然由来のものです。これにより、生産性を高めながらも持続可能な農業を実現しています。

関連記事:農法とは?農家さんに選ばれる農法8選を紹介

協生農法の実践マニュアル

協生農法の理論や実践方法については、『協生農法実践マニュアル』に詳しく記載されています。

このマニュアルは、総論、各論、評価方法、応用などの構成で、約50ページにわたる充実した内容となっており、無料でダウンロード可能です。興味のある方は、ぜひこちらを参考にしてください。

関連資料:協生農法実践マニュアル2016年度版

協生農法と自然農法の違い

協生農法と自然農法では、どのような違いがあるのでしょうか。 自然農法の定義や特徴と合わせて解説します。

自然農法とは

自然農法とは、農薬や化学肥料に頼らず、農作物がもつ生命力を活かす栽培方法です。

生育を自然のサイクルにすべて任せるため、環境の影響により収穫量が少なくなりやすい一方で、安全性が高く、作物本来の自然な味を作ることができる農法です。

関連記事:自然農法とは?有機栽培や無農薬栽培との違い、おすすめ野菜について解説

自然農法との違い

自然農法と協生農法は、「無農薬・無肥料・不耕起」で、外から持ち込む資材を最小限にして自然の力を利用する、という点で共通しています。どちらの農法も、化学肥料や化学農薬の使用を基本とする栽培(慣行栽培)に代わる農法として生み出されました。

一見似ている農法のようですが、このふたつには違いがあります。 自然農法は生育を自然のサイクルに任せるのに対して、協生農法は農作物が育つ環境を作るために積極的に手を加えます。作物の生育環境を人為的に作り出すので、自然農法より手間がかかる農法と言えます。

協生農法のメリット

ここからは、協生農業の4つのメリットについて解説します。

環境を豊かにすることができる

協生農法では混植を基本とし、生物多様性を高めることを目指します。そして生物多様性が高まると、そこから得られる生態系サービスも大きくなるという考え方を基本としています。そのため協生農法に従うと、有用植物を含む多様な生物種が生息する豊かな環境を創り出すことができます。

※生物や生態系から人が得ているさまざまな恩恵のこと。森が浄化する水や植物が出す空気、食べ物や木材などの資材といった、多様な機能が含まれます。

資材費を節約できる

協生農法では基本的に外から農薬や肥料を含む資材を入れません。生態系が豊かになれば、農薬や肥料がなくても作物が育つため、通常の栽培(慣行栽培)に比べて資材代を節約することができます。

総収量が安定しやすい

ひとつの作物のみを育てる単一栽培は、慣行農法でよく取り入れられている方法です。特定の作物に特化した生産体制を取ることができますが、病気が蔓延した際に作物が全滅してしまい、収入がゼロになってしまうといったリスクも想定できます。

一方、多様な有用作物が混植されている協生農法では、その多様性がリスクの分散に繋がり、ある作物が病気でだめになってしまっても他の作物が収穫できる、といったかたちで、安定的に作物を栽培できるというメリットがあります。

消費者から信頼を得られる

協生農法は、有機JASマークの対象の一つでもあります。一般的に有機栽培以外、例えば自然農法などの環境に配慮した農業では対象になりません。 有機JASマークを取得すると消費者からの信頼が得られるというメリットがあります。

自然環境で出来る旬の野菜や果物は味が濃くて栄養価も高く、免疫性があると言われており、消費者からのニーズも高いです。

協生農法のデメリット

では、協生農法を行うデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

単作には不向き

協生農法は自然のサイクルに従って作物を育てる方法です。自然界の生態系のバランスは常に変化するため、ある年では豊作だった野菜が翌年にはほとんど収穫できない、といったこともあり得ます。

このため、特定の作物を毎年安定的に収穫するのは難しいという欠点があります。

作業に手間がかかる

除草剤を使用しないので、雑草の管理が必要です。また、混植を基本とするため、種まきや定植、収穫も、単一栽培に比べると作業量が多くなります。

そのため、大規模に収益化したい場合や人手が少ない場合には不向きな農法と言えるでしょう。

協生農法のはじめ方

ここからは協生農法のはじめ方について解説します。

畝づくり

まず、幅1~1.5m程度の畝を作ります。これは、水はけを良くしたり、通路と畝を区別したりするためのものです。

土は耕さずに盛り上げるだけで構いません。高さや幅は育てたい作物に合わせて調整可能で、畝の両側から中央に手が届くくらいの幅だと作業がしやすいでしょう。

植樹

畝の中央には、落葉果樹や小型の植物を植えましょう。中央に植樹することは斬新な方法に感じられますが、この工程には次のようなメリットがあります。

野菜のための半日陰をつくる
夏の強い日差しによる作物へのダメージを軽減することができます。

虫や鳥を引き寄せる
受粉を助けるだけでなく、ふんや死骸が肥料になります。

落ち葉が出る
落ち葉が腐葉土を作り、土壌に良い影響をもたらします。

果実の収穫
副産物的に、果樹から果実を収穫することもできます。

年間計画を立てる

農業によって生計を立てていこうと考えている方の場合は特に、年間を通してどのように野菜や果樹を作付けするか、しっかり計画を立てることが重要です。

植物がお互いに影響を与える協生農法では、時期やタイミング、成長速度のズレが生じると、作物の生育がうまくいかない場合があります。そのため、まずは年間を通して何をいつ栽培するのかといった計画を立てましょう。

しかしながら、計画がうまくいかないこともあれば、予想外にうまくいくこともありますので、協生農法においてはその過程を楽しむことも大切です。

種まき

何をどう育てるかが決まれば、次は種まきです。複数の種を混ぜて高密度でまくことがポイントです。野菜が草より先に地面を覆うことで、雑草の成長を防ぎます。 年間を通して野菜が途切れないように、種や苗を植え続けるといった方法もあります。

また、同じ野菜でも時期をずらして何度かまくことが重要です。自然界では全ての種が同時に落ちて発芽することはないので、協生農法でもこれにならって、時期をずらして種まきをします。

草管理

各野菜と草の特性に合わせて草の管理を行います。作物が負けない限りは、一年草は刈り取らずに、群生しているものや大きくなりすぎた雑草だけを刈ります。

除草のために耕すことは生態系を大きく乱すため避けましょう。地上部に出ている草だけを刈り取り、徐々に根を弱らせるようにします。

収穫

収穫は、育った野菜や果樹から順に行いましょう。

すでにご紹介した通り、時期をずらしてまいた種は収穫時期も異なります。そのため、一般的な農業のように一度に全て収穫するのではなく、実がなったら適宜収穫するようにしましょう。

協生農法はプランターでもできる

協生農法を行うにはある程度のスペースがある土地が必須と思われるかもしれませんが、実はプランターからはじめることもできます。

ソニーコンピュータサイエンス研究所と一般社団法人シネコカルチャーが公開している「協生理論学習キット」では、地植え(露地タイプ)とプランタータイプの2種類が紹介されています。 生態系の最小単位をプランターの中に作り出す、というかたちで、家庭菜園のように協生理論に触れ、実践することができます。

参考:株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所『協生理論学習キット』

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