日本の農業は、農業従事者の高齢化による後継者不足や担い手不足、耕作放棄地の増加など、抱えている多くの課題があります。これらの課題は、今始まったことではなく、数年前から言われ続けているにも関わらず、未だ改善ができていないのが現状です。

しかし、世界には日本とは全く違うかたちで発展した農業大国や、日本よりも小さな国土にも関わらず、先進的な取り組みで農業大国として成功している国があります。

今回のコラムでは、日本の農業の特徴に触れながら、世界の農業大国と日本の農業の違いを紹介していきます。

日本の農業の特徴

日本の農業は、今まさに農業従事者の高齢化だけでなく、さまざまな課題に直面しています。世界の農業に関する話題へ入る前には、まずは日本の農業の特徴について紹介していきたいと思います。

日本の農業が抱える課題

近年、農業を新たなビジネスチャンスと捉えて、農業を志す若者が増えつつあるものの、日本の農業は着実に高齢化が進んでいます。日本では、農業従事者の大半を65歳以上が占めており、後継者や担い手がいない、高齢者が続けることができずに引退したまま放置された農地の存在など、日本農業の将来を危惧する課題が山積しています。

政府としては、日本の農業のグローバル化を推進していますが、そのような中で注目すべき課題は「食料自給率の低さ」です。日本は、農産物の輸入大国であるという一面があります。2018年上半期を見てみると、生鮮野菜の輸入量が2001年の55万tに迫る高水準の54万7381tというデータがあります。これは長雨や寒波といった気候変動、異常気象による国産品の不良も大きく影響していますが、ものすごく大量の生鮮野菜が輸入されています。

また、これは高齢化とは別軸で食料自給率の低さとも関連する内容ですが、世界の国に比べて「農地面積が狭い」とされています。世界の農業大国と言われるアメリカなどは見るからに広い国土があります。一方で、日本の国土は狭いだけでなく、面積に比べて人口が多く、山林が多いのが特徴です。

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世界の農業:オランダの農業の特徴

それでは、世界と日本の農業の違いとは具体的にどのようなことがあるのか?

農業大国と聞いて真っ先にオランダを思い浮かべる方がいらっしゃるかと思います。しかし、オランダが世界有数の農産物の輸出大国と言われるようになったのは比較的最近のことです。

オランダの国土は、面積にして日本の約4で、ちょうど九州ほどの大きさしかありません。オランダは、近隣のフランスやドイツのような広大な農地を持たないなかで、圧倒的な農産物の輸出量を誇っています。

それでは、その理由について紹介していきます。

主要な農産物と生産量・輸出量

オランダで栽培されている主な農産物は、花き類、てん菜、ジャガイモ、玉ねぎ、トマト、キュウリ、パプリカ、生乳、豚肉などで、施設園芸と酪農・畜産が中心となっています。また、酪農・畜産のための採草・牧草地も農用地の多くを占めています。

オランダの2020年の名目GDP 9,139億USドルのうち、農林水産業の名目GDPは1.6%にあたる145億USドルで、日本の1.1%より高く、国内産業における農業の重要性が見て取れます。また、2021年には輸出額が1,224億USドルと世界で2位となっています。

オランダと日本の違い

九州ほどの面積しかないオランダが、なぜ農業大国になり得たのか?その理由について解説します。

産業としての農業政策

オランダでは、旧・農業省が経済省に統合されたという経緯もあり、農業はあくまで産業の一分野となっています。そして、農業政策は産業振興として捉えられ技術開発を重視した予算配分されており、農業予算の22%が研究開発に充てられています。

また、農業に関連する技術を扱う教育・研究機関の役割を一元管理することで、技術開発とその技術を扱える人材の育成を一貫して行える体制が構築かれています。つまり、日本に比べてよりアカデミックな側面が強くなっています。

具体的には、ワーニンゲンに設立されたUR(University & Research Centre)を中心に世界最大の「フードバレー」を形成されています。そこには、世界各国から1500社を超える食品関連企業、化学関連企業が集まっています。日本からもキッコーマン、富士フイルムなどの大手企業が参画しており、異業種関連系、産学官連携による技術開発を推進しています。

利益を生むための選択と集中

オランダで実際に生産性の高いシステムを作り出すために栽培品目をできるだけ絞り、少ない品目に集中して大量生産を行うことです。これは、ビジネスでもよく用いられる選択と集中の考え方です。

オランダでは、トマトやパプリカなどの果菜類とチューリップなどの花卉(かき)を栽培する施設園芸が、栽培面積の79.8%を占めています。日本の施設園芸の栽培面積は約40%と言われており、その差は歴然です。

栽培品目を少数品目に集中することで、生産効率の向上に向けた技術・ノウハウの開発も進めやすくなります。その他、品目を集約することで、栽培、集荷、流通、販売など一連の作業が効率化されコストを抑えられるため、大幅な省力化も実現できています。

品目を集約した結果、生産する農作物の自給率は各段に上がりますが、それ以外の農作物は輸入に頼っています。ただ、ヨーロッパの国々は陸続きなので大規模な市場で交易が簡単に行える環境と言えるでしょう。

また、オランダはフランスやドイツなど国民所得の高い国が近いため、付加価値の高い果菜類でもよく売れるという点も優位です。この点については、輸出入が容易にできない島国の日本で取り入れようと思っても難しいでしょう。

スマート農業への積極的な取り組み

高付加価値の農産物を集中的に大量生産する上で欠かせないのがスマート農業の技術です。オランダは、早くからスマート農業を積極的に取り入れ、高品質のものを比較的労力を削減して生産することに成功しています。

オランダでのトマト栽培の単位面積当たりの収穫量は、欧州の最高水準にあり、日本の平均的な農家の約8倍にもなります。これは、単に収穫量が多いだけではなく、自動制御による省力化によって人件費を抑え、コストも削減されているからなせることでしょう。

世界の農業:アメリカの農業の特徴

続いては、アメリカの農業の特徴について紹介します。

アメリカは、「世界の食料庫」と呼ばれる世界有数の農業大国です。主要な生産物としては、トウモロコシや大豆、小麦をはじめとする穀物や豆類をはじめ、牛乳や牛肉、鶏肉など畜産物にまで幅広く生産しています。

なかでもトウモロコシと大豆は世界第1位の生産量があり、トウモロコシは世界全体の生産量の約3割に及んでいます。

単純な比較は難しいですが、カロリーベースの食料自給率が低く、農産物の輸入に頼っている日本の農業の将来を考える上で、アメリカとの違いを理解することは重要です。

主要な農産物と生産量・輸出量

国連システムの中にあって食料の安全保障と栄養、作物や家畜、漁業と水産養殖を含む農業や農村開発を進める機関であるFAO(国際連合食糧農業機関)の統計によれば、2020年現在でアメリカのトウモロコシ生産量は約3億6000万トン、大豆生産量は約1億1000万トンと膨大です。

2019年の日本のトウモロコシ生産量は約24万トン、大豆生産量は約22万トン、数字でみるといかにアメリカの生産量が多いのかがわかります。

輸出量でもトウモロコシは約5000万トン、大豆は約6000万トンにものぼり、アメリカの穀物生産力は世界に対して大きな影響を与えています。

アメリカと日本の違い

なぜアメリカはここまで多くの農作物を輸出することができるのでしょうか? その理由について解説していきます。

少数農家による大規模栽培

アメリカでは、農地の大規模化が進んでいます。

アメリカ農業センサスによると、2012年から2016年の間に農業従事者は1.6%減少しています。しかし、1農業経営体当たりの平均農地面積は同じ期間に5.4%増加しています。

アメリカの農業は「少数の農家による大規模化」が着実に進んでいることが数値からもわかると思います。アメリカ国内では、特に中北部および西部で大規模化が進んでいる傾向にあります。

スマート農業による作業の効率化

農業従事者が少ないにも関わらず、高い生産性を可能にしているのは、規模を活かしたスマート農業の技術を活かした機械化や効率化です。アメリカは国土が広いため地域ごとの気候の差があります。それを考慮した上で、気候の特徴に適した農産物の生産に集中することによって効率化を図っています。

アメリカには、「AgriTech(アグリテック)」という「Agriculture(農業)」と「Technology(科学技術)」を組み合わせた造語があります。日本の「スマート農業」の考え方と同じく、テクノロジーの力を借りて農作業wp効率化しようとする動きが活発になっています。

なかでも、精密なGPS情報を活用した大型農機やドローンの自動操縦などの技術の発展はすさまじく、GPSの農業への活用は少ない人員で大規模な生産を実現するために欠かせない技術となっています。

農家の所得を守る仕組み

アメリカでは、農業者の所得を守る仕組みが多く用意されています。

例えば、2014年2月に成立した「農業法」では、市場価格が実効参照価格を下回った場合にその差額の一部を補填する「価格損失補償」、収入が定められた保障収入を下回った場合にその差額の一部を補填する「農業リスク補償」の仕組みが制定されています。

さらに、アメリカの農業法は5年に1度改定されます。2018年農業法では、所得の保障に関する制度は継続され、さらにこれらの補てんは毎年変更することが可能になりました。

その他、価格支持融資制度や価格損失補償といった制度によって農家の所得が守られています。

世界の農業から日本が学ぶべきこと

ここまで、オランダとアメリカを例に紹介してきましたが、このような取り組みを実際に日本で行えるのか?考えて行きたいと思います。

農地の集約化・集積化

高齢のため負担の大きく、これまでと同じように農作業を行えなくなり、やむを得ず廃業している農家と空き農地が増えてきています。その対策としてできることが、農地の集約化・集積化です。

農地を集積・集約化をすることで、農家の負担を軽減することが可能になるでしょう。農業就業人口の現状とともに耕作放棄地も増え、農業から離れて畑や田んぼを手放す方も増えているからこそ、オランダやアメリカ農ような大規模な農園を持つことは日本でも不可能では無いでしょう。

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スマート農業の発展・推進

今では、農薬の散布から防除、作物の成長度合いを検知して収穫してくれるスマート農機まで幅広く技術開発がなされています。
スマート農業は、最先端の技術を使用しているため導入コストが高い、専門的な知識や技術が必要となるなど、さまざまな障壁はありますが、これらを適切に使用できれば、今の農作業の負担を大きく軽減することができます。

以上のように、オランダやアメリカの農業から学べることは、日本の農業の課題を解決して良い方向へ進むためのきっかけになると考えています。

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