農業を始めるために役立つ補助金について紹介
農業は他事業に比べて、多額の初期費用が必要となります。こういったものをすべて自己資金で賄うのは現実的ではありません。
国や自治体は、新しく農業をはじめる方に向けて、さまざまな経済的支援策を講じています。理想の農業を実現するためには、どんな制度があるのかを確認し、適切に活用することが大切です。
今回は、農業をはじめる際におすすめの補助金について解説します。
目次
農業をはじめるのに必要な金額はいくら?
全国新規就農相談センターの令和3年度の調査によると、就農1年目で発生した費用の平均額は下記の表の通りです(一部抜粋)。
営農面 | 生活面自己資金 | 就農一年目の 農産物売上高 |
|||
土地を除く 必要経費※ |
自己資金 | 差額 | |||
露地野菜 | 431万円 | 238万円 | -193万円 | 151万円 | 227万円 |
施設野菜 | 1,136万円 | 321万円 | -815万円 | 186万円 | 480万円 |
果樹 | 419万円 | 247万円 | -171万円 | 202万円 | 195万円 |
引用:全国新規就農相談センター「新規就農者の就農実態に関する調査結果 令和3年度」
差額の欄を見ると、いずれの栽培方法も、営農面の必要経費が自己資金を上回っていることがわかります。とくに施設野菜は、作物の品質・収量の安定に向けてビニールハウスや冷暖房などの設備を整える必要があるため、多くの資金が必要となります。
こうした就農時の資金不足に対して、新規就農者のうち約50%の方は、資金を借り入れるなどして資金を補っています。
初期費用を抑えるなら補助金・助成金の活用がおすすめ
農業をはじめたばかりの頃は、設備投資などの初期費用にお金がかかる上に、作物を植えたばかりなので、収入を得るまでにも時間がかかります。さらに、ご自身や家族の生活資金も確保しておく必要があります。
少しでも農業の初期費用を抑えるために、国や自治体の経済的支援制度を活用しながら準備を進めましょう。
自分のやりたい農業を実現するにはどの程度の資金が必要になるのかを把握するために、ハウスメーカーなどに試算を依頼して資金計画を立てることもおすすめです。
新規就農を考えている人におすすめの補助金・助成金
ここからは、新しく農業をはじめる方におすすめの補助金・助成金をご紹介します。
就農準備資金
就農準備資金は、農家を目指す方々が就農前に研修を受けるための支援金です。都道府県が認めた研修機関で研修を受ける希望者に対し、月額12.5万円、年間最大150万円が最長2年間交付されます。
対象となるのは49歳以下の研修生で、一定の条件を満たす必要があります。また、研修期間は国内2年、特定条件下で海外研修を含める場合は3年間となります。生活保護など他の助成金と重複しないことが条件です。
また、適切な研修を行わなかった場合や、研修後にすぐに就農しなかった場合、資金返還が求められることがあります。
経営開始資金
経営開始資金は、認定新規就農者を対象に、就農直後の経営確立を支援するための資金です。この制度では、月12.5万円、年間最大150万円を最長3年間交付します。
申請窓口は市町村が担当しており、受給にはいくつかの条件があります。 主な要件としては、就農予定時の年齢が49歳以下であること、独立して営農を行っていること、親元就農の場合は経営権を継承し、新規参入者と同等の経営リスクを負うことが求められます。また、前年の世帯所得が原則600万円未満でなければならないなどの制限もあります。
特例として、夫婦で就農する場合は、夫婦合わせて1.5人分の交付を受けることが可能です。さらに、複数の新規就農者が法人を新設し共同経営を行う場合、それぞれに最大150万円が交付されることもあります。
関連記事:認定新規就農者制度とは?メリット・デメリットまで解説
経営発展支援事業
経営発展支援事業は、就農後の経営を発展させるために必要な機械や施設、家畜の導入、果樹や茶の新植・改植などを支援する制度です。特定の取り組みに対して国や自治体がサポートする「補助金」として位置付けられています。
この制度の申請窓口は市町村が担当しており、受給するためにはいくつかの条件を満たす必要があります。対象となるのは認定新規就農者で、就農から3年以内の方が対象です。
支援額は補助対象事業費として上限1,000万円で、機械や施設、家畜導入、果樹、リース料などが対象となります。支援率は県支援分の2倍を国が支援する形で、国が1/2、県が1/4、本人が1/4の負担となります。
また、特例として夫婦ともに就農する場合は、補助上限額の1.5倍が上限額となります。
経営発展支援事業では返還義務は発生しませんが、国の方針に合致した取り組みを行う人に限り支援されるため、要件を満たせば誰でも受給できるわけではありません。
申請時に、提示された項目に対する取り組み状況を提出し、これを都道府県がポイントで評価する仕組みが設けられています。これにより、より良い取り組みを行う人が選定されることになります。
関連記事:新規就農者1,000万円の補助?経営発展支援事業を徹底解説
関連記事:農業の資金調達は難しい?新規就農におすすめの融資・補助金を解説
青年等就農資金
青年等就農資金は、新規就農者を対象に国が無利子で資金を融資する制度です。実際には、国の出資金をもとに、株式会社日本政策金融公庫が融資に関する審査や手続きを行います。
融資の条件として、認定新規就農者であることが求められます。具体的には、市町村から青年等就農計画の認定を受けた個人または法人が対象です。融資の用途は、農業生産用の施設や機械、家畜の購入費用など多岐にわたります。
融資限度額は最大3,700万円で、返済期間は17年以内(うち据置期間5年以内)となっています。 注意点として、青年等就農資金は申請順に融資決定が行われます。さらに各年度で予算が決まっており、予算を使い切ってしまうと融資が行われないため、早めの申請を心掛けましょう。
また、農地を取得するための資金としては利用できないため、別途自己資金や他の制度を活用する必要があります。
関連記事:「青年等就農資金」とは??メリット・デメリットまで解説
農業の設備投資におすすめの補助金・助成金
すでにご紹介した通り、農業用機械などの設備を揃えるためには多額の資金が必要になります。ここでは、設備投資や環境整備などに使える補助金・助成金をご紹介します。
強い農業づくり総合支援交付金
強い農業づくり総合支援交付金は、農林水産省が主導するプロジェクトの一環として、農業の生産性向上や持続可能な発展を目指すための支援制度です。この交付金は、農業のバリューチェーン全体を対象にしており、生産から流通、消費に至るまでの各段階での取り組みを支援します。
具体的には、産地基幹施設の整備や卸売市場の品質向上、さらには農業法人や食品関連企業との連携による生産事業モデルの構築など、多岐にわたる支援が行われます。特に、スマート農業の導入や人材育成に必要な施設の整備も対象となっており、農業の競争力を高めるための重要な施策です。
この交付金は、成果目標に基づいてポイントが付与され、そのポイントに応じて交付されるため、単なる資金提供にとどまらず、農業者が具体的な目標を持って取り組むことを促進しています。これにより、農業の効率化や収益性の向上が期待され、持続可能な農業経営の実現に寄与しています。
農地耕作条件改善事業
農地耕作条件改善事業は、農業を持続的に行うための環境整備を目的とした支援制度です。この事業では、農地の基盤整備や作物の品質向上を図るためのさまざまな支援が行われています。具体的には、区画整理や暗渠(あんきょ)排水、用排水路の整備などが対象となります。
この制度にはいくつかのタイプがあり、地域内農地集積型、高収益作物転換型、スマート農業導入推進型、病害虫対策型、水田貯留機能向上型、土地利用調整型などがあります。それぞれのタイプには、交付要件や補助金額が異なるため、申請を検討する際には、事前に自治体やJAに確認することが重要です。
例えば、地域内農地集積型では、農地中間管理機構の重点実施区域において、ハード事業費が200万円以上で、受益者数が農業者2戸以上であることが求められます。また、高収益作物転換型では、受益のうちの1/4以上を高収益作物に転換する必要があります。
このように各事業の条件は異なるため、検討の際は事前にしっかりと確認しましょう。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、設備投資や新サービスの導入を通じて生産性の向上に取り組む事業者を支援する制度です。この補助金は、農業の設備投資にも活用できるため、新規就農者や農業経営者にとって非常に有益な選択肢となります。
補助金の種類は大きく分けて、一般型とグローバル展開型の2つがあります。一般型には、通常枠や回復型、賃上げ・雇用拡大枠など、用途に応じたさまざまな枠組みが存在します。これにより、各事業者のニーズに応じた支援が受けられるのが特徴です。
ただし、注意が必要なのは、人件費や土地・建物の購入費は補助の対象外となる点です。例えば、ビニールハウスを新設する際の取得費用には補助金を利用できませんので、計画を立てる際にはこの点を考慮する必要があります。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業が業務効率や売上向上を目的にITツールを導入する際に利用できる補助金制度です。特に、スマート農業に取り組む農業者にとっては、コストを抑えながらITツールを導入する良い機会となります。
この補助金は、通常枠、デジタル化基盤導入枠、セキュリティ対策推進枠の3つに分かれていますが、農業分野では生産性向上に寄与するITツールの導入費用を補助する通常枠が一般的に利用されています。通常枠の補助金額は、A類型が5万円から150万円未満、B類型が150万円から450万円以下となっており、導入するITツールの種類や規模に応じて選択できます。
この制度を活用することで、農業経営の効率化や生産性の向上を図ることができ、将来的な収益の増加に繋げられる可能性があります。
補助金を活用した新規就農事例 苺屋ガルテンベーレン
苺屋ガルテンベーレンさまは、認定新規就農者の認定を受けた後に青年等就農資金を取得され、イチゴ栽培の新規就農者として大阪府にてビニールハウスを建設されました。
苺屋ガルテンベーレンさまの場合は、自己資金の確保もされていましたが、土地の確保・ビニールハウス建設・設備導入など新規就農にかかる費用を補填するのに、青年等就農資金が大いに役立ったとお話ししてくれました。
青年等就農資金のお話し以外にも、苺屋ガルテンベーレンさまの事例では、新規就農や農業参入に関するヒントをたくさんお話していただいております。
関連事例:新規就農で大好きないちご農園を開園 苺屋ガルテンベーレン
補助金を活用して理想の農業経営を目指そう
ここまで、農業のスタートに役立つ補助金・助成金についてご紹介しました。
どんな支援策を活用するにしても、まずは「どんな農業をしたいのか」「どれだけの費用が必要なのか」「どの程度の収益が見込めるのか」などを盛り込んだ計画を作る必要があります。 その際に大雑把な計画を立ててしまうと、具体性がないと見なされて補助金や助成金を受けられないばかりか、農業をはじめたあとに想定外の支出が発生するなどして、経営が立ち行かなくなってしまう恐れもあります。資金計画は念入りに作成しましょう。
しかし、十分な農業の知識がないうちは、何にどのくらいの費用がかかるのか分からず、細かく資金計画を立てるのが難しい場合があります。その際は、農業に精通した企業などに相談することをおすすめします。
イノチオアグリは農業のスタートをサポートします
イノチオアグリでは、ビニールハウスの製造・販売のほか、新しく農業をはじめる方の支援も行っております。 資金計画の立て方や資金調達でお悩みの際は、ぜひご相談ください。
理想の農業についてしっかりとヒアリングし、その実現に向け、農地・資金・栽培技術の準備を含めて、総合的にサポートいたします。